第141話 ガーディアン西部方面隊
バイエライドFOB 13:30
深夜の肌寒さとは違って、日が登れば凄まじい熱気に包まれる砂漠のど真ん中だ。
短い雨季も終わっており、涸れ川には水は流れていない。
しかし、雨季に降った雨は地下水となり、バイエライドのすぐ隣にオアシスとして湧き上がる。
そんなオアシスのすぐ近くだからこそ、砂漠の真ん中でもバイエライドの街はここまで大きくなったのだろう。
ジリジリと照りつける日差しで目が覚めた。眠りに就いた時から日が差し込む角度が変わり、眩しい日差しが肌を焼く。
しかし、部屋は快適だった。
FOBでは砂漠の太陽をふんだんに使った太陽光発電システムのインフラが整備されており、エアコンが使えるので湿度と温度が適切に管理出来る。
だからこそ、俺は起きたくなかった。
何せ戦闘の後処理含め、FOBに帰って来られたのが今朝の07:30。それも帰って来られただけで、実質眠れたのが今朝09:00だ。眠気がMAXの上に、1日で最も気温が上がる時間である。
しかし、そうも言っていられない。15:00には総員起床、16:00からはレジスタンス達との会議がある。
起床までまだ1時間半あるが、そろそろ起きて準備しなければ……そう思ってベッドの上で伸びをして、瞬きをして時刻を再び確かめると、14:10を指していた。
どうやら瞬き1回と思いながら30分以上眠ってしまっていたらしい。
「おお、やべやべ」
慌てて飛び起き、コンバットシャツとコンバットパンツに着替える。
アンダーアーマーとコンバットシャツの組み合わせは、この暑い気候を快適に過ごすのに一役買っている。
寝癖が無い様に髪型を軽く整えて1stラインを身につけ、ポーチには弾薬の詰まったマガジンを、ホルスターにはP226を入れる。
大きく欠伸をして背中を反らせると、パキパキと背中が鳴る。
顔を洗って廊下に出ると、既に活動し始めている隊員が数人いた。
「おはよう、もうこんな時間だが」
「おはようございます、食堂に軽食が用意されてますよ」
狙撃隊のランディに声を掛けられる、食堂に行ってみると、言葉の通りにサンドイッチやスープなどが用意されていた。
寝起きの身体にこれはありがたい。
「おはようございます!」
「おはよう、頂くよ」
ビュッフェスタイルで軽食が並ぶ、俺はBLTサンドと豆のトマトスープを取り、席に着いて食べ始めた。
BLTサンドの食感と味を楽しみながら考えを巡らせる。トマトの酸味とベーコンの重厚感がいい感じだ。レタスの歯応えも心地いい。
このバイエライドFOBの食堂員は街からではなく、基地召喚の折に管理部門を設立し、その召喚した人員となっている。
他にもこの基地の警備兵、インフラ管理、整備士などは、俺が召喚した人材だ。
と言う事は、現在本部基地はもぬけの殻だ、と言う事だ。元々2個小隊しか無い歩兵部隊に加えて、1個中隊の機甲部隊に対装甲機動中隊、1個大隊の砲兵隊、そして航空隊まで全力出動したのだから、今基地にいるのは1個中隊の基地警備隊と、基地業務群だけと言う事になる。
早い所、これらの戦力を基地に戻したい所だが、一度にこの戦力を移動させるのはとても手間がかかる。
まずは部隊を分割し、徐々に基地に送り返そう。
「輸送機……グローブマスターⅢとか、スーパーギャラクシーとかあれば、輸送も随分楽になるんだけどな……」
そう、輸送機があれば、輸送は格段に楽になる。
しかし、現状ガーディアンが保有している輸送機はC-130Hが2機のみであり、更にはそれを運用出来る滑走路は現在ベルム街近郊の1500mの滑走路のみだ。
今回補給にC-130Hを使ったが、あれも貨物の空中投下しただけだ。
いずれ、このFOBにも固定翼航空機が離着陸可能な滑走路を整備したいと思っているが、まだ正規部隊の存在もないバイエライドに滑走路を整備する訳にもいかない。
豆のトマトスープを飲みながら考えがどんどん膨らんでいく、今度はレジスタンスたちの事だ。
エルヴィン・ロンメル指揮官率いる元公国兵や、民間志願者を募ったレジスタンス____正確には彼らをパルチザンと呼ぶべきだろうが、彼らが抵抗運動を自称しているのでそう呼ぶ___は、ロンメル指揮官の直接指揮下に入る者だけで2000人を超えるという。
その内ガーディアンに入隊志願したのは、集計した結果1593人だというのが分かった。
今事務所にはロンメル指揮官が集めた、1593人分の名簿がある。
ガーディアンの兵士は例外なく13週間の入隊訓練を受けることになるが、この数を一度に訓練するというのは流石に無理だ。
分割して訓練し課程を終えた隊員を、ジャララバードとクァラ・イ・ジャンギーに分割配備する。
丁度この後、ロンメル指揮官を加えたレジスタンスの面々と、その旨の会議がある。
BLTサンドを食べ終えトレーを片付けると、俺は朝礼をするべく食堂で待機、ぞろぞろと集まってきた隊員達に、分隊ごとに着席してもらう。
「こんな時間だが、おはよう」
既に「おはよう」の時間ではないが、起きて1番の挨拶と言えばこれしか無かろう。皆もおはようと返してくれる。
「さて、昨日から今朝に掛けてのジャララバードとクァラ・イ・ジャンギー要塞の奪還作戦、ご苦労だった。君達の卓越した戦闘技術とそれを維持する努力、そして危険を顧みずに戦場に向かう勇気に敬意を表する。よくやった!」
俺は今目の前にいる彼ら、彼女らに惜しみない賛辞と拍手を送る。本当によくやってくれたと思う、初めての“戦争”で、少数の負傷者を出しただけ、その負傷者も治癒魔術で回復する程度で、PTSDのような精神症状も確認していない。
ガーディアンの初めての“戦争”としては、これ以上ない程の成果であった。
「そして連絡事項だが、本体を徐々にベルム街に帰していく予定だ。ここにずっと駐留する訳にもいかない、ベルム街の治安維持も俺達の仕事の一部だからな。これから帰還する部隊の選定を行う、明日には発表できるだろう。選定に当たってもいい様に、荷物の準備は各自しておくように」
そう、ここに駐留するのは国境防衛のための一時的な措置であり、俺達は俺達の本拠地であるベルム街に帰らなければならない。
一度にこの大部隊が移動すれば、再び街道に大渋滞を発生させる原因になりかねない。
なので帰りは部隊を小出しにし、少数で基地へと帰還させる。
これから帰還部隊の選定に入るが、おそらく最初に帰還する部隊は砲兵部隊になるだろう。
1個射撃中隊を残し、他を帰還させることになると思っている。
「次だ、ロンメル指揮官率いるレジスタンス達がガーディアンに加入することが正式に決まった。彼らに訓練をし、クリアした者と脱落者に振り分ける。クリアした者だけを、カーディアンの兵士として迎え入れる」
残念で残酷かもしれないが、訓練を脱落した者をガーディアンに加入させる訳にはいかない。保育所ではないので「脱落したけど頑張ったからご褒美に入隊させてあげる」という事はまずあり得ないのだ。
技能を持たず、また得られなかった者を戦場に送り、みすみす死なせるなんて事は出来ない。
しかし、脱落者の就職先は用意する予定だ、例えばタイヤ販売などは、訓練を必要としないからだ。
「この後レジスタンス達の会議がある、君達と共に戦う仲間だ、温かく迎え入れよう。連絡は以上だ」
朝礼はこの位にしておき、解散とした。
「ヒロト、レジスタンス達との会議、私も出るんだな?」
解散後、エリスがそう聞いてくる。
「ああ、もちろん出てもらうぞ。何せお前は副団長、俺の副官だからな」
俺の愛しい恋人であると同時に、頼れる副官でもあり、戦友のエリスだ。会議にはもちろん出てもらう。
他にも健吾や孝道、ナツの指揮官組には出席して貰う予定だ。
エリスと一緒に部屋に戻って、時間まで自分のM4とP226を整備する。彼女も自分の装備品を俺の部屋に持ち込んで、一緒に整備を始めた。
ピンを抜いてアッパーレシーバーとロアレシーバーに分け、チャージングハンドルを引いてボルトを抜く。ボルトを綺麗に掃除、砂が付着すると動作不良の原因になる。
「クリーニングロッドあるか?」
「ああ、あるぞ」
バレル内部の掃除が終わったエリスからクリーニングロッドを受け取り、銃身の中を綺麗にする。ここに埃がついていたり、砂が固まっていると、銃の精度に悪影響が出る。
薬室内部も綺麗に掃除し、フィーディング・ランプと呼ばれるマガジンから薬室までのスロープも磨いて油を吹く。
ハンドガードを外して内側を、更にガスピストンキットを外してガスポートやピストンのガスを受けるところを綺麗にしていく。
トリガーユニット内は武器係に任せるとして、綺麗に出来るところは徹底的に綺麗にする。
後はオイルを吹いて動作を滑らかにし、バラしたのと逆の手順でM4を組み上げれば清掃完了だ。
組み上がったM4のチャージングハンドルを引くと、ボルトが金属音を奏でて淀みなく作動する。完璧だ。
同じ様にP226を整備すると、ガンオイルで手が真っ黒になってしまったが、いつもの事なのでもう慣れた。
「エリスはもうバレル変えたか?」
「あぁ、もう5.56mm仕様だ」
エリスはそう言いながらM4のアッパーとロアを嚙みあわせ、ピンで止めて組み上げる。
既に分隊のM4は昨晩使用した.300BLK仕様から、5.56mmNATO弾仕様に戻してある。
バレルだけ換えればすぐに.300BLKに出来るのが良いところだが、バレルだけとなると面倒な為アッパー毎支給している。
エリスもM4のチャージングハンドルを数回引き、動作を確かめると満足した様に頷いた。
ふと腕時計を見ると、そろそろレジスタンス達との会議の時間だ。
「よし、そろそろ行こう」
「あぁ、新しい仲間を迎えに、な」
見本とするべく、俺達はM4を持ってFOBの会議室に向かった。
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「ガーディアンに入隊する為に受けて貰う訓練と言うのは、かなり厳しい物になる」
バイエライドFOBの会議室、レジスタンス達を対象にした、ガーディアン入隊に対する会議だ。
レジスタンス達の各方面の代表者が、この会議室に集っている。
ロンメル指揮官を始め、クルト・クニスペルやミハエル・ヴィットマンの騎兵隊、ケビン・ベルニッツ達のジャララバードに潜伏していたレジスタンスの歩兵達の十数人が会議室に集合していた。
「ガーディアンは今までとは全く異なる、独自の戦略、戦術、兵站、装備を扱う。その為入隊訓練として、13週間の訓練期間を課す。これは元正規軍人であろうと受けなくてはならないもので、例外はない」
俺は言いながら、自分のホルスターからP226を抜き、マガジンは外してスライドを引き、初弾を抜いてからレジスタンス達に見せる。
同じ様にM4も、内部を完全にクリアにした状態で前に出した。
「既に見た者も居るが、俺達ガーディアンはこう言った特殊な"銃"と呼ばれる武器を使う。公国兵が使っていた物とは、似ているが違う物だ」
レジスタンス達に回して、銃を見てもらう。彼らが持つ銃が、今度は彼らが扱う事になる"武器の重み"。剣や槍、弓などのそれとは全くの別物だ。
銃の重みやこれまでの武器との扱いの相違に一通り驚いたレジスタンス達から銃を返却されると、一度置いて説明を再開する。
「これらは扱いが今までの兵器とは特殊で、上手く扱えれば非常に有効な戦闘手段となるが、下手をすれば自分や仲間が死に至る危険なものだ。そういう物を扱う為の訓練だと考えて欲しい、この訓練をまずクリアしなければ、ガーディアンにはなれない」
厳しいだろうが、これは現実である。元軍人が多数のレジスタンス達が志願してくれたとしても、この13週間のふるいに掛ける。
いくら人員不足のガーディアンとは言え、適性のない人物まで入れて無駄な人死にを出すような組織であってはならない。戦闘に行く組織であるから、部隊行動を乱したり、適性のない人材は必要ない。
「志願した1593名の兵士にそれぞれ番号を振る、約200人ずつ8つのグループに分けて、ここと本部の2箇所で13週間の訓練を行うので、そのつもりでいてくれ。志願者は3日後から訓練を始めると各レジスタンスに伝えて欲しい。バイエライドFOBで番号とタグを受け取って貰うつもりなので、必ずFOBに来るように」
さて、ここで大きな問題が3つ。
まず1つ目、「訓練に必要な人材が全くもって足りていない」という事だ。
訓練に必要な教官、飯を作る給食員、必要な物資を用意する補給科員、怪我の手当てをする衛生科員。そのどれもが全く足りていないのだ。
2つ目、支給する物資の選定。
戦闘服、装備、ヘルメット、拳銃とホルスター、ライフルに至るまで、何を支給するのかまだ決まっていない。
衣服もコンバットシャツの方が、兵士達も快適に過ごせるだろう。しかし、そのコンバットシャツの迷彩パターンも決まっていない。
3つ目、訓練後の部隊編成だ。
ただ訓練をして漠然を部隊を組むだけでは、折角鍛え上げたガーディアンの兵士も宝の持ち腐れだ。これだけの人数と、高い士気、優秀な戦闘員は、集団戦闘で最も高い効果を発揮する。
本隊抜きでも、この西部戦線を防衛出来る様にするのが最も望ましい。
なるべく戦力化を急ぎたい所だが、人はそう簡単に育たない。
13週間の訓練に4週間の練度向上訓練、ギルド組合からの仕事の請負も訓練の一環として取り入れるとなると、実戦に出られるのは約半年後になるだろう。
「収容所に送られた同志達は、どうなる……?」
ロンメル指揮官が狐耳をピクリとさせながら、俺にそう問いかける。
公国兵に捕虜にされたレジスタンスも多数確認されており、RQ-11レイヴン無人偵察機と衛星の写真、レジスタンス偵察員の手により強制収容所に送られた事が判明している。
こちらの救出もまた、急務となる。
訓練が始まる3日間の間に作戦を練らなければならない。
「……ガーディアンが請け負ったのは"王国軍"から、"王国軍が西方の国境線に到着するまでの戦線防衛"だ。任務の範囲外になる」
俺がそう言うと、ロンメル指揮官は狐耳を垂らして俯く。
コレは事実であり、レジスタンス達からクァラ・イ・ジャンギー要塞やジャララバードの奪還を依頼された訳では無い。レジスタンスと出逢ったのは単なる偶然である。
収容所からレジスタンス達を救出するのは、俺達の本来依頼された仕事では無い。
「だが、ガーディアン編入前のレジスタンスとして俺達に依頼して貰えれば、出動する事は出来る。報酬金額の分だけ、全力を尽くそう」
「ほ、本当か!?」
言い方は悪いが、俺達の本業は傭兵であり、報酬の分だけ仕事をし、仕事をした分だけ報酬を貰う。
「か、金なら公国軍から奪って来たのが沢山ある、好きなだけ積もう!」
「あ、いやいや……うん、まぁそれなりに……」
ロンメル指揮官の勢いに仰け反る、凄い金の使い方だが、それが彼女の仲間を思いやる気持ちなのだろう。
仲間が強制収容所に送られた……それはとても辛い事だと思う。
俺なら後先考えず即襲撃してすぐ全滅してしまうかもしれない……いや全滅しちゃうのかよ。
しかし、そうならない為に作戦を立て、彼らを救出する必要がある。
「ま、諸々含めて計画は進んでいる。君達は安心して訓練に臨んで欲しい」
「了解した。……ところで、訓練に当たって、私達が用意する物はあるか?」
「無い」
俺はそう即答する、訓練期間中に持ち込める物は無いのだ。
「訓練期間中に使う物については、全てこちらで支給、用意する。逆に俺達が用意したもの以外は使えないと思ってくれ」
「その……私服も、か?」
「もちろんだ、その代わり、全部用意する」
訓練期間中、一応文通などで外部との接触は可能だが、外出は原則禁止である。
これはガーディアンという最も軍隊に近い武装組織を編成する上で外部との接触を断ち、仲間とのコミュニケーションに徹し、戦場の空気に慣れる事が目的だ。
「他に質問は?……無いなら解散。訓練に備えて体調は万全の体制を整えておく様に、以上」
そう言って会議を終えると、レジスタンス達は席を立って三々五々散っていく。
「……ヒロト、指揮官らしくなって来たな」
隣で席を立つエリスがそう言って、碧い瞳で俺をじっと見つめる。
「……そうか?」
「あぁ、何か隊長っぽくなった」
「何だソレ……」
俺は頭を掻きながら苦笑し、資料を持って立ち上がる。
「さ、忙しくなるぞ」
「分かってる、デートは後だな」
「……そう言われると罪悪感あるな……色々終わったら行こうぜ」
「ふふっ、あぁ、楽しみにしてるぞ」
取り敢えずデートに誘うのは後だ、しかし必ず誘おう。
そう思いながら俺は会議室を出て、仕事に取り掛かる。
このクソ暑い中、仕事はあまり捗らなさそうだ。
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3日後
「整れェェェェェェェェつ!!!!」
バイエライドFOBの広場に、教官の怒号が響き渡る。
レジスタンス達に必要な物資を支給し、数グループの訓練が始まった。
彼らが身につけているのはCRYE PRECISION G3コンバットシャツとG3コンバットパンツ。
迷彩パターンは同じだが、色が若干異なる。
これは"マルチカム・アリッド"と呼ばれる、マルチカム迷彩のバリエーションの1つだ。マルチカム迷彩の砂漠対応型で、バイエライドやジャララバードの様な砂漠の様な地形で迷彩効果を発揮する。
他にも3Cデザートや他の迷彩も検討したが、本部の部隊がマルチカムなのにも合わせてマルチカム・アリッドにした。
これに合わせてプレートキャリアベルトなども可能であれば、マルチカム・アリッドにして行くつもりだ。
まずは先鋒として400人がここ、バイエライドにて訓練を始める。
また、訓練設備のあるベルム街の本部基地でも200名の訓練生を受け入れる。
1度に600人の訓練生を受け入れることが可能となり、3回で殆どのレジスタンスがガーディアンの兵士になる事が出来る。
しかし全てのレジスタンスがガーディアンになる為には、1年程の期間を要する。これは決して短い時間ではない。
そして"教える側"の人員だが、バイエライドFOBに約200人の教官からなる"教育中隊"を発足させた。
これは俺がスマホで召喚した人員だ。
俺がFOBの維持管理の為に召喚したのは以下の通り。
・教育中隊200人
・基地警備教導隊40人
・基地業務隊200人
今のバイエライドには、レジスタンス以外のガーディアンが440人駐留している事となる。
この440人が、ガーディアン"西部方面隊"を育て上げる召喚者の正規ガーディアン隊員だ。
「ヒロト、第1次帰還隊から入電。"現時点で異常は無し、宿泊地到着予定時刻に変更無し"だってさ」
「ん、そうか。無事でよかった」
隣にいるエリスが無線で受け取った報告を上げてくる。
こちらに展開していた本隊の内、複数の部隊が撤退を開始した。
今回は機甲部隊の90式戦車が4輌の1個小隊と、砲兵隊が3個射撃中隊18門。そしてラプトル達のストレスも考え、K9小隊からの撤退だ。
明日は更に第2歩兵小隊が撤退する事になっている。
航空部隊は、既に200人の本部基地で訓練をするレジスタンス達を乗せて基地へと戻り、西部方面隊になるべく教育を始めている。
「そうだ、ブラッドレーのIFV小隊は、ここに残すんだってな?」
「あぁ、彼らには残ってもらう。彼方にいても彼らの活躍は少なくなってしまうし、ここの部隊に機械化歩兵の戦闘を教えたい、というのもあるからな」
そう、本部部隊のIFVを89式装甲戦闘車で統一した為、もう1種類召喚していたM2A3ブラッドレーIFVの4輌を西部方面隊付の部隊編成に組み込んだ。
彼らも難色を示す事は無く、荷物を取りに基地に帰ったら直ぐにこちらに移籍してくれるという。ありがたい限りだ。
ブラッドレー小隊の学院には、西部方面隊の盾となり矛となり、足となって欲しいと思う。
「……彼らも1人前の兵士に育ってくれる……間違いないよ」
「ふふっ、お父さん気分か?」
「あぁ、それに近いかもしれないな?……そうだ、俺達が撤退するまでの間、バイエライドを見て回らないか?」
「デートのお誘いか、あぁ、一緒に見に行こう」
最近は忙しかったので、エリスとデートに行く事にしよう。何か良いものが見つかるかもしれない。
俺はそう思いつつ、準備をしに宿舎へと戻って行った。
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バイエライドより北西へ10km、ヴェレット。
砂漠は途切れ、ここには平原が広がっている。
この平原の更に北西5kmに街があるが、この街は公国兵の手に落ちていた。
「バイエライドに入る予定が、ここに来てしまうとは……」
そうぼやく女性は、アレクシア・ルフス・グライディア。
グライディア王国の第3王女であり、国王からガーディアン視察の命を受けた彼女は今、この平原の南東に騎士団を展開していた。
ボヤく理由は、この街にガーディアンは居ないからである。
途中の崖崩れで北周りのルートを取らざるを得ず、彼女達がバイエライドに辿り着く前に公国軍と接敵、追い掛けた結果、ヴェレットの街に辿り着く事になった。
「仕方ないです。国の有事とガーディアンの視察、国王陛下からの命ですが、国の有事なのですから」
「分かっている、しかし、こうも予定が崩れると……」
アレクシアはバイエライドの方角に視線を投げるが、今はそれどころではない。この平原で、彼女ら王国軍と、敵である公国軍は戦端を開くのだから。
「とにかく、我々王国軍が全力で、我が王国の領土を取り戻す!」
「「「応!!」」」
彼らが気合が入っている理由、それは王国軍の中でもかなり練度が高い部隊の1つを連れてきたからだ。
"13人の戦士"
そう呼ばれる王国軍の精鋭の1人、セルダ・ルキタニアは、槍兵隊の隊長を務めている。
2万を超える軍勢、その先頭を行く"青槍のセルダ"と呼ばれる槍使いだ。王国軍の精鋭が投入された事で、士気も上がっている。
その青く輝く槍の先はどんな魔物をも貫き、どんな敵も近付けさせなかったという。
「さぁこい、公国軍よ。我々王国軍が相手だ」
アレクシアは自らに気合いを入れる意味でそう言い、ヴェレットの方を睨みつけた。