第135話 軍事区封鎖
ストルッカ視点
右利きの俺は右手でトリガーを引き、左手はハンドガードへ。MOEハンドガードに取り付けられたMVGを掴み、銃口を敵の方に向けてセミオートで射撃していく。
EOTech EXPS3ホロサイトで狙いを定めた端から、面積の大きい胴体、1撃即死を狙える頭を撃っていく。
引き金を引く度に肩にかかる反動、本来なら頭の中に響く銃声だが、FAST"ドラゴン"ヘルメットに取り付けたCOMTAC M3ヘッドセットのノイズカット機能に遮断される。
俺たちが降下したのは、軍事区と工業区、行政区、居住区の区画が角を合わせる十字路だ。
第1分隊は司令部に降下して制圧、橋頭堡にし、ガーディアン司令所と補給所として確保する。
その間に俺達第3分隊は軍事区を取り囲む壁となって、外から軍事区ち入る敵、中から逃げて出てくる敵をシャットアウトする必要がある。
同じようにMH-6Mリトルバードによって屋上に降下した第2狙撃分隊のアンナ、エル、ローレル、シェリーが、L115A3やMk.12SPR、SR-25で狙撃支援を行っている。
俺は敵の銃弾の貫通しない石造りの壁に身を隠し、膝撃ちの姿勢を取ったままセミオートで敵を抑え込んでいた。
M4の銃口から飛び出した5.56mmNATO弾は音速の3倍の速度で50m先の敵を仕留め、胸板に命中した敵から血が跳ねる。
基本的な射撃方法はダブルタップ、狙いやすい胴体を狙って撃つのだ。さらにトドメにヘッドショットを食らわせる、「胸に2発、頭に1発」が基本だ。
そして俺達は分隊で動く、俺達の主力ライフルであるM4A1カービンの他に、圧倒的な火力を持つM249MINIMI PIPや、Mk.13EGLMグレネードランチャーを持つ隊員もいる。
個々の長所を最大限に生かし、集団になることで短所を補い合う。
それが俺達が付いていく団長であるヒロトさんが掲げ、俺達が実行する「集団戦闘主義」である。
そんな集団戦闘主義の俺達だが、今現在置かれている状況はあまり良い状況とは言えない。
「装填!」
M4が弾切れを起こし、ボルトオープン。マガジンをリリースしてダンプポーチに入れ、身に付けたプレートキャリアの真ん中のマグポーチから1本、P-MAGを抜いてM4に挿し込む。
ボルトストップを押して、再びセミオートでの射撃を開始した。
既にダンプポーチの中に溜まったマガジンは3本、これで4本目で、残りのマガジンはポーチに2本、弾数にして60発しか残っていない。
「准尉、ここから離れましょう!限界だ!」
同分隊同班のニコラ・ウィルキンス軍曹がセミオートでM4の射撃を続けながらそう叫ぶ。
ニコラの言う通り、敵が勢いを失わない状態であり、押し切られるのも時間の問題であると言うのは明白だ。
1番の問題は、先程も確認した残弾数。恐らく同じペースで射撃している分隊員は、そろそろ弾も尽き始めて来る頃合いだろう。
俺の足元も空薬莢だらけになって来た、そろそろマズい。
「装填!」
その声に振り向く、声を発したのは、分隊支援火器手のウィンディ・ソー伍長である。
彼はM249のフィード・カバーを開け、布製弾倉を外して再装填にかかる。
M249MINIMIは火力が凄まじいが、その分ライフルや拳銃に比べ再装填に時間がかかる。
再装填中は無防備になる為、分隊支援火器の火力は出せない。つまり、再装填中は分隊の火力の低下に直結するのだ。
「援護するぞ!」
ウィンディが体に巻いた200発弾帯を外し、再装填している間にセミオートの火力が増加する。第2狙撃分隊も今までにない勢いの猛射を、建物の屋上や2階部分から浴びせていた。
レーム・ファルマン兵長がFN Mk.13EGLMで40mm擲弾を発射、着弾を合図にするように、ウィンディが装填の終わったM249を構え直す。
「装填完了!」
歩兵12人分の火力が復活、敵の火点を見つけ次第、5.56mmNATO弾の暴風を吹きかける。
分隊支援火器の火力は復活したが、こちらのマガジンの残弾はかなり減ってしまった、多めに見積もって残り10発前後だろう。
航空支援も、AH-6Mじゃ限界がある。
何とかしないと……と思った時、ふと閃いた。
「ルイズ!お前GPS誘導装置持ってたよな!?」
副分隊長のルイズ・バルスターにそう叫ぶ。
「持ってます!」
「貸せ!」
ルイズがカマーバンドに取り付けているユーティリティポーチからGPS誘導装置を取り出し、こちらに投げ渡す。
片手でキャッチし、電源を入れながら無線のPTTスイッチを押す。
「降下した全分隊へ告ぐ!こちらA3-1!敵の攻撃が激しい!これより軍事区の外縁沿いに砲兵部隊の支援砲撃を要請する!」
『こちらA4-1!ストルッカ本気か!?』
応答が来た、第4分隊のスティール隊長だ。
「あぁ、本気だ。そっちも結構キツいんじゃないか?」
スティール達第4分隊が降下した北の城門方面を見ると、敵の勢いが増しているのが銃声で分かった。
『それはそうだが……分かった、頼む!』
「了解、全Aユニットへ、通りから顔を出すなよ」
降下した分隊に注意を呼びかける、ヒロトさん達第1分隊は中央の司令部にいるので、問題はない。
それを確認すると、無線の周波数を切り替えて砲兵隊に繋いだ。
「砲兵隊へ、こちらA3-1、砲撃支援を要請。GPSで誘導、座標を転送する。軍事区を囲む通り沿いに敵が展開している、これを叩いてくれ!」
『ブラストバーンHQ、了解。エクスカリバー、ブラストバーン3、4が射撃する』
砲兵中隊の本部管理小隊が答えてくれた、この声は、小野寺大地中佐だ。
そして______
『発射』
5km離れた砂漠のど真ん中で、99式自走155mm榴弾砲が咆える。発砲のエネルギーは周囲の空気を沸き立たせ、空振は砂を舞い上げる。
『弾着10秒』
弾着迄のカウントダウンが始まる。
『9、8、7、6、5、4、3……だんちゃーく、今!」
今、と同じタイミングで、軍事区と行政区、工業区、居住区を隔てていた道が爆ぜた。
建物に隠れていても感じる凄まじい衝撃波、銃弾並みの速さで飛び散る破片が、石造りの建物に跳ねて"チュン、ピュン"と音を立てる。
今し方発射された砲弾は、M982エクスカリバーと呼ばれる砲弾だ。
GPSによって誘導される"誘導砲弾"であり、針に糸を通す様な精密な砲撃が可能になっているらしい。
らしいと言うのは、ヒロトさんから聞いた話なので仕組みはよく分からないからだ。俺は砲兵じゃなくて歩兵だし。
「……っ、ふぅ、危ねぇ、衝撃波のせいで危うく戻すところだった……」
『すまねぇ、俺は戻した』
『おいおい、勘弁しろ。誰もお前のお土産なんて見たくは無いだろ』
どうやら誰かが衝撃波の影響で吐いたらしい、それを揶揄う無線が飛び交う。
今の砲撃で敵の抵抗がほぼ無くなった、目に見えて敵の勢いが衰え、第2射を恐れてか隣の区画から出てこなくなった。
砲兵隊に問い合わせると、第2射の用意は出来ているらしい。すぐに射撃するかと聞かれたが、俺はNoと答えた。
この勢いだ、すぐに敵の抵抗も止まる。
言いながら砲撃の残響の中、車輌が接近して来る音をヘッドセット越しに捉えた。
直後、通りに滑り込んで来たのは、タイヤで走り、戦車の様な砲を乗せた車輌。16式機動戦闘車だ。
LAV-ATと共に、軍事区外縁通りを進んでいる。
「対装甲機動中隊だ!」
16式機動戦闘車が敵の潜む建物へHEAT-MPを撃ち込み、LAV-ATもこちらに向けて射撃して来る敵が隠れた部屋の窓へとTOW2B対戦車ミサイルを発射し、爆死させる。
対装甲機動中隊の配置完了とほぼ同時に、小隊本部からの通信が入った。
『AHQより封鎖中の全ユニットへ、状況を知らせよ』
小隊長からだ、声からしてケンゴだろう。
『A2-1、損害無し。されど弾薬消費量は多く、継戦能力低下』
『A4-1、損害無し、そろそろ弾薬が尽きて来た、補給に戻らないとマズイです』
第2分隊、第4分隊も同じような状況だと言う。
「こちらA3-1、損害無し、弾薬をかなり消費してしまった」
状況を伝えると、続いて狙撃分隊からも状況報告が入る。
『こちらS1-2、監視続行可能だが、弾薬消費の為、戦闘能力低下中』
『S1-3、監視続行可能なれど、こちらも弾薬の消費が激しく、支援狙撃が難しい』
『AHQ、こちらSHQ。弾薬の補給に戻らないと、支援狙撃も続行不可能になる』
狙撃チームの状況も似たようなものだった、敵の勢いが激しく、射撃回数も多くなり弾薬を消費してしまっているようだ。
『了解、各分隊の弾薬が尽きる前に指示を出す、少し待ってくれ』
小隊本部からの回答は、俺が2発撃ってからすぐに来た。
『総員に告ぐ、本日中のジャララバード全域制圧は放棄。軍事区のみの制圧にシフトする。対装甲機動中隊は軍事区内へ退避、魔術を使える者を各分隊に派遣するので、外縁組は壁を作って軍事区を閉鎖せよ』
ヘッドセットから流れてきた無線に驚いたが、同時に無理もないと思った。
ジャララバードは約1.5km四方の城塞都市、しかも建物同士は密集して路地は狭く、制圧には時間がかかるだろう。
『閉鎖後は残敵を掃討しつつ、司令部へ集合、軍事区を完全に制圧する』
「了解!第3分隊、聞いたな?持ち場を確保し、魔力で土壁を作る。区画内に退避し、距離を取れ!土系魔術が得意な奴は通路に壁を作って区画を閉鎖せよ!」
『了解』
『了解!』
分隊へ呼びかけた無線から、分隊員の返事が飛ぶ。
対装甲機動中隊も軍事区内への撤収が完了した様だ。
俺も自分が確保した目の前の通路に向けて、手をかざして唱える。
「我が呼び声に応え、大地よ姿を変えて目の前に現せ!土の障壁!」
唱えながら、濃い緑の光がポウ……と灯る、土魔術の光だ。
その光が地面に移り、モコモコ、モコモコ……と地面が蠢いた瞬間、ズドン!と突然その通路を塞ぐように、建物と同じ高さで土の壁が現れた。
かなりの魔力を集中させた為、銃弾など貫通しない丈夫で分厚く、建物と同じ背の高さの壁が出来た。
「ここは封鎖出来た!次行くぞ!」
「了解!」
ライフルマンのニコラを連れて、隣の通路へと走る。
今度は俺が援護射撃に入り、ニコラが壁を作った。
壁が立ち上がる瞬間まで、俺はM4を構え続ける。
壁が立ち上がったら即、次の通路へ。大通りに面した路地への入り口を、軍事区の内側から1つずつ閉鎖して行く。
そろそろ魔力切れも近くなって来た、魔力が切れたら壁が作れない……そう思いつつ4枚目程の壁を立ち上げた時、ヘッドセットにノイズが入った。
『こちらA1-1-2、そちらに接近する』
聞き覚えのある声、ガーディアン加入前に、俺が屋敷で忠誠を誓った人物。
「エリス様?」
『接近する、撃つなよ』
M4を下ろして振り向くと、ヘルメットからはみ出した見慣れた金髪を揺らしながらやって来たのはエリス様だった。
後ろにはエイミーも付いている。
「良くやった、後は私達に任せろ」
「ええ、ありがとうございます。ですが司令部の方は?」
「安心しろ、第1分隊が確保、小隊本部が引き継いで防御を固めた」
言いながら掌を路地に翳し、詠唱、レベル3の俺とは段違いの速度で壁を構築して行く。
第4、及び第2分隊から壁の構築完了の無線が入ったのは、俺達第3分隊が最後の壁を構築した直後だった。
俺の魔力は"残り"3分の1を切ったが、エリス様は壁の構築量からして、"使った量が"3分の1程だろう。
レベル3の魔術師と言うのは、努力だけでも何とかなる。現場の叩き上げの軍人でレベル3の魔術師が居たら、そいつはエリートと言っても良い。
しかし、レベル4、5となれば話は別だ。エリートレベルでは片付けられない並々ならぬ努力に、才能や潜在能力が必要になる。
屋敷でもわかっていたが、エリス様は凄い。俺達が付いていくと決めたお方だけはある。
「さぁ、ストルッカ、走れるか?」
エリス様がこちらを振り向く、俺は力強く頷き呼吸を整えた。
「行きます」
「司令部まで後退!弾薬を補給し休息を取り、軍事区を制圧する!行くぞ!」
エリス様は言うや否や走り出す、エイミーに背後を任せ、全集への警戒を怠らないようにだ。
俺達も同じ訓練を受けている、動きにも乱れはない。洗練された動き、と公領の誰もが言うだろう、と自負している。
しかしエリス様の動きは、更に1枚上をいっていた。
足の運び方、視線の向け方、銃の構え方。
どれを取っても、サマになっている、と言おうか……
おそらく、ヒロトさんの影響だ。
異世界人であり、このM4や拳銃、軍用車などをこの世界に持ち込み、俺達の戦い方を根本から覆してしまった人物。
エリス様は彼の姿に惚れ込み、付いて行けるだけの技術を獲得しているのだ。
しかし、自負がある以上、俺も負けてはいられない。
エリス様の動きを見て、技術を盗み、身につける。
曲がり角ではショートストッキングと呼ばれる、ストックを肩の上に乗せた姿勢でカッティングパイ。
敵がいなければ、敵が出て来てもいいように警戒してM4を構える。
敵が居れば、胸と頭にダブルタップを撃ち込む。もちろんライフルで。
「コンタクトライト!」
右手の路地に敵だ、銃やクロスボウを手にした、公国の鎧を身に付けた公国兵がこちらに向かってくる。
構えたM4の引き金を引く、胸に狙いを定めたダブルタップだ。
クロスボウを持った公国兵の胸から血が跳ね、トドメに頭に1発を撃ち込む。
が、クロスボウを持った敵が仰け反った瞬間、筋肉の硬直で引き金を引いてしまったのか、クロスボウから短く太い矢が発射される。飛んでくるコースは______俺の頭だ。
ガツッ!
「ぐぁっ!」
「隊長!?」
反射で頭を逸らすと、矢はヘルメットに擦り、俺の後ろの壁に当たって砕けた。
それにしてもかなりの衝撃だ……
「大丈夫ですか!隊長!」
牽制でM4を撃ちながらこちらを伺うルイズに手を挙げて無事を伝える。
「あぁ……ヘルメットが無かったら即死だった」
ベルトに取り付けたフラグポーチからM67破片手榴弾を1発取り、レバーを押さえたままピンを抜く。
「手榴弾行くぞ!」
お返しとばかりに敵集団に向けてM67破片手榴弾を投擲、数秒後に爆発し、俺を撃ちやがったクロスボウ野郎の腕がクロスボウごと千切れて飛んで来た。
壁からそっと覗き込むが、奥に敵は見えない。
「Right side clear!」
「了解!行きましょう!」
エリス様達の後を、俺達第3分隊は追って、司令部へと走った。
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ヒロト視点
公国軍の司令部だった建物は、俺達が司令部として使う為に要塞化が進んでいる。
司令部の外の道には、壁をよじ登る公国兵の防止の為に鉄条網を敷き、所々にクレイモア地雷を仕掛けた。
建物の前の広場はヘリポートとして活用、チヌークやオスプレイなら1機、ブラックホークなら2機が並んで駐機出来る。
司令部の裏口は土壁とクレイモアで完全に封鎖、出入りは表門からしか出来ない様になっている。
そんな司令部に転がった公国兵の死体を片付け、通信設備を整え、俺達が司令部として使える様に整備した。
会議室はブリーフィングルームになっており、第1小隊の各分隊長と副長が集まっていた。
「よし、みんな集まったな」
いつものスタイルの戦闘服にJPC、 CRYE Airflameヘルメットを被った健吾がテーブルの上にある地図を指差す。
「事前情報より敵の数が多いのと、想像以上に地形が入り組んでいてな……短時間での制圧は無理だろうと踏んだ。そこでだ」
言いながらジャララバード全域の地図の中の、軍事区を指差して丸く囲む。
「1800時までに軍事区を完全に制圧、その後再び司令部に集合して休息を取り、0230に、行政区方面と工業区方面へと夜間に襲撃をかける」
健吾は地図の上の歩兵の人形を軍事区から、行政区と工業区に向ける。
夜間戦闘なら俺達の得意分野だ、こちらには暗視ゴーグルも航空支援もある。
対して相手は暗闇で同士討ちする危険がある為、「確実に味方がいない方向」にしか飛び道具を使えないし、暗闇で暗視ゴーグルを装備した俺達以上に目が効く奴もいまい。
「第1分隊は南へ向かえ、第2は東を。第3分隊は西へ、第4分隊は北だ。18時までに軍事区を制圧、晩飯までに全員帰って来い。いいな!?」
健吾が檄を飛ばすと、全員が「了解!」と返事をし、各々が準備を始める。
消費した弾薬を補給、M67手榴弾もポーチにねじ込む。
ハイドレーションに水を入れ、ホロサイトのバッテリーも新しいものに交換する。
M4の5.56×45mmNATO弾、P226の9×19mmパラベラム拳銃弾をマガジンに詰めていき、それぞれのマグポーチに戻していく。
「第1分隊!準備出来た者から集合!」
俺の掛け声に準備が済んでいた者は俺の元に集まり、出来ていなかった者が全ての準備を終えた後で集合する。
クソ暑い中冷房も無いので、タオルで汗を拭う。
「体調が悪い奴はいるか?頭が痛い、気持ちが悪くて吐き気がする、関節が痛いその他、素直に報告しなかった奴はここに置いていくぞ」
この暑さだ、水分不足と陽射しで熱中症になってもおかしくない。
が、今のところ報告する奴は居ない、行けそうだ。
「小隊長の命令通り、俺達は南を目指す。1800までに南方を制圧し、ここに戻る!全員生きて帰る、それ以外は許可しない!」
「「「了解」」」
「行くぞ!」
Safariland6378ALSホルスターからP226を抜き、スライドを引いて初弾装填、デコッキングレバーを下げてホルスターに戻す。
M4のチャージングハンドルを引いて離し、初弾を薬室に送り込む。
少しだけチャージングハンドルを引き目視で装填を確認、ダストカバーを閉じる。
EOTech553ホロサイトの電源を入れてレティクルを発光させ、俺達は表門から南を目指した。
表門の前の通りを抜け、8人で路地を抜けて2本目の大通りに出ると、歓迎すると言わんばかりの攻撃が俺達に降り注いだ。
クイックピークでちらりと向こうを確認する、俺達が進む方向の左斜め前の建物の2階、2つの窓から敵がこちらに向けて攻撃して来ている。
1階の1つの窓からも攻撃を受けている様だ。
石造りの壁に銃弾が跳ね、クロスボウの太く短い矢が飛んできて壁に弾かれる。
再びクイックピークすると、キラリと光るものを見た。隣にいたエリスがハッとする。
「RPG!」
エリスが叫ぶと全員が壁から離れる、次の瞬間、壁にフレア・ジャベリンが命中して石造りの壁を削り取る。
「くそッ……どうにかして進むぞ。グライムズ!アイリーン!1階の窓にグレネード撃ち込め!ヒューバートとエイミーは掃射で2階の窓を押さえろ!エリス、クレイ、ブラックバーン。俺と来い!」
俺は脳内でまとめた役割分担を矢継ぎ早に指示し、俺は俺の動きをする。
CQB-Rの狙いを2階の窓に定め、Cクランプで構えてセミオートで射撃。
3発目の5.56mm弾が公国兵の頭を捉え、4発目、5発目と弾丸が公国兵の頭を貫いた。
「グレネード!」
FN Mk.13EGLMを装着したM4を構えたグライムズとアイリーンが、中指で引き金を引く。
ポポンッ!
銃より軽い、気の抜けた音を立てて40mm高性能炸薬弾が飛翔、窓から部屋の中へと飛び込み、爆風と破片を撒き散らして制圧する。
「ヒューバート、エイミー。頼む!Go!」
2人に援護を頼み、ヒューバートとエイミーはM249MINIMIのフルオートを2階の窓に向け、敵の銃兵の頭を押さえる。
俺とエリス、ブラックバーン、クレイの4人は1階の窓から建物の中に飛んで入った。
先程グライムズとアイリーンが撃ったグレネードの影響か、この部屋はまだ空気が暖かく埃っぽい上に、吹き飛ばされた公国兵の死体が転がっている。
公国兵の鎧を蹴り飛ばしつつ、相互援護を途切らせない様にしながら階段を上る。
2階の2部屋、俺はまず、俺が撃った公国兵のいた部屋のドアを開ける。
クロスオーバーの要領で部屋に突入、中に誰もいないのを確認すると、隣の部屋へ。
『クソッタレ!なんだあの銃は!』
『知るか!あんな連射出来る銃なんて初めて見たぞ!』
部屋の中で、公国兵が悪態をついている。
外からは時折M249のけたたましい銃声を響かせながら、今から突入する部屋への攻撃を続けている。
『ヒロトさん、準備いいです?』
耳元のヘッドセットからヒューバートの声が聞こえる、俺はPTTスイッチを1度押して離し、OKを伝える。
『カウント、3、2、1、0』
0、でMINIMIの銃声が止まる。俺はその瞬間にドアを蹴破り、部屋の中へ一気に突入する。
「ただいまー!」
突入と俺の声にビビった公国兵が慌てて銃を向けるが、銃身の長いニルトン・シャッフリル銃の取り回しの悪さのせいで手間取る。
俺はその隙にCQB-Rを構え、セミオートで公国兵を撃った。
4m程の距離で5.56mm弾のダブルタップを2度受けた公国兵は、胸と頭から血を流しながら倒れる。
エリスとクレイも部屋の中に突入し、訓練の成果を発揮、目にも留まらぬ素早さで部屋へ突入、射撃。銃とクロスボウで武装した公国兵を始末して行く。
「クリア!」
「クリア!」
「オールクリア!」
部屋の掃討が完了、窓の外へ合図する。
「ヒューバート、そちらが1-1-2だ。2ブロック先で合流する」
『了解、幸運を!』
「ブラックバーン、出るぞ」
「了解、出ていいです」
ヒューバート達に通信を入れ、扉の向こうでバックガンをしていたブラックバーンと合流する。
「グライムズ達とは2ブロック先で合流する事になった、俺達はそこまで進み、合同で軍事区の制圧に当たる」
全方位を警戒しつつそう言うと全員が頷き、建物を出る為階段を降りる。
裏口から出ると、かなり狭い路地だった。
「うわっ、クソ、狭いな……」
予想はしていたが、かなり狭い、人がすれ違うスペースくらいしか無い路地。
これがジャララバードの攻略を難しくしている原因である。
俺とエリス、クレイはCQB-Rになっているが、M4のブラックバーンでは厳しいのでは無いだろうか。
ブラックバーンを先行させ、エリスがバックアップを、クレイは上方を警戒し、俺は背後を守る。
「コンタクトフロント!」
言うや否やブラックバーンがM4の引き金を引く、拳銃とは全く異なる銃声は、ヘッドセットで抑えられて外傷性難聴を防いでいる。
後方からは何も来ない、既に味方が制圧したのだろうか。
班が狭い路地が交差しているところに差し掛かると、今度は右からの襲撃が来た。
カッティング・パイをしていたので奇襲を免れたが、剣を持った公国兵が剣を振り下ろし、ブラックバーンは間一髪で避けた。
素早く通過、ブラックバーンとエリスで公国兵を始末する。
「くそっ、こんな近いんじゃ、槍でも使った方が速いな!」
ブラックバーンがそう言いながら敵に向けて発砲する。
槍……?
確かに、ここまで近距離となるとナイフファイトの方が早い場合があるが、そうするとライフルを構えられなくなってしまう。
そこで俺は、彼の"もう1つの得物"を思い出す。
「ブラックバーン!」
「はい!」
「着剣しろ!総員に告ぐ、路地は狭い、場合によっては白兵戦を許可する」
エリス達3人は驚いた表情をするが、意図を把握すると大きく頷いた。
ブラックバーンはJPC2.0のカマーバンドに取り付けられているM9多目的銃剣システムを抜き、M4の先端に取り付ける。
「頼むぜ先導!」
「お任せを!ヒロトさん!」
ブラックバーンに先導を任せ、南へ進む。
T字路に差し掛かると、右手からクロスボウを構えた敵が出て来た。
ブラックバーンは撃つより速いと思ったのか、そのまま銃剣を取り付けたM4を突き出した。
クロスボウの弦を切り、公国兵の肩に銃剣が突き刺さる。
「ぐぉっ!?」
「はあっ!」
肩の筋肉をブチブチと引き裂きながら公国兵を壁に押し付けると、ホルスターからP226を抜いて腰だめでP226を撃ちまくり始めた。
パンパンパンパン!!
9mmの弾丸は鎧など簡単に貫通して内臓をズタズタに引き裂き、P226をホルスターに戻してM4を両手で構える。
バックステップでM4を抜き、公国兵の頭に銃口を添えてセミオートで引き金を引いた。
公国兵の後ろの壁に、吹き出した血が染みになる。
俺達はグライムズ達と合流する為、付近を制圧しながら更に南を目指した。
次回の投稿は、現代戦も進めたい為遅れての投稿or次回へ送りになります。