第133話 ジャララバード攻略戦開始
少しばかり軽いヘリの羽音、捕虜はこのヘリを"ダイオウヤンマ"と称した。
恐らくこの丸いボディが、トンボの目のように見えたのだろう。
このヘリの名前はMH-6M、愛称は"リトルバード"。
第1狙撃小隊の各分隊を搭乗させた4機のリトルバードが先導、後続は2.75インチロケット弾とM134Dミニガンを2門搭載した、AH-6Mキラーエッグが務める。
この作戦におけるリトルバードとキラーエッグの任務は、降下する第1小隊の降下地点の確保、及び降下した分隊の援護である。
バックパックに背負ったM82A3用の予備弾倉の重みを感じながら、カーンズはMP7A2を握りしめる。
下面のマウントレールにはMAGPUL RVGを、ライトは右側マウントレールにSurefire M300を取り付け、EOTech 551ホロサイトを載せている。
アドミンロードは済んでいる。
MP7A2のホロサイトとライトの点灯を確認、問題無し。
ジャララバードが見えて来た、城塞都市は1.5km四方を壁で囲まれ、大通りが町を5つに区切っている。ここまでは衛星画像やRQ-11レイヴン無人偵察機の情報で分かっている事だ。
レジスタンスからの情報も得て、町が"居住区" "商業区" "行政区" "工業区" "軍事区"に分かれているというのも把握済みだ。
まず真っ先に降下するのは、兵舎や司令部、兵器庫、翼竜飛行場が集中する"軍事区"である。
『あと1分!』
パイロットのクリフォード・ハウが各隊員に呼びかける。
ジャララバードの城壁を超えると、石造りの建物が所狭しと並んでいる。軍事区は兵舎が区画を囲むように建ち並び、その内側に兵器庫のような建物、3階建の司令部、集結地となる運動場、馬などを飼育する厩舎と、広い面積を持つ翼竜の飛行場がある。
第1狙撃小隊小隊本部6人を乗せたMH-6Mは、司令部前の大通りを監視出来る少し離れた建物へと向かう。
『スター44、屋上にタッチダウン!』
「降下!」
狙撃小隊本部分隊を乗せたリトルバード、コールサイン"スター44"が建物の屋根に着陸、その瞬間に外部ベンチシートキットにすわっていた6人が飛び降り、屋上を確保する。
屋上へは上がれないタイプの建物らしく、敵は居らず屋上から建物内に入る入り口は無い。
「好都合だ」
MP7A2のストックを畳み、スター44の機内から引っ張り出したのは、彼の愛銃______バレットM82A3対物狙撃銃。
鏃の様な形のマズルブレーキが特徴、その大きさやインパクトの強さから、創作の中でも出てくる事の多い対物ライフルだ。
重いコッキングハンドルを引くとガシャッと音を立ててボルトが薬室に初弾を送り込み、M4に似たセレクターレバーを操作する。
そしてプレートキャリアに取り付けられたPTTスイッチを入れ、通信する。
「こちらS1HQ、位置に着いた」
上空をAH-6Mが通過していく、それに向けてニルトン・シャッフリル銃が放たれるが、小型のヘリが持つ機動性を最大に生かし、カスリもせずに飛んでいく。
コールサイン"S1-1"もリトルバードで建物の屋上へとタッチダウン、狙撃分隊4人を下ろす。
「こちらS1-1、位置についた」
愛銃であるL115A3のバイポッドを立て、屋上にニーリングで撃ち下ろしの姿勢を取ってスコープを覗く。
クリスタもカスタマイズされたSR-25を構え、建物を監視する様に射撃体勢を整える。
第2や第3狙撃分隊でも、L115A3やM24A2SWS、SR-25を構えて通りを監視、Mk.12SPRやM4A1カービンを持つ隊員がその援護に入る。
『S1HQよりスーパー61、全狙撃ユニットが位置についた、降下地点を掃除する』
『了解、6-1より各機へ、分隊を降下させる!』
ジャララバードの中で、複数の銃声が響き始める。
「クリスタ、見えるか?司令部前、こちらに向かって来る剣士が4名、奥に銃兵が2名。銃兵は俺が、お前は剣士を殺れ」
「了解」
降下地点の監視を行うS1-1のランディが、L115A3のボルトハンドルを操作し、薬室に初弾を流す。
距離は約300m、狙撃としては近い距離だ。
チークピースに頬を乗せ、A.I.C.S.シャーシストックを肩にしっかり当て、ストックの下を左手で支える。
息を大きく吸い込み、少し吐き出して力まずゆっくり止める。
そして引き金に触れ、そっと絞る様に引いた。
ダンッ!
L115A3の銃口から、.338Lapua Magが放たれ、精密な弾道を描きマッハ3で飛んで行く。
狙撃に最適化された8.58mmの弾丸はその運動エネルギーを維持しつつ、300m先の銃兵の頭を貫いた。
自身のスコープで命中を撃破を確認、ボルトハンドルを起こして引く。
この上なく滑らかな動きでボルトが引かれ、今度はボルトを押し戻してボルトを下げ、同じ構えに戻る。
集中力を引き上げる。隣で射撃しているクリスタの銃声が遠くに聞こえる程に、ランディは今集中していた。
スコープのレティクルは、届く筈も無いこちらに向けて銃を構え撃ちまくる敵に合わせる。
グリップは握り込まずに親指はボルトハンドル側へ、4本の指でグリップを保持し、引き金を再び絞った。
再び銃声、肩にかかる反動、スコープに少し見えるマズルフラッシュ。300mの距離など物ともせず、.338Lapua Magは公国兵の銃兵の頭を貫いた。
「銃兵2名、クリア」
「こっちも終えたよ」
SR-25を構えるクリスタ、足元には4発分の空薬莢が転がり、射撃方向には剣士4人分の死体が転がっている。
降下した各狙撃分隊も交戦を開始し、着陸地点を確保。ランディが耳を澄ませると、MINIMIやM4A1の5.56mmNATO弾の銃声や、マークスマンライフルで撃っている7.62mmNATO弾の銃声も聞こえる。偶に聞こえる大きく重く響く銃声は、12.7×99mmNATO弾か。間違い無くカーンズのM82A3だろう。
こちらもマーカスがMk.13EGLM付きのM4を撃って敵を食い止め、カイリーもM4を撃ちながら無線でヘリを誘導している。
『こちらスーパー6-1、これより司令部に降下する』
そう無線を聞いた直後、ジャララバードをヘリの羽音が包み込んだ。
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ヒロト視点
『デュラント、帰ったらまた続きだからな』
『そっちこそ、リモは単語じゃ無いって事を今度こそ思い知らせてやる』
ヘリのパイロット達の通信を聞きながら、俺は鼻歌を歌う。
リラックスしているとは言い難い、むしろ緊張を誤魔化そうとしている……そんな感じだ。
何しろ、俺達が今から戦うのは本物の正規兵、それもこんなに堂々と敵の司令部に乗り込む事も無いだろう。
相手の練度が高ければ、それなりの覚悟が必要になる。仲間が傷付く覚悟、自分が死ぬ覚悟、仲間を喪う覚悟。とうに出来ている。
砂漠の空を真っ黒なMH-60Mブラックホークがジャララバードへ一直線に飛び、ゆっくりと速度を落としてホバリング、司令部の屋上に敵兵を確認。
右舷ガナーのパトリックがドアガンとして据え付けられているM134Dを構え、スイッチを押す。
毎分4000発で7.62×51mmNATO弾が凄まじい速度で撃ち出され、石造りの建物の屋上に小さなクレーターを大量に穿っていく。
そのクレーター生成に巻き込まれる様な形で、司令部屋上の公国兵が一掃された。
『降下準備!』
副パイロットのエイル・コロイドがそう叫ぶと、パイロットのウォルコット・クリストフが機体を調整する。
何と彼は、建物屋上の縁にブラックホークの右側のタイヤを乗せ、その状態で機体をホバリングさせているのだ。
「マジかよ……」
流石はナイトストーカーズだ、彼らのヘリ操縦の腕は、並大抵のパイロットが訓練しただけで出来るものでは無い。
まさにヘリの特殊部隊だ。
感心している場合ではない、モタモタしているとヘリが狙われる。
「ロープ!」
左のドアから太いロープをエリスが下ろし、ロープの端が地面につく。高さは約10m、3階建の建物とほぼ同じだ。
降下方式はファストロープ降下、小隊が最も得意とする降下方法だ。
「降下!降下!」
エリス達2班の隊員がロープを掴み、窓から飛び出す。
掴んだ際に足でしっかりとロープを保持し、速度を調整し身体を安定させる。
手を離せば落ちてしまうが、ラペリングよりも降下後に迅速な行動が可能である点はファストロープの方が優れていた。
クレイ、エイミー、アイリーンの順に降り、エリスが最後に降下する。
俺達1班は建物の屋上から中に入る、右のドアのすぐそこは屋上だ。
俺達はドアから飛び出し、屋上へと飛び移った。
俺達が振り向き合図を送ると、全員の降下を確認したスーパー61が離脱して行く。
グライムズ、ブラックバーン、ヒューバート、1人も欠けてない。
俺は合図をしてグライムズに先行するように命じ、グライムズは頷いてFN Mk.13付きのM4を構えて屋上から建物内に入るドアに駆け寄る。
そしてドアの鍵のところを狙い、中指で引き金を引いた。
ボンッ!
40mmの高性能炸薬弾が発射され、ドアの鍵を吹き飛ばす。米海兵隊でも使われる"グレネード・ブリーチング"だ。
鍵の消えたドアをヒューバートが蹴破り、グライムズを先頭に突入して行く。
そして今度はヒューバートが最後尾に着き、後方を警戒する。
階段をクリアリングしながら進み、3階部分へと降りる。
「来たぞ!敵だ!」
そんな声が石造りの建物の部屋から聞こえてくる。
降下した建物の3階は部屋が4つ、その内の1つから公国兵がサーベルを持ち飛び出して来たが、先頭のグライムズが引き金を引き、剣を振るう前に公国兵を撃ち倒す。
次々と出て来る剣を持つ兵士を、グライムズ、ブラックバーン、俺が射撃。セミオートの正確な射撃は、少ない弾数で効率的に敵をダウンさせていく。
1つの部屋をカッティング・パイしつつ、室内を確認。間口が狭いのでクロスオーバーの要領で部屋へと突入。
部屋の隅々、家具の陰までクリアリング。この部屋には何も無い事を確認して迅速に外へと出る。
俺が先頭に立ち、CQB-Rを構えて薄暗い部屋をハンドガード右側に取り付けたInsight M3Xフラッシュライトで照らす。
次の部屋に同じ様にカッティング・パイで中を確認、突入して家具の隅々まで敵がいないか確認する。
3階の部屋の3部屋を確認、残りは下に逃げたかと思い最後の部屋を確認しようとすると、部屋の間口からニルトン・シャッフリル銃の銃口が覗いているのが見えた。恐らく待ち伏せしているのだろう。
背後にいるブラックバーンに合図、自分のカマーバンド右下のフラグポーチから、M67破片手榴弾を1つ取り出す。
右手でしっかりレバーを握り込み、ピンに中指を引っ掛けて力を込めて抜く。
投げ返されないようにレバーを外し、部屋の中へと投げ込んだ。
OD色のM67破片手榴弾は1度壁にぶつかり、部屋の中へと転がり込む。ブラックバーンももう1発のM67破片手榴弾を投げ込んだのは不発対策だ。
爆裂音が立て続けに2回、部屋の間口で待ち構えていたであろう公国兵が吹き飛んでいた。
爆風と破片の直撃を受け、一目で即死と分かる様な姿だ。
俺達は爆風が収まるとその部屋の中に突入、生き残ってクロスボウや銃口を向けてくる敵は容赦無く撃ち殺し、こちらを怯えた目で見て来る敵は持ち物を全て没収した後、魔力抑制機能のついた使い捨てのハンドカフで拘束する。
「クリア!」
「クリア!」
「オールクリア!」
ヒューバートがM249paraを構えながら報告、部屋の中にいた公国兵を射殺、又は捕縛が完了し、3階の敵の掃討が終了。
薄暗い階段を下り、折り返しの踊り場の手前で止まる。
グライムズが先行し、折り返して停止。モディファイド・プローンの姿勢で2階のフロアを確認する。
敵を見つけたらしく、その姿勢のままAimpoint COMPM3で狙いを定め、引き金を引く。
セミオートの連続した銃声。空薬莢が階段を転げ落ち、向こうからは敵の悲鳴が上がる。
「援護する!」
グライムズのその言葉を聞いて、俺が階段の踊り場を曲がる。
CQB-Rはこう言った狭い場所での取り回しが良いので、室内戦や近接戦闘でかなり便利だ。
MAGPUL MOEストックを肩に当て、MAGPUL RVGをサポートハンドで掴み、EOTech 553ホロサイトで狙いを定めてセミオートで引き金を引く。
撃針が雷管を叩き、それに付随して無煙火薬が燃焼。一瞬で膨張した燃焼ガスが弾頭を銃身内でマッハ3まで加速させる。
4gの弾頭はまっすぐ飛翔し、間近に居た公国兵の喉を貫いた。
更にセミオートで2発、3発。胸と頭に命中して公国兵から確実に命を没収する。没収した命は早急に地獄へと叩き込まれた。
そのまま進むと、待ち構えていた複数人の銃兵が発砲してきた。俺は最も近い柱に隠れる。
クイックピークで確認、廊下の曲がり角を盾に、銃兵3人が最大火力でこちらを攻撃して来ているのが見えた。距離は15m程だ。
「3人以上の銃兵を確認!」
「了解!」
薄暗い室内、近距離で敵と撃ち合う。
俺の少し前の壁を盾にグライムズとヒューバートが隠れ、セミオートで連射。銃弾は敵の隠れている壁で跳ねている。
敵が頭を出すタイミングを見て引き金を引くが、相手も同じ事を考えている上に連携が取れているのか、ボルトアクションの銃とは思えない連射速度で撃ってくる。
グライムズとヒューバート、ブラックバーンが遮蔽物にしている壁と俺が遮蔽物にしている柱の間を連続で弾丸が横切る。
ここを突破しないと先に進めない、敵の増援が来たらエリス達も撃破されてしまう。
セミオートで引き金を引きながらそんな事を考える。ならここを突破するしか無いだろう。
「グライムズ!来い!」
ハンドガード下部にFN Mk.13EGLMを取り付けたグライムズを呼ぶ、彼はヒューバートがM249paraのフルオート射撃の援護下、セミオートで射撃して敵に頭を上げさせない様にしつつ移動、俺と同じ柱に隠れる。
「この柱の正面の敵を倒す、援護してくれ」
「了解」
彼はMk.13EGLMに高性能炸薬弾を装填しながら頷く。
俺は柱からM4を構えて引き金を引く、もう10発も残っていないだろう。
最も取り難い腹の右手側のマグポーチから新しいP-MAGを取り出し、タクティカルリロード、まだ弾は残っているが少ない弾数のP-MAGは抜いたP-MAGと同じポーチに戻す。
そしてRVGを握っている手の親指でInsight M3Xフラッシュライトのスイッチを押し、自分が隠れている柱を飛び出して隣の柱へと移動しながら引き金を連続で引いた。
引き金を引く度に肩に反動がかかり、マズルフラッシュがパパッと視界に散る。
ホロサイトのレティクルは間違いなく相手に合わせているのでほぼ確実だ。
セミオートで連射すると、ライトに照らされた公国の銃兵が600lmの眩しい光に顔を覆い、その瞬間に俺が撃った弾丸に捉えられる。
隣の柱に移動するまでに2人を始末、ライトを点けた俺が移動した事で俺に銃を向けた銃兵。その隙にグライムズが射撃し、銃兵はのけぞる様にその場に倒れた。
「……」
俺は無言のままハンドサインを送り、次の遮蔽物を見つけてそこまで移動する様に指示。
ブラックバーンとヒューバートの2人が周囲を警戒しつつ移動、遮蔽物で止まると俺とグライムズが移動を始め、部屋の前まで移動する。
ヒューバートとブラックバーンが俺達に追い付き、今度はヒューバートが先頭に立つ。
ヒューバートが目の前の部屋をカッティング・パイでクリアリングしていく、と、ヒューバートが途中で引き金を引きM249paraを撃ち始めた。
敵を見つけたのだろう、間隔を空けてフルオート射撃を指切りバーストにして部屋の中に5.56mmNATO弾を撃ちまくる。
「突入!」
ヒューバートに叫び、クロスオーバーの要領で部屋に突入、中にいた槍兵が槍を突き出す前に撃ち殺す。
5.56mmNATO弾のフルオートは公国槍兵の身体をめちゃくちゃに引き裂き、その場で血まみれにして身体の反対側へと弾丸が貫通する。
部屋の中に突入すると、3人分の死体が転がっていた。ヒューバートが撃ちまくった弾を食らったのだろう。
一連射を終えて銃声が止むと床に焼真鍮色の空薬莢と焼鉄色のベルトリンクが床に転がり、踏んで転ばない様に気をつけながら室内を捜索。誰もいない。
「クリア!」
「クリア!」
「オールクリア!」
2階の大部屋を制圧、ここが恐らく待機場所になるだろう。
他の部屋をクリアリングする為素早くこの部屋を出る。出る前にアドミンポーチから取り出したサイリュームを忘れずに折り、部屋の中に投げておく。
廊下、部屋、階段、トイレ、建物内の全ての場所に敵が潜んでいないかを確認し、クリアリングしていく。
1階の最後の部屋の掃討まで、突入してから15分程度の出来事であった。