第134話 ヘリボーン
エリス視点
ヘリがジャララバード軍事区の公国軍司令部の屋上へと近づく。
屋上に着陸する訳でも無く、かと言って離れてロープ降下させる訳でも無い。片輪を屋上の縁に乗せて安定させたのだ、アーケロン殲滅戦の折に見たが、第160特殊作戦航空連隊"ナイトストーカーズ"、操縦の技量は世界一だ。
私はファストロープ用のロープを地上に下ろし、降下を指示する。
「降下!降下!行け行けぇっ!」
クレイ、アイリーン、エイミーの順に降下、私が最後だ。
GI キャトルハイド ラペリンググローブをOAKLEYファクトリーパイロットグローブの上からはめ、ファストロープ用の太いロープを掴む。
反対側のドアから、ヒロト達の1班が屋上に向かって飛び移るのが見えた。
私もMH-60Mブラックホークのキャビンから飛び出してロープを脚で挟み、姿勢を安定させる。
もう何度と無く訓練を積んでいるので、この程度の高さは怖くない。
ビィィィッ!とロープとグローブが鳴り、15m程の高さを一気に下る。
地面に辿り着くとGALAPANIA リンバースリングで背中に回していたM4を構え、司令部前の柱を遮蔽物に身を隠す。
司令部前のドアは開けられており、死守しようとしていた兵士の死体が転がっている。
私がさっき降下している間に、3人が1階エントランスをクリアリングしていたらしく、建物から出てくる兵士は居ない。
司令部前には馬の居ない馬車の荷車が止まっていて、良い遮蔽物として利用出来る。エイミーがショートバレルに換装したM249MIMIMI PIPを構えて荷車を盾にした。
私は柱を盾にM4を構える、奴らは司令部のゲートから入り込もうとしてきた。ここからの位置は右斜め前方、壁沿いに左右に展開してきている。
「来たぞ!」
ゲートまでは100mも無い、敵の銃声が響き、弾丸が柱で弾ける。
攻撃を受けた、こっちも撃ち返してやる。
M4A1の安全装置を解除、セレクターをセミオートに合わせる。
ブースターを倒してEOTech EXPS3ホロサイトで狙いを定め、引き金を引いた。
肩に掛かる反動、もう慣れた感覚、銃声。
音速の3倍で5.56mmNATO弾が敵を貫き、貫いた敵から血が跳ねる。
排莢口からは焼真鍮色の空薬莢が飛び出し、地面に落ちて澄んだ金属音を奏でる。
更に引き金を引く、セミオートで連射、壁際の公国兵の頭を撃ち抜き、壁に血のシミが残る。
「エイミー!」
エイミーが伏射の姿勢のまま振り向く。
「奴らを食い止めるんだ!」
そう言うとエイミーは頷き、ゴロンと転がって荷車の下に入る。
エイミーのM249MINIMI PIPが奏でる銃声は速く、凄まじい弾幕を形成してゲートから入る敵を食い止める。
敵の侵入を防ぎ、司令部に突入した1班の司令部制圧が終わるまで入り口を確保する。
私達が全滅してしまえば、建物内にいる1班にも被害が及ぶのだ。
敵は数でこちらに勝り、質こそ私達に劣っているものの、決して低くは無い。民兵では無いので連携を取って来るし、作戦も立てて来る。
ヒロト達の制圧はどれくらいかかる?2人守りを残し、私も制圧に向かった方が良いのか。
そう思いながらひたすら、EOTech EXPS3ホロサイトのレティクルを敵に合わせ、引き金を引く。
セミオートで放たれた弾丸は敵の腰を貫く、壁に地のシミを残し、敵は呻き声を上げながらその場に倒れた。
「アイリーン!」
セミロングの赤毛がヘルメットから覗くアイリーンに声を掛ける、彼女は遮蔽物に隠れながらFN Mk.13EGLMの引き金を引き、高性能炸薬弾を打ち出す。
山なりの弾道を描いて飛んで行った40mm高性能炸薬弾はゲート付近に命中し、中の高性能炸薬が炸裂、外殻を切り刻んで無数の破片を生み出し、破片は公国兵を貫いた。
彼女はプレートキャリアの左カマーバンドに取り付けたポーチからもう1発を取り出して装填、40mmグレネードのお代わりを放り込んだ。
入り口近くの馬車に直撃、破片と爆風は公国兵を吹き飛ばし、速度のついた木の破片が公国兵を貫き壁に縫い付ける。
敵もここを奪い返そうと必死だ、連携して射撃してくる。
私の正面、こちらに向けてひたすら銃を向けて発砲してくる敵がいる、敵の銃弾は私が隠れている荷車で弾け、木の屑が舞う。
私は敵に銃口を向けてストックを肩に当て構え、ホロサイトを覗き込んでレティクルを敵に合わせ、引き金に指を掛ける、セミオートでの4連射だ。
4発分の銃声、銃弾は敵の頭と肩を食い破り、壁にシミを残して敵は倒れる。
「アイリーン達はゲートを頼む!」
銃声の中声を掛けると、アイリーンは頷いて敵を抑え込むために射撃を開始。続いてエイミーも馬車の下から這い出て牽制射撃を開始した。
「クレイ!正面へ回るんだ!」
膝撃ちの姿勢だった私は立ち上がり、司令部入り口の方へ。
「行けっ!」
「了解っ!」
アイリーンに背中を叩かれたクレイも、私の方へ走ってくる。
司令部の入り口にある柱、私達はそこに隠れた。
クレイは私を追い抜き、隣の柱に身を隠し膝撃ちの姿勢を取る。
彼女は体制を少し変え、肩を入れ替えずに柱の左から銃口を覗かせ射撃。
私はショルダートランジションで肩を入れ替え、左肩にストックを付けて正面の敵に向けてセミオートで射撃する。
排莢口から飛び出す空薬莢が柱に当たり、済んだ金属音を立てて地面に落ちる。
その時、味方を巻き込む事も厭わず正門を突破して来たのが居る、新手だ、騎馬が1頭だが、戦車を引いている。
戦車には4人程が乗っており、全員がニルトン・シャッフリル銃を持っている。
連中にとって運が悪く、入ってきた時の射撃で馬は射殺され、アイリーンのグレネードのお陰で馬と戦車の連結部は外れて、横転こそしなかったものの戦車だけが慣性で転がる。
敵が戦車から降りてくるのと同時に私は走り出す、私の前の柱で射撃していたクレイを追い抜き、敵に近付く。
端の柱の根元に飛び込み、膝でスライディング、膝撃ちポジションを取り、セミオートで撃ちまくる。
4発撃ち、2人を始末したが、弾切れになる。
「装填!」
一瞬だけ排莢口を確認して、動作不良ではなく弾切れである事を確認。
マガジンリリースボタンを押してP-MAGを捨て、同時に腰のベルトに取り付けたFASTマグポーチから新しいP-MAGを抜く。
M4に新しいマガジンを叩き込みボルトストップを押して後退したままのボルトをリリース、構え直してEXPS3ホロサイトを覗き込み、セミオートで連射する。
回り込もうとしていた公国兵がその銃弾に食い破られ、2名を撃破した。
他に銃を向けるが、私が倒した兵が最後だったらしい。
入り込んでくる敵は居なくなり、代わりに門からの射撃に徹するようになった。
しかし、そんな彼らに襲い掛かったのは、3本の光条。
上空を飛ぶMH-60Mブラックホークのドアガンに備えられた、M134Dミニガンの掃射だ。
それに加え、AH-6Mキラーエッグのミニガンによる機銃掃射、続いてハイドラ70ロケット弾が地面に突き刺さり、地面を揺らし土砂を舞い上げる。
軽い羽音を立て、AH-6Mが上空を通過、掃射を終えたブラックホークも旋回し、上空の監視に向かう。
ニルトン・シャッフリル銃を杖に立ち上がり、最期の1発を撃とうとした公国兵も、射撃前に監視していた狙撃手に始末される。
それと、ほぼ同じタイミングでヘッドセットから通信が聞こえた。
『A1-1、司令部内クリア、制圧完了。出るぞ』
「了解、出ていいぞ」
司令部の中を制圧していたヒロト達だ、ヒロト達はその通信を終えると司令部から出て、周囲を警戒しつつ合流した。
「中は完全にクリアだ、これで小隊本部を呼べる」
「分かった、こっちもクリアだ。いつでも呼んでいいぞ」
「了解、入り口の封鎖を頼む」
そう言うとヒロトはポーチからスモークグレネードを取り出し、通信を始めた。
『AHQ、こちらA1-1。司令部クリア、着陸良し。着陸地点はレッドスモークで支持する、オーバー』
『了解、着陸する』
司令部前の広場はCH-47が1機着陸出来る程のスペースがあり、その広場の中央に向けて、彼はM18スモークグレネードのピンを抜き、投擲。
程無くしてそのレッドスモークを目印に、MH-47Gチヌークが侵入、着陸した。
カーゴハッチを開けて、ケンゴ率いる8人の小隊本部が降りてきた。彼らは歩兵装備の他に、通信用機材やクレイモア指向性対人地雷、予備の弾薬なども持っている。
「確保ご苦労だった!今、対装甲機動中隊が翼竜の飛行場を制圧したと報告が入った!」
第1歩兵小隊小隊長のケンゴがそう言って、隊員に配置に着く様に指示を出す。
私達はここに指揮本部を置く小隊本部の護衛に付きつつ、次の命令が下されるのを待った。
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バイエライドから南へ伸び、クァラ・イ・ジャンギー要塞を突き抜けてジャララバードに伸びる街道。
その街道を、24輌の装甲車列が砂煙を舞い上げ爆走していた。
砂漠でも馬車が通れる様に整備された街道を走るのは、黒いタイヤ。
16式機動戦闘車とLAV-AT、LAV-ADだ。
先程街道でLAV-ADが交戦、ジャララバードの竜騎兵隊屯営地を離陸した竜騎兵を迎撃したが、数騎を仕留め損ねた。
すぐさまC2に通報、タロン隊が交戦して片付けたらしい。
で、彼らの任務だが、"竜騎兵隊屯営地の襲撃、並びに翼竜の殲滅、制空権の確保"である。
ジャララバードの北西、四角形から少しはみ出た、低い壁で囲まれた区画がある。
100m四方ほどの施設だが、ここが翼竜と竜騎兵隊の屯営地……つまり、竜騎兵隊の飛行場だ。
ここを破壊する、まず第1段階だ。
「ブラストバーン、こちらゴーレムクロー1。火力支援要請、ジャララバード翼竜飛行場、北側の壁を崩して更地にしてくれ」
大崎少佐が砲兵隊へと支援要請を行う。
それに砲兵隊が答え、ジャララバードに向けて砲撃を行った。
『了解、エクスカリバーTOT、発射。着弾まで10秒、8、7……』
砲兵隊のカウントダウンがどんどん減っていく。
『だんちゃーく、今!』
ジャララバードから5kmの砲兵陣地から飛来した砲弾14発が全く同じ場所に命中し炸裂、車輌2台ほどが通れるくらいの亀裂を低い城壁に開ける。
「ゴーレムクロー2個小隊、我に続け」
そう通信すると、ゴーレムクロー1に続き3輌の16式機動戦闘車と、4輌のLAV-ATが続き、残りの16輌は北門からジャララバードに入城する。
大崎少佐は葉山軍曹に93式装弾筒付翼安定徹甲弾の装填を指示、それに従いAPFSDSを薬室に装填する。
後ろを振り向くと16式機動戦闘車の後ろを走るLAV-ATが、TOWランチャーを上昇させ発射体制を整えているところだった。
彼は頷くと車内に引っ込んでハッチを閉め、戦闘を指揮する。
「目標は翼竜だ、飛び立とうとしてるやつから潰していけ!」
「了解!」
砲手の楠木曹長が答えると照準器を覗き込み、タイミングを合わせるために引き金に手を掛ける。
そして、壁があった場所の残骸を乗り越え、翼竜飛行場へと踏み込んだ。
「撃て!」
号令と共に砲手が引き金を引き、翼竜を竜騎兵ごと真っ二つに引き裂く。
砲弾の運動エネルギーはそれでも失われず、砲弾の侵徹体は地面に突き刺さった。
対装甲機動中隊の勢いは止まらない、隙間から雪崩れ込み、翼竜の飛行場に突入すると、主砲の105mmライフル砲を撃ちまくった。
次々に放たれる93式装弾筒付翼安定徹甲弾が翼竜を突き破り、スポットから今にも離陸しそうな翼竜は優先的に始末され、離陸直後の翼竜はターレットリングに備えられたブローニングM2重機関銃の対空砲火によって叩き落される。
そして16式機動戦闘車に続き、LAV-ATが瓦礫を乗り越え、4輌が展開する。
装甲の隙間に弓矢が挟まるが、そんなものでLAV-ATや16式機動戦闘車は撃破出来ない。
魔石のセットされた剣を振りかぶり突撃してくる敵は、その前に同軸機銃や車載機銃によってバタバタと倒れていく。
LAV-ATの4輌が飛行場内に入ると、翼竜舎にランチャーが向けられる。翼竜舎は所謂、翼竜の格納庫だ。
それに向けて、1輌につき2発のBGM-71 TOW2B対戦車ミサイルが連続発射された。
第3世代主力戦車も撃破可能なタンデムHEAT弾頭が翼竜舎に飛び込み、爆風で膨れ上がる様に炸裂した。すかさず飛び込んだ2発目がそれを加速させ、更に爆炎を大きくしていく。
翼竜舎及び、翼竜の飛行場は、突入後わずか3分で完全制圧された。