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第150話 脱走計画

第3者視点


エリス達"ブラックナイト"が降下し、森の中に監視地点を設置。

収容所内の動きを監視するものの、全く動きがないまま4日______


「エリスさん、少し寝た方が良いですよ」


FN Mk.13EGLMを取り付けたM4A1を携えたアイリーンが心配そうにエリスに声を掛ける。

収容所をじっと見つめるエリスの目の下には、大きな隈が出来ていた。


「いや……私が見る、ヒロト達がいつ動くか分からないからな」


そう、エリスはそんな事を言いながら、展開してから4日間、1度も寝ていない。


「私が見る、皆は休んでてくれ」


「エリス様」


見兼ねたエイミーがエリスを呼び、エリスが振り向いた瞬間にエリスの口に糧食のチョコバーを咥えさせる。


エリスは何かを言う前に咥えさせられたチョコバーを咥えたまま、驚いたように目を見開く。


「エリス様は少し寝て下さいませ、働き過ぎですし、いざと脱出となった時、ヒロトさんをお救いする為に戦えませんわ」


エイミーは従者らしく、人差し指を立てて叱る様にそう言う。エリスはむぅ、と不満気に、しかし納得する様に軽く眉を寄せてチョコバーをモグモグと咀嚼する。


チョコバーを食べ終えると、エリスは軽く頷いた。


「……確かに、そうだな……私が倒れてしまっては元も子もない。ありがとうエイミー」


「時には主人の間違いを正す事も、従者の務めです故」


そう言うとエイミーは膝射(ニーリング)の姿勢のまま頷く、エリスと言う元貴族の娘の従者のその姿勢は、跪いているようにも見えた。


「では、私は暫く休む。監視の方は頼んだ」


「お任せを」


エイミーは双眼鏡軽く持ち上げ、エリスと監視をバトンタッチした。


「こちらブラックナイト1、定時報告、現在時刻0600、収容所に動き無し。繰り返す、こちらブラックナイト1、定時報告……」


エイミーが無線で定時報告をしているのをエリスは背中で聞きながら、設営したシェルターの中に入る。

シェルターと言っては防弾性は無く、雨を防ぐ簡易的なテントが張られているだけだが、入念に擬装されている為かなり近付いても茂みにしか見えない。


「あ、エリス様、おはようございます……って、隈が酷いですね……」


テントの中にはクレイが居た、交代なのだろうか、いつもの赤いマフラーを巻いているところだった。


「あぁ、寝てないからな……」


「えっ?ダメですよちゃんと寝ないと、私達の隊長なんですから」


のそのそとシェルターから這い出てくるクレイが叱る様にそう言う、心配を掛けてしまったと言う思いからか、エリスは軽く首の後ろに手をやる。


「暫くは私達が監視をしますんで、起きるまでは寝てて下さいね?」


「ん……すまない、分かった」


交代でシェルターに入り、M4を置いて横になる。地面の感覚が背中に当たるが、さほど気にはならなかった。

被っていたブーニーハットをアイマスク代わりに目深に被る、疲れからか、ゆっくりと身体から力が抜けていくのが分かった。


エリスはここ数年で、最も深く、気を失う様に眠りに入った。


================================


収容所内 ヒロト視点


ココでは基本、収容者を人として扱わない。

看守共は収容者の人としての尊厳を踏み躙り、嘲笑し、時に殺していく。


2日ほど前にも脱獄を企てた者がいたが、見せしめとばかりに公開処刑された。

死体は公国兵によって無残に引き裂かれ、過酷な任務と引き換えに自らの延命を希望する者で結成されたゾンダーコマンドと呼ばれる特殊部隊が片付けた。


処刑施設が改修の為に閉鎖され、計画的な処刑がストップしている今、この収容所の収容者全体がゾンダーコマンドと化している。


ここの看守たちは楽なものだ、死体の後片付けなどの重労働をゾンダーコマンドに任せ、自分達は悠々とコーヒーを楽しんでいる。


時折脱走者や違反者を処刑する為の銃殺役を囚人に任せ、囚人が囚人を殺す様子をどこか楽しんで見ていた。


朝4時に起き、王国兵やレジスタンス達を殺す為の武器を作らされ、時折囚人を処刑しながら、少ない食事で夜中まで労働させられる。


こんな事を1週間続ければ、目の下に隈が出来、頬はこけて目付きも悪くなるに決まっている。

目付きの悪さを理由に何度か処刑されそうになり、その度に腹を括って何の準備も無いまま脱走しなければならなくなるかと思った。


幸いにしてここまで生き延びる事は出来たが、実はかなり応えている、自主的に寝る前に密かに筋力トレーニングを行い筋力は何とか保持しているものの、持久力は落ちた気がする。


「おい、シエラ、エコー」


皆が寝静まる夜、ベッドの隣に寝ているストルッカとユーレクを呼ぶ。

偽名を長く使うと侵食される、それを防ぐ為に互いを呼ぶ時は実名のイニシャルをフォネティックコードで呼んでいる。


「シエラ」


「エコー」


2人はまだ起きていたようだ、俺は周りに聞こえないように彼らに無音声で話しかける。


「明日警備の隙をついて端末を手に入れる」


「行けますか?」


「時間は割り出した、行けるはずだ」


「了解」


それだけ報告すると、以上、と言って眠りに入った。



翌日も変わらない、早朝に起床し、僅かな食事と共に銃を作る作業を延々と繰り返す。

しかし、今日はいつもと少しだけ違った、新しい捕虜が放り込まれてきたのだ。


俺達と同じ囚人服を着たその男は、隣に座ると、陰鬱な他の収容者と違い豪快に笑い出す。


「俺はアレクサンダー・ペチェルスキー、よろしくな」


もみあげと顎髭が繋がっているハーフエルフの男はそう言って握手を差し出す。俺は勢いに驚いたが、その手を取った。


「ニコラウスだ、ニコラウス・ギュンマー。よろしく」


「今日からここに放り込まれた、その前はバスティーユにも居た」


バスティーユ、その単語に俺はすこしはんのうした。


「ずっと囚人なのか?」


「あぁ、元々公国の軍人で、銃を扱う部隊の指揮官をしていた。階級は大尉」


「……公国の理念は知ってるだろ?」


「あぁ、もちろん」


俺が気になったのは"ハーフエルフのペチェルスキーが何故公国軍に"という事だ。

公国の理念は"人種族だけの国を作る"だ、その為に獣人やエルフなどの妖精種、ラミアやケンタウロスなどの魔人種族などの亜人は徹底的に排斥されている。


「公国は兵力不足だった、俺は傭兵だったから、まずは軍備が整うまでの教官役として傭兵を人種問わず集めまくってたんだな」


「で、用済みでポイ、か」


「そうそうそゆこと」


ペチェルスキーがそう苦笑しながら肩を竦める、対公国のパルチザンが増える訳だ。目的は大いに結構だが、手段を選ばないその強引さに公国内に反感を買う奴も恐らくいるだろう。


ペチェルスキーはそう言った後に真面目な表情を浮かべて、キョロキョロと周りを見回す。

どうやら看守や兵士を警戒している様で、聞かれていない事を確認すると耳を貸せとジェスチャーして来た。


「……実はな、俺はどこでも脱走を計画して来た、バスティーユでもシュルグラーヌでもな。だが全て失敗してる」


「お前それでよく処刑されなかったな……」


「生まれつき運はいい方なんだ……こんな腐った空気に窒息死させられるつもりは無い、ソヴィボルに来てもそれは変わらん、いつか必ず脱走してやる、失敗してもな」


「……」


なるほど、こいつは"使える"かもしれない。


俺は頭の中で計画を立てつつ、何も聞かなかったかの様に苦笑する。


「聞かれたら処刑されても文句は言えんな……まぁいいや、取り敢えず、コレは教えてやるよ」


「野戦分解はやった事あるが、製造は初めてだな……」


そう言ってペチェルスキーは銃のパーツを手にする、魔力を圧縮する特徴的な形のボルトだ。


俺は彼に銃の組み立てを教えながら脱出計画を練る、その前に、必要な物を確保しなければならなかった。




その日、深夜。


皆が寝静まり、警備が手薄になった時間帯。

俺はこの収容所に来てから、警備兵や看守の巡回や交替の時間を調べ尽くしていた。


今の俺なら1人で抜け出せる自信があるが、1人だけ抜け出す訳にはいかない。

「全員連れて脱出する」、その目的を果たす為には準備が必要だ。


収容所全体が寝静まる深夜、俺はすし詰めのベッドからこっそりと抜け出す。


足音を立てないようにゆっくりと、宿舎の中を歩いて外へ向かう。

宿舎の出口は2つあるが、出口が監視塔から死角になっている方から出て建物の陰を歩く。


監視塔の位置を確かめ、見られていない事を確かめながらゆっくりと壁際を進む。

死角になっている建物と建物の間に身を隠し、周辺を警戒する。


この通りの向こうには、ここへ来た時に説明された魔力鉄線、触れれば即死レベルの雷魔術と炎魔術が身体に流れる事になる。


よく考えてみれば、この仕組みも銃と同じ「機械と魔術の融合」だ。

銃やこの装置の様に「機械と魔術の融合」は、おそらく人種族だけを国を作ると言う目的を早期に達成させるためだろう。


恐らくこれらの技術は、転生者が持ち込んだものだろう。

転生者が持ち込んだ技術によって、こちらの世界では戦争が2〜300年進化しようとしている。


この世界に俺や、その他の地球からの転生者がやって来た以上戦争が進化するのは致し方ない事、人種族だけの国を作ろうというのも大いに結構だ。

止めなければならないのは、王国の主権を侵害する様な公国の強引な領土拡大と、多種族への弾圧やこの収容所の様な虐殺を繰り返す事だ。


俺はポケットからある物を取り出す。作戦開始前に飲み込んでおいた発振器だ。

これを取り出す時は最悪で大変だった、何しろ排泄物の中を掻き回して探したのだから。出来ればもう2度とやりたくない。


俺はその発振器の機能がまだ生きている事を祈りつつ、力を入れてそれをパキッと折った。


================================


エリス視点


ずいぶん長く眠っていたらしい、寝過ぎて身体が少し重く感じる。

手を伸ばすが、そこに私の愛しい人の温もりはない、それもそのはずだ。今は作戦中であり、彼は捕虜となって収容所に潜伏しているのだ。


「はんっ……!」


背中にグイッと力を入れてシェルターの中で伸びをする、背骨がポキポキと鳴り、私の身長が少し伸びた気がする。


力を抜き、今何時だろうと腕時計を見る。時刻は時針と分針が2と3の間に収まる頃だが、私が最後に見た日付と異なる。


自分の目を疑った、シェルターから出ると外は真っ暗で、虫の声がそこかしこで聞こえていた。


自分のM4を手に観測地点に向かう、エイミーが暗視装置で端末を見ているところだった。

草木を踏みしめる音で気付いたのか、エイミーが顔を上げた。


「エリス様、お休みになられましたでしょうか?」


「あぁ……すまない、任せてしまってずっと寝ていて……」


「いえいえ、私も休ませてもらいましたから」


エイミーが恐らく、外れた私以外でローテーションを組んでくれたのだろう、作戦中だし申し訳なく思う。


「すまなかった」


「いいんですって、エリスさんが睡眠不足で倒れちゃったら、私達の戦力も大幅低下ですよ?」


そう言って肩を叩いたのはアイリーンだ、彼女達の協力があって、私が休めたのはありがたいのと同時に、申し訳なくも思う。


「ありがとう、今日から私も交代に入ろう」


「お願いします、じゃ、私はそろそろ急速に入りますね」


「あぁ、おやすみ」


シェルターに入っていくアイリーンを見送り、私も監視に着く。


ブーニーハットを被ってヘルメットから外した暗視装置を手に、夜の平原を見回す。


うっすらと見えるあの壁の向こう……あの向こうにヒロトが……

そう思った瞬間、エイミーが声を上げた。


「エリス様」


彼女が無音声で私を呼ぶ、彼女の手には端末、何か問題が起きたのだろうかと近寄る。


「ヒロトさんから発振器のデータが来ました!」


「!?」


エイミーが画面を見せる、彼が作戦前に飲み込んでいた発振器が作動している様子がその画面に映り、彼の位置が示されていた。


「良かった……よし、手筈通りだ」


「もちろん」


作戦計画に従い行動に移す、バックパックから分割して来たパーツを組み上げる。静粛性を重視した、クアッドコプタータイプの無人機(ドローン)だ。


「私が操縦する」


「良いんですか?」


「あぁ、これを届けるのは私だ」


そう言ってドローンのペイロードベイに載せたのは、ヒロトが装備を召喚する時に使う個人携行情報端末(スマートフォン)だ。


「行け……!」


ドローンの電源を入れ、バックパックからコントローラーを取り出して離陸させる。

思ったよりも静かな羽音を夜の闇に溶け込ませ、ドローンは収容所方面に飛んでいく。


コントローラーを操作しながら画面を暗視モードに切り替える。

ドローンに積まれたカメラを通した夜の光景が、緑色の風景に変わる。


収容所の監視塔に引っかからない様に、壁に衝突しない様に慎重に操作する。

壁を超えてセンサーが示す方へ慎重に飛ぶ、周辺を走査する様にカメラで見回すと、1週間ぶりに見えた彼の姿がそこにあった。


カメラ越しではなく、直接この目でヒロトを見たい、この手でヒロトに触れたい。

そんな想いを、今はそっと抑えて画面を見つめた。

久し振りに見た画面の向こうの彼は、見慣れた笑みを浮かべていた。


ドローンの映像が揺れ、カメラに端末を受け取った彼が映し出されると、ドローンを上昇させてこちらに引き返させる。


衝突する事もバレる事も無く、無事に彼に端末を渡す事が出来た事にまずホッとする。続いて彼が無事であった事にも安堵し、ドローンをここまで飛ばして戻って来た。


「お見事です、エリス様」


「……ふぅ、あぁ、ありがとう。バレずに済んで良かった」


ドローンの電源を落とした時、ユーティリティポーチの中で端末が震えた。

取り出して見ると、ヒロトからメールが入っていた。


"受け取った、ありがとう"


それだけのそっけない様に見えるメールだが、彼なりの気遣いだろう。

返信はしないほうがいい、通知音でバレる可能性がある。


私はそのメールを閉じると、そっとユーティリティポーチに端末を戻した。


================================


ヒロト視点


静かな羽音が近付いてくる、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな音だ。


やがてそれは俺の目の前で止まり、その場でぐるりと回頭してカメラを俺の方に向けた。

知らない奴が見たなら、エイリアンの様に見えて腰を抜かすだろう。だが俺はコレを知っている。クアッドコプタータイプの無人機(ドローン)だ。


発振器が壊れていなかった事に安堵し、ペイロードベイに乗せられていた物を取り出す。

俺の準備する物である、召喚用のスマートフォンだ。


受け取った事を示すとドローンは静かに上昇していき、収容所から去っていく。

俺はスマートフォンを素早くポケットに入れて、来た道を戻って宿舎に戻る。

狭いベッドに入って薄い毛布を被り、中でスマートフォンを取り出して電源を入れた。


アプリを起動してメールを呼び出し、エリス宛にメールを送る。


"受け取った、ありがとう"


それだけ打って送信、響かない様に全ての通知を切ってスマートフォンを仕舞った。


================================


翌朝


何事もなかったかの様に朝礼に参加、朝飯を食べて稼業を始める。


今日はスティールやユーレクと分かれ、クロスボウ作りに振り分けられた。

魔石を使わないクロスボウは銃と並行して生産が進められ、公国は王国よりも太い矢を採用する事で威力を上げるなどの工夫がされている。


俺は作業場を見回すと、ペチェルスキーとレオンが同じ作業場にいた。


「よう」


「あぁ、ニコラウスか。お前もこっちだったんだな」


2人の隣に座り、パーツを拾ってクロスボウを組み立て始める。


「今日はな、ジェフとモーリスは今日は銃工房だ」


「時折移動になるよな、人手が足りないのか」


「クロスボウの工房に居た3人、脱走しようとして処刑されたんだとさ、それで空きが出てこっちって事じゃないか?」


「あぁ、そういう事か」


レオンの更に隣に座るペチェルスキーがそう言ってそう言って顔を覗かせる。


なるほどな、そういう事なら3人だけがこちらに来たのも納得がいく。


俺は彼らと話しながらクロスボウを組み立て、考えを巡らせる。

ここ数日の彼らの動きを見て、彼らがゾンダーコマンドとして看守達と繋がっている様子も見られなかった。

レオンとペチェルスキーは信用出来る、そう思った。

しかもペチェルスキーの方は元公国兵のハーフエルフ、銃の扱いにも長けており、撤退の為に手伝ってくれる可能性もある。


彼らなら、駒として使えそうだ。

もちろん駒だからと言って、簡単には切り捨てるつもりは無いが……


俺は今日の夜、レオンとペチェルスキーに話を持ちかけてみる事にした。



================================



いつもの15分だけの自由時間、俺はジェフとモーリス___ユーレクとスティールと共に、レオンとペチェルスキーを呼んだ。

建物の陰、周囲に看守や兵士がいない事を確認して、聞かれないように話し出す。


「俺達は、この収容所を脱走する」


俺がそう言うと、レオンとペチェルスキーの2人は驚いた表情を浮かべる。

が、ペチェルスキーの方はニヤリと楽しみな事があるかのように笑う。


「良いぜ、協力する。もう4回失敗してるが、次こそはな」


一方、レオンの方は不安げな表情を浮かべた。


「けど、厳しくないか?看守が20人、兵士は100人越え、施設の四隅には監視塔で周りは壁と魔力鉄線だぞ?」


「大丈夫だ、計画は立ててある」


完璧とは言えないが、この作戦なら成功率も高いだろう。


「……なら、俺も協力する。こんな生活もう懲り懲りだ」


レオンも好反応だ、2人とは協力出来る。


「だがな」


俺はそこで言葉を切り、再び話し出す。


「俺らだけじゃ不公平だ、そう思わないか?」


俺のその言葉に、2人は今度は首を傾げた。


「全員連れて行く、壁をぶち壊し柵を切り倒し、全員で脱走するんだ」


2人の表情がコロコロと変わり、ペチェルスキーは更にクスクスと声を抑えて笑い出す。


「全員を、か?」


「あぁ、ここの収容者は323人だった。全員連れて行けるぞ」


「面白え、計画を聞かせて貰おうか」


1番に乗ったのはペチェルスキー、脱走経験があるからだろうか度胸がある。

レオンの方は初の脱走の試みからか、不安があるようだ。

しかし、振り解く様に頷き、手を差し出す。


「分かった、その話乗った。絶対に脱走してみせる」


俺はレオンのその手を強く握り、握手を交わす。交渉成立だ。


「よし、じゃあ計画第1弾だ、協力出来てリーダーシップがありそうな囚人を選ぶ、30人選んでくれればいい。囚人を10人ずつのグループにして逃げやすくする」


「30人だな」


「密告されたらどうする?」


レオンが不安そうに尋ねてくるが、俺は自信を持って答えた。


「密告される前に、密告者は消す。ゾンダーコマンドには絶対に伝えない、決行の日まで、その30人と俺達だけで計画を進めるぞ」


この脱走作戦を絶対に成功させるために、絶対に計画が漏れてはいけない。


レオンとペチェルスキーは、力強く頷いた。


ソヴィボル強制収容所の脱走作戦の計画が、内部の協力者の手により確実になった瞬間だった。

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