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第143話 ブラックマンバ

バイエライドFOB

作戦室


「王国の使者より、グライディア王国からガーディアンに正式に依頼が来た」


各部隊の隊長の前で発表する、まだバイエライドに残っている部隊だ。


契約を結ぶ時に必要な書類には、間違いなく"グライディア王国"の文字が記入されている。


「期間は王国軍の増援が到着するまで、長く見積もれば大体1ヶ月ってところだな。公国軍の攻勢を足止めしてほしいと依頼された」


モニターに地図を出し、位置関係を表示する。

バイエライドより北に20km程の地点、エルスデンヌの森を地図で拡大する。


「王国軍は現在、森の中の砦を陣取り防御を固めている、増援が来るのを待っている状態だろう。だがおそらく、増援より早く公国軍が来る。その公国軍の足止めが今回の任務だが……」


俺はそこで言葉を1つ区切り、ある部隊の方に向く。


「この任務を、狙撃小隊と火器小隊に一任しようと思う。作戦指揮は狙撃小隊が執ってくれ」


作戦室が騒つく、仕事と気張る2つの小隊の小隊長はニヤリと笑い静かにガッツポーズをしている。


「作戦の隠密性、継戦能力、偵察能力などを鑑みた結果だ。部隊本部でもこれは了承されているが……狙撃小隊、火器小隊、双方小隊各員の疲労度や健康状態を鑑みて、出撃可能か?」


「もちろんです、ジャララバードでは地味だった分、しっかり活躍させてもらいますよ」


勢いよく答えたのはカーンズだった。

カーンズ率いる狙撃小隊はジャララバードでの制圧作戦において、重要な働きをしてくれたのだが、今回もいけるようだ。


「火器小隊、エバンス中尉。どうだ?」


「はい、我が小隊各員、疲労度や健康状態共に異常はありません。しかしエルスデンヌの森の地形的特性などから、人員の増員、装備の調整などが必要です」


2個機関銃分隊と3個迫撃砲分隊を取りまとめる火器小隊の小隊長、エバンス・アルマイル中尉が答えながら、現状の問題点も挙げる。


「分かった、その他正面装備や後方支援で疑問点や不安点、あったら遠慮無く言ってくれ」


そう投げかけた声に応え、挙手したのはカーンズだ。


「カーンズ、何かあるか?」


「ウチの分隊で、少し前から挙がっていた意見がありました。狙撃チームのボルトアクションライフルの射手のサブに、MP7じゃ威力と精度に不安があると」


カーンズの報告に、俺は少し考える。

ボルトアクションライフルの射出にはMP7を持たせていたが、現場はそれに不安があるようだ。


「分かった。現場の声を聞くために、後で狙撃小隊の隊員と話し合おう。他に何かあるか?」


その後、隊員から手が上がる様子は無い。


「それじゃあ解散、俺は狙撃部隊のところに行く」


本体の残留組の隊長は立ち上がって持ち場に戻り、火器小隊のエバンスと狙撃小隊のカーンズと共に、部隊が集まっている部屋に向かう。


「任務にはいつから?」


カーンズが歩きながら問い掛けてくる。


「なるべく早い方がいい、時間も限られている。配置に着くのは……そうだな、王国軍の状況を鑑みるに、40時間以内が望ましい」


歩きながら手短に、作戦室で伝え切れなかったところも含めて状況説明をする。


公国軍はまだ森には入っておらず、森の入口あたりに王国軍の前線指揮所を乗っ取って前線基地としているようだ。


「敵の人数や装備は?」


「敵の本体は6000人程だ、全滅が目的では無いが、今回の任務部隊にはガンシップにヘリと手厚い航空支援を用意しよう。ここバイエライドFOBからも、QRFを待機させるようにする」


火器小隊、及び狙撃小隊は、格納庫の一角に集まっていた。

ここは屋根の下で日は当たらず、乾燥した空気が時折吹き抜けるので涼しいスポットだ。

格納庫をこうして解放する事で、隊員達が集まりやすく、コミュニケーションも取りやすくなっている。


「皆、聞いてくれ」


声を上げたのは俺では無く、カーンズだ。

今回の作戦の指揮を行う為、発言の主導権を握るのは彼になる。


「今回王国軍から受けた依頼だが、狙撃小隊と火器小隊に任される事になった。作戦中、部隊の指揮は俺が執る」


狙撃小隊、火器小隊の各隊員は、前に立つカーンズとエバンスをじっと見つめる。


「今回の作戦はこの2個小隊のみで行う事になる。エバンズ少尉」


発言はエバンズ少尉にバトンタッチ、エバンズ少尉が一歩前に出て話し始める。


「作戦の隠密性と迅速性を考え、40時間以内に現地に展開する。20km北のエルスデンヌの森だ。我々が突破されれば王国には大きな被害が出るだろう、公国兵を一歩も通す訳にはいかない。35時間以内に装備と体調を整え、ヘリで出発する」


2人はその他、最低限の必要事項を伝達すると、狙撃小隊と火器小隊各員は自分の武器の調整に向かう。


「……で、俺は装備面と編成面での相談事だっけ」


「えぇ、お願いします」


エバンスがそういうと、相談事のある隊員達が集まってくる。

俺は何処から聞くべきかと考えながら隊員を見回し、頭を掻く。


「えー、そうだな。じゃ最初に迫撃砲分隊から、タリア少尉」


「はっ!」


一歩前に出て敬礼したのはタリア・ハンドラス少尉。第1迫撃砲分隊の分隊長で、3個分隊の迫撃砲セクションを束ねるリーダーである。


俺も彼女に敬礼し、相談を聞く態勢に入る。


「迫撃砲分隊の編成なのですが……1個射撃班3名だと、弾薬運搬の負担が大きいのです。負担を軽減する為、1個射撃班に1名か2名、弾薬運搬手を増員していただきたいのです」


迫撃砲分隊は9人編成、3門のM224 60mm軽迫撃砲を運用する。

1個射撃班3人につき迫撃砲は1門、火器小隊の迫撃砲セクション全体では、9門のM224 60mm軽迫撃砲を運用する事が出来る。


しかし、これだと「砲の移動運用」は出来ても、「弾薬の運搬」は考慮出来ておらず、隊員にかなりの負荷をかける事になってしまう。


「……迂闊だったな……すまない。1個班に1人増員するとして、9人の増員でいいか?」


「ええ、十分です。ありがとうございます」


俺は頷きながらポケットからスマートフォンを取り出して、ホーム画面を表示しメニューを開く。


===========================


【レベルが上がりました!】


Lv50

ミラージュ2000C

F-5E/F タイガー

F-4EファントムⅡ

クフィルC7

三菱F-1支援戦闘機

ハリアーⅡ

A-4スカイホーク

A-6イントルーダー

Su-22フィッター

MiG-23フロッガー

AMX攻撃機

ミラージュF-1

2000m級滑走路

THAAD地対空ミサイル

第75レンジャー連隊


===========================


……ようやく固定翼航空機、しかも戦闘機と攻撃機のお出ましだな……


そう思いながら召喚メニューから"人員"をタップ、練度も少し弄り、本隊の練度に合わせておく。


召喚スタート。兵器召喚と同じ様に空間が光り、その光が人の形に集まって具現化する。


格納庫の隅に、9人の兵士が召喚された。


「君にこの9人の命を預ける、頼むぞ」


「了解しました、ありがとうございます」


タリア少尉は早速、召喚された人員達の配置と任務を指示し始めた。


「さて、次は……機関銃分隊か、ハリエント少尉」


「はい、機関銃分隊です。隊に支給されているLMGですが、今回の作戦の様な広い場所で使う為に、M2重機関銃を持って行きたいのですが……」


確かに今回の作戦地帯である"エルスデンヌの森"は、稜線の間隔が2kmある谷の中にある。


M2重機関銃を持っていけば、確かに反対の稜線を捉えられるが……


「持っていけるのか?M2?」


「……車輌に搭載していけば、何とか……」


確かにHMMWV(ハンヴィー)に搭載するM2重機関銃ならば、確かに可能だろう。このFOBに新たに召喚したCH-47Fチヌークは2機あるし、装甲HMMWV(ハンヴィー)を吊り下げ輸送することも出来る。


だが、隠密行動が今回の要、あの目立つHMMWV(ハンヴィー)は公国の翼竜(ワイバーン)にすぐに見つかってしまうし、そうしたら作戦が根底から瓦解してしまう。


俺は腕を組んで考え、ある1つの機関銃に辿り着いた。


「……あれなら射程も威力も不安はない」


「あれ……ですか」


「あぁ、今召喚する」


俺はスマホから"ある機関銃"を選択し、召喚。3脚に固定すれば重機関銃に、持ち歩けば軽機関銃にもなる"汎用機関銃"だ。


「10kg超える機関銃を"軽"機関銃って呼ぶのは……」


「まぁ、無いですよね……」


苦笑しながら4丁の機関銃と大量の弾薬を召喚、2個機関銃分隊に配備する事になった。


「ありがとうございます、これでまた強力な打撃力になります」


「あぁ……力の使い方を見誤るなよ?」


「それ、誰の言葉ですか?」


「ラプトルの村の村長だ、さて次は狙撃小隊だな」


次のお悩み相談(?)は狙撃小隊だ、彼らの方に目を向けると主に相談があるのはボルトアクションライフルを使う分隊長兼狙撃手らしい。


「さて、俺との付き合いもそろそろ長いお前らだが……何のお悩みが?」


俺が冗談混じりでそう言うと、彼らも笑いながら相談を持ちかけてくる。


「ええ、俺達が使ってる個人(P)防衛(D)火器(W)についてなんですが……」


なるほど、狙撃手達はライフルでは無く、個人(P)防衛(D)火器(W)の方の相談か。


現在狙撃部隊の個人(P)防衛(D)火器(W)では、ドイツH&K社製のMP7A1又はA2を使用している。


ライフルの射撃の際も邪魔にならずにコンパクト、弾薬は40発が携行可能で、射程距離は約200m。

ピカティニーレールで拡張性も高く、リロードも容易……ではあるんだが。


「弾薬か?」


「はい、市街地戦の折、中距離でのパワーに不足を感じまして……それから距離を保って撃った時の精度も、少し不安があります」


なるほどな……俺は腕を抱えて考え込む。


MP7が使う4.6×30mm小口径高速弾は、初速が早く軽い弾であるが、相手に命中した際に弾丸が身体の中で回転しながら体内を傷付ける"タンブリング"という現象を引き起こす事でストッピングパワーを高めている。


弾頭の重心が弾頭の尻にあり、命中すると弾頭の先を起点にグルンと体内で回転して止まる。


だが、やはり弾薬が軽いと風に流されやすいようだ。


「……なるほどな、要求する条件はあるか?」


俺はポケットからメモ帳とペンを取り出し、箇条書きで狙撃手達が語る要求をメモしていく。


「150〜300mで、精度を保てるような……」


「コンパクトに構える事が出来る銃が良いかと……」


「消音性はどうでしょう、射点に着くまでに銃性でバレるわけには……」


その条件からすると、使用する弾薬は.300BLK(ブラックアウト)になるだろう。となると、考えられる銃は3種類ある。


1つはCQB-Rに減音器サウンド・サプレッサーを取り付けたもの。


残りの2つは完全に新規召喚のライフルになる。


「……よし、その条件に合うライフルがある」


「本当ですか?」


若干信じていなさそうな声色の彼らに見せるように、スマホを取り出して見せる。


召喚したライフルは、結果的に狙撃部隊に大好評だった。



===========================


翌日


残留部隊はほとんど撤収を終え、俺達が今度は撤収する番となった。


行きとほぼ変わらない編成だが、狙撃小隊と火器小隊が車輌と共にここに残る事になる。


「作戦続きで済まないが……任務を頼んだ。その分報酬は弾むぞ」


「了解しました、お任せ下さい」


俺はランディやカーンズの敬礼に応え、帰還するコンボイの先頭車両に乗り込む。


「1-1より全車へ、出発準備が完了した車輌は応答せよ」


『1-2、準備完了』


『3-1、準備完了です』


『3-2、こちらも準備完了』


L(リマ)1、準備完了』


RSOVが1輌にM1044HMMWV(ハンヴィー)が2輌、M998HMMWV(ハンヴィー)とLAV-Lがそれぞれ1輌ずつだ。


「全車両準備完了、これよりベルム街へ帰還する」


車輌部隊のエンジンがかかり、アクセルを踏むと滑らかな動きでRSOVが走り始める。


バイエライドFOBも、レジスタンス改め西部方面隊に任せる事になる。

俺達が任務でこちらに出張してくるまで、来る事は無いだろう。


暫しの別れだ、ここの部隊は必ずや精鋭になってくれるだろう。


営門の近くに出ると、西部方面隊の面々が整列し、敬礼で見送ってくれる。


助手席のエリスはそれに敬礼で返し、FOBの営門を出る。

東へ向かう街道に乗ると、FOBやバイエライドが小さくなっていく。


峠の切り通しを通る、往路は崖崩れで通れなくなっていたが、復旧が進められている。


「……彼らで大丈夫だろうか……」


助手席に座ったエリスがM240E6に触れながらそういう、恐らく西部方面隊だけに西部戦線を任せるのが不安なのだろう。


「まぁ、まだ訓練期間だからな。けど戦力化したら、心強い味方になってくれること間違いなしだ」


「……そうだな、私達の後輩だ、私が信じなくてどうする」


エリスは自分に言い聞かせる様にそう言って、ランドローバーSOVの揺れに身を任せる。


一方で、俺は残して来た狙撃小隊へと思いを馳せていた。



===========================


第3者視点

バイエライドFOB


「作戦を伝達する」


ヒロト達が去ったバイエライドFOBには、西部方面隊の訓練生と教導部隊、基地業務群が駐留している。


それとは別に、今回王国からの依頼を直々に受けた狙撃小隊と火器小隊が、このFOBには残っている。


格納庫の一角、作戦指揮を任されたカーンズがコンバットシャツの袖を捲り、ホワイトボードに貼った作戦地の地図に書き込んで行く。


「今回メインフィールドになるのはエルスデンヌの森だ、高さ35mの崖に挟まれた谷の中にあり、幅は2kmで10km程この地形が続いている」


事前に偵察衛星から得られた地形情報では、谷の中は樹海とも呼べそうな森で、見通しはあまり良くない。


「狙撃小隊はこの森の中を交代制で展開、森に入って来た公国軍を始末する。火器小隊の機関銃セクションは崖の上から援護、迫撃砲セクションは火力支援の待機に入って欲しい」


崖の上に数箇所の監視所(OP)を設置し、そこで部隊は待機に入る。


「狙撃小隊で可能な限り抑える、火器小隊はその援護を。連携が重要になるので、それぞれ無線でしっかりと意思疎通を図る様に」


「「「了解」」」


「では出撃準備にかかれ、22:00に出撃する」


号令と共にそれぞれの隊員がそれぞれの武器の調整に入る。

狙撃小隊でも擲弾兵(グレネーダー)や通信手が持つM4A1のアッパーレシーバーは.300BLKの超音速弾仕様に、またMk.12SPRを持つバズやローレル、シェリーはP-MAGに5.56mmのMk.262弾を詰めていく。


「んで、新しく支給されたのがこれか?」


「あぁ、これだ」


カーンズとランディが、ヒロトが新たに召喚した銃を手に取る。


アンナとハンスにも手渡され、調子を確かめるために色々いじっている。


「弾薬は.300BLK、減音器サウンド・サプレッサーを装着するから亜音速弾にしろ。カスタマイズは自由だ」


テーブルの上に並べられたのは、ダットサイトやホロサイト、スコープ等の光学機器や、フォアグリップやレーザーデバイス等のアクセサリー類だ。


各々がそこから自分が使うものを選び、銃に取り付けていく。

ランディはシンプルなカスタムにして、ライフルの照準調整に向かう。


「じゃ、お先に調整でレンジ使うぞ」


「あ、兄さん。私も行きます」


SR-25を持ったクリスタも、兄のランディの後を付いていく。


クリスタが持っているのはSR-25だが、ストックがMAGPUL(マグプル) PRSストックに換装されている。


「兄さん、L115の方はどうです?」


「完璧だ」


ノータイムでランディは答える、L115A3を早くも完全に相棒にしているのだ。

それだけ彼はあのライフルが手に馴染み、自ら完璧な調整をしているのだろう。


「取り敢えず、今はこいつだ」


ランディは手にした黒いライフルを軽くコンと叩く、2人が射撃場に着くと、レーンの設定を操作し始める。


クリスタは700m、ランディは150m程で照準を調整する。


ランディは新たなライフルのチャージングハンドルを引き、レンジの向こうに見える標的に銃口を向けて構え、トリガーを引いた。


===========================


22:00

FOBの飛行場に、ヘリの羽音が響き始める。

狙撃小隊と火器小隊は作戦準備を終え、格納庫に集結していた。


このFOBに配備されている回転翼の航空戦力は、UH-1Nツインヒューイが2機、CH-47Fチヌークが2機、そしてAH-1Wスーパーコブラが2機である。


今回の作戦で現地まで飛ぶために、その全てのヘリを総動員するのだ。


「砂漠の夜ってのは冷えるんだな……」


M82A3対物狙撃銃を携えたカーンズがそう呟くように言う。


「念の為フィールドシャツ持って行くのは正解だな」


その呟きに答えるように言ったのはランディだ。

彼はL115A3を背負い、調整が終わった新しいライフルを持っている。


「荷物全部持ったよ、兄さん」


タスマニアンタイガー Mk.2チェストリグを身に着け、大きなバックパックを背負ったクリスタが暗視装置付きのヘルメットを被りながらそう言った。


今回の任務は、防弾性よりも装備の携行数や機動性が重視される為、プレートキャリアではなくチェストリグが選択された。

狙撃小隊の全員が、マルチカム迷彩の施されたタスマニアンタイガーMk.2チェストリグを身に着けている。


バックパックの中身は予備の弾薬、食料、水など、3週間分の戦闘と生活が可能な装備類がみっちり詰まっている。

その上バックパック自体もMOLLEシステムの拡張性によってポーチが増設され、より多くの物資が携行可能になっているのだ。


『狙撃小隊及び火器小隊、ヘリの搭乗準備完了』


ヘリの暖機終了のアナウンスが流れる、全員がそれに耳を傾け、ランディとカーンズは目を見合わせた。


「それじゃ、行くか」


「頼むぜ小隊長様」


「総員搭乗!」


カーンズが声を上げると、火器小隊と狙撃小隊が一斉にヘリへの搭乗を開始、それぞれの武器と装備品を持ち、ヘルメットを被ってそれぞれのヘリに走る。


火器小隊の迫撃砲セクションと火器小隊本部の6人の42人は、迫撃砲弾と迫撃砲その他の物資と共に1機のCH-47Fチヌークへ。


火器小隊の機関銃セクションは、1個分隊6人ずつに分かれてUH-1Nツインヒューイへ。


狙撃小隊18名は、資材を多目に搭載したCH-47Fチヌークへと乗り込んだ。


72人を乗せた汎用ヘリや輸送ヘリ4機に、AH-1Wスーパーコブラ2機の護衛が付くのだ。


『ワスプ1、ワスプ2と共に離陸して援護に入る』


まずはAH-1Wスーパーコブラが離陸、輸送ヘリ部隊の援護に入った。


『ジョーカー1、離陸する』


『ジョーカー2、テイクオフ』


続いてUH-1Nツインヒューイが離陸、AH-1Wの後に続いて北へと飛ぶ。


『ゴンドラ1、2と共にバイエライドFOB離陸、2200』


『了解、幸運を祈る』


"ゴンドラ"のコールサインを持つCH-47Fが、AH-1Wに守られるように離陸した。


目指すのは20km北、エルスデンヌの森である。


ヘリの機内は騒音が酷く、ヘッドセットをしていないと耳がイカれそうな音だった。


『ワスプ1よりジョーカー、ゴンドラへ、上空の天候は良好。気流の乱れ無し』


『了解、飛行を継続する』


『地上の風向きは北より2m/s、突風には注意せよ』


CH-47FとUH-1NはAH-1Wに守られるように飛行、そのヘリ同士の間で活発な情報交換が行われている。


「到着したらOP(監視所)の設置を最優先、機関銃セクションが乗ってるジョーカー隊を先に着陸させるぞ」


「上手くいくのか?」


「そうなる様に祈ってろ」


砂漠地帯を抜けると、今度は緑の多い平原が見えてきた。ヴェレットへと近づいているのだ、この辺りは気候や地形が変わり、山がちの地形に緑が多くなって来る。

狙撃手が待ち伏せするのには絶好の場所である。


低空飛行に移行、姿を隠しながら目的の着陸地点へと近づく。

こうして低空を飛行する事で公国軍の視界から見え難くなり、「音は聞こえるのに姿は見えない」という状況を作る事が可能になる。


FOBを出発してから約10分程、目的の森がパイロットの暗視装置越しの視界に広がっている。


『こちらジョーカー1、森の切れ目に着陸する』


『了解、機関銃セクション各分隊、着陸展開に備えよ』


『こちらワスプ1、周辺に敵影無し』


『赤外線にも敵影確認出来ず、着陸良し』


UH-1Nツインヒューイが羽音を響かせながら森の切れ目に近づく、森の切れ目は若干の傾斜があり、ヘリの機体を斜めにしながらゆっくりと降下していく。


ジョーカー1の着陸脚(スキッド)が地面を捉え、着陸。

メインローターが地面スレスレで回り、左側のスキッドのみが地面に触れている。


『マッド・ドッグ1、2へ。ヘリから降りたらすぐに伏せろ、メインローターにバラバラにされるぞ』


『了解、留意する』


坂道に降りているので、メインローターと地面がかなり近い。その為展開する為に広がると、メインローターに肉体がミンチにされる恐れがある上に、ローター損傷でヘリが墜落する可能性もある。


武器と必要な物資を持ってヘリから降りた6人の分隊は、キャビンドアの左右に広がり地面へと伏せる。


『全員の降下を確認、忘れ物は無し。ジョーカー1、離陸する』


『ジョーカー2離陸、警戒に入る』


2機のUH-1Nツインヒューイが上昇していき、メインローターが遠ざかって行動できる様になると、機関銃分隊は走り出す。


今回の任務は火力が必要とされる為、機関銃分隊の機関銃の数を増やした。

通常6人に2挺のM240E6だが、今回はそれに加え、新たな機関銃が彼らに支給された。


M240にシルエットは似ているが大きさが異なり、またストックも可変式になっている汎用機関銃。LWMMGだ。


なんとこの機関銃、使用する弾薬が7.62×51mmNATO弾よりも強力で、弾道特性も良好な.338Lapua(ラプア) MAG(マグナム)や.338Norma(ノルマ) MAG(マグナム)を使用する凄まじい機関銃だ。


今回は弾薬の共有を図る為に.338Lapua(ラプア)を使用するバレルになってはいるが、恐らく大規模作戦になると1km先から掃射が行える様な威力と弾道特性を持つ.338Norma(ノルマ)を使う事になるだろう。


そんな強力な機関銃が、1分隊に追加で2挺、合計で4挺配備された。


機関銃分隊はそれぞれの物資を手にすると森の中へと走り、それぞれの方向へと警戒を始める。


続いて降下してくるのは、CH-47Fチヌークが2機。

大きく旋回してカーゴハッチを開け、森の切れ目でぶつからない様な2機の感覚を保ちつつ降下、後輪だけを設置させてハッチを解放するという曲芸じみた着陸だ。


坂道でこんな着陸が出来るのは、パイロットの技量が高い事の証明である。


「行くぞ!小隊続け!」


カーンズがそう叫ぶと、ゴンドラ1の機内の狙撃小隊が物資を持って立ち上がり、ヘリのキャビンからハッチを通って外へと走り出す。


18人全員の狙撃小隊が外へと駆け出し、ゴンドラ2からも42人の迫撃砲セクションと火器小隊本部が降下した。


『ゴンドラ1ロードマスターよりパイロットへ、忘れ物無し』


『こちらゴンドラ2ロードマスター、パイロットへ、忘れ物無し』


『了解、離陸する』


全員と全物資を下ろした2機のチヌークは、ハッチを閉じながら上昇。ローター音を残しつつ、夜の闇へと姿を消した。


降下した全部隊は、FAST"ドラゴン"ヘルメットに取り付けられたAN/PVS-15双眼型暗視装置を下ろし、電源を入れる。


緑色に彩られた世界で、彼らは一旦森に入ってお互いの位置を確認する。


『狙撃小隊より火器小隊、現在位置を知らせ』


『こちら火器小隊、機関銃セクションが先頭10mの位置、後方15mに迫撃砲セクション、中心に小隊本部。そちらから見て50m西側だ』


『了解、このまま500mほど進出、崖の近くにセクションごとにOP(監視所)を設置せよ』


『了解、進出する。誤射に注意』


ヘルメットには赤外線ストロボを取り付け、暗視装置でしか見えない光がフラッシュする。


ラジオポーチやバックパックのMOLLEに差し込まれたIRサイリウムの中のガラス棒を折り、赤外線発行する事で敵味方の識別が可能になった。


「じゃ、行くか」


「了解」


狙撃小隊第1狙撃分隊のランディ・ヘイガートは、L115A3を背負って新たに支給された"ブラックマンバ"とも呼ばれるライフルのストックを展開しチャージングハンドルを引き、歩き始める。


狙撃小隊と火器小隊、それぞれが谷の中の"エルスデンヌの森"を目指し、歩き始めた。

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