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第147話 Run&Gun

エリス視点


デートから帰って来た後、ヒロトと話し合って、この"ポーション"をどうにか実戦で使えないか考えて話し合った。


内容と効力は実戦で便利だから良い、問題は携行性だ。

ヒロトと出会って初めて教えてもらった"銃"を使った戦術、ヘリボーンや車輌を使った戦闘に、このポーションのガラス瓶が耐えられるとは到底思えない。


私が騎士団に居た時も、戦闘中の衝撃でポーションのガラス瓶が物入れの中で割れてしまうという事が良くあった。


もっと剛性の高い容器に入れなくてはならない、その為には……


私が訪れたのは、基地の一角にある事務所、ネームプレートには"評価試験隊"と書かれている。


「フランツ准尉はいるか?」


「はい、フランツです」


私はドアをノックしてから開け、フランツを呼ぶ。

ヒロトの持つ端末で呼び出す事が出来る、"召喚者"の1人。元々彼はヒロトの世界の"ロシア軍"という軍隊の所属らしかった。


「装備について相談があるんだが」


「装備?」


「あぁ、ポーションって言う、いわゆる回復アイテムだ。これをどうにかして容器を丈夫にして、戦闘中でも壊れずに持ち運び出来るようにしたい」


彼にポーションを手渡す、受け取った彼はそれを興味深そうに眺めた。


「……これは、飲むと回復するタイプですか?」


「あぁ、そうだ。1日7本分まで摂取出来る」


「なるほど……とすると、パックかペットボトルだな……」


フランツは顎に手を当てて容器の検討を始める。


「どれくらいで出来る?」


「容器の形状選定やメディカルポーチに入れられる個数の検討で、1週間ほどは」


「分かった、頼む」


私1人では知識も技術も足りな過ぎる、ヒロトの国の諺に「餅は餅屋」と言う物があるらしい。

私はポーションを装備の技術研究開発が得意な評価試験隊に提供し、彼らに製造を任せる事にした。


================================


ヒロト視点



ガーディアン本部基地から1.6km南東、街から離れた方には、ガーディアンの飛行場が存在する。


その入り口はM4を手にした基地警備隊とその銃座によって厳重に警備されている、ブローニングM2重機関銃に対戦車ロケットまで装備された銃座の前には、戦車(チャリオット)の攻撃やトロールの突進も止める事が可能だ。


基地の外周を取り囲むようにそんな銃座が点在しており、2個中隊500人のフル武装の兵士が交代制で警備を行なっている。


ついこの間までここに存在するのはC-130戦術輸送機が2機だけだったが、ここ数日で飛行場が急激に賑やかになった為に飛行場の拡大を行った。


具体的には、滑走路を2300mまで延長、駐機場(エプロン)の拡大、格納庫(ハンガー)の増設、管制設備の充実、そして新たに召喚した航空機の運用能力の付与だ。


そして今、駐機場にはその新たに召喚した航空機達がエンジンをアイドルさせた状態で待機している。


F-4E"ファントムⅡ"がこの機体の名前だ。

正確にはF-4E 2020と言う、F-16に準ずるアビオニクスに改修されたタイプだ。


黒いレドームに制空迷彩を施されたこの機体を、ガーディアンでは4機配備されている。

垂直尾翼のマークは細い剣、レイピアだ。


『レイピア・リーダー、こちら管制塔。タキシングを許可する、滑走路へ移動せよ』


『了解、こちらレイピア1、Roger(了解)


俺はCOMTAC(コムタック) M3ヘッドセットを付け、管制塔と航空機の通信を聞きながら駐機場に立っていた。同じ場所には設立した飛行隊が所属する航空団長や、タキシングを開始したF-4Eの整備をした整備士など、航空機に関わる人達がその場にいる。


先程から耳に付けているヘッドセットからは、管制塔から戦闘機へ、戦闘機がその僚機への通信が絶え間なく聞こえてくる。


ようやくか、と俺は思う。

俺のレベルで召喚可能な"ジェット戦闘機"は現在、第3世代ジェット戦闘機までだ。

極一部の第4世代ジェット戦闘機としてミラージュ2000Cを召喚しようと思ったのだが、神はバランスを考えたのだろうか、端末が強制アップデートされて召喚可能リストの航空機から消されてしまった。


まぁ、それはいい。折角航空戦力が拡充されたんだ、ミラージュ2000Cはレベルを上げた次の機会にしよう。


そんなことを考えていると、4機のF-4Eが滑走路に入り、水平尾翼、垂直尾翼、補助翼の動作準備をし、最終離陸チェックを終えたところだ。


『こちら管制塔、滑走路クリア、離陸を許可する』


『レイピア1、滑走路クリア。テイクオフ』


『2、テイクオフ』


『3』


『4』


アフターバーナーを点火したF-4Eが1機ずつ、滑走路を走り始める。

凄まじい音を立てて目の前を通り過ぎ、フラップを下げたF-4Eが一定速度を超えると、パイロットは操縦桿を引いて前輪が浮き上がる。同じ様に加速するF-4Eが後に続き、あっという間に4機全機が空へ上がった。


「……これでガーディアンもようやく、空へと戦力を展開させる事が出来たな……」


離陸していったF-4Eを眺めながら俺はそう呟く。戦闘機が召喚出来た事により、制空、爆撃、近接航空支援など、空からの打撃を行える様になった。


そして、飛行場を整備出来た事により、新たな機種を運用可能になった。

飛行場の端の方の格納庫に眼を向けると、格納庫の中でMQ-1プレデターが整備されていた。


MQ-1プレデターに関しては、実は既に実戦投入されており、ミサイルを搭載したことはまだ無いが、エルスデンヌの森に展開中の狙撃小隊支援の為現地に展開している。


ガーディアンでは無人偵察機として、MQ-1プレデターを4機導入しており、それらが現在の航空偵察戦力になっている。

他にも様々な航空機が、空軍設立と滑走路召喚と同時に運用が開始された。


「これで我ら"空軍"も、ようやく攻撃能力を保有する事が出来ましたな」


そう言って語り掛けて来たのは、メイル・E・カーティス少将、空軍参謀総長だ。


ガーディアンは正確に言えば軍ではなく、"戦闘ギルド" "傭兵"に分類される為、大っぴらに軍という単語を使い難い。

これは俺も今まで戦力を"部隊"としていた為知らなかったのだが、ギルド組合に戦力拡充を通達した時、正規軍以外で軍を名乗るのを禁止する決まりはないが、有事の際の混乱を招く原因になりかねないので、あまり好ましくない、と受付嬢に渋い顔をされた。


なので"空軍"という1つの単語ではなく、"航空軍団"の略称を"空軍"とする事にし、区別する為、本部基地に戦力を置く部隊を"陸上軍団"の略で"陸軍"とし、指揮系統を統一。俺が一括で指揮を行い、その命令に従って両軍は動くという事になっている。


現状の航空戦力では空軍の規模は大きくない為、参謀総長の階級には少将を当てている。


「ここにも回転翼機を配備しないとな……」


「ええ、予算が下り次第、お願いしたいですね」


ここ"ガーディアン空軍基地"には、まだ回転翼機が存在せず、輸送機や偵察機のみが運用されている。

せっかく本部基地以外にも飛行場が出来たのだから、本部基地に駐留している回転翼機部隊の一部を空軍基地に移し、基地航空部隊の負担を軽減したいところだ。


「これから大変だろうが、空軍の方をよろしく頼む」


「えぇ、団長の御心のままに」


そう言って握手する俺とカーティス少将の頭上を、フィンガーチップ編隊を組んだF-4Eが空軍設立の祝賀飛行の様に飛び抜けていった。


================================


空軍の編成式を終えた俺が次に訪れたのは、本部、兵科事務室の下にある個人装具を保管しているロッカー室だ。


基地を拡張した事で収容人数が増えたロッカー室、ロッカーのサイズも一回り大きくなり、装備一式を2セット置くことも出来そうだ。


ロッカーの鍵を開けて扉を開けると、まず手に取ったのは自分のM4A1。5.56×45mmNATO弾を使うスタンダードなライフルである。


西の砂漠から帰ってきた時、銃身内部やボルト、薬室(チェンバー)などは自分で清掃し、砂を落として綺麗にした。

だが自分でも手が届かなかったり、手持ちの清掃装備では綺麗にしきれなかったりする部分もあり、そう言ったところは武器科に任せ、トリガーユニットの中に入り込んだ砂塵まで綺麗に落としてもらい、ガングリスを丁寧に塗り直して組み直してもらった。


因みにだが、現在ガーディアンで支給されているM4A1の全ては、ショートガスピストン方式からガス直噴(リュングマン)方式に戻されている。


理由は部隊が帰還しローテーションで銃の一斉クリーニングをした際、武器科から「僅かではあるものの、M4A1の強度低下が見受けられる」と検査結果の報告を受けたからだ。

調べてみると、原因は俺が少しでも作動信頼性を高めようと思いM4A1に組み込んだ、ショートストロークガスピストンキットだった。


これが従来のよりも強烈な反動(リコイル)を生み出し、剛性の低下を生んでいた。

元々ガス直噴(リュングマン)方式の穏やかな反動で動くM4等AR系のレシーバーは、強烈な反動を生み出すショートストロークガスピストン方式との相性が悪かったのだ。


「少しでも良かれと思って組み込んだ物が、逆効果だったとはね……」


そう呟きながら、マガジンに次々と5.56×45mmNATO弾を詰め込んでいく。


ガス直噴(リュングマン)方式は内部に発射ガスの残滓が溜まりやすい構造の為、定期的にクリーニングしなければ動作不良の原因になる。ベトナム戦争では同じ構造を持つM16A1が使われ、「新型の銃は自動クリーニングされる」との噂からクリーニングを怠る兵士が多く、動作不良が頻発した。


その為少しでも作動信頼性を上げようとガスピストンキットを組み込んだのだが、作動信頼性は上がっても銃本体にはあまり良くなかったらしい。


ガーディアンでは1つの任務や訓練を終えると、使った銃をクリーニングするように義務付けている。戦闘になった時、銃を確実に動作させる為だ。

これならガス直噴(リュングマン)方式でも、問題なく動作してくれるだろう。


徹底的なクリーニングのお陰で俺のM4は新品と変わらない輝きを放っている、これが可能なのも後方支援部隊のお陰だ。


M4の具合はほぼ完璧、ベルトは最初から身につけているし、次はプレートキャリアに手を伸ばす。


いつも使っているCRYE(クライ) PRECISION(プレシジョン) JPC2.0、背面はZip-on1.0が取り付けられ、実戦と同じ数のMk.13BTV-ELフラッシュバンを入れる。

右側カマーバンドのフラグポーチにはM67破片手榴弾を1つ、左カマーバンドにはAN/PRC-152無線機を入れ、アンテナは邪魔にならないようにケーブルを介して背面に仕込んでおく。


あとはヘッドセットだ、ヘルメットに取り付けているものとし同じCOMTAC(コムタック) M3ヘッドセットを着け、靴は戦闘用のMERRELL(メレル) MOAB-MID(モアブミッド)に履き替える。


プレートキャリアを身に付け、ポーチに弾倉を詰め込んでロッカーに鍵をかける。

その後俺は基地にあったランドローバーSOVを借り、基地から少し離れた演習場へ向かう。


演習場はベルム街の南に広がる荒野、15×25km四方の空間で、この演習場の隅に基地と飛行場がある形だ。

周囲は乗り越え防止の荊線が張られた高いフェンスで囲まれており、動く物を検知して録画する監視カメラで常時監視されている。


レムラス伯爵から「この荒野では農作物は育ち難い」として、飯喰い(コーマ)の首領の同意もあり購入した土地だ。


その演習場の一角に、20m程地面を掘り下げてある低地がある。"マッチエリア"と呼ばれる場所だ。

幅100m、奥行き500m程の場所には標的射撃訓練用のスチールプレートやマネキンが点在し、使用可能期間中はほぼ常に銃声が鳴り響いている。


そこへ到着すると、10人程が訓練を行っていた。


「よう、お疲れさん」


「お疲れ様です」


"観戦席"と呼ばれる防弾ガラスに囲まれた一角はセーフティエリアになっており、訓練に入った隊員がここからよく見える。


「どうだ?」


「みんな良くやってます、第2小隊のメンバーもクァラ・イ・ジャンギーの戦いを経験してCQBの訓練がしたいって参加してますが、最初よりかなりスムーズに撃てるようになりましたよ」


監督役として付き添っている第2小隊の小隊長、シュバルツ・ラインハルト大尉がそう言ってメンバーを見渡す。


「この中で1番速いのは?」


「クロウです、次いでジョンソンですね、この2人は僅差です」


「タイムと最高スコアは?」


「1分2秒23、スコアは59.35です」


「ほう、速いな」


「ヒロトさんが言うと、嫌味にしか聞こえませんよ……」


シュバルツがそう言って苦笑し肩を竦めると、集合しているメンバーから笑いが漏れる。


「ヒロトさん」


背後から俺を呼ぶ聞き慣れた声に振り向くと、立っていたのはクレイだ。

まだ残暑が厳しいと言うのに真っ赤なマフラーを巻いて、髪を切ったのか少し短い黒髪がそよ風に揺れている。


「クレイか、お疲れさん」


「ヒロトさんも、お疲れ様です」


彼女は大体いつもブラックバーンと一緒に居るため話す機会が少ないが、この間話した時は俺達が愛用するタクティカルギアメーカー、CRYE PRECISIONを「クレイ・プレシジョン」より「クライ・プレシジョン」に近い発音で読むと聞いて軽く落ち込んでいたのを思い出す。


「そう言えば今日は旦那は?」


「だっ、旦那って……!?ぶ、ブラックバーンはグライムズさんに負けられないって言って、筋トレに行ってます……」


クレイはぼんっと擬音が付きそうな勢いで顔を真っ赤にしてそう言う、照れ屋な彼女をエリスが揶揄うのも分かる気がする、反応が面白い。


「そっか、一緒じゃないのか。……今入ってるのは?」


「エイミーさんです」


射撃スタート位置に立ってアドミンロードを行っているエイミーの姿が見えた。

エイミーが今手にしているのはストックがタンカラーのMAGPUL(マグプル) MOEストックに換装されたCQB-R、M4の10.5インチ銃身の仕様だ。


Aimpoint(エイムポイント) MicroT-2ダットサイトをLARUE(ラルー) TACTICALのマウントに組み合わせて機関部上部(レシーバートップ)に載せ、レーザー照準器はLA5を、フォアグリップはTangodown(タンゴダウン) STUBBY ショートバトルグリップを、ライトはSurefire(シュアファイア) M300をそれぞれハンドガードの上部、下部、右側部に装備している。


セーフティエリアに置いてある弾薬から、5.56×45mmNATO弾仕様だろう。

そしてエリア内のガンラックには、紛失/盗難防止用の鍵がかけられたM249MINIMIが置かれている。


「エイミーがMINIMI以外を使うとは珍しいな」


「エイミー、セミオートでどれだけやれるか試したいそうです。さっきまでMINIMI撃ってましたから」


話している内に、エイミーは腰に下げたSafariland(サファリランド) 6378ALSホルスターからSurefire(シュアファイア) X300Uが取り付けられたP226を抜き、スライドを引いて初弾を装填、スライドを少し引いてプレスチェックするとスライドを戻す。

CQB-Rのマガジンを入れてチャージングハンドルを引き、アドミンロードの手順を完璧にこなしていく。


ピーッ、とブザーが鳴ると、エイミーは弾かれた様に走り出した。


今行なっている訓練は、"Run&Gun"というタクティカルシューティングの訓練をアレンジした物だ。

決められたコースを走り、その間に設置されている標的を、標的に書かれた数字の分だけ撃っていく。

タイムを競うのだが、標的を撃ち損じる毎に0.5秒プラス。ヘッドショット毎に0.1秒マイナスされ、タイムが短い方を競う


エイミーはそのコースを走り、撃ち、曲がる。

ライフルが弾切れになれば素早くホルスターからP226を抜き射撃、フランジブル弾がスチール製のターゲットプレートに金属音を立てて命中する。


撃ち終わって更に走り出し、次の標的に向かう途中にライフルに持ち替えてコンバットリロード、マガジンはその場に捨てて行く。


全ての標的を撃ちながらコースを1週し、計り終えた時のエイミーのタイムは52秒02、合計スコアは50.82だった。タイムを計り終えると、第2小隊の面々から「おおっ!」と言う歓声と拍手が上がる。


「やるなぁ、エイミー」


「ヒロトさん、お疲れ様です。久し振りにM4を扱いましたが、良いものです」


エイミーはセーフティに戻る前にライフルと拳銃のマガジンを抜いて薬室から弾薬を抜き、エリアに戻るとM4をガンラックに戻した。


「流石は第1、素早い動きと射撃、お見事です」


「繰り返し訓練する事で、タイムを縮める事が可能です。第2小隊も機械化で、市街地での戦闘を行う事が多くなると思うので、速射とクリアリングの訓練、是非お試し下さい」


褒める第2小隊にアドバイスするエイミー、エリス派の従者だった時の癖が抜けないのか、それとも彼女がそうあろうとしているのか、従者の様な振る舞いを見せる。


「ヒロトさんもどうぞ?」


「え、俺?」


エイミーにそう言われると、それにシュバルツが乗る。


「M4持って来たって事は、ヒロトさんもやるつもりだったんですよね?」


「いや、こんなに人がいるとは思わなくてな……」


居ても数人だと思っていたから、10人もいるとは思わず、見られている中でやるのは少し恥ずかしいが……これも隊長の役目だ。


5.56mm弾をマガジンに詰め込んでポーチに入れ、最初に装填するマガジンはポケットに放り込む。


セーフティエリアからマッチエリアに出て、スリングを首に掛ける。


ポケットから満タンになっているP226のマガジンを取り、スライドを引いて初弾を装填。一度マガジンを抜き装弾を確認し、スライドを少し引いて目視で薬室に初弾が入っているのを確認してホルスターに戻す。


もう1つのポケットからP-MAGを取り出しM4に差し込み、チャージングハンドルを引いて薬室に初弾を流し込む。

一度軽くチャージングハンドルを引いて薬室に弾薬が入っているのを確認するとハンドルを離し、軽くボルトフォワードアシストノブを押して完全にボルトを閉鎖、ダストカバーを閉じる。


初弾装填(アドミンロード)を完全に完了するとスタート位置に立ち、スタート位置にあるブザーのスイッチを押す。

スタートはスイッチを押して3秒後だ。


ピーッ!


ブザーの音と共に走り出す。

コースの左側には廃車のSUVが置かれ、それを通り過ぎてすぐに左側に3枚のターゲットか車の陰に隠れるように置かれており、走りながら2・3・4と書かれた数字と同じ数だけ引き金を引く。


ガンガンと肩にかかる衝撃を受け止め、標的を最後まで撃ち切ると、コースに沿って右に曲がり走り始める。

今度は右手側に廃車のSUV、その陰に4と書かれた標的に4発撃ち込み、更に正面の標的にダブルタップで2発を撃ち込んで直ぐにコースを曲がる。


次の曲がるポイントまでの直線右手に4・2・3と書かれた3枚のターゲット、これもその数だけ撃っていく。


それを撃ち終えた先のルート、左手のまた2と描かれたターゲットに2発を撃ち込む。


目標を切り替えて正面、20m程の距離にスチールターゲットが3枚、40度ほど右手前に2枚が並んでいる。

2発撃たないと倒れない様になっており、左から順に撃って行く。


2枚目を撃って倒れた時に、引き金の反応が無くなる。排莢口(エジェクションポート)を見るとホールドオープンしている、弾切れだ。


タイムロスを防ぐ為にリロードでは無く、スリングでM4を下ろして腰のホルスターからP226を抜き、ターゲットへの射撃を再開。6発で全てのターゲットを倒し、走って次の射撃点に向かうまでにP226をホルスターに戻してM4に持ち変え、空マガジンを捨ててベルトのFASTマグポーチからP-MAGを抜いて装填する。


左手にSUV、向こうに2が描かれたターゲットがあるが、一度立ち止まり伸脚に近い姿勢_____モディファイドプローンで射撃して2発を撃ち込んだ。


素早く立ち上がり、ボンネットの陰に隠れた標的にも3発撃ち込んだ直後、コースは右に90度曲がった。

目の前の小屋の入り口をカッティング・パイで走査し、入り口すぐに隠れる様に設置された2と書かれたターゲットの頭にダブルタップ。


素早くセーフティをかけてM4をスリングで下げ、ホルスターからP226を抜く。

小屋の中は暗く、P226のアンダーレールに取り付けられたSurefire(シュアファイア) X300Uを点灯させて小屋の中に突入。

すぐ左に伸びる通路に2が書かれた標的があり、ハンドガンでダブルタップ、標的の頭を撃ち小屋の中をクリアリングしていく。


通路を進み、別の通路に入ると3と書かれた標的を発見。P226の引き金を素早く引いて、撃った数だけ空薬莢が落ちる。


小屋の出口が見えると、出口から外の標的を探す。出てすぐ右、小屋の中からは死角になっている場所に2と書かれた標的を発見した。30mと拳銃の射撃では少し遠いが、外したらロスになる為慎重に狙って引き金をゆっくり引く。


2発撃って、2発とも当てたが、そのタイミングで弾切れになる。

次の射撃地点まで走りながらP226をリロード、空になったマガジンを捨てて同時進行で腰のマグポーチからマガジンを抜いてコンバットリロード、スライドリリースボタンを押してスライドリリース。


射撃地点に着くまでにリロード終わらせてホルスターにP226を戻し、スリングで下げていたM4に持ち替え、セレクターはセーフティからセミオートへ切り替えて標的に身体を向ける。

次の射撃は"22422"と呼ばれるもので、5m程先の3枚のマンターゲットがあるが、それぞれ30°程の角度で方向が違い、左から順に2発ずつ撃ち、右端のターゲットを撃ったらまた2発ずつ左端のターゲットに戻る様に撃つ。


素早く照準する為に胴体を狙って撃ち、フランジブル弾がスチール製のマンターゲットに命中してキーンと良い音を立てる。


最後のターゲットは射撃地点からスタート地点までの60mをダッシュし、スタート位置に立ってから22422の右側に立つ2と1がそれぞれ書かれた標的を狙撃する。

ダッシュで姿勢がブレ、呼吸で狙いが疎かになるが、ここで外すと失点になる。

EOTech(イオテック)553のレティクルを合わせて引き金をゆっくり絞り、まず2の方を慎重に狙いながら射撃。

金属音が2連続で聞こえ、最後に狙いをずらして1の方を射撃した。

1の方のマンターゲットはスイッチになっており、それを撃つとタイムが止まった。


呼吸を整えながら全ての銃から弾薬とマガジンを抜き、セーフティーエリアまで戻ってきた。


「さて、タイムは……」


「50.47、撃ち損じは無いのでプラスタイムは無いですが、ヘッドショットでマイナスタイム2.8、トータルで47.67です」


おおっ!と歓声が上がる、自分も調子よく行けたと思い、自己ベストに近いスコアが出た。


「やっぱり第1は違いますね!」


「そんな事は無い、エイミーも言ってた通り反復練習すれば、俺のタイムを越える事も出来る」


第1小隊は救出作戦や市街地戦、屋内での近接戦闘など特殊戦が得意な分野だが、だからと言って全員が全員これが得意という訳では無い。

小隊でも不得意の奴もいるし、クロウよりも遅い第1小隊のメンバーも実際に居る。


「そう言えば、ヒロトさんはどうしてここに?」


「あぁ、そうだった。空軍も設立したから、練習ついでに作戦伝達があって呼びに来たんだ。新しい作戦を伝達する、本部に戻ってきてほしい」


「了解、全員撤収ー!」


全員で落としたマガジンを拾い、使った銃や弾薬を戻す。


次に銃を使うのは訓練ではなく、敵と殺しあう"実戦"だ。


================================


本部基地 作戦室


「よし、皆集まったな、聞いてくれ」


俺は作戦室に主要部隊の隊長全員を集め、作戦を説明する。


「かねてよりレジスタンスの隊員達が捕縛され、収容されていた収容所がある。レジスタンスが西部方面隊となる直前の依頼で、収容されたレジスタンスを救出して欲しい、だそうだ」


スクリーンに衛星写真を出す、ヴェレットの街から国境を超えて5kmほど公国側に行った所と、国境から18kmほど公国側に行った所の2箇所に収容所がある。


「捕まったレジスタンスは主にこの2箇所に運ばれて収容されているようだ。無人偵察機と衛星からの画像にも、それが確認されている」


無人偵察機の映像では、レジスタンスと見られる兵士達が捕らえられ、建物の中に連れ込まれる様子がよく見える。


「先に行うのは"ソヴィボル"と言う近い方だ、国境から5kmほどだから車輌で収容者の搬出も可能だからな。人気もなく周りを森で囲まれた場所は収容所を作るのにうってつけだ」


周辺の地図は森で囲まれ、ソヴィボル収容所南側には丘が広がっているが、左右の森に伏兵が居ると見てほぼ間違いないだろう。


「収容者320人程のソヴィボル収容所では、公国に潜入したスパイの情報によると改修工事が始まる予定で、計画的な処刑は暫くストップされるらしい。そこでだ」


俺はそこで少し言葉を区切り、大きく息を吸って落ち着いた声色で言う。


「俺が収容所に潜入して内部から撹乱、脱走させる。お前らには俺が収容者を連れて無事脱走出来る様に援護してもらいたい」


隊員の殆どが俺の提案に驚きの声を上げる、当然だろう。

「将軍が収容所に捕虜として潜入し、内部で反乱を起こさせて脱走を企てる」など、聞いたことも無い。


「いくらなんでも危険過ぎます!」


「計画処刑がストップされているとは言え、殺されるリスクが高すぎる」


様々な声が上がるが皆を落ち着かせて、俺は皆に言い聞かすような声で静かに口を開く。


「当然危険な任務だ、だがな、俺は後方で指揮をして待つような事はしたくない。皆がやる危険な任務は、俺もやる」


「第1小隊にいる時点で既に任務は危険なんだよなぁ……」


「そこ、黙れ」


俺の声に反応した第2分隊のガレント・シュライクが呟くようにそう漏らすと、俺は笑いながら彼を指差し、作戦室の緊張感が少しだけ和らぐ。


「全く、ガレントの所為で緊張感が台無しだ」


笑いながらそう言うと、ガレントも分かってやっていたかの様に笑いながら親指を立てる。


「まぁいい、だからこの作戦は俺もやる。俺が無事に戻って来て、もう1つの収容所を解放したら俺は2週間休暇を貰う。捕虜になったらどうなるかは訓練でしか知らないから、わがままで済まないが回復の時間が欲しい。その上向こう1年は同じ様な任務はしないと約束しよう」


俺はこれから自ら飛び込んでいくであろう過酷な任務を想像してそう宣言する、彼らを安心させるためだ。

もちろん俺は潜入中は死なない様に最大限の注意を払い、努力する。エリスを残して俺はまだ死ねない。


「……しかしやはり危険です、私も一緒に連れて行って下さい」


「私も行く」


そう言って一緒に連れて行けと言ったのは第4分隊のスティール・ラインと、俺の副官であるエリスだ。

それを皮切りに俺も私もと立候補してくれる隊員が次々と立ち上がる、一緒に来てくれると言う心意気は嬉しい、だが……


「エリスはダメだ、収容所に捕まった女性がどうなるかなんて、俺でも分かる。お前にそんな事はさせられない。これは他の女性隊員にも言える事だ、女性は潜入に付いてくるな」


捕まえられた女性の対偶など、火を見るよりも明らかだ。労働力にならない女性は慰安婦にされて慰み者にされ、反応が無くなったら殺される。

ジャララバードでも見たし、クァラ・イ・ジャンギー要塞を攻略した第2小隊からも報告が上がって来ていた。

女性隊員の潜入作戦参加を禁止するのは、致し方ない判断だった。


「私も行きます」


次に立ち上がったのは第3分隊のストルッカ・スミスだ。

そう言ってくれるのは頼もしいが、作戦の概要を考えて却下した。


「お前の第3分隊は救出の要だ、救出した捕虜達を車輌に乗せてバイエライドFOBまで戻ってくるのを、第3分隊に任せたい」


「……分かりました」


ストルッカはそう言って渋々と言った感じで座る。

正直、潜入するのは1人の方がいいが、戦うとなると話は別だ。背中を預けて戦える人が欲しい。


「では、俺が」


立候補したのはユーレク・クライフス、第2分隊の副長で、戦闘能力はかなり高い。

俺は立候補したメンバーから、スティールとユーレクを指名した。


「よし、じゃあ解散しよう。作戦開始は4日後だ、それまで体調は万全に整えておけ。スティールとユーレクは残れ、以上解散」


そういうといつもの作戦会議終了後の様に、隊員達はそれぞれの持ち場に戻っていく。

残ったスティールとユーレクに、俺は語りかける。


「いいか、この作戦はこの中の誰かが死ぬことになるかもしれない、かなり危険な任務だ。それでも行くのか?」


「はい」


「行きます」


2人はほぼノータイムで返事をする、俺は再び、彼らの目を見て語りかける。


「本当に行くのか?降りるなら今だ、誰にも言わない、臆病と責める者も居ないぞ」


すると、今度はスティールがゆっくりと語り始める。


「ヒロトさん、私は貴方とエリス様を信じてここまで来ました。私達を信じて下さい」


彼の瞳には強い意志が宿っている、俺が見て分かるくらいだ。


「俺も、そろそろ対等に戦えると認めて欲しいものですね」


「認めてない訳じゃ無いんだが……」


ユーレクも苦笑混じりにそう言う、彼も心は同じらしい。


「……分かった、全員で生きて帰る。それだけは忘れるな」


「了解」


「了解」


俺は2人の肩を叩き、作戦室を出ると、入口の壁にエリスが背中を預けて立っていた。


「エリスか、どうした?」


「……2人の言葉を聞いてね、私も思ったよ」


エリスの言葉に首を傾げると、エリスは俺の頬に手を当てて目を見つめてくる。


「……心配だが、信じる。死ぬなよ、ヒロトにはまだやってもらわなければならない事、沢山あるからな」


「……あぁ、収容所なんぞで殺されるつもりは無い」


見つめるエリスの頭を撫で、そっと抱きしめた。


潜入まで後4日。

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