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第157話 会談

目が覚めた、目の前に上段のベッドが迫って圧迫感のある収容所のベッドではなく、本部基地よりは狭いものの、しっかりと個人のスペースが確保されたバイエライドFOBの個室だった。

収容所の生活からすっかり早起きが身についてしまい、現在時刻は06:02、まだ活動開始には早く、早起きの隊員がそろそろ起き始める時間かと言ったところだ。


収容所から帰還して2日目、昨日は丸1日休みを取り、エリスと一緒に任務中に足りていなかった睡眠をたっぷりとり、足りなかった栄養を補うために飯をたらふく食べるなど、体調の調整に費やすという建前でいい意味ではゆっくり、悪い意味でダラダラと過ごした。


今日からまた普通の日常に戻す、訓練と団長としての仕事を再開するのだ。

目を覚ましたままの姿勢で、今日やる事を整理する。


元レジスタンスの指揮官だった“砂漠の狐”こと、狐族のエルヴィン・ロンメルに作戦の結果報告もしなければならなかったが、ロンメルは現在ベルム街の本部基地にて13週間にも亘る基礎訓練を受けている最中だし、その為にわざわざ呼び戻すことは出来ない。

衛星通信を使ったテレビ電話で報告の場を設けるか、バスティーユの囚人開放を終えてから報告すべきか……


それから俺が帰還する数日前に、王国の使者であるカイ・ライノルトの依頼でエルスデンヌの森に展開していた狙撃小隊と火器小隊が作戦を終えて引き揚げてきた。その部隊からの詳細な報告も聞くべきだろう。


あと……健吾が俺に面白い客人が来ていると言っていたな……誰だろう、今日来るって言ってたな。


部隊の補給と整備の手配、訓練の経過報告、新部隊や新兵器の召喚、救出した元囚人の一時宿泊所の手配・召喚など、やることが山積みだ。


起き上がろうとして右手に重みを感じる、そちらを見ると、タオルケット以外何も身に着けていないエリスがまだ眠っていた。

俺とエリスは久しぶりの再会をしてから、その空白期間の埋め合わせをするように2人の時間を過ごしている。多分、今後数日はそんな感じだろう。


俺の腕枕で眠っている有能な副官で愛しい恋人の頭を撫でる、起床までまだ少しあるので、二度寝をするのも良いだろう。

そう思いながら目を閉じると、再び眠気が襲ってくる。

俺は微睡みに身を任せ、身体の力を抜いた。


起きなきゃ、という意識が再び浮かび上がった時、少し痺れを残した腕枕にエリスの姿は無く、起き上がってこちらに背を向け、ベッドに腰掛けて乱れた髪を整えていた。起き抜けか、何も身に着けていない。


エリスの綺麗な身体のラインに見惚れ、触れようと手を動かした時、エリスもそれに気づいたのか振り向いて微笑む。


「おはよう、ヒロト」


「おはよう、エリス」


俺達はゆっくり顔を近づけ、目覚めて最初のキスをした。






稼業開始ギリギリまでエリスとイチャつき、食堂で手早く朝食を済ませてから仕事に向かう。まずは___


「お疲れ様、帰って来ていたんだな、よく無事だった、久し振り」


「収容所の中ですもんな、知らなくて当然です。ヒロトさんもお疲れ様でございました、お久しぶりです」


エルスデンヌの森に展開していた、狙撃小隊と火器小隊からなる任務部隊(タスクフォース)からの報告を聞かねばならない。部隊を纏めていたカーンズを今はまだ空で、俺の臨時オフィスとなっている隊長室に呼び出し、彼がUSBで報告書のデータを手渡す。

俺はそれをパソコンにインストールし、それを読みながらいくつか質問をした。


「長期任務だったが、皆の様子はどうだった?」


「3週間の展開期間でしたが、皆肉体も精神も健康に戻ってくることが出来ました」


「それは良かった」


バックアップの無い完全に独立した長期任務は初めてだったんだ、問題があって改善すべき点があったら次回の反省に生かしたいと思ったのだが、入念に準備しておいたのが功を奏したようだった。


「……ん?」


「何かありましたか?」


「この……公国軍が森から撤退って何があったんだ?」


「王国軍が撤退した砦までの渓谷を公国軍を通さない様にしてたら、敵さんが王国軍討伐本腰入れてきましてね、迫撃砲と重機関銃と狙撃で全滅させちゃいまして……」


「全滅?させちゃった?」


軍事用語における“全滅”とは、全部隊の30%の損失を意味する。ほとんどの場合軍などの武装組織では30%は戦闘部隊であり、残りの70%は兵站部隊である。つまり全滅、30%の損失とは全部隊の戦闘に投入可能な割合であり、敵から戦闘能力を奪うのと同義である。


しかし彼は今、そういうニュアンスではなかった。


「用語の方か?比喩とか?」


「いえ、森に投入してきた全兵力」


俺は感心と驚きで深く大きな息を吐く、そりゃ殲滅って言うんだ。

しかも“させちゃった”だと?プレデターと衛星の情報から、少なくとも“ちゃった”程度で殲滅出来る兵力ではなかったぞ。

それに報告書を読むに、公国兵部隊の装備は銃やクロスボウ、弓や魔術師など、遠距離戦に重きを置いた部隊だったそうだ。これ、完全に王国軍討伐じゃなくてガーディアンの部隊を狙って来ているな。


「……で、撤退は確認したのか?」


「ええ、敵戦闘団の指揮官の戦死も確認した後、渓谷入口の敵本部屯営地にちょっかい出したら逃げていきまして……」


丁度報告書のその部分のページに辿り着く。

夜の闇に紛れながら600mほどの距離から1人ずつ狙撃、敵が気付き慌ただしく動き始めたところで機関銃の掃射と迫撃砲の残りの砲弾を全部敵の頭の上に落として来たという。


……ちょっかいの規模じゃねぇ……


「敵は荷物を纏めて撤退して行きましたよ、そこまでは自分たちとレイヴンの情報で確認済みです」


最後のページにはレイヴンの画像ログであろう、本部を構えていた陣地から公国軍が撤退していくのがよく見えた。


「……分かった、こちらの期待以上の働きだった。心からの勤労と敬意を」


「ありがとうございます、ヒロトさんも中々大変だったようで」


「まぁな……そっち程じゃないだろうけど」


俺は報告書のUSBをパソコンから外し、カーンズに返しながら苦笑する。

作戦開始まで1週間、それまでは練度を保ちつつ、ゆっくり休んで貰いたい。


「連続の出撃ですまない、次は1週間後に全戦力で出撃する。それまでは体調管理を厳に、訓練と休憩を適宜行いながら待機で。給料は管財課で受け取ってくれ、話は行ってる筈だからな」


「了解、ではまた後で」


「ああ、じゃ」


そう言って俺はカーンズと別れ、次の仕事を思い返す。


「終わったか?」


そう言って彼と入れ替わりで部屋に入ってきたのは、俺の副官のエリスとメイド服のエイミーだ。何故エイミーがメイド服なのかは分からない。


「あぁ、狙撃部隊率いる任務部隊の仕事は終わりだ」


「カーンズは騎士団の時から小規模部隊を率いる指揮官の素質はあったからな、面倒見がいいんだ、あいつは」


「みたいだな、部隊を欠かすことなく帰還させる指揮官は優秀だ」


指揮官の任務は、作戦を指揮して敵に効果的に打撃を与える様に部下を使い、無事に部隊を帰還させることだ。それが出来るカーンズは指揮官に向いていると言えるだろう。


「……で次か」


「はい、ヒロト様、応接室でお客様がお待ちです」


エイミーが答える、エイミーはメイドモード(?)の時、俺を“様”付けで呼ぶ。恥ずかしいから止めて欲しいんだが、「メイドの時はメイドですので」というエイミーの言い分も分かると言えば分かるのだ。

因みに作戦の時はエイミーは俺をさん付けで呼ぶ。


「じゃ、顔を出しに行きますか」


「えぇ、その前に、身嗜みを整えてから、ですわ」


「ほら、ちゃんとしろ」


エイミーがそう言うと、エリスが俺のシャツのボタンを一番上まで留めて、ネクタイを直す。


「苦しい……」


「客人に失礼の無いようにしないとだしな」


少しの息苦しさを訴えた俺にそう言ってネクタイを直してくれるエリスを改めてみると、ガーディアンの紺と黒を基調にした制服だし、ピシッと整っているのが分かる。


「要人か?」


「ま、そんなところだ。……これで良し、完璧だろ?エイミー」


「えぇ、では参りましょう」


隊長室を出て応接室へ、バイエライドFOBはベルム街の本部基地とは勝手が違う為、時折道に迷いそうになる。

エイミーは完璧に施設の道順を把握していたらしい、迷うことなく応接室に案内してくれた。


部屋をノックし、「失礼します」と一声かけて入室する。

部屋の中に居たのは2人。1人は頸が隠れるくらいの赤毛の、凛々しそうな女性、年齢は俺よりは上だろう、20は過ぎているだろうが、25には達していないだろう。

もう1人はサーベルを腰に下げた、赤毛の優しそうな眼をした青年。年齢は俺と同じくらいか少し年上に見える。

男の方は見覚えがある、部屋の中には見覚えのある顔……確かそう……


「ライノルト氏ですね、お久しぶりです、ご無事で何より」


「お久しぶりです、貴殿の送ってくれた部隊、一度も目にすることは無かったが、おかげでこちらは森に撤退して来てから誰一人として負傷も戦死も無かった。そのことにまず感謝したい」


ソファに座った2人は立ち上がり、カイ・ライノルトはそう言葉を続ける。

グライディア王国近衛兵団の特務隊使節で、今回任務部隊を組織し、エルスデンヌの森に送ることとなった依頼の依頼者だ。


「いえ、我々の部隊が役に立てて何よりです。……こちらの方は?」


俺が話を振ると興味深そうに俺を見ていた赤毛の女性がハッと我に返り、咳ばらいを1つして名乗る。


「グライディア王国第三王女、アレクシア・ルフス・グライディアだ」


……は?王女?

……俺に客人って、王女様かよ……


驚きで一瞬声が詰まる、まさかこんな所で王女と対面するとは。


「……ぁ、戦闘ギルド、ガーディアン団長、高岡ヒロトと申します」


「副団長、エリス・クロイスと申します。お目見え出来て光栄です、殿下」


俺はあまりの驚きに名乗ることを忘れそうになったが、何とか取り繕えただろうか……

エリスは元貴族、こういった場所で要人に挨拶するのは慣れているのだろうか、完璧に挨拶をする。


「……失礼、このようなところでお会い出来るとは思ってもいませんでした、王女殿下。どうぞお掛け下さい」


促すと2人はソファに座り、俺達もソファに腰掛ける。

座りながら、出来るだけ失礼の無いように……あぁ、クソ、こういう時の対処がよく分からん。日本でこんな重役と対峙する事なんて無かった、どうすればいいか、俺の経験不足が出てしまう。

とにかく思い出せるものは全部思い出す、記憶の中から重役との会話の記憶を引っ張り出して言葉を繋ぐ。


「わざわざこんな砂漠の辺境までご足労頂き、ありがとうございます。アイスコーヒーとアイスティー、どちらになさいますか?」


「では、アイスティーを頂きましょう。彼、カイが、ガーディアンで美味しい紅茶を頂いたと言っていたものですから」


王女がそう言うと、カイは気まずそうに苦笑した。

かしこまりました、と言ってエイミーが応接室を出る。どうやらガーディアンの噂は広まりつつあるようだ。


「まずは依頼の件、心から感謝申し上げる。貴殿達が来てくれなければ、私も皆もあの森で骸を晒すことに立っていただろう。貴殿達の送ってくれた死神のお陰で助かった。本当にありがとう」


「いえいえ、依頼され、受けた仕事は最後までやり通すのが我々です。戦闘ギルドですから」


王女殿下が深く頭を下げる、俺は大げさに感謝されてこそばゆくなり、思わず謙遜する。

しかし、王女の言葉に1つ引っかかるところがあった。


「して、死神、とは……」


「ああ、我々と公国軍の間で呼ばれていたんだ。“あの森で死神が舌打ちし、鞭を振り下ろす時、それは必ず天に召されるときか、地獄に送られるときだ”とね」


つまり、狙撃部隊の狙撃中の銃声が鞭や舌打ちに聞こえ、それは死神が出す音で死神に敵対するものは必ず狩られる、という事か……


「……なるほど、私も先程部隊の指揮官から報告を受けましたが、大活躍だった様で」


「失礼します」


そのタイミングでエイミーがお茶を淹れて来た、4人の前にお茶のグラスを置き、エイミーは一礼して下がって応接室を出る。


「……私の想定以上の活躍をしてくれて、私も嬉しい限りです、どうぞ」


「あぁ、まさか公国軍を一兵たりとも通さないとはね……これがガーディアンの紅茶か、頂こう」


そう言って王女殿下がグラスを手に取り、口を付ける。

俺とエリスもエイミーの紅茶を飲む、自然な甘みと苦みの調和が取れており、自慢の紅茶の腕だ。


「……美味しい、王都の宮殿で出せるほど美味な紅茶だ」


「ありがとうございます、自慢の従者です」


エリスがそう言って微笑む、自分の従者が褒められて嬉しそうだ。従者は主人に倣うと言うから、エリスの教育や人徳を見て育った結果だろう。


「貴女の従者はどこに出しても恥ずかしくないな、宮殿で雇わせて欲しいくらいだ」


「殿下のお言葉、大変嬉しく思います。ですが彼女は私の、私達の従者ですから、他に渡すことは考えていません」


「それもそうだな、失礼した。君は良い従者を持ち、彼女は良い主人を持った。2人がそれで幸せなら、王国の王女として私は本望だ」


エリスと王女殿下がそう言葉を交わす、それを眺めながら自分も紅茶を飲む。

しかし王女が何をしにわざわざ来たのか気になるところ、俺はグラスを置き、話を切り出した。


「して、王女殿下はこんな若輩ギルドにどういった御用で?まさか紅茶を飲みに来ただけという訳でも無いでしょう」


王女は本来宮殿で指示を出す側の人間だ、第三王女とは言え本来の仕事は政治的な事、そして王女は国の中心に近い位置にいるはずの人間でもある。

それがどうして、こんな設立してから1年も経っていない若輩のギルドに一体何の用だろうか。


「あぁ、そうだ……ハルス・マスティン・グライディア国王陛下からの命を受けてここへ来た、王国有事に際して協力を仰ぐべく、まずはドラゴン討伐や公領内の麻薬カルテルの撲滅、インキュバスによる違法な戦力増大を抑えた実績を持つギルドを視察してこい、とな」


王女殿下の口か聞かされた外から見たガーディアンの活躍、謙遜する事ではなく誇る事だ、自慢すべき事だと言われても、素直に自慢したりするのは気が引ける。

かといって「え、俺何かやっちゃいましたか」系の様に白を切る程何もしてない訳じゃないし、するつもりは無い。

ガーディアンの現在の功績は、俺達と仲間の血と汗の元に成り立っている。


「ありがとうございます、ですが自分1人では何も出来ずに死んでいたでしょう。自分の今までの努力と、仲間達のお陰で此処まで来ることが出来ました」


俺は一旦そこで言葉を切り、少し考えて再度口を開く。


「視察、という事ならお引き受けします。ですが近く作戦がありまして、皆気張っております。作戦が終わり次第ベルム街の本部基地へと帰投いたしますので、お待たせして申し訳ありませんが、視察はその際でよろしいでしょうか?」


俺の言葉に王女はあっさりと頷いた、その事にまずはホッとする。今ここで視察をされても、見せられるものは育成中の部隊と未成熟の隊員と、1個中隊規模クラスの基地警備隊に基地業務隊と俺達が帰還の時に使った車両や航空機とその整備兵達だけだ。

今見る、と言われなくて良かった。


「あぁ、待とう。突然押しかけてもそちらには準備があるだろうしな」


王女は頷きながら紅茶を飲む、俺はそれを見ながら1つ思いついた事があり提案する。


「そうだ、その時に次回の作戦の映像もお見せしましょう」


「エイゾウ?」


「えぇ、我々は特殊な装置を使い過去の出来事を記録する事が出来ます」


「古代魔術道具にはそのようなものがあったと聞いています、それに近いもの……いえ、似ているものとお考え下さい」


王女が首を傾げ、俺の説明をエリスが補足する。この世界の魔術道具、必要では無い物以外はあまり詳しくないが、そのようなものがあったという話は聞いていた。


「あぁ、“勅令の玉”の事か。……あのような物があるのか?ガーディアンは一体どんな魔術師が在籍しているんだ……?」


高度な魔術道具は、質・量ともに高い魔術師でなければ使えない傾向の物が多い。王女の話すその“勅令の玉”も、例に漏れずそうなのだろう。


「ガーディアンで最も高いレベルの魔術師はこのエリスです」


「そうなのか?君、レベルは?」


「私はレベル4、私よりも高いレベルの魔術師はガーディアンにはいません」


王女にレベルを聞かれてエリスが答える、王女は驚きと共に何かを考える様な表情で口を開いた。


「……ガーディアンに魔術師が少ないという噂は本当だったのだな……」


「なにか?」


「いや、すまない。実は頭数が多くてレベルの高い魔術師がいるのではないかとか、魔術師の数をごまかしているのではないかと疑っていたものだ、許せ」


王女はそう言って苦笑する、俺は気にしない様に微笑み返して応えた。


「翌週の視察でその辺りの疑いも晴れましょう」


「あぁ、有意義な日になることを期待している」


こうしてガーディアンとアレクシア王女との第一回目の会談は幕を閉じた。




===============================



アレクシア王女はお帰りになられた、行動制限は着くがこのFOBに宿泊することを勧めたが、王女は騎士団を連れて来ている様だし、全員収容は流石に厳しい。

それに民兵と王国正規軍を連携した指揮系統も出来上がり、王国軍の別の指揮官へと指揮権限は譲渡された様だ。


一足先にベルム街で待っていると言い残し、王女はFOBを出て行った。


「えーっと、次は……」


「ヒロト自身の仕事だ」


「……そうだな、久しぶりに銃を撃ちに行こう」


FOBのロッカールームに向かい、制服から戦闘服、CRYE(クライ) PRECISION(プレシジョン) G3コンバットシャツとコンバットパンツに着替え、JPC2.0プレートキャリアと新採用の装備であるRaptor(ラプター) Tactical(タクティカル)ODIN(オーディン)ベルトを身に着ける。


幅の細いMOLLE(モール)のベルトで、、ベルクロで分かれているインナーベルトの上から腰に巻いて縦ズレと横ズレを防ぐ様になっている。

ベルトは左腰から右腰へ、片方の(フラップ)の開いたダブルピストルマグポーチ、ライフルマグポーチ、ダンプポーチ、メディカルポーチとTQ(止血帯)ホルダー、フラグポーチ、そして右腰のSafariland(サファリランド) 6378ALSホルスターと、基本的なベルト回り(ファーストライン)の構成だ。


P-MAGに5.56×45㎜弾をクリップで止めて込めていき、ハンドガンのマガジンにもスピードローダーを使って9×19㎜拳銃弾を込めていく。

プレートキャリアに4本、ベルトのFASTマグポーチに1本、そして銃に装備する1本のP-MAGをマグポーチに差し込み、銃に装備する1本はダンプp-血を展開してその中に。


拳銃用のマガジンもポーチに入れるATS Tacticalのダブルピストルマグポーチに2本差し、拳銃に装備する1本をダンプポーチに放り込む。


次はヘルメットだ、通称“バリヘル”と呼ばれるOPS-CORE(オプスコア) FASTバリスティック・ハイカットを参考にして作った“FASTドラゴン”を被る。

ドラゴンの鱗を使用している為、防弾性は向上しているが軽さは600gを切るという優秀さだ。載せているAN/PVS-15双眼型暗視装置の方が重く感じる程だ。


暗視装置は外し、顎紐で固定して後頭部のダイヤルライナーで頭の締め付けを調節してARCアダプターでヘルメット上部のレールに取り付けていたCOMTAC(コムタック) M3ヘッドセットを確認する。


無線はラジオポーチにPRC-152が入っている、既に周波数は調整済みだ。

PTTスイッチは小型のNEXUSを選んでおり、マガジンを抜くときも邪魔にはならない。


ロッカーから取り出してスリングで肩にかけたのは、お馴染み愛銃のM4だ。

それからP226をホルスターに入れ、装備が整うとロッカールームから出る。


行く先は射撃訓練場、FOBのヘスコ防壁の向こう側、防壁が1段高く積まれているところだ。

エリスは準備を終えて先に来たのか、シューティングタイマーと自分のM4と装備を持って待っていた。


「お待たせ、じゃ、始めようか」


「あぁ、的の設置は終えている。タイムアタックでどうだ?私に負けたら飲み物奢りだ」


「うへ、病み上がりに初めて銃を握る奴にはキツいぜそれ」


「何、ヒロトなら大丈夫だろう」


苦い顔をワザと浮かべる俺にエリスは微笑んだ、文句を垂れたところで始まらない、準備を始める。


ホルスターからP226を抜き、ダンプポーチからマガジンを取り出してグリップの下からマガジンを入れてスライドを引き初弾を装填、スライドを少し引いて薬室(チャンバー)の中に初弾が入っているのを確認するとスライドを押し戻して後部を軽く叩き閉鎖する。


ホルスターにP226を戻すと今度はM4だ、同じくダンプポーチからP-MAGを取り出し、M4に差し込んでチャージングハンドルを引く。

薬室(チャンバー)に5.56×45㎜弾が送り込まれ、俺のM4は力を手に入れる。

また少しチャージングハンドルを引き、薬室内を確認、初弾を目視で確認するとチャージングハンドルから手を放し、軽くフォワードアシストノブを押してボルトを確実に閉鎖してダストカバーを閉じる。


M4に載せたEOTech553ホロサイトのレティクルの点灯を確認すると、エリスに頷いた。

エリスも頷くとシューティングタイマーを弄る。

俺は前を向き、銃口をローレディにして構える。


Shooter(準備は) Ready?(いいか)


Yep(あぁ)


Standby(スタンバイ)


ピー、という音と共に走り出す。

バリケードの脇にマンターゲット、ストックをしっかり肩に当てて反動に備え、セレクターをセーフティからセミオートに入れて引き金を引く。

引き金を引く感覚を思い出す、この瞬間に撃鉄(ハンマー)が落ちて雷管(プライマー)を叩き、内部の無煙火薬が燃焼してガスへと変わって弾丸を押し出す。


引き金を引く力、撃鉄(ハンマー)が落ちる感覚、マガジンが空になる頃には思い出し、慣れを取り戻してきた。


弾切れになったらピストルトランジション、ホルスターからP226を抜き、構えはアイソセレススタンスで引き金を引く。


M4より軽い音、しかし反動制御はM4より慎重になる。

移動しながらライフルに持ち替えてハンドガンをホルスターに仕舞う、弾切れのM4をリロード、腰のFASTマグポーチはこういったスピードリロード用だ。

マガジンを差し込み、ボルトリリースボタンを押してボルトを前進させ、リロード完了。リロードし終えると同時に次の射撃地点についていた。


コースを走り終えるまで射撃をし続ける、それを俺とエリスは日が暮れるまで繰り返し訓練していた。


2週間以上銃を扱わなかった俺はタイムが少し落ち、僅差でエリスに負けてジュースどころか食事を奢る羽目になったのはまた別の話。

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