第16話 休息
リンカー、イサイアから50km程離れた街だ。
この世界の街並みは何処も中世ヨーロッパみたいだ。
俺たちは装備を整え、一度野営をして街に入った。
SOVは街の近くの茂みに偽装ネットを被せて隠してある。
全員で服装は統一している。
ODの作業服だ。これから俺たちの作業服になっていく。
戦闘服は決まっているが、街や戦闘以外の作業中はこの服だ。
お偉いさん等に会う時の制服はまだ考え中だ。
今は屋台村の様な場所に全員が集まっている。
足りない分のテーブルや椅子を借り、串焼きやケバブ、サラダがテーブルに並んでいる。
こう見ると壮観だな……けど
「人手が足りない……」
「そうか?」
今このメンバーは8人、分隊を作りたいからもう少し欲しいところ。
「冒険者組合で雇ってみるか?」
ケバブを食べながらエリスが提案する。
冒険者組合とは、冒険者や傭兵、ギルドが集まる組合だ。
魔物討伐やダンジョン探索、輸送団護衛、治安維持、盗賊退治等々……様々な任務を登録した冒険者や傭兵に発注している。
任務を成功させると冒険者組合から報酬金が出る。
冒険者はその報酬金で生活している。
「いや……出来れば信頼出来る人材が欲しい。冒険者組合で雇うって事は所詮金の繋がりだ、裏切られてチームが壊滅なんてしたら目も当てられないだろ?」
「む……それはそうだが……それだと高望みしすぎじゃ無いのか?」
「あの……」
エリスが意見すると、今度はガレントが提案してきた。
「屋敷のエリス派をこのチームに入れてはいかがでしょうか?」
「エリス派を?」
エリス派は屋敷の中でケインとの結婚に反対していた派閥だ、基本的にエリスの味方……と考えていい。
「はい。エリス派でも、エリス様が抜けた今、あの屋敷で働くのに無意味さを感じるエリス派は多いと思われますが……自分の同僚にも、エリス様が屋敷を抜けたら辞めると言っている者も居ましたし」
なるほど……組合で雇うより信頼出来るって訳だな。
それにしても、屋敷でエリスに忠誠を誓っている人物はかなり多そうだった。
何かエリスが顔を赤くしている、かわいい。
「屋敷のエリス派は何人だ?」
「確か……45人程」
結構多いんだな……これもエリスの人徳のお陰だろう。
「分かった、基本的にはこのギルドは戦闘集団だから生活が安定する保証は無いが、エリス派から雇おう。ただ無理に連れてくる訳にはいかないから、どうしてもこっちに来たいって人だけだ。それから今のメンバーで冒険者組合にギルド登録する。いいか?」
「わかりました」
「んじゃ、ちょっと役職を分けるから待っててくれ」
「役職……ですか?」
分隊内での役職は幾つかに分かれている。
分隊長:分隊全体を指揮する人物。補佐に1人ライフルマンが着く。
ライフルマン:最もスタンダードな役職。大体分隊内に4人
擲弾手:グレネードランチャーを装備する隊員。
M203の様なライフルの下に装着出来る物もあるが、全員が装着する訳ではない。分隊に2人。
分隊支援火器手:大火力の分隊支援火器を装備し、分隊の火力支援を行う。俺たちはMINIMIを装備している為、それを使う予定。分隊に2人。
機関銃手:分隊支援火器手の様に火力支援を行うが、より強力な汎用機関銃を使う。今の所、7.62mmNATO弾を使用するFN M240E6を装備する予定。
本来なら小隊本部から割り当てられるが、俺たちの様な小部隊の場合、直接分隊に組み込まれる事があったり、分隊支援火器の代わりに組み込まれる事があると言う。
分隊に1人。
無線手:無線のバックパックを背負う伝令役。大抵は分隊長の補佐につくライフルマンが担当する。
対戦車歩兵:パンツァーファウスト3やジャベリン対戦車ミサイル等、対戦車火器を携行する歩兵だ。
これもライフルマンが兼任する。
戦闘衛生兵:衛生兵の仕事は、戦場で負傷した兵士の救命措置だ。軽傷ならばその場で治療を行い戦闘を継続できる様にし、症状が重篤な場合は応急措置を施して記録をつけ、効率的に後方へ移送する事だ。
大抵は赤十字のマークを付けているが、最近では赤十字を付けていても攻撃される事がある為、自身も武装している。
現在治癒魔術師が2名居る為、この2名に任せようと思う。
担当は以下の通り
戦闘衛生兵:セレナ、スニッド
ライフルマン:ブラックバーン、ユーレク、クレイ、ガレント、エリス
分隊支援火器手:エイミー
ガレントには無線手を、エリスには俺の副官を担当してもらおう。
「こんな感じだ」
俺が紙に役割を書いて皆に見せる。
「なるほど……とすると足りないのは分隊支援火器手が1人、擲弾手が2人、機関銃手が1人……ですか?」
「まぁそんな感じだな、こっちでも探してくるけど、主な人員はそっちで賄うと思ってくれ」
「わかりました」
皆と話し合って、一度ここから20km程離れた所有者の居ない丘に基地を作る事になった。
全員が食べ終わった頃合いを見て席を立つ。
一度街を出てSOVまで戻る。
現在SOVにもかなりの装備が搭載されている。
武装は助手席と後部にM240E6汎用機関銃が設置され、上部ターレットにはブローニングM2重機関銃が装備されている。
ボンネットにはクレイモア地雷/手榴弾ケースが2つとAT-4CS使い捨て無反動砲3本が搭載されており、後部座席上部の懸下ラックにはFGM-148ジャベリン対戦車ミサイルが2つ、側面懸下ラックにはパンツァーファウスト3が2本、カールグスタフM3とSMAWロケットランチャーが各1本ずつぶら下がっている。
前部席部と後部席部を区切っている仕切りにはMP5A5が2丁載り、その下の装備取り付け部にMP7A1とM870ショットガンが各1丁、仕切り外には予備タイヤが両側に1つずつ取り付けられている。
天井のパイプにある個人装備取り付け部にはダネルMGL-140グレネードランチャーが1つぶら下がり、後部キャビンには所狭しと弾薬箱や物糧コンテナが積まれている。
運転席には当たり前の様に調整済みの無線機が置いてある。
人数が少ないのに少々重量過多なのはまぁ、念のためである。
「あー、ガレント?一度全員で丘まで向かうぞ。屋敷に戻るのに必要な車両を出す」
『?了解』
エンジンをかけ、アクセルを踏む。
3台のSOVは、丘に向かって走り出した。