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第127話 鹵獲

同日 深夜2:50。

俺達は全身黒の戦闘服で、クァラ・イ・ジャンギー要塞の近くまで徒歩で移動して来ていた。

とは言うものの近くまで車両も来ているし、戦闘員の数も12人と今までよりも少ない。


それもそのはず、俺達の目的は要塞の制圧ではない。

"敵兵器の鹵獲"が主な目的で、要塞を完全に奪還するわけでは無いのだ。


俺は無線周波数を合わせておいたPRC-152無線機をポーチに入れ、ケーブルを伸ばして胸元のPTTスイッチに接続。

現在の装備はCRYE(クレイ) PRECISION(プレシジョン) G3コンバットシャツとコンバットパンツだが、色が変更されている。

普段であればマルチカム迷彩の施された迷彩服だが、今日使っているのは"マルチカム・ブラック"と言うカラーだ。


それに伴い、JPC2.0のカラーもマルチカム・ブラックに変更されている。

JPC2.0はフロントフラップはMOLLEポーチになり、Blue(ブルー) Force(フォース) Gear(ギア)のMP7用Ten-speed(テン・スピード)ポーチが4本、MP5用の弾倉が入っている。


全体的に黒い服装に、換装されたポーチ。

そして今回の得物は、H&K MP5SD6。ドイツ製のベストセラーサブマシンガンのバリエーションの1つだ。

今回は隠密作戦、それに威力偵察の様に目的達成したらすぐに離脱する為、これを選択した。

と言っても初めて使う銃では無い、何だか久しぶりな気がする。


本来なら俺達がベルム街から持って来ていない装備なのだが、空輸してもらったスマートフォンのお陰で召喚する事が出来た、スマホ様々だ。


取り付けたレールにAimpoint(エイムポイント) Micro(マイクロ)T-1ダットサイトを載せ、NVモードにしたダットが緑色の世界で光っている。


カウンターウェイトと共にヘルメットに取り付けた暗視ゴーグルはGPNVG複眼型暗視装置、通称"四つ目"である。


クァラ・イ・ジャンギー要塞の周囲は砂漠で、遮るものがあまりない。

城壁の上をゆっくりと観察し、敵が見ていないタイミングを見計らって要塞へと取り付いた。

暗視ゴーグル越しの緑色の世界、要塞の北門には衛兵4人が立っており、内部へ入る敵の侵入を防いでいる。

そして幸運な事に、全員が銃を装備していた。


これは任務も早く終わりそうだ。


クレイ、ブラックバーン、エリス、そして俺はMP5SD6を持ち、岩陰に隠れる。


「4人だけか?」


「あぁ、あれだけ捕獲する、ミスるなよ?」


「任せておけヒロト、丁度いい相手だ」


エリスはEOTech(イオテック) EXPS3ホロサイトが乗せられたMP5SD6を構えつつ、足音を立てない様にゆっくりと近づいて行く。ブラックバーン、クレイも同様だ。


ブラックバーンはカマーバンドからM9MPBS(多目的銃剣システム)を抜き、クレイはゆっくりとマフラーを伸ばしていた。


_______________そして


それぞれが行動に移る、エリスは至近距離で公国兵にダブルタップを叩き込み、ブラックバーンは公国兵背後から口を塞ぎ声帯と動脈を掻き切った。

クレイはマフラーで公国兵を簀巻きにし、縛り上げる。


もう1人の公国兵は頭を銃弾が貫いており、敵がもし見ていたら「操り人形の糸が切れた」かの様に突然倒れたというだろう。

それもそのはず、4人目のギャングは俺達の後方、第1狙撃分隊が排除していた。

今撃ったのはクリスタだ、援護に付いている彼らの射撃を今回担当するのは彼女で、消音性のかなり高いライフルを使っている。


援護するまでも無かった俺は死体を早く回収する為、3人に駆け寄り公国兵の死体を抱え上げて車輌との合流ポイントまで後退する。


クレイはまだ生きてもぞもぞ動いている簀巻きにした敵を抱え、もう1人の死体をマフラーで持ち上げブラックバーンが脇を抱えている敵の脚を縛り上げて手伝っていた、そのマフラーの耐荷重量どうなってんだ……少なくとも200kgはありそうだ。


俺はエリスと一緒に1人の死体を持ち上げ、引きずった痕が出来ない様に死体を回収、恐らく朝には門の見張りが居なくなったと大騒ぎになるだろう。


死体を回収、しかし本来の目的は死体では無く、死体が持っていた銃である。

外観はブレイザーR93ノーマルモデルに酷似しているボルトアクションライフルで、これを4挺、そして公国兵が持っていた弾倉も全て回収した。死体を回収したのは証拠隠滅の為だ。


合流ポイントまでは300m程、そこには3輌の車輌が俺達の帰りを待っていてくれた。

コヨーテ戦術支援車と、M1044HMMWV(ハンヴィー)、ランドローバーSOVである。


「死体はどうする?」


「その辺においとけば魔物が食ってくれるだろう」


ドシャッと砂漠に公国兵の死体を投げ捨てる、迷惑行為だろうが許してくれ。

公国兵が持っていた銃をコヨーテ戦術支援車に乗せ、残りの死体はその辺に軽く埋めておく。


「お待たせしました」


声の方に振り向くと、援護に向かっていた狙撃分隊が戻って来ていた。

今回はランディが観測役になっていたらしく、クリスタがライフルを持っていたが、いつも持っているSR-25ではない。


L96のようなサムホールストックが取り付けられ、全体的なシルエットはG36にも似ている。


彼女が持っているライフルはドイツ、H&K社製、SL-9SDである。

7.62×37mm亜音速(サブソニック)弾であり、減音器サウンド・サプレッサーとの相性が恐ろしく良いので、隣に立って居てもボルトが作動する程度の音しか聞こえない。


試験の意味を含め、狙撃分隊にこのライフルを渡してみた。


「どうだ?具合は」


残りの荷物をコヨーテ戦術支援車に積み込みながら問い掛ける、クリスタはSL-9SDを掲げながら答えた。


「構えやすい、撃ちやすい、高精度……良いライフルですね、射程距離が若干短いのが不満ですが」


SL-9SDで使う7.62×37mm亜音速(サブソニック)弾は7.62×51mmNATO弾の様なフルサイズ弾では無く、薬莢長が37mmという短小(クルツ)弾だ。なので弾の質量はあっても、射程距離が若干だが短くなっている。


SL-9SD自体、スポーツライフルの派生型という側面もあるのだが……


「よし、帰るぞ。ロンメル指揮官がお待ちだ」


「了解」


第1狙撃分隊がランドローバーSOVに乗り込む、俺達は荷物を全て積み込み、コヨーテ戦術支援車を走らせ始めた。

走らせてから暫くして、大サソリが餌だと勘違いして公国兵の死体を貪り食べ始めたのをミラー越しに確認した。


前世と違ってこう言う殺伐とした光景も、もはや半分ほど慣れてきた。慣れない方が遥か良い光景なのだが……


===========================


翌朝

俺はバイエライド臨時FOBの車輌格納庫と倉庫の裏に用意した射撃場にテーブルを置き、ロンメル指揮官や各レジスタンスの指揮官を招いていた。


テーブルの上には、例の銃が分解されて置いてあった。


「これが敵の使ってる武器、"銃"だ」


分解前で弾倉を抜いた銃を差し出し、ロンメル達はそれを受け取ってまじまじと観察する。

俺達は敵の銃4挺の鹵獲し、2挺を分解調査を行う事にした。


「ニルトン・シャッフリル銃と呼ぶらしい」


「名前まで?」


「銃床にそう書いてあるし、昨日公国兵を尋問してそう聞いた」


昨日クレイが縛り上げた敵兵が生きていたので、尋問して銃に関する情報を引き出しておいたのだ。


「公国兵は?」


「武装を全て没収した上で砂漠のど真ん中に置いて来た」


この気温の砂漠に放置されたのだ、熱中症やら脱水症状、砂漠に生息する魔物などに喰われるのがオチだろう。


「分解してみた結果分かったことは、俺達の使ってる"銃"とは構造がまるで違うという事だ」


「どういう事だ?」


そこで俺は自分の使っているM4を取り出し、マガジンを抜く。

ダブルカラムマガジンには5.56×45mmNATO弾が詰まっており、砂漠の太陽の光を真鍮色に反射する。


「これが俺達が使ってる弾薬、5.56×45mmNATO弾。発射に必要な物が入っている薬莢と呼ばれるところが(ボトル)の様に括れていて、弓矢で言うところの鏃は尖っている」


P-MAGから5.56×45mmNATO弾を1発抜いてみせると、ロンメルは興味深そうに眺めた。


「これが"光の矢"、"見えない矢"の正体か……」


「何だそれ」


「レジスタンスの戦士たちは皆そう言ってる」


まぁ確かに、間違っては居ない。こんな小さな物が音速の3倍で飛んでいけば見えないだろう。

話が脱線したので元に戻す、俺達の使う弾丸はボトルネックの薬莢を持ち、先が鋭くなった弾丸だが。


「この銃の弾丸はこうだ」


そう言ってニルトン・シャッフリル銃のマガジンを手に取り、弾丸を取り出す。


その銃の弾丸は_____球体だった。


「球体……?」


「あぁ、俺達の銃とは形も全く違う。それに構造も」


ニルトン・シャッフリル銃のマガジンを見てみると、ここの構造も全く異なる物だった。

ガスガンよろしくガスの吹き出す穴と、球体の弾が詰められた装弾部分に分かれている。


「これは……」


「エリスと一緒に調べてみたんだ、どうもこの銃、魔力で動くらしい」


俺はそう言ってマガジン上部の蓋を開け、中からある物を取り出す。

それを見せるとロンメルの狐耳がピクッと反応して動き、神妙な表情を浮かべた。


「これは……炎の魔石……?」


「そうらしいな、俺は今の銃しか知らないから、火薬がない以上、こういう手段で弾を発射する様になったという訳だろう」


調べてみた結果、構造は殆どエアソフトガンのガスガンとさほど変わらなかった。

ボルトハンドルを操作し発射可能な位置に、そうするとマガジンから上がって来た弾丸と炎の魔石から出る魔力が圧縮される。

引き金を引くとガスの様になった炎の魔力に火が付き、爆発的な圧力上昇が生じると共にバルブが解放され、球体の弾丸を撃ち出すという事だ。


恐らくこうする事で1発で高価な魔石1つを消費する事なく、同程度の威力の弾丸を発射する事が出来る、と構造から簡単に推測する。


マガジンに入れられた魔石の魔力で弾丸を発射する、言わば"魔銃"と言う事だ。


「試射して見たが、口径は25口径、6.25mm。俺達のと比べても大口径だ、それに初速も毎秒240m、人を殺傷するのに十分な運動エネルギーを持ってる」


魔石と弾丸が装填された別のマガジンをニルトン・シャッフリル銃に装填し、ボルトハンドルを操作する。

射撃場の先、50mの距離に用意された鎧を着た人型の標的の胸の中心を狙い、突き出す様に構えて1発発砲した。


ダァン!


M4よりも大きく低い銃声を響かせ、大口径の弾丸が銃口から飛び出した。

ガツンとM4より、下手をすればM14よりも大きな反動が肩にかかり、曲銃床のせいかマズルジャンプも大きく起こる。


マズルフラッシュも大きく、隠密行動はお世辞にも向かないだろうという事ははっきり分かる。


胸の中心を狙ったはずの弾丸は上にそれ、兜を掠めて火花散らした。


「お世辞にも精度が良いとは言えない……ま、ライフリングもないし当然か」


銃身にはライフリングは無く、弾を安定させる機構が無いため精度も悪い。


「今一瞬……魔力の流れを感じたんだが……」


ロンメルがそう言うと、俺は再びボルトハンドルを操作、次弾を装填し、再び構えて撃った。


下目に狙ったので、今度は胴体に命中、鎧を貫通して穴を開けた。


「魔力で動いてるからな……俺達の銃は魔力を一切使わない、俺達の銃は銃身内にライフリングがあるが、公国軍の銃には無い。これで俺達の銃と公国軍の銃の分かってもらえたか?」


ロンメルにそういうと、彼女は静かに頷いた。


魔力で動き、ライフリングは無く、マガジンの給弾方式も違う。

ここまで異なる点があれば、公国軍の銃が俺達の銃とは全く異なると言うのは分かるだろう。


「もう1つ違う点がある」


それから、彼女達レジスタンスからの信用を得る為、俺がもう1つ話しておかなければならない事がある。


「俺達の銃は異世界の技術で出来ている、この銃は俺が異世界から持ち込んだ物。……俺は、異世界から来た人間だ」


俺が彼女達から見れば異世界人であり、この銃はその異世界のものだと言う事だ。


===========================


ベルム街

ガーディアン本部基地


基地は慌ただしく、中央通りでは車輌が、飛行場ではヘリが、それぞれ出撃準備に入っていた。

ヒロトから要請があった本隊の増援が、燃料弾薬と補給物資を積載しているのだ。


輸送部隊は特大型運搬車に90式戦車と89式装甲戦闘車、M2A3ブラッドレー、99式自走155mm榴弾砲を乗せ、搬出準備にかかる。


こう言った装軌式の大型装甲車両は"戦術機動性"は高いのだが、"戦略機動性"は低いのが難点だ。


戦術機動性とは、作戦時に戦場で発揮される機動性で、加速や不整地走破性の高さが要求される。

戦車の様に戦場を縦横無尽に駆け回り、自走砲の様に射撃後素早く陣地変換する能力、これが戦術機動性だ。


対して戦略機動性とは、長距離を移動したりして、戦略的な面で相手に優位に立つ為の機動を指す。

基地から戦場へ、戦場から戦場へと移動するには、長距離を走る為装輪式の方が向いているのだ。

部隊を遠距離へと展開させる、というのは戦略機動性が高い方が良い。


なので砲兵大隊の中でもM777A2を装備する部隊は、HMMWV(ハンヴィー)にM777A2を連結して牽引し、後続の73式大型トラックにも砲弾を満載していた。

LAV-C2を射撃指揮車輌とし、砲の操作要員はピラーニャⅢに小隊毎に分乗する。


第1小隊の残りと第2小隊は分隊毎にピラーニャⅢに乗り込み、小隊本部員はHMMWV(ハンヴィー)を運転する。


大型装甲車だけでなく、HMMWV(ハンヴィー)やRSOVの様な小型の車輌は、小回りが利ききめ細やかな戦闘が可能なので重宝する。


工兵部隊も主力部隊を支援する機材をトラックに積み込み、トラックの容量がいっぱいになったらまた別のトラックへと積み込んで行く。

その他にも浮揚渡河能力を持つLAV-25のバリエーションの1つ、装甲回収車型のLAV-Rなども工兵部隊は有しており、2輌が出撃準備を整えていた。


また翼竜の活動も認められている為、高射砲兵中隊からLAV-ADが6輌派遣される。


その他支援兵科も、着々と準備を進めていた。


「これだけ大部隊が整列となると、壮観だな……」


健吾が先頭に立つ、LAV-25の指揮車両タイプであるLAV-C2に乗り込み、部隊を見渡していた。

現在の終結した車輌だけで60輌を超え、大部隊の遠征となっていた。


『こちら歩兵第1小隊、準備完了』

『歩兵第2小隊、準備完了』

『対装甲機動中隊、準備完了』

『K9小隊、準備完了』


ピラーニャⅢに乗り込んだ歩兵部隊、小隊本部含め121人の準備が完了した様だ。

加えて歩兵科に組み込まれている対装甲機動中隊の18輌、9輌ずつの16式機動戦闘車と、LAV-25の対戦車ミサイル車輌タイプのLAV-ATも準備が完了したとの報告だ。


そしてK9小隊は2頭のラプトルを分隊毎に73式大型トラックの荷台に乗せ、乗員もそのトラックに乗っている。


『こちら第1機甲中隊、進発準備完了、いつでも行けます』

『こちらIFV中隊、発進準備完了いたしました、どうぞ』

『機甲輸送隊、搬出準備完了!』


特大型運搬車に乗せられた14輌の90式戦車、中隊長の池田末男(すえお)少佐からの通信。14輌の89式装甲戦闘車と4輌のM2AⅢブラッドレーも発信準備は整った様だ。

90式戦車や89式装甲戦闘車の乗組員は移動の際、小隊毎にピラーニャⅢに乗り込むことになっている。


同様に砲の操作要員を小隊毎にピラーニャⅢに分乗させた砲兵大隊からも通信が入ってきた。


『こちら砲兵大隊、各射撃中隊、問題無し』

『砲兵輸送隊、搬出準備完了です』

『こちら高射砲兵第2小隊、準備完了』


高射砲兵のLAV-ADも既に準備を終えていた、今回の防空の要は彼らである。


『こちら工兵中隊、準備完了』

『戦闘直接支援中隊、こちらも準備完了しました』


建設工兵小隊、戦闘工兵小隊、渡河機材小隊、交通小隊からなる工兵中隊と、整備・衛星・補給小隊からなる戦闘直接支援中隊も準備が整った様だ。


「……全部隊、進発準備完了。孝道、頼む」


『おう』


別のLAV-C2に乗る孝道へと通信をバトンタッチさせる、全体指揮をとる孝道は無線のマイクを点け、話し始めた。


「国境沿いのレジスタンスの街に派遣されていたヒロトの増援要請だ!到着は4日後を予定している、各員事故に気を付けて、最短距離と時間でバイエライドへと向かう!部隊前進!前へ!!」


ディーゼルエンジンの音が一斉に唸り始め、排気ガスの匂いとディーゼル音が基地を満たして行く。


先頭の第1小隊の残り、第2分隊を乗せたピラーニャⅢが走り出し、門を左折。街道へ出る。

街道を先頭車輌が走り出した時、最後尾の支援隊はまだ基地の中という車列の長さだったが、全車両が動き出し、バイエライドの街へと向かって行く。


分進の要領で途中、歩兵部隊が機甲部隊と砲兵部隊から分離、北回りでバイエライドを目指す。


4日間に及ぶ、本隊の長距離行軍が始まった。


===========================


バイエライドの外れ、ヘリパッドを設営した場所に、俺は新しいFOBを据える事にした。

規模としてはガーディアン本部の基地と同じくらいの規模である、本部の部隊の殆どがこちらに来るのだから、当然と言えば当然であろう。


ヘリパッドを拡張し、駐機場へ。ヘリの格納庫を設け、兵舎や司令部、車輌格納庫も必要になる。

砂漠での機械トラブルに弱いヘリは、こう言った環境では入念に整備を行う必要がある、砂からヘリを守るのも、格納庫の役目だ。


FOBの周囲を出入り口を除き高い壁で囲む、高さは10m程。砂避けくらいにはなるだろう。

そして露天駐車スペースには、特大型運搬車が50輌を並べて駐車する事が出来るスペースを用意した。これで戦車や装甲車も露天駐車する事が出来る、地面はコンクリートで散水装置もあり、砂への対策は万全だ。


これらを用意するのに20分とかからなかった、スマホ様々だ。


俺は新しいFOBを召喚しながら、さっきロンメルに言われた事を思い出した。
















「実は私も、君達に黙っていた事があった」


「何だ?」


射撃テストをして異世界から来た事をロンメル達に打ち明けた時、ロンメルは納得した後にゆっくり話し出す。


「私は……私達は、元公国軍の兵士だ」


「……は……?」


俺は間抜けな声を出してしまったが、気にした様子も無くロンメルは続ける。


「私達は元々公国軍の兵士だったんだ、"神に選ばれし者"の手先として動いていたんだが……彼らは私達を否定し、収容所へ送られた者も居た」


ロンメルはそう話すが、あまりに唐突で脳の理解が追い付かない。


「ちょ……ちょっと待ってくれ?えーっと……」


整理するために一度考え込む。

ロンメル達は元公国軍だった、しかし公国軍のやり方に嫌気がさし、グライディア王国侵攻の折に壊滅させた守備隊と合流してレジスタンスとなった。


「……という事で良いのか?」


「あぁ、だから私達は正確に言えば守備隊では無く、"レジスタンス"なんだ」


「……なるほど……」


レジスタンス、抵抗者というのはそういう事か。

元公国軍兵士達による、公国への抵抗運動、という事だろう。


「確かにそれなら公国軍が君達の排除に執着するのも頷ける……」


公国軍がレジスタンスを執拗に攻撃する理由も納得した、ロンメルは静かに頷く。


「……こんな私達を信用してくれるなら……これからも、戦列に加えてくれないか……?」


これは俺も驚いた、だが、彼女らは俺の事を信じてくれている。

ならば俺も、彼女らの信用と期待に応えなければならない。


「……あぁ、君達が公国軍を捨て、守備隊に加わる覚悟は受け取った。俺も君達を信じるよ」


そう言った直後のロンメル達の安堵する表情は、彼女らが今まで見せた表情の中で最も穏やかなものだった。









「ヒロト」


完成したFOBの前で、後ろから声を掛けられる、エリスの声だ。

振り向くと俺の愛しい恋人が、砂漠の風に髪を靡かせている。染めたような不自然さの無い、とても綺麗な金髪だ。


と、彼女に突然後ろから抱き着かれた、腰の辺りにぎゅっと抱き着き、見上げてくる笑みにドキッとしてしまう。

俺はその頭を撫でながら指を髪に通す、サラサラと引っ掛かりの無い髪が俺は好きだ。


「ヒロト、私はお前といられて良かった……」


「俺もだ……好きだぞ、エリス」


「ん……改めて言われると恥ずかしい……私も大好きだ、ヒロト」


エリスが抱き締める力が少し強くなる、俺はその頭を撫でながら穏やかな気持ちになっていた。


暫くそうしていると、エリスは身体を離す。その眼差しはいつもの、いや、任務の時の鋭い眼差しになっていた。


「ヒロト、本隊を呼び寄せたらどう作戦を立てる?」


「……もう頭の中では決めてある、2方面作戦だ」


作戦の大まかな概要は既に頭の中で組み立てられている、俺はそれを思い起こしながら、先程までの穏やかな気持ちが急速に引き締まるのを感じた。


「歩兵の頭数が足りなすぎる、その為には、レジスタンス達の協力が必要不可欠だ」


俺はそう言うと、バイエライドの街へと目を向けた。


作戦は、1週間後の予定になっている。

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