第146話 ベルム街デート
就活、資格試験、進級判定……忙しくて書く時間が取れませんね、ここ最近は。
日常回だと苦手なので更に筆が遅くなると言うね……この最近の遅筆を何とかしたい……
エルスデンヌの森で狙撃部隊が“死神”として鳴らしていた頃。
ベルム街、ガーディアン本部基地。
「ただいまー」
「おかえり」
俺達は久しぶりの“我が家”に帰って来て、束の間の休暇でゆっくりと身体を休めていた。
西の国境への民兵隊としての任務から早1ヶ月、夏のほとんどの時間をバイエライドで過ごしてきた俺達には、夏の終わりのベルム街の気温が涼しく感じられる。
「はあぁ~……疲れた」
基地に戻って来てから、王国からのクエスト達成や報酬受け取り等の“対外の仕事”と、武器弾薬の返納に戦力の整理、給与の配分や補給物資の召喚などの“対内の仕事”を、ずっと繰り返している。
「お疲れ様、どうだった?」
「歩兵部隊と航空部隊の調整はもう少しで終わりそうだ」
コンバットシャツとコンバットパンツを適当に脱いで洗濯機に放り込む。
タンスから引っ張り出した半ズボンジャージを履いて、上も半袖になる。
エリスも似た様な格好で、ラフな部屋着でソファに座っている。
「じゃあ、そろそろ歩兵も数が増えるな」
「あぁ、今まで歩兵の頭数が不足してるから、これで"中隊"が確保出来る」
俺は冷蔵庫から買い貯めて置いたコーラを取り出す。
今までの歩兵は2個小隊、僅かに80人程度しか歩兵がいなかったが、今度の戦力拡充で更に小隊を召喚する事になった。
これで上手くすれば歩兵部隊の戦力単位が"中隊"になり、3個歩兵小隊+火器小隊に中隊本部としてまとまった戦力運用が可能となる。
「航空部隊は?竜騎兵部隊じゃなくて、航空機なんだろう?」
ソファで横になっていたエリスが姿勢を起こし、俺は空いたソファのスペースに腰を下ろすとコーラのボトルを開けた。
プシュッと減音器を付けて銃を撃った時の様な音を立てて炭酸が抜け、コーラを喉に流し込むと、独特の甘みが口に広がり、炭酸の喉越しの良い感覚か通って胃に落ちていく。
はぁ……美味い。
「あぁ、もちろん"航空部隊"だ。念願のジェット戦闘機だぞ」
俺は既にエリスを始め、首脳部や一部の隊員に航空作戦の要となる"ジェット戦闘機"の動画を見せている。
俺が現時点で召喚可能な戦闘機は、殆どの第3世代ジェット戦闘機と、極々1部、初期の第4世代ジェット戦闘機だ。
考えている案では、任務に対応して複数の機体を採用予定だ。
「さぁ、これから忙しくなるぞ!」
言いながら俺はエリスの頭を撫でるが、エリスは不安そうな表情を浮かべる。
「けど……次の作戦、本当にやるのか?」
エリスが口にしたのは、次の作戦、公国の捕虜となり、収容所に送られたレジスタンス達の救出作戦だ。
作戦を立てた結果、「最も俺が死ぬ確率が高い」作戦となってしまった。
「……あぁ、誰かがやらなきゃいけない、その誰かが俺であるだけで、いつもと変わらん」
「けど、やっぱり危険だ。ヒロトが死んだら……」
俺もそう思う、もし俺が死んだら召喚した装備が消えてしまうかも分からないし、そうしたら残ったガーディアンは剣や弓などの前時代的な戦い方に戻ってしまう。
しかし、エリスが心配しているのはそうではなく、俺の身柄の心配だろう。
愛する人が危険な任務に従事する、考えただけで胸を掻き毟りたくなる程の不安を覚える。
多分、そう言うことなんだと思う。
言葉に詰まったエリスの肩に手を置き、フッと微笑みながら俺は言う。
「あぁ、かなり危険な任務になる事は分かってる……けどな、そんな危険な任務を仲間に任せて、自分は安全な場所にいるってのは、俺には出来ない」
「……」
エリスは俯いたまま黙ってしまう、この不安は、簡単に消えるものではないだろう。
「……条件」
「ん?」
「いくつか条件を設ける、ヒロトが作戦に参加する条件。まず1つ目」
エリスは人差し指を立て、条件を提示してくる。
「ヒロトは明日、休みだったな?」
「あぁ、まぁな」
「街で私とデートしろ」
人差し指を唇に押し付けられた俺は、少しどきりと心臓が跳ねた。
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と言うわけで、久し振りに街に出て来た。
もちろん丸腰ではない、バッグの中には拳銃が入っているし、無線機も携行している。
私服のエリスとベルム街を歩く、この街に繰り出したのは久し振りな気がして、これはこれでなんだか新鮮だ。
まだ残暑が続く日差しの中を、ブルーのワンピースに白のサマージャケットを着たエリスと、チノパンにシャツの俺、完全に美女と野獣だ。もちろん美女がエリスね。
「んで、どこ行くんだ?」
「決めてない」
エリスが隣を歩きながら俺の質問にそう答える、決めてないんかい、とツッコミを入れようとした時、エリスは続けて言った。
「それに、こうして決めずに街を見て回るのも、楽しくていいだろう?」
言われてみれば……と思って今までのデートを振り返る。忙しくてまともに出掛けられ無かった上に、出掛けても対してベルム街を散策するという事は無かった気がする。
「それもそうだな……」
「よし、決まり!行こうヒロト!」
エリスが差し出した右手に、頷いて左手を握る。
とは言ってもこう言ったデートの経験、あまりある訳では無い。
殆ど散歩の様な事になっているが、それでエリスはいいのだろうか、と思いエリスを見つめるが、エリスは不安を見透かしているかの様な微笑みを浮かべる。
……不安は杞憂だった様だ、ならばこのデート、楽しむとしよう。
街を歩いていたエリスが商店の1つで足を止めた、彼女の視線の先は、アクセサリーショップ。
「……良いもの見つけたか?」
「……これ、可愛い……」
エリスが見つけたのは、ペアのネックレス。角ばった男性用と、丸みを帯びた女性用。それぞれを組み合わせると、知恵の輪の様になるという洒落たものだった。
……そういえば、こういうアクセサリー系の物は買ったことがなかった、と思い、値段を見ると、小金貨5枚程の値段だった。
「……うん、買えるな」
「へ?……良いのか?」
「あぁ、俺はこういうの疎いし、買ってやれてなかったからな……プレゼントだ」
「ありがとう!嬉しい!」
そう喜んでくれるのは、俺も嬉しい。
そのネックレスを会計に持っていき、お金を支払うと値札を切ってもらい、その場で付ける事にした。
「ほら、後ろ向け」
「ん……」
店の外でエリスに後ろを向かせ、ネックレスを付ける。
チャラリ、と軽い金属音を立ててエリスの首にネックレスが巻かれる。彼女はい装飾品を好んで付ける様な柄では無いが、こうしてペアの物を付けていると、なんとなく嬉しさがある。
「……よし。これでオッケー」
「ありがとう、ヒロトのもやってやる」
エリスは俺の手からネックレスを取ると、そう言って抱きつく様に俺の首に腕を回した。
彼女の顔が近付くと心臓がどきりと跳ね、いつもの匂いが鼻をくすぐる。すぐにキス出来てしまいそうな程近い距離に唇があるし、首に当たるエリスの腕の柔らかさも伝わってくる。
カチリ、とネックレスを付けられるまで、そう長くは掛からなかった。
「ふふっ、ヒロトも似合ってるぞ」
「あぁ……ありがとう」
恋人だから出来るこの距離感と行為、同じ基地の仲間に、訳もなく優越感。
エリスとデートに行く度に同じ事を思っているような気もするが、そう思える事こそ、平和な日常の意味なのだろう。
新たなアクセサリーを2人で身につけてからまた街を歩き出す、ベルム街の規模は小さいが、商店街では必要なもののほとんどが揃うし、ギルド組合や武器屋、装具屋もある。
街を歩きながらふと思った事をエリスに尋ねてみる。
「武器屋と装具屋って違うのか?」
「あぁ、武器屋は剣や弓、槍とかの武器、兜や鎧とかの防具を扱ってる。一方で装具屋は腰に付ける矢筒や巾着……まぁ、ポーチだな。とか、その中身を扱ってる、後はロープとか魔石とか」
「ポーチの中身?」
「大体はポーションって回復アイテムだな、後は薬草とか。そう言えばガーディアンでは"ターニケット"や"IFAK"があるから、ポーションとか使った事は無いな……?」
「まぁ、治癒魔術が使える魔術師の衛生兵もいるしなぁ……」
とは言ったものの、ポーション、と聞いたその魔術道具、どう言うものだか気にはなる。
……いかん、頭が仕事モードになっちまう。
「ま、これは後でいいや。今はデート中だしな」
「うふふっ、いいんだぞ?私も見たいし……」
「それ本当か?」
くすくす笑いながら、変わった女の子だ、と思う。
普通の女の子なら、可愛い服やアクセサリーに夢中で、スキンシップが激しく、楽しい人を彼氏にするだろう。
だがエリスは元騎士、剣術の鍛錬を怠らず、戦いの世界に身を置いていた為恋愛とは縁遠かったのだろう。
戦いの為に身体を鍛え、その為の新しい技術を吸収するのが好きなのだ。
俺は自分の中の女の子に対する「普通」の意識を改めなければならない。
装具屋に入ると、エリスはポーションが並んでいるショーケースの前に進む。ガラスケースの中には赤や青、緑、紫と言った液体が入ったガラスの小瓶が並んでいる。
「これがポーション?」
「うん、色順にブルー・ポーション、レッド・ポーション。緑のはマジック・ポーションだ」
「色で機能が違うのか?」
「あぁ、ブルーは傷口の修復とかに使うのと、骨折の修復にも使える。主に外傷による体組織の修復だ」
「ふむ……」
ポーションはファンタジーアイテムにおけるエリクサー、回復薬の様な扱いか……
被弾した時もこれがあれば出血を抑えられるし、傷口も早く塞がり失血を抑えれるだろう。
「赤は喪失した血液の補充だ、イチゴ味だけど鉄臭くて飲みにくいんだ……」
「なるほど、飲む輸血か……」
「輸血?」
「あぁ、戦闘や事故、怪我で血が足りなくなった時、他人の血を貰って足すことだ。だが血液にもタイプがあってな、一致しないと血が固まったりしてヤバいんだ。けど、これならタイプを気にする事無くて良いな……」
これなら戦闘中に摂取する事で、失血による意識低下や生命維持の危険を回避する事が可能だ。即席の輸血だな……
「んで、この緑の奴は?」
「マジック・ポーション、桃の味がするんだ。魔力の回復用だな、魔術を使う魔術師の魔力回復の必須アイテムだ」
魔術はこの異世界に於いても大切な戦力だ、その魔力を戦闘中に回復出来れば、魔力に限りがある魔術師もかなり有効に立ち回る事が可能だ。
「で、最後にこの禍々しい紫色のがパープル・ポーション、これは毒消しだな」
最後のポーションは他のと違い濁っている上に、ガラスの小瓶に入っている液体の粘度がとても高い。
「毒を持った魔物や武器を使われた時にこれを使うと、瞬時に……とまではいかないが、かなり早く毒を抜く事が出来るんだ。身体に悪そうな甘さが特徴だけど……」
エリスは苦笑しながらパープル・ポーションを眺める、どれも重要な役割をする魔術薬だ、冒険者や傭兵にとって必需品なのだろう。
改めてここが異世界であるという事も実感出来た、とても良い収穫だ。
「ただ、これらは服用に限りがあってな……」
「ほう?限り?」
「あぁ、魔術薬だからな。1日で7本が限界だ、それ以上は中毒症状を起こす。昔の戦友に居たのは、これの摂りすぎで廃人になったり、吐血したりな。摂り過ぎなければ大丈夫だが……」
なるほど、薬だから使用に制限がある、ということか……例えばマジック・ポーションをハイドレーションにドバドバ入れて魔術師を戦わせながらこれを補給させると無限に戦えそうだが、そんな事をすればあっという間に中毒症状を起こすだろう。
「いくつか買って行くか?」
興味深く眺めていたのを見てエリスが問い掛けてくる、異世界を噛み締めるいい機会ではあるが、買ったこれを今日一日持ち歩くとなると不便な所だ。
「いや……後でまた寄ってみて、開いていたら買おう」
「了解、じゃあ、他のところも見ようか」
エリスはニコリと微笑み、手を繋いで外へ出る。
まだデートは始まったばかり、お互い手探り状態でデートを進めていく事になる。
とは言っても、そろそろ2人とも腹が減ってくる時間だ。
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ベルム街には4つ、外食をする場所がある。
1つは街の南側にある居酒屋、ここは昼に少し、本営業は夜からになる場所だ。
酒やつまみのメニューが豊富で、夜になると人は此処に集う。
2つ目は街の中心にある大衆食堂、ここはかなり広く、値段も安くてボリュームもある、ベルム街で働く大勢の職人や商人の胃袋を支えているのはこの食堂とも言えるだろう。
3つ目は街の中心から少し北へ外れた高級レストラン、この街でコース料理を楽しむと言ったら此処だ。レムラス伯爵も時折利用するらしいとの話は聞いた、ここは裕福な夫婦がディナーで訪れる様な場所だろう。
俺とエリスが昼食を摂りに訪れたのはそのどれでも無い。
街の中心部より東側、屋台通りを抜けた所にあるこじんまりとしたカフェだ。
ドアを開けるとドアベルがチリンと鳴り、店主に俺達と言う客が来たのを知らせる。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
店主が掛けた声に応える様に軽く挨拶。
店内を軽く見回すと、窓側の2人がけのテーブル席が空いている。
エリスをエスコートするように歩き、エリスが席に座った向かいに座る。
俺達がここに来たのは始めてだが、噂では美味しい鶏肉料理を出すらしい。
「ここは……」
「ん?来たことあるのか?」
「いや、エイミーやクレイ達とここを知ってな、今度休暇を合わせて一緒に行きたいなって話ししてたんだ」
「そっか、それで知ってたのか……何か、あいつらと来るの予定してたなら、悪い事したかな?」
「いやいや、そんな事は無い。ヒロトと来られて、私は嬉しい」
にこりと笑うエリスタ、微笑み返して思わずその頬を撫でようと手が伸びるが、我慢してテーブルの上のメニューに行き先変更、流石に外で余りボディータッチはよろしく無いだろう。
「エリスは何が食べたい?」
メニューを開いてエリスに見せると、うーんと顎に手を当てて悩み始める。
「チキン料理が美味いとは聞いたな……照り焼きチキンサンド、これが美味しそうだ……」
「ふむ……じゃあ俺はこのチキンカツサンドにしよう、飲み物は?」
「アイスティーが良いな、ヒロトは?」
「うーん……じゃあ、俺もそうしよう。すみません」
メニューが決まり、スタッフを呼ぶ、注文を取りに来たオレンジの髪のウェイターの少女は注文のメモを持って席へ来る。
「はい、ご注文お決まりでしょうか?」
「照り焼きチキンサンドとチキンカツサンド……それからセットでアイスティー2つ、お願いします」
「かしこまりました、ご用意致しますので少々お待ち下さい」
注文をメモすると少女は下がり、マスターに注文を伝えに行く。
「良い店だな、接客も丁寧だ」
エリスがウェイターを見送りながらそう言う、俺はその言葉に頷いた。
丁寧な接客は従業員の教育がしっかりしている証拠だ、安心して食事を楽しめると言っても良い。
「そうだ、エリス達って、普段どんな話をしてるんだ?」
エリス達2班は、エリスに加えてエイミー、アイリーン、クレイの4人で構成されている。
最も練度の高い第1小隊の中でも、飛び抜けて経験値と練度が高い集団だ。
そんな彼女らでも年頃の女の子だ、どんな話をするのかは普通に興味のあるところではある。
「んー……そうだなぁ……主にするのはお互いのパートナーとの事、かな?」
「お互いの?」
「私にはヒロトがいる様に、アイリーンにはグライムズが、クレイにはブラックバーンが恋人だ。どんな良いところがあるのか、どんな所に惚れたのか、とかかな?」
な、なんだか少しだけ恥ずかしいな……俺も俺の知らないところでエリスに良いところを言われてたりするのだろうか?
それとももしかして、俺の知らない所で俺の至らない愚痴とか……?
表情から察したのか、エリスはクスッと笑い出す。
「心配するな、ヒロトが思う様な事は言ってないさ。相手のいないところでそいつの批判をするのは私は嫌いだ」
陰口は信念に反する、と言う事か。
「んー、私がヒロトの好きな所は____」
「待て待て、言わなくて良い、照れるから……」
思わず机に肘をつき額に手を当ててしまう、めちゃくちゃ恥ずかしいが、それはエリスが本当に思っている事なのだろう。
エリスはニコニコしながら俺の顔を軽く覗き込んでくる。
この照れる様な会話は暫く続いたが、その中で分かった事がある。
1つ、4人の仲は良好な事。
2つ、エリスは俺が大好きな事だ。
「お待たせ致しました、こ注文の照り焼きチキンサンドと、チキンカツサンドでございます」
ウェイターが料理を持ってくると、盛り付けられた2つのサンドを前に軽く腹が鳴る。
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイターが下がると早速、サンドイッチに手を伸ばした。
「頂きます」
ふわりと柔らかいパンに、しっかりと歯ごたえのある衣を纏ったチキンカツが挟まれて、キャベツもいいアクセントになっている。
しっかりと下味のつけられたチキンもソースも、美味いと言える味だ。
「うん、美味い!」
「あぁ、美味いな」
テーブルを挟んで反対側で、照り焼きチキンサンドを食べているエリスもそう言う。
美味い飯、気のいい仲間、そして可愛い恋人。
今俺は、とても幸せだ。
戦いに出る身の上、いつ喪うとも知れぬこの幸せを、今だけは噛み締めていたい、と強く思った。
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「はぁ、楽しかったな!」
夕日が空を支配する時刻、俺とエリスは基地へと戻って来た。
「あぁ、充実した1日だったよ、ありがとうな、エリス」
「こちらこそ、だ。一緒にいられて、私は嬉しかったぞ?」
そう言って笑うエリスの手には装具屋の紙袋が収まっている。
2人で持っているその紙袋の中身は、デートの最中に立ち寄った装具屋で見たポーションだ。
これを何とか応用して、俺達が使う事は出来ないかと考えているところだ。
俺達が使う為の主な変更点は、容器だろう。
ガラス瓶では強度に不安がありすぎる為、ペットボトルにする必要がある。
小さなボトルを作ってこれを入れられるか……あとで評価試験隊や工房に相談しに行こうと思う。
「ヒロト」
「ん?」
エリスの声に振り向くと、エリスにぎゅっと抱きしめられた。2人が持っているポーションの小瓶が、袋の中で軽くぶつかり音を立てる。
「次の作戦、無事に戻って来てくれると、私は信じてるぞ」
「あぁ……もちろんさ」
エリスを抱きしめ返し、背中をポンと叩く。
それを見ているのは、この空を赤く染める夕日だけだった。