第131話 Battle of Qala-i-Jangi ①
89式装甲戦闘車を降車した第2小隊の歩兵は分隊毎に分かれ、クァラ・イ・ジャンギー要塞南東側のブロックの掃討にかかる。
ガーディアンの標準戦闘服であるマルチカム迷彩のCRYE PRECISIONのG3コンバットシャツとG3コンバットパンツに、同じ迷彩が施されたEAGLE MBAVを着用している。
ベルトも装備が整えられ、ひよっ子だった彼らも戦闘部隊として高いレベルを持つようになっていた。
石造りの建物の間を歩き、路地から飛び出て来た敵にM4で5.56mmNATO弾を叩き込む。
排莢口から飛び出した焼真鍮色の空薬莢が澄んだ音を立てて落ち、リコイルスプリングによってボルトが次弾を薬室に送り込む。
第2小隊の第1分隊、クロウ・ラッツェル。彼はドラゴンに住む町を追われ、ガーディアンに助けを求めた張本人。
そして生きる力を身につけ、ガーディアンに助けられた恩返しとしてガーディアンに志願した1人だ。
彼はこの戦いを、自分達とは無関係の戦いだとは思って居ない。
自分が住む国の国境が犯され、放置すれば公国軍は町から避難した人々の住むベルム街にも辿り着くと考えているからだ。
だから彼も、この戦いに本気だった。
M4を構えながら進み、訓練通り周囲を警戒しながらTrijicon ACOG TA01を覗く。
ドアから銃を手に飛び出て来た敵を、敵が銃を構える前にこちらから引き金を引いて歓迎する。
5.56mm弾は槍の刺突を防ぐ胸甲を容易く貫通し、有り余る運動エネルギーは身体の反対へと突き抜ける。
それだけでは無く、訓練通り敵が倒れて動かなくなるまで引き金を引き続ける。
5.56mm弾は撃ちやすく命中精度も高いが、マンストッピング・パワーが他の弾に比べて低いという弱点を持つ。
その為ガーディアンでは「1発必中」ではなく「敵が死ぬまで撃ち続けろ」と教えている。
その訓練通り、クロウ達第2小隊の練度が高くない兵員も、敵が確実に倒れるまで引き金を引き続ける。
セレクターはセミオート、ダブルタップで死ななければトリプルタップ、それでも死ななければ死ぬまで、だ。
大通りは89式装甲戦闘車と90式戦車で制圧し、路地と建物内は機械化歩兵が隅々まで制圧していく。
入り口を手前から奥へとスキャンする様に銃口を向け、1歩踏み込んでもう1度スキャンする"カッティング・パイ"で入り口をクリアリング、待ち伏せされていたのでダブルタップで5.56mm弾を叩き込み、始末する。
カッティング・パイ、「スライシング・ザ・パイ」「パイイング」「パイスライス」などとも呼ばれるこのCQBテクニックは、上手くいけば待ち伏せされていても対等に撃ち合う事が出来る。
特に異世界の武器兵器は未だ剣が主力、銃相手に待ち伏せされたら剣の方が速い可能性もあるので、待ち伏せ攻撃は出来るだけ避ける必要がある。
クロウは分隊を4人1組2つの班に分けて、そのブロックにある建物の制圧にかかる。
建物内に突入、この部屋には誰も居ない。先程始末した剣を持った公国兵の死体が1つ転がっているだけだ。
棚の影などまで敵が隠れていないかを確認、どうやらこの部屋にいたのはそいつだけだった様だ。
「クリア」
「クリア」
部屋の中を確認、次のドアに向かう。
ドアに向かうと、中から声が聞こえて来た。どうやら公国軍らしい。
『そっちから回れ!』
『来るぞ!一斉射撃用意!』
クロウ達の突入を察知して、彼らは迎撃体制に入った様だ。
声に出さない様に班員に突入を伝え、フラッシュバンを用意させる。
Mk.13 BTV-ELのピンを抜き、ドアを少しだけ開けてその隙間にフラッシュバンを投げ込んで再び扉を閉める。
ドアを開けた瞬間、ドアに敵の銃火が集中した。
球体の銃弾がドアを貫通して来るが、伏せていたりドアの陰に隠れていたりとするので当たる事は無かった。
次の瞬間、隣の部屋でフラッシュバンが炸裂する。
130デシベルと72万カンデラの凄まじい音と光が部屋を満たし、それを直に浴びた敵兵は目の耳が一瞬で使用不能に陥り、戦闘能力を奪われる。
その隙にドアを蹴破って突入、ドアが狭い為クリスクロスの要領で突入しつつ、M4の引き金を引く。真っ先に狙いを付けるのは"銃を持った敵"だ。
第1小隊には練度では遠く及ばないが、それでも彼らはガーディアンの正規兵となったのだ。個人の戦闘能力では、兵器と合わせ公国軍を上回っていた。
銃を持った敵を皆殺しにした後、目が見えなくなり剣を滅茶苦茶に振り回していた公国兵の手首を取って捻り剣を取り落とさせるとM4のストックで思い切り鳩尾と顔面を殴りつけた。
怯んだ隙に敵を拘束、武器を没収し捕虜に取る。
「き、貴様ら!神に選ばれし者に刃向かうのか!?」
中年の体格の良い兵士が拘束されながらそう怒鳴りつけて来る、彼の息子くらいの年齢のクロウに拘束され余程屈辱なのだろうか。
「今ここで俺はお前を殺しても良いんだが?死にたくなけりゃ黙ってろ」
冷たく見下しながらそう言って拘束を終えると、そいつをその場に残して次の部屋へ。
隊員がドアに手を掛け、今度はクロウが隊員のプレートキャリアの背中からMk.13BTV-ELフラッシュバンを取り、レバーを親指で握ってピンを思い切り引き抜く。
何度か団長のヒロトから説明があった通り、口でピンを絶対に抜いてはいけないと言うのを彼も守っている。
ドアを一瞬開け、その隙にフラッシュバンを投げ込んで素早く閉める。
爆発音、耳がキーンとするような音量が放たれるが、COMTAC M3ヘッドセットのお陰で大音量はカットされる。
そのままドアを蹴破り、部屋の中に突入して行く。
クリスクロスの要領で部屋の中に4人が雪崩れ込み、止まらずに部屋の隅まで移動しつつ敵にM4を向けて引き金を引く。
室内戦や近距離戦闘で使う為、ACOG TA01にマウントされているRMRで照準し、敵に5.56×45mmNATO弾を送りつける。
しかし、やはり彼らはまだ実戦慣れしてるとは言い難かった。
突入の際、最後尾のライフルマンが若干もたついた。
そして敵も流石は正規軍と言うべきか、フラッシュバンの混乱から最も早く立ち直った奴がいた。
正確に言えば、混乱の中で適当に撃ったと言った方が良いだろうか。
銃声が交差し、ライフルマンが放った5.56mm弾は奴の腹部に喰らい付き、奴が放った6.25mmの球体弾はライフルマンの脚を貫通した。
「だァッ!?」
悲鳴を上げてライフルマンが転がるように倒れ込む、ライフルマンを撃った公国兵は擲弾手がダブルタップで頭を撃ち抜き仕留めた。
「ゲルハルトが撃たれた!」
「大丈夫か!?」
「あ、脚が……!」
ゲルハルトと呼ばれたライフルマンは脚を押さえ、床に横たわる。
レジスタンスが居なくなって暫く使われて居なかったのか彼の身体に細かい埃が付くが、気にしている場合ではない。
クロウは彼のMBAVプレートキャリアに取り付けられているポーチからC-A-Tを取り出し、脚の根元を強く縛る。
「ぐっ!?」
「大人しくしてろ、本部に連絡して後送する」
「あぁ……助かるっ……」
ゲルハルトは掠れた声でそう言うと、床に横たわる。
隣の部屋のドアが開く音がする、咄嗟にそちらにM4を向けかけたが、どうやら開いたのはそのドアでは無く隣の部屋にあるドアの様だ。
ドアに駆け寄り一気に蹴破り、隣の部屋へ3人が雪崩れ込むと、彼らがM4を向けて引き金を引く前に敵が逃げ出した様だ。足音から……5人ほどか。
「クリア」
「クリア」
部屋の中を隅々まで捜索し、建物内から敵を一掃した事を確認。
本部に援護と回収を要請するため、通信を入れる。
「B1-1よりB本部へ、どうぞ」
『こちらB本部、どうぞ』
石造りの建物の影響か通信状態があまり良くなく、時折ノイズが混じる。
「負傷者1名、回収を要請する。それから大通りへ向かって5名ほどが逃走中、支援を求む。どうぞ」
『了解、カタフラクト2-1が回収へ向かう。逃走した敵は1-1が始末する。アウト』
そう通信を終えると、クロウ達B1-1は同じ建物を完全に掃討していった。
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『カタフラクト1-1、大通りに向けて逃走する5人を確認、射撃を許可する。排除せよ』
「了解、排除にかかる」
荻野 博之大尉が、C2バードからの通信にそう答える。今し方建物2階から銃や弓矢、クロスボウで射撃して来る敵兵を35mm機関砲の掃射で排除したばかりだ。
その証拠にAPDSとエアバースト弾の射撃を交互に受けた建物の壁はボロボロになり、向こうが見えている。
いかに石造りの建物とは言え、1000mの距離で90mmの均等圧延防弾鋼板を貫通する35mm機関砲を立て続けに何発も撃ち込まれては耐えられない。
そんな彼らに舞い込んできた情報、村田 正隆軍曹は弾種をエアバースト弾に切り替えつつ、砲塔を正面へと旋回させて戻す。
どうやら彼らの進む正面の通りに向けて敵が逃げているらしい。
「村田、敵を見つけ次第射撃を許可する」
「了解」
「楽間、速度と進路を維持」
「イエス・サー」
楽間 圭吾軍曹がハンドルを回して一定の速度に保つ、時速4km程だ。
「敵が路地を抜けてこの通りに出て来る、それを仕留めるぞ」
「了解」
村田軍曹が引き金に指を掛け、砲塔をそちらに指向。いつでも撃てる体勢を整えた瞬間、路地から男女が飛び出てきた。
「撃て!」
荻野大尉の命令と同時に村田軍曹が引き金を引き、7.62mm同軸機銃がリズミカルな銃声を奏でる。
剣とニルトン・シャッフリル銃を持った公国兵が7.62mmNATO弾に捉えられ、身体中を蜂の巣にされる。
弓兵がこちらに向けて矢を放つが、パワーアップして14.5mm弾にも耐えられる様になった89式装甲戦闘車に、そんなものが通用する訳が無い。
反撃に35mmエアバースト弾を叩き込まれ、砲弾の破片が弓兵を貫き引き裂き、バラバラに吹き飛んだ。
残り2人の男女は魔術師の様で、光魔術が得意なのか2人で複合シールドを張っていた。
「村田、弾種徹甲。右の奴から撃て」
「了解、発射」
機関銃よりも長い感覚で、主砲として聳えるエリコン35mm機関砲KDEが火を吹いた。
発射されたAPDSは装弾筒を分離させると、複合魔術シールドに深く食い込んだ。
とは言え魔術師のレベルも高い上に2人が全力で魔力を注ぎ込んでいる為、1発では破れなかった様だ。
すかさず2発目を撃ち込む。550gの機関砲弾が生み出す30万ジュール近い運動エネルギーは、魔術師の複合シールドをぶち破り、魔術師の上半身を消し飛ばして地面に突き刺さった。
隣の女魔術師は勢いで倒れ、気絶したのか動かなくなった。
砲弾の直撃を受けた訳ではないので、死んではいない……だろう。多分。
要塞南側、南東方面は第2歩兵小隊の40人が順調に制圧中、第1分隊の負傷者は小隊本部が無事に回収し、小隊付の戦闘衛生兵が治癒魔術で治療を行った。
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一方要塞南西方面、こちらはもともと人口が少なかったのか、人の気配があまりしない。
とは言え、居るところにはしっかり居る、というのがC2バードとOH-1観測ヘリコプター、RQ-11レイヴン無人偵察機の戦場監視で確認されている。
その中でヴィーノは、ポラリスMRZR-4を狭い路地で飛ばしていた。
俺達が走っている前には何も無い、が、隣の路地がちらりと見えると、ラプトル用のボディーアーマーを着たラプトルが同じ速度で路地を疾走していた。
その後ろは、マルチカム迷彩のG3コンバットシャツとG3コンバットパンツに身を包み、JPCを身に付けてM727アブダビ・カービンを2ポイントスリングで背負ったゴードンが付いている。
彼はオフロードバイクであるYAMAHA SEROW250を駆り、ラプトルの後ろから指示を出していた。
2頭のラプトルが車と同じような速度で走りながら、敵の人間の匂いを嗅ぎつけて走る。
急なカーブも障害物も飛び越え、凄まじい機動力を発揮しつつ逃げる公国兵を追っていた。
「亜竜だ!逃げろッ!」
ラプトルが進む方向から公国兵の声が上がる。
ラプトルに気付いた公国兵が逃走を始めるが、逃げ道を塞ぐようにポラリスに乗ったヴィーノ達が射撃して食い止める。
行き場を失った公国兵に、背後からラプトルが襲い掛かる。
「う、うわっ!ま、待ってくれ!こ、降参する!降伏するからぁ……!」
一瞬で押し倒された公国兵にエイブルが乗り上げ、主人と認めた者以外の言葉をエイブルが理解する筈も無く腕に噛み付き、そのまま腕を引き千切った。
「ぐあっ!ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
汚い悲鳴をあげるが彼らにとっては恐怖も無い只の雑音でしか無く、エイブルはそのままその公国兵の骨を噛み砕く。
もう1人の公国兵は十分にもう1頭のラプトル______名前は"ベイカー"______を引きつけ、ニルトン・シャッフリル銃の引き金を引いた。
だが素早く動くラプトルの動体視力と反射神経によって躱され、弾丸は石造りの建物の壁に当たって跳弾になる。
そして公国兵がボルトハンドルを起こして引くまでの隙を突き、"ベイカー"が公国兵に襲い掛かった。
鋭い鉤爪は公国兵の胸甲に阻まれるものの、防護されていない場所には容赦なく爪が食い込んだ。
そしてベイカーは、恐怖に震える公国兵の頭を兜ごと咥え首を捻って捩じ切った。
鈍い音と共にねじ切られた首の身体側からは夥しい量の血が溢れていて、段々と弱まる勢いはまるで要塞を守る公国軍のタイムリミットを表しているかの様だった。
ところで、ガーディアンでは実戦投入可能なK9チームが2チームある。
"クロスロード"チームが1つ、4頭のラプトルの内、このチームに"エイブル"と"ベイカー"が配属となっている。
そしてもう1つのチームが、"アイビー"チームである。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らした数人の公国兵が路地を走り、迫り来る銃声から逃れようとしていた。
手にしている武器も、剣と槍、そして例の銃とバラバラだった。
「くそッ、奴らはなんなんだ!?」
彼らは得体の知れない敵と戦っているのに恐怖を覚えていた。
姿を見せず爆裂の魔法で1000人単位を容易く殺し、空飛ぶ風車から見た事も無い形と連射速度を持つ銃であっという間に城門を奪われ、地を這う甲獣の様な何かが要塞を破壊し尽くし蹂躙して行く。
極め付けは小型の亜竜であるゲオラプトルまで操る兵士がいるのだ。
「この人数じゃ太刀打ちできないぞ……!」
「どうする!?」
銃声が彼らを追い立てる様に要塞に響く中で、彼らは暗い路地裏で作戦会議とも言えぬ様な話し合いをしていた。
「このままだと勝ち目は無いぞ!」
「本隊と合流しないと……」
本隊は北へ30kmのウェレットと、ここクァラ・イ・ジャンギー要塞にしか展開しておらず、要塞が陥落まで秒読み段階に入った今、本隊と合流するには北上しウェレットに向かうしか無い。
「……よし、この砂漠を歩くのは大変だが、装備を脱いでバイエライドを中継、ウェレットまで……」
そう言いかけたその時、空を影が横切った。
「お、おい!上だ!」
1人が叫び、上に銃を向ける。剣と槍を持った奴も警戒して武器を向けたが、彼らの死角の建物屋上から、1頭のラプトルが飛び降りて来た。
"ギシャァァァァ!"
「Mike」というドッグタグを付けた、灰色の体に黄色の横縞が入ったラプトルが威嚇する様に吠える。
「ひっ!や、ヤバイぞ……!」
「こ、こっちだ!」
別の路地に駆け込むが、そちらの路地からも唸りが聞こえて来る。
"クルルルル……"
「くそっ、こっちにも……!」
既に路地に回り込んでいたもう1頭のラプトルが唸り声を上げながらゆっくりと彼らに近寄ってくる。
他に逃げ場は無くなった、追い討ちをかける様にラプトルが吠えて飛び掛かろうとした。
「っ!畜生!やってられるか!」
そう言って1人が武器を捨て、唯一の出口である大通りへと飛び出した。
その瞬間、軽く響く銃声が数発。
「ガッ!?」
5.56mmNATO弾が数発、公国兵の身体を貫いて死を送り付ける。
続いてラプトルに追われて出て来た公国兵が、7.62mmNATO弾に捕らえられて蜂の巣にされていた。
M4を構えていたラッセルがM4の安全装置をかけて下ろし、口笛を吹く。
すると路地から灰色のボディを持つ2頭のラプトルが出て来た。
「よくやったぞ、マイク、キング」
頭を撫でると、マイク、キングと呼ばれたラプトルは嬉しそうに目を細める。若干口角も上がっているように見えて、嬉しそうだ。
褒美としてJPCのユーティリティポーチに入れていたケースから餌用のネズミを取り出し、2頭に分け与える。
2頭が食べ終わるのを待ち、ポラリスMRZR-4を再び走らせる。
同じ速度で走っていたラプトル達の走りが遅くなり、何やら地面の匂いを嗅ぎ始めた。
「どうした?」
「……人間の淫欲の匂い、って言ってる」
ラッセルの問い掛けに、SEROW250に乗っていたK9ハンドラーのアレクが声を掛ける。
「淫欲……?」
ラッセルは首を傾げかけたが、思い当たる節が1つある。
公国軍がクァラ・イ・ジャンギー要塞に突入した際、捕虜にした女を奴隷にしていたという報告を受けていたのを思い出したのだ。
「……収容所か」
「恐らくな、報告を上げて増援を……」
アレクはそう提案するが、恐らくそれは難しいだろう。
第2小隊は南東方面の制圧で手一杯だし、第1小隊を呼び戻すなんて以ての外だ。
「いや……俺達でやるしかない」
「本気か?」
「あぁ、やれるさ……俺達とラプトルの力があれば」
ラッセルは力強く頷く、アレクもその意思を受け取ったのか、彼も頷いてラプトルに指示を出し始めた。
"マイク"と"キング"と名付けられた2頭のラプトルは淫欲の匂いを辿りながら建物の間を抜けていった。
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ラプトルを追って辿り着いたのは、要塞の南側にある奴隷娼館。
途中で遭遇した公国兵を片付けながら近く、奴隷娼館前に止めてポラリスMRZR-4から降りる。
jPCの右側のポーチからP-MAGを1本取り出し、タクティカルリロード。残弾管理は怠らない。
アレクはMRZR-4に積まれているM240E6でバックガン、背後を守る事になっている。
ラッセルはマイクとキングを引き連れ、扉の前に立った。
中に人質がいる可能性があり、フラグは以ての外、子供が中にいる可能性もあり、フラッシュバンも使い難い。
そこで俺達はラプトルを使い、奴隷娼館を迅速に制圧する必要がある。
開いている入り口にカッティング・パイで部屋の中を確認、敵が居ない事を確認してクリスクロスの要領で突入、部屋の中に敵が居ない事を確認すると、その部屋のドアの前に静かに立つ。
『おい!動くんじゃねえよ!お前らを連れ出すんだからな!』
『地下の捕虜は……』
木のドアの向こうからは、公国兵と見られる男達の声が漏れ聞こえてくる。それに混ざるのが女性達の悲鳴だ。
やめて、許して、離して……そんな悲鳴を上げさせるのももう終わりだ。
ラッセルはドアを思い切り蹴破り、真っ先に部屋に突入したのが2頭のラプトルだった。
2頭のラプトルは銃を持った敵を識別、優先的にそちらに遅いかかる。
「ギャッ!?」
「うがぁぁっ!」
公国兵の悲鳴と共にラッセルともう1人が突入、低倍率に設定したEOTech Vuduの照準を敵に合わせ、引き金を引いた。
クロスボウを構える敵にダブルタップで頭を狙って射撃、狙い通りに公国兵は5.56mm弾に頭を貫かれて糸が切れた操り人形の様に倒れる。
部屋の中はマットが敷かれた4畳半程のスペースが3〜4つあり、それぞれに裸にされた女性が横たわったり座ったりして、突入して来たラプトルとかラッセル達に驚き悲鳴を上げていた。
ラプトル達が押さえ付けていた公国兵2人の頭に5.56mmを叩き込んでとどめを刺し、部屋の中をさらに捜索する。
地下へ向かうドアを開けて階段を降りていくと、風俗街にあったような地下牢が現れた。
「止まれ!」
ナイフを裸の女性の首に当てて女性の陰に隠れてる公国兵が、こちらに向かって止まれと叫ぶ。
「俺を解放しろ、そこを通して俺を解放しなければ、この女を殺す」
俺は油断なくM4を構え、スコープのレティクルを覗く。レティクルは見慣れたホロサイトのもので、照準は公国兵の少しだけ出ている肩にある。
「武器を下ろせさもないとこいつぶっ殺すぞ!」
女性は首筋にナイフを当てられて「ひっ……!」と短く悲鳴をあげるが、それと同時に引き金をゆっくりと引き絞った。
銃声1発、排莢口から焼真鍮色の空薬莢が飛び出し、床に落ちて小さく金属音を奏でる。
音速の3倍で飛び出した5.56mmNATO弾は公国兵の鎖骨を容易くへし折り、動脈を掻き切って背中側へ飛び出した。
ナイフを取り落とし、仰け反るように倒れて悲鳴を上げる。
「がぁっ!?」
傷口を抑えるも、公国兵の出血が止まる事は無い。
ラッセルは床で虫のようにのたうち回る公国兵にM4を向け、引き金を引く。
セミオートの5.56mmNATO弾は公国兵の頭を貫き、とどめを刺した。
「……クリア」
奴隷娼館の公国兵を全て排除、地下牢も制圧した。
「無線で報告を入れるぞ、上に上がる」
「了解」
ラッセルはもう1人と共に地下牢を出て地上に戻ると、部屋の中でマイクとキングがラッセルの帰りを待っていた。
「よしよし、良くやったな……」
2頭のラプトルの頭を撫でながら辺りを見回すと、奴隷にされていた女性達がラプトルに怯えていた。
ラッセルは2頭を引き連れ奴隷娼館から出ると、無線を入れて報告する。
「C2、こちらチーム"アイビー"、聞こえるか?オーバー」
『アイビー、こちらC2、オーバー』
「……南西ブロック、南側に奴隷娼館を発見し制圧、確保した、チームを送ってくれ、オーバー」
『本当か?……了解、カタフラクト3と、保護した奴隷収容の為輸送隊をそちらに送る。良くやった、到着までそこを確保してくれ、オーバー』
「了解、奴隷娼館を確保する。アウト」
通信を終えると、ラッセル達は奴隷となっていた少女達の元へ戻る。
酷いな、酷過ぎる……
召喚者であるラッセルはこの光景に溜息を吐き、頭に手を当てる。
と、コンバットパンツが掴まれるような感覚を感じて振り向くと、少女が裾を掴んでいた。
16歳くらいの少女だ、こんな少女までこんな事を……と思うと、公国軍の蛮行に対して怒りがふつふつと沸いてくる。
「……わ、私達、助かったの……?」
震える声で少女はそう問いかける。
収納からタオルを持って出て、裸の少女達に配って回るもう1人のK9隊員から1枚受け取り、少女に羽織らせた。
「あぁ、助かった。君達は俺達が保護する」
少女はその言葉を聞くと、一筋の涙を流した。
ラッセルはその少女の肩を、ゆっくりと抱き寄せた。