第160話 計画変更
翼竜の育成には多額の資金が必要だ、餌代に調教、翼竜用の鞍などが主に必要となる。それ故にその竜騎兵を部隊レベルで保有・運用出来るのは潤沢な資金がある国だけだ。
更にはその戦闘能力、鋭い爪で敵を引き裂き、噛み砕き、尾の一撃は甲冑を容易に砕く。その上、灼熱の炎を浴びせかける。竜騎兵自身もリーチの長い竜槍を装備しており、空中から槍を突き立てたり、クロスボウや弓矢で上記委から攻撃できる。
魔術師が竜騎兵であるならば、上空からの魔術攻撃も可能だ。
一方で歩兵や騎兵は竜騎兵に対して、決定打と呼べる有効な反撃手段を持たない。せいぜい地上から弓矢やクロスボウで竜騎兵を狙うか、魔術による対空砲火を撃ち上げるくらいだ。
命中精度は察する通り、高高度を飛ぶ翼竜を防ぐ手立ては同じ翼竜をぶつける他にない。
地上戦をしている戦場にどちらかの勢力が半個小隊4騎の竜騎兵を投入すれば、殆ど竜騎兵を投入した勢力の勝ちとなる。異世界の戦史を振り返れば、いくつかの例外はあるものの、大体そのような流れになっている。
大国が強いと言われるのは、翼竜による航空支援が受けられるという事と、航空支援プラットフォームである翼竜及び竜騎兵の育成に多額の金を注ぎ込めるからである。
バスティーユ市上空1900フィート 03:54
バスティーユ市には公国から2個小隊16騎の竜騎兵が警備と防衛のために配備されており、持ち回りで6騎の警備部隊を編成し空中哨戒に当たっていた。
これだけで普通の軍なら侵攻を諦めるレベルだ。しかもシュラトリク公国軍の竜騎兵の練度はかなり高く、伝統のレグランド帝国軍竜騎兵隊や精強のグライディア王国軍竜騎兵隊を緒戦で打ち破るか、引き分けにまで持ち込むほどに練度が高い。
戦闘経験を積んで訓練を見直し、新戦術まで生み出した竜騎兵部隊は、もはやこの大陸東部で最も進化した竜騎兵隊であった。
「夜明けまであと2時間……そろそろ交代したいものだ」
「全くですな」
士官教育を受け、華の竜騎兵隊に配属となった竜騎兵が僚騎に話しかける。
暗闇ではあるが、お互いの位置は把握出来るように訓練は受けている。
僚騎との距離は3m程、約50mの距離を置いた隣にはまた別の竜騎兵が飛行していた。
彼らの右翼側、中央の2騎が編隊長である。
「今のところ以上は無いな」
「は、見えるのは少ない市街の灯だけです」
夜間、視界が利かないにもかかわらず夜襲される時間に竜騎兵を飛ばしているのには理由がある。
1つは、上空から炎が見えた場合、火事か交戦中である可能性が高い。いち早く本部に戻って報告し、状況に応じた初期対応する必要がある。
もう1つは竜騎兵隊屯営地が襲撃を受けた際、1度に全滅を防ぐためである。
「このまま何もなければ……」
「ウェイブル空士官、見て下さい」
僚騎がリード騎の名前を呼ぶ、異常かと思い正面を見ると夜空の星が動いているのが見えた。
「流星か」
「えぇ、これは幸運の兆候かもしれませんね」
夜間哨戒では然程珍しくもないが、僚騎の騎手はまだ経験が浅い。自分にもそんな時代があったものだ、と微笑ましくなる。
しかし妙だ、あの流星、高度はあまり変わらずこちらに向かってくる……?
眺めている内に、流星が2つ___最右翼側を飛行していた2騎を貫く様に爆発した。
続けて飛来した流星、数はまた2つ、今度は隊列中央を飛んでいた隊長の翼竜の編隊が爆発する。
「た、隊長ォー!!」
あまりに突然の出来事に言葉を失う僚騎、叫びは空しく夜空に溶け、右翼側を飛んでいた翼竜は4騎とも火達磨になって墜落していく。
「クソ!正面からか!?」
「ウェイブル空士官!二手に分かれましょう!生存率が上がります!」
僚騎の叫びに再び作戦を立て直す、確かに彼の言う通り二手に分かれれば、どちらかが墜とされてもどちらかが生き残れる。
その決断が出来た僚騎はきっと、優秀な空士官となるだろう。そう思いながら頷いた。
「……そうだな、よし、お前は低空へ逃げろ。俺は高度を稼ぐ」
「了解!ご武運を!」
そう言うと2騎の竜騎兵は二手に分かれる、片方は上昇していき、もう片方は降下する。
しかし上昇し始めてすぐ、巨大蜂が耳元を何千匹も通過したような轟音が響いた。
同時に乗っていた翼竜が苦しそうに呻き声を上げる。
「おいおいっ!どうした!?」
様子を確かめてみれば、翼の皮膜は大きな穴が空き、鱗には大きな傷がついていた。
暗闇でも分かる、もう何度も嗅いだ翼竜の血の匂いだ。
「そんな……馬鹿な!?」
驚いている暇はない、敵と呼べるものはすぐそこまで迫っている。
これ以上高度を取るのは難しいだろう。
周りを見回す、さっき見た流星がまた、僚騎が飛んで行った方向へと流れていく。
「やめろ……!」
呟くような願いも届く事は無く、流星は僚騎を燃やして夜空に花を咲かせた。
「……!許さねぇ……こんな……!」
ウェイブル空士官の最後の言葉は、それだった。
彼は再び、自らが操る翼竜と共に、20㎜バルカン砲の機関砲弾に貫かれた。
『レイピア1、翼竜を撃墜』
『レーダークリア、バスティーユ市上空を制圧した』
2機のF-4EファントムⅡがバスティーユ市北18マイルの上空を、轟音と共に左に旋回していく。翼竜では追いつけない速度で飛び回る戦闘機は、公国竜騎兵にとっては正に亡霊であった。
『こちらレイピア3、攻撃に移る』
『4』
戦闘は空対空から空対地に移る、南西にある規模の大きい方の竜騎兵隊屯営地への爆撃だ。
機首を夜空に向けて上昇していた2機のF-4Eは高度10000ftでロールを打ち、パイロットの操縦桿の動きに合わせて機体も大胆に機動する。
背面飛行になる要領で高度を一定にし、キャノピーの向こうに攻撃目標の竜騎兵隊屯営地を確認して機体を水平に戻す。
緩く旋回、竜騎兵隊屯営地に機首を向ける。今頃地上はジェットエンジンの轟音で何事かと騒ぎになっているだろうが、まだ何も始まってはいない、これから始まるのだ。
『レイピア3、爆弾投下』
コールと共に既に座標入力を終えた4発の1000ポンドJDAMがイジェクターラックから切り離され、レイピア3は上昇離脱する。
事前にGPS情報を受け取っていたスマート・ボムは投下コースをなぞり、予定していた攻撃目標である竜騎兵隊屯営地に全弾が着弾、地上で爆炎が上がり巻き込まれて死体となった翼竜が瓦礫や炎と共に舞い上がる。
生き残りは必死で竜騎兵をかき集め、退避しようとしているが初撃のパニックから立ち直れずにいる。その隙にレイピア4が攻撃進入する。
『ピパーに捉える……3……2……1……』
『Bombs away』
レーダーシステム士官のカウントと共にパイロットがコールして操縦桿のボタンを押す。
多連装イジェクターラックで携行する18発のMk.82 500ポンド爆弾の内、主翼下外側の12発が投下され、投下直後にAIRテイルが開き落下速度が減速。
次々と施設や飼育設備、時には翼竜そのものに突き刺さり炸裂する。
無誘導爆弾でも高精度で投下可能なF-4Eファントムは12発を1発も外すことなく着弾させ、レイピア4は離脱。旋回しつつ緩降下し、もう1度攻撃コースに乗った。
『次弾、投下準備』
『Roger』
『投下用意カウント、3……2……1……』
『爆弾投下』
主翼内側パイロンに搭載された残り6発のMk.82を投下、放たれた500ポンドの火の玉は竜騎兵隊屯営地に吸い込まれ、火と血の色である紅の花を咲かせた。
降下2分前
『こちらワスプ1、2と共に残りの竜騎兵隊屯営地の掃討に向かう』
『こちらスーパー61、了解。気を付けてな』
『了解』
これも既定の作戦手順だ、規模の小さい北側の竜騎兵隊屯営地を、2機の攻撃ヘリで襲撃する。
2機のAH-1Wスーパーコブラはブラックホークの編隊から離れ、旋回して北へ向かう。地表ギリギリの飛行で発見を遅らせるのだ。
程なくして北側の竜騎兵隊屯営地前へと滑り込んだワスプ隊の2機、1機は翼竜舎の前でホバリングし、もう1機は高度を上げて旋回し、援護位置につく。
何事かと翼竜舎の大戸を開けて、あんぐりと口を開けながら呆然と立ち尽くし、こちらを見ているのがFLIRと暗視装置越しでもはっきりと見え、その奥にはヘリの騒音に騒ぐ翼竜がよく見える。
『好都合だ』
そうパイロットは呟くと、機首のM197 20mmガトリング機関砲のFCSをHMSDモードに切り替え、HMDと機関砲のターレットをリンクさせる。
そして目標である翼竜を見つめる様に照準を合わせ、引き金を引いた。
その瞬間、周囲は煙に包まれた。
放たれたPGU-28/B半徹甲焼夷弾は翼竜の鱗をまるで紙の様に引き裂き、血しぶきを上げさせる。翼竜の鱗は固く、異世界でも翼竜の強さの1つであり、現代兵器を以ってしても歩兵に対してはかなりの脅威であり、12.7×99㎜弾でようやく貫通するほどの堅牢さを誇る。
だが、それは地上部隊、しかも歩兵部隊に限った話である。
火器の口径や威力の制約が大幅に緩和される航空兵器に関しては、12.7×99㎜など“最低限の口径”でしかない上に、それらを上回る口径・威力の兵器がごろごろしている。
その数倍の威力のある20㎜機関砲の前に、翼竜の鱗など障害にすらならない。
鱗は身体から外れ穴だらけになり、手足は千切れ、自慢の翼膜は穴だらけになっていく。
1頭ずつ、虱潰しに、しかも無駄に丁寧に翼竜を屠っていく。
入口が開いていたことから、死角ではない4頭を抹殺するのは簡単だった。
入口に陣取っていたワスプ1は上昇、今度は屋根に向けて機関砲を発射する。
簡単に屋根を貫通した機関砲弾は、死角にいた翼竜2頭を屋根ごと撃ちぬいて先に始末した4頭と同じ結末を迎えさせた。
『こいつはオマケだ』
ゆっくりとAH-1Wが後退すると、スタブウィング内側のパイロンに取り付けられたハイドラ70ロケット弾を数発発射、ロケット弾は木造の壁を容易く貫き、建物内で爆発が起こった。
『こちらワスプ1、北竜騎兵隊屯営地を破壊、クリアだ』
『了解、スーパー61、到着まで20秒』
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ヒロト視点
「全員、初弾装填!」
俺はインカムを通してヘリの中の分隊に声を掛ける、俺の声に応じて機内の12人が動く。繰り返す訓練で自然と身に着いた動きだ。
俺も慣れた動きでまずホルスターからP226を抜き、スライドを引いて初弾を装填。
マガジンを1度抜いてからマガジンに弾が残っているかを確認し、マガジンを戻してからスライドを少しだけ引いて薬室確認、指で触ってプレスチェックもし、初弾装填を確認するとスライドを後ろから軽く叩いてホルスターに戻す。
続いてライフルだ、M4のP-MAGの残弾確認窓を見てマガジン内の弾薬を確認、チャージングハンドルを引き、ボルトが初弾を送り込むと同時に撃鉄を起こし、ここで初めてセレクターをセーフティに入れる。
ハンドガンと同じようにチャージングハンドルを少しだけ引き、薬室に初弾が入っているかチェックすると、チャージングハンドルを戻してボルトフォアードアシストノブを軽く押し、ボルトを確実に閉鎖させる。
銃口をヘリのキャビンドアの外、誰も何も居ない方へ向けてデュアルスイッチでレーザーをチェック、AN/PEQ-15から緑色のレーザーが歪みなく真っ直ぐ伸びていく。
光学照準器のEOTech553ホロサイトの電源スイッチを押し、NVモードで発光させ、確認。
全てのチェックか終わると、ちょうどバスティーユ強制収容所が見えたところだ。
情報通り四角形の要塞の様な建物で、前は広場、その広場と建物を囲むように高い城壁が聳える。
「ん……?」
しかし、よく見ると情報と異なる構造物がいくつかある。
堀の様に収容所建物を囲む水路に架かる1本の橋が、建物からロープが伸びて跳ね上げ式になっている。
恐らく脱獄があった際、あの橋を跳ね上げて水路の中に囚人を閉じ込める役割があるのだろう。
収容所を設計した者はよく考えたものだ、しかし、それはこちらの作戦にとっても障害以外の何物でもない。
パイロットのウォルコットもこれに気付き、ガンナーに指示を出す。
「ガンナー、高度を下げるからミニガンでロープを切れ!」
跳ね上げられたら広場で捕虜と部隊を回収出来なくなる、ウォルコットの指示に左舷側のミニガンについていたガンナーのパトリックがミニガンを射撃した。
ビィィ!という激しい連射音には、1秒当たり約100発の7.62×51㎜NATO弾が乗っている。
激しい射撃は建物側のロープ基部を破壊、ついでにロープも予定通り切って橋を跳ね上げて妨害することは出来なくなった。
「突入の陣形が崩れた、再アプローチする!」
ウォルコットはMH-60Mを収容所を左回りに旋回させる、そのときに気付いたことがもう1つある。
塔の窓の配置に違和感を感じる、建物は円柱の塔を頂点としたほぼ正方形をしているのだが、塔の窓が1つのフロアごとに斜めになっていたりそうでなかったりするのだ。
窓の配置から内部構造を想像する、小さい頃は家を作りたかったので施設の内部構造を想像するのは得意だったのだが、想像するとどうしても矛盾が生じるのだ。
“なぜ階段の真ん中に部屋がある?”
「階段だ」
「何!?」
呟きをインカムが拾ったのか、エリスの声がこちらに届く。
「多分囚人たちの脱走を難しくするために階段をランダムに配置してる!よく考えたもんだ、全部隊が屋上に降下したら1階まで行くのに時間がかかっちまう!」
恐らく階段は塔にあり、1フロアごとに階段のある塔を変えているのだ、恐らくは囚人が脱獄した時に逃げにくくする、あるいは逃げたとしても途中で捕まえられるようにだろう。
そしてその事実は、囚人の脱獄の意思を打ち砕く、と、よく考えたものだ。
感心している場合ではない、もうこのヘリの騒音で看守や獄長、警備兵が何事かと起きて来ていてもおかしくない。警戒部隊は監獄に伝令を走らせている事だろう、長引けば囚人の一斉処刑が始まってもおかしくない、時間を掛けられない救出作戦でそのロスタイムは何としても避けなければならない。
「C2およびデュラハンヘッド!内部構造は予想より複雑だ、チョーク1、および2の降下ポイントの変更を要請する!」
恐らくさらに上空を飛行している指揮統制ヘリコプターのスーパー63へと通信を繋ぐ、彼らは無人機からの映像を受け取り、この様子を500m上空から見ているだろう。
『こちらC2、どういうことか?』
「階段の位置が不明瞭、又は一定ではない。全員が屋上に降りたら1階に行くのに時間がかかる!1と2の降下ポイントを何処かへ変更し、地上から突入出来ないか?」
『チョーク1了解、61は橋の施設側、62は広場側へ着陸できるか?』
『こちらスーパー61、可能です』
『62、こちらも可能!』
『了解、チョークはファストロープで先に降下、狙撃分隊は屋上に着陸させて展開しろ。64、65はそのままヘリボーンを続行せよ』
『了解』
『了解』
スーパー61が旋回し、建物前へと戻って来る。スーパー62がそれに続き、2機のMH-60Mが水路を挟んで並んだ。
屋上ではスーパー64と65が分隊を降下させている頃だろう、俺達は今からだ。
一旦PVS-15を跳ね上げ、視界を夜目に慣らす。
「少し遅れたが続行だ、遅れを取り戻すぞ!」
「「応!」」
「ロープ投下!降下開始!」
「先に行きます!」
ファストロープ用の太いロープが窓から投げられヘリと地上を結ぶとほぼ同時に、ファストロープ用のグローブとアイプロテクションゴーグルを付ける。
高度は12m、ヘリからは恐れることなくキャビンドアに近かったヒューバートとエイミーがロープを掴み、滑り降りていく。
グライムズとアイリーン、ブラックバーンとクレイが続いてロープで降下する。
「ランディ!一番乗り取ってすまん!頼んだぞ!」
「えぇ!上からしっかり見てますよ!」
狙撃分隊のランディにそう言ってしっかりゴーグルをすると、俺とエリスが最後に降下した。これで全員だ。
水路を挟んで第1分隊は施設側へ、第2分隊は広場側へと降下、降下を確認するとロープがヘリから切り離され、狙撃分隊を屋上に降下させるために上昇していった。
「無茶を言う男だな、お前は」
「すまん、迷惑かけたと思ってる」
「ふふ、まぁいいさ、何か考えての事だろう?」
改めてヘルメットに着けた暗視装置を下ろし、M4のセレクターをセミオートに入れて周囲を警戒しつつ話しながら収容所の正面玄関へと近づく。
後続の第2分隊が橋を渡って来る、ハンドサインで正面玄関への攻撃班と、玄関左右の兵士待機室への攻撃班に分ける。
分隊を班に分ける時は数字の後にアルファベットを付ける、エリスの班は1-1Bだ。
ガレントが率いる1-2Aは玄関左側、俺の班は玄関右側のそれぞれの待機室へと張り付き、1-1と1-2のB班は正面玄関への突入準備を行う。
先頭に立ち、ドアを調べる。こちらに向かって引くドアだ、間口は狭く、2人が同時に入るとぶつかりそうだ。ハンドサインでそれを伝えてドアの両側へ展開、俺の後ろにはグライムズが、向かい合わせの先頭にはヒューバートとその後ろにブラックバーンだ。
ブラックバーンが俺のベルトのフラグポーチからM67破砕手榴弾を取り、レバーを押さえてピンを抜く。ヒューバートはドアについてノブを握るとゆっくり回し、ロックされていないのを確認。
グライムズが一度後ろから準備した手榴弾を見せると頷く、目配せすると暗視装置の視界の中で3人が頷いた。
ここからは、何があったか説明する方が時間がかかる。
ヒューバートがドアを開けると同時にグライムズが手榴弾を投げ込み、爆発と同時に半開きになったドアをヒューバートが全開にすると先頭の俺が中へ走りこむ。
M4のストックを肩に当てて脇を閉め、ハンドガードを保持している手の親指でデュアルスイッチのレーザーを押しながら混乱している室内へ突入、走りながら照準し、引き金を引く。
ガツンと肩に来る反動、ダブルタップ、連続で銃口から放たれた5.56㎜NATO弾は狙い通り生き残りの警備兵の胸に命中、持っていた剣を取り落とし、空薬莢が落ちる音と合わさり金属音を奏でる。
ブラックバーンとグライムズも続いて突入、さほど広くない部屋の制圧にかかった時間はわずかに4秒。
倒れても尚こちらに剣を抜こうとしている者には容赦なく頭を撃ってとどめを刺し、1発で死なない者には死ぬまで引き金を引いて確実に仕留めた。
「クリア!」
「クリア!」
「クリア!」
室内を制圧、ヒューバートに合図して部屋の外に出る。
鮮やかなモノクロが彩る暗視装置の視界の中で、向かいの部屋からAimpoint Micro T1ダットサイトが載せられたSAI GRYの12インチSBRを構えるガレントが出てくる。向かいの部屋も制圧が終わったらしい。
エリス達のドアの反対側に立ち、モディファイドでの突入隊形を整える。
エリス達の班は正面玄関の大戸を調べている、こちらに引くタイプの扉で、かなり重そうだ。当然ながら鍵がかかっている。
B&T GL-06をドアの前で構えるアイリーンと、ショートバレルを装備したM249MINIMIを構えて彼女の後ろで援護体制に入るエイミー。ドアを開けたところに敵が居た場合確実に始末できるようにだ。
「クレイ」
エリスがそう言うと、クレイは頷いてドアの前に移動する。すると、クレイの右目が血のように赤くなり、右目と同じ、こんな時でもしている赤いマフラーがまるで別の生き物の様に蠢く。
クレイはそのままドアの隙間にマフラーを捻じ込み、鍵をあっけなく切断、ゆっくりと少しだけ大戸を開けると、その隙間にアイリーンがグレネードを打ち込んだ。
ポンッという間抜けな銃声からは想像出来ないほど高威力なM441榴弾がドアの中で炸裂し、爆風でドアが開く。そのドアをクレイがマフラーで強引に抉じ開け、エリスが先頭に立って次々と施設内に突入していく。
戦闘技術と数の暴力、その2つが合わさり最強に見える。
「1-2は隊を率いて2階へ!」
「了解!」
待ち伏せしていたであろう公国兵の死体を踏み越え、また時に呻き声を上げる死に損ないに止めを刺して、ガレントが第2分隊を率いて階段のある大戸を入って左手の塔へ向かう。
「エリスの班は左回り!俺の班は右回りに1階を制圧する!」
素早く役割分担し、俺達は収容所の制圧を開始する。ここからは囚人の処刑と俺達の制圧、どちらが速いか競争だ。
夜明けまで、あと1時間半。