第152話 脱走準備
当日
朝起きた俺は労働の時間が始まり、いつもの様に看守が見なくなるタイミングを見計らってエリスに脱走決行の符号をメールで送り、銃の工房を封鎖した。
出入り口に見張りを立て、ドアの鍵を閉めたのだ。
鍵を何処から調達したかというと、俺のスマートフォンで召喚したものだ。
そして偶然にも銃の工房に居る囚人達は、全員協力者であった。
「これから看守を全員始末してもらう」
いよいよだ、と囚人達が奮い立つ。同時に緊張している囚人も何人かいた。
「全員逃げ出すには看守を始末しなきゃならない、まず障害になるのは"制御室"付近の看守共だ。俺達は制御室を制圧して魔力鉄線を停止させる。その間に君達に順番に、そして静かに看守達を殺してもらう。指揮はペチェルスキー、お前に任せる」
「分かった、任せてくれ」
ペチェルスキーが頷くと、囚人を纏め上げていたペチェルスキーが今度は皆の前に出る。
「皆聞いたな、彼らに着いてここを脱走する。その為には看守をなるべく排除しないといけない。まずは俺から続いてファング、アレクト……」
ペチェルスキーが指名している間に、ユーレクとスティールに銃をスマホで召喚する。
手の中に召喚されたのはタンカラーのポリマーフレームオート、ダブルカラムマガジンの為にグリップが少し太くなっている。太いバレルには、減音器用にマズルがネジを切られていた。
今回の任務に選ばれたのはFNX-45、同時に減音器とSurefire X300Uフラッシュライトを召喚した。
マズルに減音器を取り付け、アンダーレールにライトを取り付けて、囚人服の上からポーチとガンクリップが取り付けられたベルトを腰に巻く。
予備マガジンを2本召喚して同じく.45ACPをマガジンに詰め込む、元からFNX-45に入っていた1本目のマガジンにも.45ACPを詰め込み、グリップの底からマガジンを挿入。スライドを引いて初弾を薬室に叩き込む。
スライドを少し引いて薬室を確認、マガジンも確認して戻し、スライドを軽く叩いて確実に閉鎖する。
この動きも久しぶりにやった気がする。イメージトレーニングはずっとして来たものの、どこまで練度が保てているだろうか……何せここへ来て既に半月だ、まともな訓練など出来ていない。
だが、それでも自分が培って来た技術に頼るしかない。
スティールとユーレクと目を合わせる、彼らも準備が出来たらしく、頷いた。
「殺したら服を奪って死体を隠すんだ、なるべく自然に行動しろ」
「ペチェルスキー、頼むぞ」
「任せろ、俺もやって来るぜ」
ナイフを手にニヤリと笑うペチェルスキーは、とても頼もしく見えた。
「行ってくる」
「気を付けてな」
俺、スティール、ユーレクの3人はゆっくりと扉を開け、外を確認する。
看守と警備兵の姿は無し、ハンドサインでそれを伝えると外に出て警戒する。
この緊張感、高揚感、これも久し振りだ。
高まった感情を抑え、視界が狭くならないように冷静になる。
制御室はそこそこ距離がある、しかし司令部は取り調べに夢中になっているのか、看守とも警備兵とも出くわすことはなかった。
制御室は収容所の端にある、電線のように魔力線が引き込まれている部屋で、何度か経路を確認して事前に調べはついていた。
中から鍵を掛けられる様で、必要なのは合言葉だ。
周辺を警戒しつつ、ドアをノックした。
『……旗』
「カラス」
俺が声を低く少し変えて中の看守に答えると、中からドアに向かう足音がする。俺たちはその間に突入陣形を整えた。
アイソセレス・スタンスの構えから腕を曲げ、若干中を斜めにして添えた手を巻き込む様に構える、C・A・RSystemの構えでFNX-45を構える。
かちゃり、とドアが開けられた瞬間、思い切りドアを蹴破って看守諸共室内へ突入した。
「な______」
看守が言葉を発する前にFNX-45の銃口を向け、引き金を絞る。
バスバスッ!バスッ!
撃ちながら部屋の中に押し入る、消音された.45ACPが胸に2発頭に1発、それでも死ななければまだ撃ち込む。
合計5発撃ち込んで確実に殺し、部屋の中を制圧する。
「……クリア」
「クリア」
「クリア」
3人の看守を始末し、素早く制御室の鍵をかける。
「スティール、頼むぞ」
「了解了解……!」
スティールが制御用のコンソールの様な制御台に向かい、魔力線の魔力を遮断する。
魔力は大きな魔石から供給されており、スイッチを通じて各線へと繋がっている。
俺はFNX-45を手にドアを警戒する、来るな来るな、誰も来るなと思いながら拳銃を構える。銃を握る手が少し汗ばんで来た……
しかし、公国兵はそんな事を考慮してはくれない。
ドアがノックされ、身構える。
『警備兵、レーマンとクランクです』
ドアの向こうからの声に、また少し声を低くして問いかける。
「合言葉は、旗」
『カラス』
「……今開ける」
ドアにゆっくり近づき、"仕留めるぞ"とハンドサイン。
ユーレクもドアに近付き、FNX-45を構えた。
バッとドアを開くとユーレクは警備兵の胸ぐらを掴み室内へ引き込む。
床に引き倒すと、警備兵の頭を打ってトドメを刺した。
俺はその後ろに立つ警備兵の首をダブルタップで撃ち、同じ様に引き込む。騒がれる前に勿論トドメを刺す。
「……これで5人ですね」
「看守が3人、警備兵が2人、上出来だ。……スティール」
「……よし、カット完了、OKです」
魔力鉄線の魔力のカットも完了したらしい、序でに無線起爆式のC4爆薬を仕掛け、俺達は続いて看守や公国兵の服を奪う、囚人服のままではすぐにバレてしまうだろうからだ。
「どうだ?サイズとか動きやすさは」
「囚人服より全然マシですよ、大丈夫です」
「俺も平気です」
「よし、行くか。ユーレクは警戒、スティールはドアを押さえておいてくれ」
着替えた看守の服の上からベルトを巻く、ハンドガンもタクティカルリロードしておいた。
警備兵や看守に紛れた俺達は、今度はドアの内側に死体を積んで、外から動かない様にする。
窓が無く内側から鍵をかけたら出られないので、死体を積んだらドアを閉め、死体がストッパーになってドアが開かないようにした。
工房に戻るまでが任務だ。
「……よし、戻るぞ」
2人は頷くとなるべく目立たない様に銃工房に戻る、敵である警備兵や看守に見つからないルートを選びながら、銃工房のドアの前に辿り着く。
ドアをノックすると、協力者の誰かが誰何する。
『……盾』
「弾」
『ブローニング』
「M2」
これは俺達が決めた合言葉だ、カチャンと鍵が空き、扉が中から開けられる。
「よう、レオンか」
扉を開けたのはレオンだった、彼は驚いた表情を浮かべだが、俺だと分かると安堵した様だ。
「何だあんたか……看守の制服だから驚いたよ」
「お前も盗むんだぞ、これ」
工房に入りながら言う、ペチェルスキーを始め何人か居なくなっているのは、看守を殺しに行ったか、他の囚人を纏めに行ったか……
恐らく、他の協力者の働きに期待するしかなさそうだ……そう思い、消費した弾薬を召喚してマガジンに装填し直した。
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「今日は飲みに行くか?」
「こんな収容所のある様なクソ田舎のどこに飲みに行くとこがあんだよ?」
2人の看守が並び歩きながら夜に飲む酒の話をしている、ここの看守はいつもこんな感じだ。
収容所は人目に付かない森の中などに建てられる事が多く、その多くは僻地である為、左遷の様な扱いをされる事が多い。
僻地手当が本国から付くので、給与は一般の公国兵よりも高いのだが、娯楽が無さすぎるのは苦痛という事で左遷扱いだった。
「それがな、囚人共が良いもの持っててさ」
「お?じゃあそれで今日は一杯やるか?」
「へへ、そうしようぜ」
話しながら通路を歩いていると、囚人の姿が見えた。
2人とも囚人だとすぐに分かったのは、彼が囚人に支給されている囚人衣を着ていたからだろう。
「おい、お前、そんなところで何をしている」
「30秒以内に戻れ、さも無いとこの場で処刑するぞ」
2人の囚人がサーベルを抜いて近づいて来る、が、ペチェルスキーは笑っていた。
「お2人に囚人の情報を……ゾンダーコマンドになりたくて……」
そう言って笑いながら頷くペチェルスキー、サーベルの間合いに入っても彼は全く動じる事は無く、これが訓練の賜物なのか、4度脱走を試みた肝の太さなのか。
「囚人が?どんな情報を持ってる?」
「それは……」
ペチェルスキーが動いた瞬間、既に看守の下顎にナイフが突き立てられていた。
アッパーカットの要領で顎の柔らかいところから2人、皮肉にも公国のエンブレムが入ったナイフを突き刺され、刃の先は脳まで届いていた。
「く……か……!」
「あまり囚人を舐めない方がいい、と言う事だ」
ナイフを突き立てそのまま物陰に引っ張り、看守達の服を脱がして自分が着込み、偽装する。もう1着も看守から服を奪い去り、死体は近くの木箱の中に突っ込んでおいた。
接触から片付け、撤収まで、5分とかからなかった。
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看守服に身を包んだペチェルスキーが帰って来た、戻ってきたのはすぐだった。
既に他の協力者も看守の殺害に成功しており、報告は合計で7人を殺した所だと言う。
それぞれ殺した看守から服を奪い、この部屋の中の協力者の3分の1が囚人服から看守の制服になりつつある。
「この調子でやってしまおう、あと12人だ」
看守達が見回りに来ない様に見張りながら最終調整、協力者達をスマホで撮影し、"伝授システム"を使って「リーダーシップ」と「最低限の銃の扱い方・撃ち方」を瞬時に彼らに与えていく。
「おぉ……」
「こいつは……」
身体の光と頭に流れるように染み込む知識や感覚に驚く協力者達をだが、光が落ち着くと彼らもニルトン・シャッフリル銃を手に取り出発時間までに少しでも慣れておこうと練習し始めた。
本当に便利だ、個人的には技能は時間を掛けて与えたいのだが、こう言う即戦力が欲しい時に本当に役に立つ。
そう思って次の計画に行動を移そうとした時、ドアがノックされた。
反射的にガンクリップからFNX-45を抜き、ドアに向ける。
「……旗」
『弾』
「ブローニング」
『M2』
協力者だ、鍵とドアを開けると、血塗れのレオン・フェルトヘンドラーが立っていた。
「レオン……!?」
「大丈夫、返り血だ……クソ」
血を拭う様に手で拭い、別の協力者が持って来てくれた布切れで血を拭う。
「どうしたんだ?」
「バレてはいないが始末するのに手間取ってな、太い血管切っちまったみたいで血が吹き出して来たんだ」
手には奪った看守服があるが、返り血が飛んで所々染みになっていた。
「まぁ、囚人服よりゃマシだろう、着とけ」
「あぁ……で、次は?」
囚人服から看守服に着替えるレオンにも"伝授"で、銃の使い方とスキルであるリーダーシップを授けると、レオンは次の動きを問い掛ける。
「看守達の始末は続行、3人出て、始末したらすぐに戻って来てくれ。他の奴は別の工房へ、俺も同行する」
「了解、フレスコ、ペンス、マイアス、行ってくれ」
「了解」
「了解」
ペチェルスキーはそういうと素早く協力者達に指示を出し、指名された彼らはそれに従って外に出て行く。
俺はその間に32挺、協力者達に与える"銃"を召喚した。
ニルトン・シャッフリフ銃に外見が似ており、経験の浅い彼らでも撃ちやすい銃。
召喚したのは"スプリングフィールド M1A"だ。
M14の民生モデルでセミオートマのライフル、20発の弾倉を備え、今回は手持ちの弾を考えて、訓練では禁止しているクリップを使いマガジンをジャングルスタイルにしている。
シルエットがニルトン・シャッフリル銃に似ているこの銃なら、彼らも扱い易いだろうと思ってM1Aにした。
「この弾薬をマガジンに詰めてくれ」
「これが光の矢の元か……」
「公国の銃とは違うがな」
弾薬を召喚し、そのマガジンに7.62×51mmNATO弾を詰め込んでいく。協力者達は"伝授"に寄って使い方を理解している為、これも彼らの手に任せた。
その間に、今度は俺達3人の銃を召喚する。
門へ向かってもらう逃走部隊の護衛をするスティールとユーレクは移動距離が長く、入り組んだ収容所を進む為、短く取り回しが良く、光学照準器が標準装備されているもの。
選んだのは、そのシルエットから"おさかな"と呼ばれるH&K XM8。その中でも"こざかな"と親しまれているコンパクト・カービンモデルだ。
「本当に魚みたいな形してるんすね……」
「使い方は分かるよな?」
「ええ、もちろん」
スティールとユーレクにライフルを手渡す、サプレッサーは付いていないので、最後に暴れてもらう用のものだ。
彼らもマガジンをジャングルスタイルにし、召喚した5.56×45mmNATO弾を詰め込んでいく。
俺は丘の方へと逃げる部隊に付く為、XM8だが別の銃を召喚した。
20インチの精密バレル、ベースライン・カービンをそのまま長くしたような、XM8"シャープシューター"だ。
そしてマガジンとバレルは6.8×43mmSPC弾仕様、丘の向こうへ逃げる際の長距離射撃も可能となる。
こちらもジャングルスタイルにしたマガジンに6.8×43mmSPC弾を詰め込み、装填完了だ。
レオンが着替え、装填の終えた銃を別の囚人から受け取ると、俺達は銃工房を出て見つからないように、少しずつ移動する。
俺はXM8シャープシューターをスリングで担ぎ、FNX-45を構えてペチェルスキーと共に先導。食堂を通過してすぐにある、銃以外の武器や装備の工房へと辿り着く。
ペチェルスキーにハンドサイン、"ドアを開けろ"。恐らく中には看守と警備兵がいるので、それを始末する為だ。
指でカウント、ペチェルスキーがドアを開けると共に目の前にいた警備兵をヘッドショットで射殺。
突入しながらその奥にいる警備兵にも2発撃ち込んで黙らせ、室内へ突入して看守にも2発撃ち込んだ。
減音器との驚異的な愛称を持つ.45ACPは亜音速で銃口を飛び出して銃声を低く抑え、看守の喉と頭を撃ち抜いた。
倒れた看守の頭は吹き飛んで脳のカケラが溢れ落ち、床にバタンと倒れる。
見渡すが、他に看守や警備兵は居ない。看守はこれで9人目を殺した事になる。
「……クリア」
警戒をしながらペチェルスキーをハンドサインで呼ぶ、ペチェルスキーが入ると、囚人服ではなく看守服の彼に中の囚人は皆驚いた。
「サーシャ!?」
「サーシャさん、どうしたんですか!?看守服なんて……」
"サーシャ"はペチェルスキーのあだ名だ、囚人達の反応を見るに、ペチェルスキーは協力者達だけでなく、他の囚人達の間でもリーダー的存在だった様だ。
「いいか皆、落ち着いて聞いてほしい。俺達は今から、お前達全員を連れてこの収容所を脱出する」
ざわっと囚人達が騒めくが、ペチェルスキーの話を先に聞く為か直ぐに収まる。
「先に協力者達がいる、銃を持ってる奴らだ。そいつらを班長とし、1人の班長に10人が付け。1班10人の班を結成するんだ。いいな?」
「は、はいっ!」
「分かりましたっ!」
ぞろぞろと作業の手を止め、M14を持った班長へと10人がまとまって着く。その辺りの統率の取れた動きも、ペチェルスキーのリーダーシップの賜物だろうか。
陽気で人心掌握を得意とする彼は、確かにリーダー向きかもしれない。
「遅くなりました」
看守を殺しに行った協力者3名が帰って来た、彼らも看守の服を身に付け、ところどころ返り血が付いているものの無事な様だ。
「何人殺った?」
「全員1人ずつです」
別の協力者からM1Aを受け取りながら答える、これで12人の看守を殺した事になる。
「半分以上殺したな、上出来だ」
ペチェルスキーがそう言って頷く、これで脱走の準備はほとんど整った。
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「そろそろ交代の時間か?」
「けど、レーマンとクランクが戻って来てないぞ?」
司令部にいる公国の警備兵が、先程制御室に向かった警備兵が戻ってこない事に気付く。
かなり時間が経っているのに戻ってこないと言うことは、腹を壊したか何かかと思っていた。
「確認しにいくか」
「あぁ」
広告では警備は2人1組で行う事が前提であり、2人の警備兵が連れ立って巡回に向かう。
酒の話、家族の話、そんな話をしながらいつも通りに歩いている時、ふと1つの建物の中に、人影の様な物が見えた。
遠目から座り込んでいる様にも見え、体調不良かと駆け寄る。よく見れば服も下着だけで、蒸し暑さに抜いだのだろうか。
「おい、大丈夫か?」
警備兵が肩を揺らし、帽子を取ると__そこに居たのは、ナイフを頭に突き刺され、血を流して目を見開いたまま死んでいる警備兵の姿だった。
「うぉっ……!」
目の前の死体に混乱した警備兵達だったが、練度の高さ故か、直ぐに立ち直る。
「は、反乱だ!」
「看守達を!」
警備兵は慌てて走り、司令部に駆け戻った。
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《警報!警報!囚人どもの反乱だ!》
メガホンを使い司令部の方からそんな声が聞こえる、どうやら死体がバレた様だ。
「やばいぞ……!」
レオンが焦った様な声を上げる、しかしもう止まれない。
「遅かれ早かれバレたんだ、もうやるしかない!」
俺はそう言いながらXM8のコッキングレバーを引き、初弾を装填。
ここまで来たのだから、俺達は止まる訳にはいかない。
ペチェルスキーは皆の前に立ち、M1Aを掲げて大きな声で叫ぶ。
「これから俺達は、ここに来てから味わう事の出来なかった自由を手に入れる!だがまだ早いぞ、全員生き残っての自由だ!班長にくっ付いて逃げれば、絶対に手に入る!混乱せず、自分達が付いて行くべき奴から絶対に離れるな!そうすれば絶対に勝ち取れる!行くぞ!!!」
ペチェルスキーの演説の様な叫びに囚人が呼応して雄叫びを上げる、皆やる気満々だ。
「ペチェルスキー、レオン、スティール、ユーレク。12班引き連れて正門へ、俺は20班預かって丘へ向かう!」
「了解!」
「了解!あとで会いましょう!」
「色々聞かせてくれよな!!」
「分かった!行け!」
号令一下、班長達は、自分が指示された方向へと走り出す。
手筈としては、正門組12班、120人は正門から伸びる道沿いに待機しているガーディアンの車両部隊と合流、回収される。
車両部隊は脱出を援護しつつ囚人を回収し、クァラ・イ・ジャンギー要塞へと戻る。
俺は20班、200人を率いて壁をぶち破り、丘の向こうへと逃げる。丘の向こうはLZとなっており、ヘリ部隊が待機しているはずだ。
周辺の部隊が脱出を援護してくれる。
俺は外に出ると、これまた召喚した信号弾を空に撃ち上げた。
これが外にいる、エリス達への合図。
外に出るには、監視塔をクリアしなければならない。
ではどうするかって?
監視塔の射角に入る前に建物に隠れて停止、後続の20班も停止させて、AT-4CSを2本召喚する。
安全ピンを抜き、照準器を展開。コッキングレバーを発射位置に動かして、ストックを展開し、スリングをグリップが割にして握る。
カッティングパイの要領でバックブラストエリアをクリアし、そのまま飛び出して監視塔に照準、トリガーを押した。
ドン!!
バックブラストが盛大に吹き出し、84mmの対戦車榴弾が監視塔を吹き飛ばした。
この感覚、緊張感、久しぶりだ。
撃ち終わったAT-4CSのランチャーを捨て、同じ様にもう1本のAT-4CSを発射可能状態にする。
同じようにクリアリングして飛び出し、もう片方の監視塔も吹き飛ばした。
「クリア!行け行け行け!斧を持ってる奴は魔力鉄線を切り倒せ!!」
「任せろ!うぉぉぉ!!」
手斧を拝借した囚人が魔力鉄線を切り倒しに掛かる、鉄線に魔力は流れていない。しかし回復する前にやらなければならない。
ガツンガツンと何度も魔力鉄線の支柱に斧を振り下ろす間、俺はXM8シャープシューターを構えて援護の姿勢に入る。
バキバキと根元から支柱が倒され目の前にはレンガを積み上げられた壁が聳える、今度は俺の番だ。
予め用意しておいたC4を壁に複数設置する、これも無線起爆式で、周波数は制御室に仕掛けられたものと同じだ。
「壁から離れろ!行くぞ!」
俺は壁から十分に皆が退避した事を確認すると自分も安全圏まで退避し、起爆デバイスを起動させた。