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第154話 囚人の解放へ

第3者視点


先頭を走るスティールとユーレクがXM8コンパクトカービンを射撃、通路を塞ぐ警備兵を撃ち倒していく。


「急げ!走れ!班長は援護を!」


大きな通りはカッティング・パイで通りをクリアリング、敵が目に入り次第撃つ。

普段通りなら素早い動きも、120人の囚人を連れての移動だ、どうしても慎重にならざるを得ない。

戦えない一般人を庇っての戦闘というのは、かなり負担になるのだ。


「行け!行け!正門まで突っ走れ!」


「止まるな!止まるな!」


警備兵は銃やクロスボウを持って反撃してくる、敵に銃が居るという事は、それなりに銃を使った戦闘を想定しているという事か。

こちらが敵の弾に頭を引っ込めている内に、警備兵の中の剣士が銃兵援護下で突撃して来る。その連携は見事だと言わざるを得ない。


だが、銃を使う戦闘ではこちらの方が一枚上手だ。肉薄した剣士に2人は引き金を引き、銃口から射出された5.56mmNATO弾は胸甲をいとも容易く貫いて剣士を地獄に叩き落とした。


「ペチェルスキー!レオン!正門まで先導!囚人を護衛しろ!俺達は殿に入る!」


呼ばれた2人は頷くと、班を率いて前へ出る。

ハンドサインで通りの向こうに送る、渡ったのが分かったのか敵が正面から出てきたが、ペチェルスキーとレオンがそれぞれM1Aを射撃して警備兵を屠った。


ペチェルスキーとレオンは正面の敵を始末すると班を率いて通りを走る、側面の路地から回り込んで来る敵を始末し囚人に路地を渡らせて渡った班の班長が前へ出る。


次々と囚人を先行させ、遭遇した収容所の警備兵に弾丸を叩き込んでいく。

囚人達は援護の元、指示された通りに正門を目指して突っ走った。正門に近づくほど敵の数も多くなる。


「装填!」


誰かが先頭でリロード、直後にそれが悲鳴に変わった。

囚人達の足が止まる、ペチェルスキーとレオンが先頭に出ると、弓矢を持った警備兵に班長が頭を射抜かれたところだった。


「くそッ!」


返す刀でレオンが射撃、弓兵が矢を番えるよりも早く、7.62mmNATO弾が弓兵を貫いた。

まだ居るはずと思ったレオンはM1Aを構えながら進み、顔を出した別の弓兵を撃ち抜いた。


「正面クリア!」


レオンは振り返り叫ぶ、ペチェルスキーが射抜かれて死んだ囚人からM1Aとマガジンを回収する。


「どうだった?」


「……ダメだ、班長死亡、班員は俺の班に統合させる」


「了解。……ここまで来て1人か」


「指示通りだ、死人は置いていくしかない、回収してる余裕なんて無いぞ、この状況じゃ」


ペチェルスキーが正面から少しだけ顔を出す、この路地を抜ければ正門だが、正門と路地を出るまでの道に警備兵が大量に集まっており、ペチェルスキー達の路地に向けて射撃を繰り返している。

ペチェルスキーが顔を出すタイミングを明らかに狙っており、顔の近くで石造りの建物の壁に銃弾が跳ねる。

それにこちらは平原側と異なり、未だ監視塔も健在だ。


「くそ、これじゃ正門から脱出出来ないぞ」


「監視塔から撃ち下ろされるぞ、圧倒的に不利だ」


ペチェルスキーとレオンが機会を伺っていると、ユーレクとスティールが殿から追いついた。


「どうだ?」


「ダメです、監視塔から狙われてますし、タイミングを狙って撃ってきます」


「今出たら奴らに撃ち殺されるだけだ、他のルートはあるか?」


スティールの問い掛けにレオンとペチェルスキーがそう答えると、そうかと一言頷き路地から外を確認しようとする。ペチェルスキーが覗き込んだように、顔を出すタイミングでこちらに射撃が向かってくる。まるでお前らをここから出さないと言わんばかりにクロスボウ用の矢やニルトン・シャッフリル銃の射撃が襲い掛かってくるのだ。


「どう考えても自殺行為だ」


その様子を見たペチェルスキーが観念したようにそういうが、ユーレクは首を横に振った。


「いや、まだ終わりじゃ無い」


周りの囚人達が首を傾げる、普通に考えて、この状況は1人でも多くが走って正門に向かい、生存率を上げるくらいしか思い浮かばないだろう。出血に目を瞑り、とにかく走るしかない。


「どういう事だ?」


ペチェルスキーも同じことを考えていたようで、首を傾げながら問い掛け、その問いにスティールがニヤリと笑って答えた。


「俺たちが、ガーディアンだからだ」


その言葉の直後、シュッという音と同時に監視塔が爆ぜた。爆発が監視塔を包み込み、木で出来た破片がそこかしこに飛び散る。


「な、なんだ……!?」


囚人達が爆発音に身を屈めていると、森の奥から再び音がする。バシュッと空気が抜ける音の直後、もう片方の監視塔が粉々に吹き飛んだ。


「援護があったな……」


「あれは一体なんです……!?」


レオンが驚いた表情を浮かべて、破壊された監視塔を見つめる。

驚いて警備兵の射撃が止んだ隙にユーレクがXM8のコンパクトカービンを構えてセミオートで射撃、100m程向こうにいた警備兵の数人から血が跳ねた。


「あれが俺達の仲間だ、さぁ次の援護が来る、そうしたら正門をぶち破って道に沿って全力で走れよ!」


スティールも射撃に参加、公国兵を撃ちながら足止めする。

やがて、聳える正門を向こうからディーゼル音が聞こえてきて、それはやがて大きくなっていく。


おいでなすったか、スティールとユーレクがそう思った瞬間、ドガッと爆発する様な音と共に正門が吹き飛んでいた。


吹き飛ばした正門をバキバキと踏み潰しながら収容所に押し込み強盗の様に入って来るのは、LAV-25A2。ガーディアンの西部方面隊のエンブレムが砲塔に小さく描かれている。


2輌が突撃してくると、1輌ずつが路地から正門への道を作るように塞ぎ、砲塔を回して7.62mm同軸機銃と25mm機関砲で射撃を開始した。

25mm機関砲により警備兵の身体は文字通り木っ端微塵にされ、同軸機銃はニルトン・シャッフリル銃以上の威力を持って敵へと襲い掛かり機関砲の脅威を逃れた警備兵を撃ち抜いていく。


「よし今だ!行け行け行け!ペチェルスキー、レオン!先導しろ!」


「良いか!道に沿って走れ!先で俺達の仲間が待ってる!間違えて撃つなよ!」


スティールとユーレクが飛び出してLAV-25の影に入る、2輌が盾になる形で出来た道を、囚人達は正面の道へとひたすらに走る。


スティールはLAV-25の装甲に登り、ハッチを叩く。ハッチから顔を出したのは、マルチカム・アリッド迷彩でヘルメットを被った男、ガーディアンの隊員だった。


「ガーディアン本部歩兵隊第1小隊、第4分隊分隊長スティール・ライン!曹長!官名と所属を明かしてくれ!」


スティールはXM8コンパクトカービンを構えながらハッチの中に向けて叫ぶ、ハッチの中にいた車長の男は毅然として答える。


「ガーディアン西部方面隊基地警備中隊、第1小隊第1分隊分隊長、ウィルマー・リーゲル!少尉!本部部隊の方ですね、会えて光栄です」


「その光栄を噛み締めるのは後にしよう、囚人達を乗せる車輌は来ているな?」


「森の奥250mの所に待機しています、150m付近で隊員が誘導の為に待機しています」


「こっちは120人だ、全員乗せられるか?」


「200人を想定してきました、余るくらいです」


「良くやった、それまで俺達は最後を支えるぞ、すまんが盾になって貰う」


「いえ、これで全員助かるなら車体に着いた傷も名誉の傷ですよ」


申し訳なさそうに言うスティールに、ウィルマー少尉と名乗った男は首を振って微笑んで返す。

頼もしいよ、と言って頷いたスティールは、再びXM8を構えて敵の方へと銃口を向けた。



一方、ペチェルスキーとレオンは囚人達を率いてひたすら道を走っていた。


「走れ走れ!ジェフ達が押し留めている間がチャンスだ!」


「転ぶな!転ぶな!転んだらそれだけ遅くなるぞ!」


彼らは叫びながらM1Aを手に先頭を走り、支持された通りにひたすら道を進む。


「おい、これ本当に逃げ切れるんだろうな?」


「祈っててくれ、ニコラウスもジェフもモーリスも言ってたんだ……!」


ゆっくりカーブした道を走り、そろそろ正門が見えなくなってきた時、彼らの正面の藪が揺れ、人が出てきた。


反射的に銃を向けるが、様子がおかしいと思った。3人が1組になっており、公国兵が持っている銃とは全く違う得物を持っている。彼らの持つそれは、ユーレクやスティールが持っているそれに近いように囚人達は感じた。

ペチェルスキーは彼らに歩み寄ると、彼らもペチェルスキーの方に向かって歩いてくる。


「脱走を手助けしてくれるって言うのはそちらか?」


「あぁ、ガーディアン本部歩兵第1小隊、第2分隊臨時副官、リチャード・スティング。軍曹」


「ガーディアンね……脱出計画の首謀者はガーディアンのスパイだった訳か」


「そう言うことだ、語りたいところだが時間もない、他の囚人達も走れるか?」


「あぁ、問題ない、全員で逃げる為だ」


「分かった、まだ少し走ってもらう、続け」


リチャードはFN Mk.13EGLMを装備したM4を手に、周囲を警戒しながら囚人のペースに合わせて走り出す。

囚人達もM1Aを持った各班長について行くように走り、班長は転びそうな囚人を気遣いながら走る。


100m程走ると、道沿いに隠すように車輌が長い車列を成して停めてあった。

異世界人達である囚人は初めて見るこの車輌は73式大型トラック、ガーディアンの主力輸送トラックだ。

輸送車列を運転する第3分隊と本隊の輸送隊から選抜されたメンバーがトラックの荷台付近に待機していた。


「この荷台に乗ってくれ!1台に2班だ!」


「十分に乗れるスペースはある!班長は入り口にいる隊員に銃を渡してから乗り込んでくれ!」


車輌戦闘を得意とする第3分隊の分隊長、ストルッカの号令一下、囚人達がトラックに乗り込み始める。1台に2班、10台のトラックが用意されたが、乗り込むのは6台までだ。


「乗ったら奥に詰めろ!後がつっかえるぞ!」


「次の班はこっちの車輌に!」


森の中からTOW対戦車ミサイルを発射し、監視塔を破壊したHMMWV(ハンヴィー)も車列に合流、リチャードやストルッカ達の本部部隊以外はマルチカム・アリッドのコンバットシャツとコンバットパンツに身を包んでおり、西部方面隊である事が伺えた。

マルチカムとマルチカム・アリッド、パターンは同じだが別色の2種類の迷彩の兵士が忙しなく動き、出発準備をしている。


銃を回収したエーリカとレベッカは別のトラックにM1Aを置き、マガジンと銃の数を数えて不備がないかを確認する。


「待ってくれ、ジェフとモーリスがまだ!」


ペチェルスキーがそう叫ぶ、その偽名を使っているのはユーレクとスティールだ。

2人は殿に入ったまま、まだ戻って来ていないのだ。


「分断されたんじゃないか?」


「大丈夫だ」


レオンが不安そうに言うと、M249を持ったロバーツが2人に声を掛ける。


「援護した車輌に乗って帰ってくる、基地で会えるさ。さぁ君らも乗って!」


「……分かった」


レオンとペチェルスキーは不安げにそう言って、最後尾のトラックに乗り込む。

第3分隊副官のルイズが人数をチェック、西部方面隊の輸送車輌を総動員した輸送作戦だ、積み忘れがあると失敗する。


「人数チェック!119人!」


「1人足りないぞ!」


「さっき戦死したんだ」


「……了解、異常無し」


「銃の数は合ってる、12丁と同じ数のマガジンだ」


「分かった……OKだ!」


ストルッカがクリップボードに止められたチェックリストを厳密に確認、人差し指を立てて上に向け、ぐるぐると回す合図を送ると、全員トラックやHMMWV(ハンヴィー)に乗り込む。


『各車へ告ぐ、輸送準備が整った、繰り返す、輸送準備が整った』


『了解、こちらAT班、準備良し、先導します』


『こちら輸送トラック各班、準備良し、出発出来ます』


ストルッカは先頭のトラックの助手席に乗り込むと、無線で各部隊に呼び掛け、応答を確認するとシートベルトを締めた。


『出発する、全車前進、安全運転で基地まで帰るぞ』


『了解』


『了解』


トラックの先を、HMMWV(ハンヴィー)が走り出す。



一方で、収容所の門付近では、未だ殿のLAV-25A2が敵を食い止めて居た。

表面の装甲には多数の弾痕があり、かなりの銃撃を浴びたものの、現代の装甲車であるLAV-25A2はまだピンピンしていた。敵から見たら、まさに無敵の鉄壁にも見えるだろう。


「装填!」


ユーレクがXM8のマガジンを交換、アダプターでジャングルスタイルにしてあるマガジンを差し込み、キャリングハンドルの中にあるコッキングレバーを引いてボルトをリリースする。


スティールは既に2本目のマガジンに切り替えられており、シースルーのマガジン内にはもう3分の1も残っていない。


1発1発をよく狙い、そして引き金を引いている。残弾は僅かだが敵もその射撃の隙間を狙って顔を出し、こちらに向けて射撃してくる。


「くそ、まだか……!?」


仲間が逃げる時間を稼ぐ為に、ユーレクとスティールはここに残った。車輌部隊が撤退開始とLAV-25の車長が言うまで、彼らはここを支えなきゃいけない。


と、スティールのXM8の引き金が突然引けなくなった。LAV-25の車体に隠れつつ、銃をチェック。

コッキングレバーとボルトが後退し切ったまま止まっている、マガジンを抜いてみると空だった、ただの弾切れだ。

タイヤの上にXM8を置き、車体をよじ登って砲塔を叩いてハッチの中に声を投げる。


「銃が弾切れだ!援護してくれ!」


「了解!」


ハッチの中で車長が応えて叫ぶ、砲塔が唸ると、狙われた事を察知した警備兵が建物の陰に引っ込んだ。


しかし、引っ込んだ建物の壁ごと、25mm機関砲は容赦なく撃ち抜き、建物をボロボロにしていく。壁の向こうから飛び出してきたのは、敵のものと思われる肘から先の腕だ。


それを尻目にスティールはガンクリップから減音器サウンド・サプレッサー付きのFNX-45を抜き、引き金を引く。

アサルトライフルより射程も威力も低い拳銃だが、牽制には十分だろう。

慎重に撃たなければならない、何せ装弾数が少ないのだ。


数発撃つ事にマガジンを外し、まだ中に弾が残っているかを確認しながらの射撃。だいぶ敵の勢いも弱まってきた。


そんな時、LAV-25を目掛けて敵の魔術師が炎を放って来た。こちらからの射撃を警戒してか、撃ってきたのは初級魔術のファイア・ボールだ。


ファイア・ボール程度で撃破可能なLAV-25では無いが、命中時の爆発の衝撃で車体が大きく揺れ、落ちそうになるがなんとか堪えた。


LAV-25が撃ち返す、25mm機関砲から焼夷榴弾を連射しつつ、ハッチから車長が顔を出して叫んだ。


「車輌部隊が全員収容したと連絡が入った!俺達も撤退する!車内に乗り込め!」


「了解!」


囚人達は無事ガーディアンの車輌部隊が全員回収したらしい、殿はここまで、後は急いで逃げるだけだ。


「ユーレク!撤退の指示が出た!乗れっ!」


「了解!」


スティールは反対側で別のLAV-25と共に場を抑えていたユーレクに向けて叫ぶ、XM8の弾もそろそろ無いだろう、マガジンには殆ど弾は入っていなかった。


ユーレクはスティールの元に駆け寄り、スティールはタイヤの上に置いたXM8を回収する。

弾の残り少ないXM8でユーレクはスティールを援護し、スティールはLAV-25の後部ハッチを開けて乗り込んだ。

続けてユーレクも乗り込み、ハッチを閉める。


「乗ったぞ!」


「良し!このまま撤収!すぐにガーディアンの基地だ。帰ったらゆっくり休んでくれ!」


2人が乗った事を確認すると、LAV-25が動き出す。

砲塔を後ろに向けながら2輌のLAV-25が収容所の敷地内から撤退、その車内でユーレクとスティールは、笑いながら拳を突き合わせていた。


================================


ヒロト視点


息を切らせながら丘の向こう側に滑り込む、丘の向こうでは、ヘリが囚人達を収容し始めているのがよく見えた。

隣にエリスやエイミー達が滑り込むと、800mの離脱機動(ピールマニューバ)を終えた。


息切れが激しい、瞬発力や反射神経の衰えこそないものの、肺活量が落ちたなと思う。次の作戦までに休めるだけ休んでからトレーニング再開だな。


思いながら稜線の陰からXM8を構える、既にマガジンは2本目、さっき交換したばかりだが、6.8×43mmSPC弾なので装弾数は28発、さっき3発撃ったから25発か。

搭載された複合照準器を覗く、敵が爆破して空けた大穴から出て来るのがよく見えた。


「敵が出て来るぞ!」


叫びながら2発ほど撃ってみるが、弾が届くギリギリの距離でなかなか当たらない。


「大丈夫だ、ヒロト」


隣の凛々しい声に振り向く、エリスがこちらを見ながら微笑んでいた。

そして反対側の森を指差して口を開く。


「アレを見ろ、私達の勝ちだ」


首を回して反対の森を見る、すると、森の木の上を2機のヘリが飛んでいるのが見えた。


AH-64E、ガーディアン・アパッチだ。


ヘリはLZの近くまで移動すると、こちらに走って攻撃を仕掛けてくる警備兵に対して射撃を開始した。

歩兵の携行火器とは比べ物にならない威力のM230 30mmチェーンガンの雨が警備兵に降り注ぎ、集団の中心付近に向けてロケットが発射される。

距離が近いためか衝撃はここまで届き、丘の影へと顔を伏せる。


「これで敵の足も止まる」


伏せながらエリスが言う、再び顔を上げると、敵が一掃されたところだった。


「タロン2-1、援護に感謝する」


無線で報告するエリス、さっきのはタロン隊だったか。慢心して良い訳では無いが、敵の数も減るし足も止まるはずだ。


こちらの戦闘機によって航空優勢は確保されているので、対空火器の無い敵に対して攻撃ヘリは支援戦力としてかなり優位に立てる。

その証拠に先程から炎魔術による対空砲火が収容所内外からアパッチに向けられるが、高速で機動するアパッチはそれを容易く躱し、火点を特定した彼らは30mm機関砲でHEDP弾を射撃、地面で小規模な爆発を立て続けに起こしていく度に対空砲火の数が減っていく。


「ヒロト、チヌークに乗って撤退しろ」


エリスがそう言うが、俺は首を横に振った。


「エリス達はどうするんだ?」


「私達はこれが出た後ブラックホークで撤退する」


「なら俺も」


「ヒロト!」


エリスがヘリの羽音の中、俺に向けて声を大きくした。

しかし、俺も暫く本隊から離れていたとは言え、この戦闘団の団長なのだ。

それに銃を撃つ感覚もなるべく早く取り戻しておきたい。

それに__


「撤退するなら、お前と一緒がいい」


「……ッ……!」


エリスを見て笑ってそう言うと、エリスは照れながらヘルメットで自分の顔を隠した。

多分、赤くなった顔を隠す為だろう。


「……作戦中だぞ、馬鹿者」


そう言うと無線機を取り出し、どこかへ繋ぐ。


「イエロー3-1、こちら1-2。ヒロトはその便では帰らない、余ったスペースに銃を乗せて撤退せよ。オーバー」


『こちらイエロー3-1、団長は正気か?オーバー』


無線の音が漏れる、どうやらイエロー3-1のヘンリー・アルセリア少佐。後ろで囚人を収容していたチヌークに繋いでいるようだ。


「正気だ、この私が保証する。ヒロトはこのままここに残り、私達と共にブラックホークで撤退する。オーバー」


『本気だな?後でやっぱやめるは効かないぞ?オーバー』


「ヒロトがそんな事言い出すものか、囚人の全員収容を確認したら速やかに撤退するんだ、オーバー」


『……了解、ロードマスターから確認が入った、全200人、確認完了、イエロー3-1離陸する』


『了解、ゴンドラ1、離陸する』


囚人達の収容を終え、4機のチヌークが離陸。着陸地点に銃の置き忘れは無く、銃も全て回収出来たようだ。


ヘリの着陸誘導の為かガレント達2-1はここに残っており、共にチヌークの離陸を見送った。


「ブラックホークが来るまでの時間は?」


「およそ30秒!」


「よし!持ち堪えるぞ!」


「「了解!」」


エリスとエイミー、クレイ、アイリーンの4人が応える。

とは言っても、稜線から覗き込むに前衛は攻撃ヘリのおかげで全滅と言ってもいい。


散発的に生き残った銃兵や弓兵が貧弱な対空砲火を上げるが、高速で飛び回っているアパッチに命中する事はほぼ無く、当たったとしても"空飛ぶ戦車"とも言われる程装甲の厚いアパッチを貫いたり撃ち落としたりする事は出来なかった。


XM8のスコープを覗きながら時折残党に向けて引き金を引く、そうしている内にヘリの羽音の中に別の羽音が紛れ始めた。


空を見上げれば、よく見慣れた機影。ミサイルやロケット砲は無く、両舷にミニガンが備え付けられている。

MH-60M、いつものブラックホークが2機だ。


先程チヌークが離陸したその場所に2機が着陸すると、ドアを全開にしたキャビンからこちらに手招きしてるのが見える。久しぶりに見た第1分隊の隊員達だ。


「後退!」


掛け声と共に一斉にヘリに向けて走り出す、上空ではそれを援護する様にAH-64Eが機関砲の雨を降らす。残り少ない警備兵の追っ手はその肉体を砕かれ、ズタボロにされて肉片へと変わっていく。


タロン隊が抑えている間に大急ぎでヘリに乗り込む、ブラックバーンがクレイを引き上げ、グライムズがアイリーンを引き上げて、乗り込んだエイミーがエリスを引き上げ、エリスが俺を引き上げて全員乗り込んだ。

もちろん全員ライフルには安全装置をかけた上で、だ。


「全員乗ったぞ!」


『よし、スーパー61離陸!離脱する!』


『スーパー62、全員収容を確認、離脱する』


スーパー62も2-1を全員収容したらしく、スーパー61に続いて離陸した。

スーパー61と62に続き、背後を援護していたタロン2-1と2-2が残りのロケット弾をありったけ放出し、援護位置に付いて飛行を開始した。


解放と脱出作戦は、成功した。

その事実にホッとして、力が抜けてしまう。


「……ふぅ……」


「お疲れ様、ヒロト。……お帰りなさい」


「あぁ、ただいま」


寄り掛かってきたエリスを抱き締める、こうしてエリスと言葉を交わすのも、凄く久し振りに感じた。

と、エリスがすんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いできた。


「……ヒロト」


「ん?」


「その……ちょっと臭うぞ」


エリスの口から衝撃的な言葉、少しショックだったが、収容所生活が長かったんだから当たり前か……


「……悪い、シャワーの日明日だったんだ」


笑いながらそう言うと、「久し振りに会えたから、別に良い」とエリスは首を横に振った。


「エリス様、私達もそう変わりませんわ。収容所に降下してから私達もシャワーなど浴びていないのですから」


騒音の響くヘリの中で、無線を通してエイミーが話す。慌ててエリスが自分の襟の匂いを嗅いだ。


「……その……匂う、か?」


不安そうに見上げてくるエリス、軽く匂いを嗅ぐが、よく分からない。


「いや全く分からん、収容所の悪臭が酷くて鼻が変になってる」


そう言うとエリスの表情はホッとしたものに変わった、女子は男子以上にそう言うところに気を使う生き物なのだろうと言うのはそろそろ分かってきた所だ。


「……で、状況は?」


「現在第2作戦を別働隊が遂行中、終わったら予定通りの知らせが入る筈だ」


仕事モードに切り替わったエリスの声色に、俺ももう少しだと気を引き締めた。


================================



第3者視点


収容所から撤退する囚人の航空支援に出ていた攻撃ヘリは2機、ガーディアンはそれ以外にも攻撃ヘリを保有している。

基地で待機している訳では無く、本作戦の別の任務へと動いていた。


異世界の空に羽音を響かせて飛ぶ攻撃ヘリが2機、ヘリの名前は"AH-1W スーパーコブラ"。


西部方面航空隊所属の2機も、その任務を負っていた。


『こちらワスプ1、目標確認、射点に付いた』


『ワスプ2、橋の上、及び付近に敵影無し、射撃用意よし』


ワスプのコールサインを持つ2機のコブラ、照準の先には、川にかかる橋がある。

彼らの目的は橋への攻撃、ソヴィボル収容所からバスティーユ収容所橋へと掛かる橋を全て落とし、情報伝達を遅らせる事にある。


『発射』


『発射』


2機のコブラからほぼ同時に、BGM-71 TOW2B対戦車ミサイルが発射された。


1発につき2本のワイヤーがどんどん繰り出されていき、橋のど真ん中に2発が連続で命中。爆炎と共に木造の橋が崩れ落ちた。


『命中、目標は木材に戻った』


『了解。次弾、奥の煉瓦の橋』


『……照準完了、いつでも撃てます』


『発射用意……発射』


ランチャーチューブからTOW2Bが再び踊り出て加速、頑丈に作られた煉瓦の橋に次々と命中、ワスプ1と2がランチャーのミサイルを撃ち尽くす頃には橋は瓦礫となり、橋脚も含めて完全に破壊されていた。


『目標の破壊を確認、コンプリートミッション、RTB』


『2』


西部方面隊の飛行隊だけでは無い。本部部隊から来ている2機のAH-64Eガーディアン・アパッチも同じ任務を帯びていた。

1機あたり16発ものヘルファイア対戦車ミサイルを搭載したAH-64Eは、作戦範囲内の橋という橋にTOWより遥かに遠距離からミサイルを叩き込んで破壊して行く。


人がいない橋には問答無用で、人がいる橋には接近して人を遠ざけてからミサイルで叩き込んだ。


これでソヴィボルからバスティーユまでの陸路を全て破壊したと言ってもいいだろう。


次は空路、敵の翼竜(ワイバーン)部隊の伝令や情報路を遮断する段階だ。

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