第138話 ジャララバード夜戦
02:00
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ
アラームが心地よい睡眠から、意識を強制的に引き上げる。
引っ叩く様にアラームを止め、ベッドの上で大きく伸びた。つま先から頭の上に伸ばした指先までググッと、足首がポキポキっと鳴る。
そのまま腰を回す様に曲げると、釣られて背骨がバキバキッと景気良く鳴る。
起き抜けの意識が気持ちいい、このまま微睡みの記憶の中に溺れてしまおうか……
と、思ったが、そうもいかん。作戦中なんだから。
部屋のドアがノックされ、向こうから声が聞こえてくる。俺の仲間達の声だ。
「ヒロトさん、起きてますか?」
「あぁ、起きてるぞ」
ヒューバートの声に応えて腹筋の要領で起き上がり、外してあった1stラインのベルトを身につける。
ハンドガンのマガジンを左腰のマグポーチに入れ、M4のP-MAGをFASTマグポーチに差し込む。
頭の中でロックンロールを流しながら準備をすると、自然とテンションも上がってくる。
Princeton Tec REMIX PROというLEDライトを首から下げ、自分のバラックから出る。
外は真っ暗だが、当たり前だ。午前2時、同時に砂漠の夜はかなり冷える、と感じる。顔を洗う水が冷たい。頭も水を被っておこう。
タオルで顔と頭を拭く、意識もさっぱりした。
「ヒロトさん、コーヒーどうです?」
声を掛けてきたのはグライムズだ、紙コップを手渡してくると、それを受け取る。
「ありがとう、今日も大変になるが、頑張ろう」
「ええもちろん、また帰って来たら美味いコーヒー用意しますよ」
俺は笑いながら、紙コップの中の黒くて苦いコーヒーを飲む。朝の仕事前、濃いコーヒーを飲むと、眠気も覚めてくる。
コーヒーを飲みながら、携行のチョコバーを齧る。とにかく02:30までに装備を整えなければならない。
チョコバーをコーヒーで流し込み、飲み終えた紙コップを握りつぶしてゴミ箱に放り込む。
「ありがとう、今日のコーヒーも美味かった」
「いえ、またいつでも言ってください」
グライムズも用意の為、バラックの自分の部屋に戻って行く。
部屋に戻ってJPC2.0プレートキャリアを身に付け、CQB-Rに換装されたM4をスリングから肩にかける。
バラックから待機室に移動すると、補給物資がテーブルに置かれていた。
ポーチに手榴弾を突っ込み、P226のマガジン3本に9×19mmパラベラム拳銃弾を詰めていく。
「9mm用のマガジン装弾クリップとかあればいいんだけどなぁ……」
エリスが俺の隣でそう呟きながら9×19mm拳銃弾を手で入れていく。
5.56×45mmや7.62×51mmのライフル弾にはマガジン装填用のクリップがあるのだが、9×19mm拳銃弾をハンドガン用マガジンに入れるクリップは今の所無く、手で込めていくしか無い。俺が知らないだけか?
3本のマガジンを満タンにし、2本をマグポーチに、1本をハンドガンに挿し込んでおく。
「さて、ライフル弾を……」
「あ、第1分隊はこっちだ、来てくれ」
5.56×45mmNATO弾を手に取ろうとした第1分隊を呼ぶ、今回は実戦テストも兼ねて、第1分隊のみ弾薬を変える事になっている。
今回の夜戦で使うライフル弾は、「ダイエットに失敗した7.62mm弾」の様な形をしていた。
「ヒロト、これが新しい弾か?」
「あぁ、そうだ。実戦テストも兼ねて、今回の夜戦では第1分隊のみ、この弾を使ってもらう」
そう言って俺が召喚しておいた弾薬は、7.62×35mm .300BLK弾。
米陸軍特殊部隊で実際に使われており、正式には.300 AAC Blackout弾。5.56×45mmNATO弾よりもパンチ力のある弾で、薬莢のリム径が5.56×45mmNATO弾と同じなので、同じSTANAGマガジンに30発込める事が出来る。
何より今回特筆すべきなのは、.300BLKの亜音速弾の消音性だ。
減音器と併用すれば、かなりの消音性が得られる。
もちろん亜音速弾なので射程距離はだいぶ落ちてしまうが、報告では今回の戦闘での平均交戦距離は、おおよそ100m程だと言うので、問題は無いだろう。
ジャララバードの入り組んだ地形が、近い交戦距離を生み出しているのだ。
分隊員人数分のアッパーレシーバーを召喚、バレルとボルトはもちろん.300BLK弾仕様にしてある。
「全員レシーバーをこれに交換してくれ」
分隊8人にそれぞれ.300BLK仕様のレシーバーを手渡す。
各々のM4がピンを2本抜き、アッパーレシーバーを外す。
前部のピンで固定した後、スイングダウンさせる様にアッパーレシーバーとロアレシーバーを合わせ、後部のピンで止める。
何度かチャージングハンドルを引き動作を確かめ、問題ないことを確認すると、M4のアッパーレシーバーに取り付けられていたスリングスイベルや光学機器、ライトなどを.300BLK用のレシーバーに移し替え、減音器を銃口に取り付けた。
既に何度か撃っているので、射撃に関しては問題ないだろう。
交換した隊員は、アッパーレシーバーを自室に戻し、マガジンをポーチに入れていく。
ライフルやプレートキャリアのセットアップは各自自由に決められる為、取り付けているポーチなどは様々だ。
俺はフロントのフラップ付きポーチに3本、左手カマーバンド内側に1本、そしてベルトのFASTマグポーチに1本、そしてM4に入れる1本の計6本が標準のスタイルである。
「心なしか、プレキャリが重く感じるな……」
「新しい弾が重いからな……」
JPC2.0を身に付けてそう漏らすエリスに答えながら被るFAST"ドラゴン"ヘルメットには、GPNVG-18複眼型暗視装置を取り付けており、完全に夜戦仕様だ。
準備を終えた隊員がぞろぞろと移動、外に出る。
エリス、エイミー、ヒューバート、グライムズ、アイリーン、ブラックバーン、クレイ。全員いる、装備も問題なく、全員のM4が.300BLK弾仕様に換装されており、ヘルメットにはGPNVG-18暗視装置が付けられていた。
「第1分隊、全員集結」
「第2分隊、全員集結」
「第3分隊、全員集結」
「第4分隊、全員集結!」
「第1狙撃小隊、各分隊異常無し!」
俺を含めた各分隊長が小隊長の健吾に報告を上げ、出撃準備完了を伝えると、健吾は頷いて一歩前へ出て全員に声を向ける。
「これより朝にかけて、ジャララバード全域を掌握する夜間作戦を行う!行政区から、工業区、商業区、居住区を順に制圧、ジャララバードをレジスタンス達の手に返す!それが俺達の仕事だ。街を取り返し、全員帰還せよ。それ以外は許可出来ない!!」
「「「Sir!Yes Sir!」」」
全員の声が重なる、最初の訓練の様に、腹から声を張り上げた。
「クァラ・イ・ジャンギー要塞からの砲兵の支援もある、弾薬はスター隊に補給させるので、適宜要請を行え。作戦開始!」
掛け声と共に、それぞれの分隊長が動き出す。第1分隊を率いる俺は皆に振り向き、目を合わす。
……何様だと思われるかもしれないが、皆いい目をしている。強い意志と覚悟が篭った、いい目だ。
「初弾装填!」
俺がそう言うと、俺を含めた全員がホルスターからP226を抜く。
一旦マガジンを抜き満タンになっていることを確認すると、マガジン戻してスライドを引く。しっかり装填されているかをスライドを少し引いて確認し、それが出来たらスライドを戻してホルスターに入れる。
続いてM4のマガジンに弾が入っている事を確認し、チャージングハンドルを引いて離す。.300BLK弾が薬室に送り込まれ、先程同様初弾を確認して安全装置をかける。
今回はグライムズとアイリーンの擲弾手はFN Mk.13EGLMをスタンドアローンにしており、単体で射撃が可能なグリップとストックを取り付けている。
分隊支援火器手のヒューバートとエイミーはいつも通りM249MINIMIで、ヒューバートはpara仕様だが、2人とも減音器を付けている。
ガンナーは今回は支援射撃に徹して貰う事になる、と言う事だ。
「皆、準備いいか?行けるか?」
呼び掛けると、全員が頷く。よし、俺も準備万端だ。
「行くぞ!」
俺はそう言ってヘルメットに取り付けられた蜘蛛の複眼の様な暗視装置を下げ、第1分隊8人を率いてクレイモアとバリケードが取り払われた正門から堂々と司令部を出た。
司令部周辺、軍事区を完全に制圧したとはいえ、潜んでいて今頃出て来た敵などに遭遇した場合でも戦える様に警戒しながら進む。
狭い路地を進む8人に、交わす言葉は無い。
ただ1つ、ジャララバードの完全制圧と言う目的を果たす、それだけがこの8人の中にある。
俺はエリスの様に魔術が使える訳でも、エイミー達の様な忠誠心がある訳でも無い。ただ変な端末を持った一般人だ。
だからこそ銃の腕を磨き、動きを磨き、1人で出来ない事は仲間を頼り協力する。
警戒しながら進むが敵の姿は無く、程なくして建物と建物の間の大きな土壁に辿り着く。俺達が軍事区を閉鎖するときに構築した土壁だ。
ここから外に出る為には、この壁を登るか、穴を開けるかしなければならない。
俺はPTTスイッチを操作し、司令部の小隊本部を呼び出す。
「HQ、HQ、こちらA1-1、東壁に到着。現在位置の周辺に敵は見えるか?」
小隊本部は今、上空にRQ-11レイヴンを飛ばしている。恐らくそれで見えているだろう。
『A1-1、こちらHQ、周囲に敵影はなし。だが建物の中に潜んでいる可能性もある、気を付けろ』
RQ-11レイヴンは偵察機、上空からの様子は探れるとは言え、流石に建物の中や屋根の下の様子などは分からない。
しかし、屋根のない場所、即ち大通りや路地には少なくとも敵影は無い、という事だ。
新しい場所を制圧しに行くのと、その部隊が高練度という情報からくる緊張感……いつもとは違うが、いつも通りやればいい。
「クレイ、頼む」
「了解、退避を」
クレイは全員にそういうと、全員がクレイの近くの家や遮蔽物に隠れる。
彼女も壁から距離を取り、特異魔術によって背負っていたAT-4CSを前に回して発射。
鈍い爆発音と共に土壁が吹き飛び、大量の土砂が外側にも内側にも飛んでくる。
「うわっ……!ゲホッ、ゲホッ!」
隠れていた家の中まで凄い埃が舞い込み、思わず咳き込んでしまう。
ヘルメットや肩に積もる土を払い外に出ると、人が余裕で通れそうな程の穴が空いていた。
クレイは発射し終えて空になったAT-4CSのランチャーをその辺に投げ捨てる。
「グライムズ!アイリーン!グレネードを!ヒューバートとエイミーは続いて援護射撃!」
「了解!!」
「エリス!ブラックバーン!クレイ!行くぞ!」
クレイの開けた穴からグライムズとアイリーンが40㎜グレネードを発射、スタンドアローンのMk.13EGLMから気の抜けたような音と共に放たれたM441高性能炸薬弾、正面に展開しているであろう敵を丸ごと吹き飛ばす。
続いて穴から分隊支援火器手のヒューバートとエイミーが射撃、牽制する。
シパパパパパッ!シパパパッ!
初速が音速の3倍にも達する5,56×45㎜NATO弾と減音器との相性は良くは無く、鞭を鳴らしたような銃声を響かせる。
「敵は正面より10時の方向!数3!待ち伏せだ!」
「こっちも来てる!正面より2時方向!数2!」
「抑えてくれ!渡る!」
「了解!」
暗視装置越しに敵を見つけた2人のガナーの指切りバースト射撃による援護の中、俺達は道に飛び出した。俺の後をエリス、ブラックバーン、クレイ、そしてグライムズとアイリーンが続く。
道に出ても止まることはなく、一気に走り抜けて向かいの路地に飛び込む。ここから先はジャララバードの行政区。暗がりだが、月明かりと星明りだけでも十分だ。
蜘蛛の複眼のような暗視ゴーグルが、その小さな光を数万倍にも増幅してくれる。
旧式のアクティブ式ではないので逆探知されにくく、強い光を浴びてもオートカットオフしてくれる。
極めつけに、視野角がかなり広い。従来の暗視装置よりも広い視野を提供してくれる。米海軍特殊戦開発グループや米陸軍デルタフォースの特殊戦第1層オペレーターが使っているだけのことはある。
夜中、真っ暗な路地を警戒しながら進む。俺とエリスが先頭に立ち、ヒューバートが殿だ、市街地戦では前後左右だけでなく、上階や足下にまで気を配らなければならない。
爆音を聞きつけてか、ニルトン・シャッフリル銃を持った公国兵が3人程出て来たが、構えをとっていない。恐らく俺達がここまで浸透しているとは思ってもいないのだろう。
「___!」
公国兵が声を上げる前に引き金を引く。パスパスッと軽い音は、亜音速弾が減音器に吸収された銃声だ。
十分な運動エネルギーを与えられた.300BLKは公国兵の胸甲を容易く食い破り、内臓をズタボロにしていく。近距離でのパワーはロシアの狙撃銃、VSSやAS-VALで使われる9×39mm消音弾並みだ。
.300BLKの反動は5,56㎜NATO弾よりはあるが、AKなどの7,62×39㎜ロシアンショート弾など同口径の弾より遥かに撃ちやすい。
そして初速が音速を超えないため、減音器との相性も抜群だということも、たった今実演された。
セミオートでダブルタップ、パンチ力の高い弾丸は公国兵の頭をごっそり吹き飛ばした。
3人の公国兵が死体に変わるまで、僅か2秒。
敵が来た方向を厳重に警戒しつつ、他方向への警戒を怠ることはない。
ニルトン・シャッフリル銃を持った公国兵が何事かと飛び出てくるが、構えを取る前に始末する。
パスパスッ
減音器との相性が恐ろしく良い.300BLKが、ほぼ無音のまま公国兵を貫いてその命を容易く奪う。
行政区の中心まで進むと、一際大きな石造りの建物を発見した。
「町役場、みたいだな」
通りの向こう側を観察、表口の様だが、当然警備がいる。
暗視装置越しの緑色の世界の向こう側、4人の警備がニルトン・シャッフリル銃を構えているが、どうも人間ではない様だ。
「獣人か?」
頭が完全に犬だったり、猫耳が生えていたりする兵士が立っている。
俺は分からず首を捻ったが、エリスはあぁなるほど、と言いたげに頷いた。
「獣人は夜目が効くんだ、だから夜間の哨戒には感覚が鋭いし夜目が効く獣人が立たされる事が多い」
「なるほどな……」
確かに獣人の目を見て見ると、暗闇で光っているのが分かる。
エリスの小声の解説に、俺も納得して頷いた。
ここは異世界、人間以外にも、獣人やエルフ、魔人など人間では無い種族もいる。
「一旦後退、行政区に浸透した味方部隊に、表口を攻撃させる」
俺達は暗闇に紛れて後退、路地の奥に入り無線を使う。
「A1-1より全ユニットの中で、行政区役場の表口に最も近いユニットはあるか?」
無線にそう呼びかけ返答待ち、すぐに返事は来た。
『こちらA4-1、そちらに向かっています』
「了解4-1、表口を攻撃して欲しい。なるべく派手に陽動してくれ。その隙に裏口から突入する」
『了解、表口近くに到着。攻撃まで20秒、アウト』
そこで通信が切れる、振り向き皆に頷くと、全員が頷き返した。行動開始だ。
向かいの路地、出て正面の建物の少し右側に裏口がある。
攻撃開始までの20秒が異様に長く感じられた。
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スティール視点
暗視装置というのは便利な物だ、ヘルメットは少し重くなるが、獣人と同じか、それ以上の視界を得る事が出来る。
時計を確認、攻撃まで15秒。
表口、石造りの建物で、周りより少し豪華な作りだ。
目的はヒロトさんの町役場突入支援のための陽動、俺達が敵を引きつけ、第1分隊が役場を内部から掃討する。
8人の分隊を2個班に分け、公国兵の効率的な撃破を狙う。
ガーディアンに加入してから戦いの様相も変わったな……と、M4のセレクターをセミオートに切り替えながら思う。
魔術や剣の技術を競う「個人能力主義」から、最小戦闘単位を4人として、8人1個分隊で連携して戦う「集団戦闘主義」へ。
使う武器も剣や槍などの近接武器から、ヒロトさん達の異世界の"兵器"による遠距離からの戦闘へ。
なるべく派手に、と言う注文を受け、擲弾兵のアレックス・オーディン軍曹に、自分の身に付けているJPC2.0プレートキャリアのバックパネルポーチからMk.13BTV-EL スタングレネードを取り出して貰い、手渡される。
別働隊も同じ対応をしているはずだ。ピンを抜き、レバーは離さない。
内向きに付けた腕時計を確認、開始まで5秒、4秒、3、2、1……
0、のタイミングでMk.13BTV-ELスタングレネードを投げ入れる。
手を離すと同時にレバーが外れ、作動が開始される。
光を見ないように隠れて、暗視装置が壊れないように目を逸らした。
「何だ______」
公国兵のそんな声が聞こえた瞬間、凄まじい大音響が周辺に鳴り響いた。
攻撃用グレネードよりも高く、耳の奥に響くような音だ。
しかし、俺達はヘッドセットをしている為、耳が麻痺するような事は無い。
それを合図にするかのように、俺達は一斉に表口に展開する公国兵への射撃を開始した。
減音器を取り付けているとは言え、5.56×45mmNATO弾は超音速弾だ。
シパァン!と言う鞭を打つような銃声と共に5.56mmの弾丸が音速の3倍で銃口を飛び出し、敵である公国兵を貫く。
目も耳も感覚が鋭い獣人は突然の閃光と大音量で感覚を潰され、まともな反撃が出来ないままに銃弾に倒れていく。
他のメンバーも射撃を開始、公国兵との「異世界の銃撃戦」だ。
減音器に抑えられたとは言え、高く響き公国兵が気づくのも当然の銃声。
最初に混乱から立ち直った人種族の部隊から、弾丸が飛んでくる。
「あいつらか!レジスタンスの犬ども______ぎゃっ!」
犬はお前だろ、ブーメランぶっ刺さってんぞ。
M4に乗せられたAimpoint COMP M3のダットが緑の世界で光る。その向こう側に敵を合わせ、引き金を引く、ダブルタップだ。
弾薬は無駄に出来ないが、敵も昼間の交戦でこちらの兵器を理解したのか、銃弾の貫通しない塀の陰へと隠れる。
「バーナード!押さえ込め!ロベルト!フラグを!」
「了解!」
「Yes sir!」
M249射手のバーナード・ブライアン上等兵が隠れている壁際へと指切りバーストで射撃し、ライフルマンのロベルト・オクタンティス伍長がベルトに取り付けたフラグポーチからM67破砕手榴弾を取り出し、ピンを抜く。
「フラグアウト!」
ロベルト伍長はそう叫んでM67を投擲、すぐに自分の遮蔽物へ隠れる。
ごとん、と銃声の中、重い手榴弾が石畳に落ち、炸裂。
184gのコンポジションB炸薬が無数の破片と爆風を生み出し、その辺の公国兵をまとめて吹っ飛ばした。
近距離で破片をモロに受けた公国兵は、胸甲を貫いた破片に身体を切り裂かれ、壁に縫い付けられる。
俺達は第1分隊の気を引くべく、敵を挑発し続けた。
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ヒロト視点
「始まったな」
スタングレネードの大きな破裂音と鞭を打つ様な銃声で、第4分隊の攻撃が始まった事を知る。
裏門を警備していた公国兵にも動揺が走り、彼らは目を見合わせる。
「お、おい。表口で攻撃だぞ」
「けど、俺達が持ち場を離れる訳にも……」
「そもそも奴ら、俺達が持ってる銃に似てるのを持ってるくせに、何であんなに連射出来るんだよ!?」
どうやら彼らは、昼間の戦闘でもガーディアンと交戦したらしい。
と、彼らの中で最も階級が高いであろう獣人が次々に指示を出す。
「大声を出すな、狼狽えたら負けだ。2人を残し2人は表門の増援に行け。お前とお前、表門へ」
「り、了解しました!」
犬顔の公国兵は2人組がニルトン・シャッフリル銃を手にし、施設内に入っていく。
人数が減った今がチャンス、ハンドサインをエリスに送る。
【俺は右側の指揮官をやる、お前は左のやつを】
エリスはこちらを向いて頷くと、M4をいつでも打てる様に構える。
俺もM4を構え、NVモードに設定した EOTech553ホロサイトのレティクルを覗き込む。
カウント、3・2・1……
俺は静かに壁から銃口を出して照準を合わせ、引き金を引く。
パスパスッ!
.300BLKの静かに押さえられた銃声だが、初速は秒速310m。いくら鎧を着ているとは言え、それを食い破って公国兵を殺傷するには十分だった。
声を上げる暇もなく、公国兵は糸が切れたマリオネットの様に崩れ落ちる。
「クリア」
「クリア」
2人の射殺を確認すると、音を立てずに近付く。念の為に倒れた公国兵の頭に.300BLKを1発撃ち込んでとどめを刺す。
「火力班はここに残って敵の侵入を食い止めろ。機動班は内部を掃討」
「了解」
なるべく音を立てない為指示は最低限、トレッキングシューズが石畳を踏みしめて静かに門から侵入する。
火力班は分隊支援火器のM249射手のヒューバートとエイミー、そして擲弾手のグライムズとアイリーン。
機動班はライフルマンのブラックバーンとクレイ、副分隊長のエリスと、俺の4人。
内部を掃討する為、俺達は静かに役場の内部へと侵入した。