第125話 クァラ・イ・ジャンギー要塞
「こちら偵察隊、クァラ・イ・ジャンギー要塞が襲撃された、至急航空支援を求む」
『了解、時間はかかるが、大丈夫か?』
「あぁ大丈夫だ、2時間は持ち堪える」
『了解、攻撃ヘリチームを向かわせ上空援護に着かせる』
エリスが本部に送信、待機しているQRFの中から攻撃ヘリを向かわせるつもりの様だ。
「見えた!アレだ!」
ブローニングM2重機関銃の銃座に着き、俺はいつでも撃てる準備を整えている。
北側から要塞へと接近、北門からは既にバイエライドへと撤退するレジスタンス達が列を作って北を目指していた。
「何だあんた達は!?」
北門へと近付くと、レジスタンスの戦士が避難民の誘導の為に立っていた。
俺達がバイエライドに入った事を知らないレジスタンス達が驚きの眼差しを向け声を上げる。
「王国民兵ギルドだ!要塞へ入り敵を食い止める!」
「ダメだ!危険過ぎる!第2ブロックが破られそうになっている!今から向かうなんて自殺行為だ!」
「なら尚更だ!第3分隊と第2狙撃分隊は要塞周辺で敵を食い止めろ!機関銃分隊は避難民の誘導!第1狙撃分隊と第1分隊は俺に続け!」
「了解!」
「あっ!おい!」
命令通り部隊が分かれ、俺達はクァラ・イ・ジャンギー要塞の中へと突入して行く。
要塞西側には第3分隊を、東側には第2狙撃分隊を防御に付け、それぞれに部隊が分散する。
2輌のランドローバーSOVと1輌のM1044HMMWVにはが要塞の中を走り、第2ブロックになっている防壁へと進む。
要塞の中は兵舎や武器庫が建ち並び、かなり広いスペースに竜騎兵が降り立つスペースもある。
『ヒロトさん!翼竜だ!上空注意!』
流石はランディ、良い視力だ。上空では翼竜に乗った竜騎兵が飛び回り、防壁に居るレジスタンス達に航空支援の如く炎を吹き付けている。
「対空戦闘!撃ち方始め!叩き落とせ!」
言いながらターレットリングに据え付けられたブローニングM2重機関銃の狙いを定め、ハの字型の押金を両手で押す。
ドドドドッ!ドドドドドドッ!
指切りバースト射撃で精度を高めつつ対空砲火を翼竜に浴びせていく、翼竜の鱗は7.62mmNATO弾までの防御力はあるものの、12.7mm弾では貫通する為、対空砲火としての効果はブローニングM2重機関銃でも発揮出来る。
後続の第1狙撃分隊もM2重機関銃で対空砲火を打ち上げ、翼竜を撃墜していく。
俺は車内から91式携行地対空誘導弾"SAM-2B ハンドアロー"の誘導装置を取り出す。
ランチャー・チューブを後部に接続し、ピンを抜いて安全装置を解除。
誘導用のファインダーとIFFアンテナを展開、前部カバーを取り払い、ターレットリングから身体を出す。
画像赤外線シーカーが翼竜を捕捉、翼竜は体内に炎を吐き出す為の期間がある為、赤外線によるロックオンが可能なのだ。
ついでに言えば、鱗はレーダー波を反射し易いのか、レーダーロックも可能だ。
シーカーオープン、ロックオン。
後方を確認、バックブラストに味方が巻き込まれ無い事を確認する。
「発射!」
引き金を引くと、バシュッ!と言う音と共にSAM-2Bハンドアローの弾体が飛び出した。
ロケットブースターを切り離すとすぐにメインのロケットエンジンに点火し加速していく。
ジェット戦闘機すら撃墜が可能なSAMが、超音速で翼竜に喰らいつく。
TNTの弾頭が炸裂し、翼竜が火達磨になって墜落する。
悪い事に墜落した場所が敵の真上だったらしく、その場にいた敵が翼竜の下敷きになる。
戦線に投入されていた翼竜はこれで最後、敵の航空優勢は消えた。
「アルフィー!」
俺はSAM-2Bのランチャー・チューブを捨てて照準器を車内に戻し、ブローニングM2重機関銃の銃座に戻る。第2防壁まで100mの所だ。
「ここから俺達は徒歩で向かう!お前はここに残って銃座に付き、後退路を確保しろ!」
「了解!」
返事と共にランドローバーSOVとM1044HMMWV停止、分隊を降車させる。
「いいか、もし不利になったら機関銃分隊と第3分隊を呼び戻せ、必ず来てくれる」
「分かりました、気を付けて!」
「行くぞ!」
俺は全員に指示を出しつつ、路地へと入る。
第1分隊8人は俺が率いる4人とエリスが率いる4人に分かれ、路地を警戒しながら進んで行く。
ランディ率いる第1狙撃分隊は兵舎の屋上に登り、狙撃支援に着いた。
『こちらS1、準備完了。いつでも撃てる』
「了解、適宜支援を行ってくれ」
俺達は裏路地を通り、第2ブロックへと近づく。喧騒はさらに大きくなって行き、バッテリング・ラムで城門を叩く音も聞こえて来た、おそらく木の杭などで城門を打ち破ろうとしているのだろう。
俺達は必死に城門を抑えるレジスタンスに近付き、大声を張り上げた。
「王国民兵ギルドだ!」
「丁度良かった!手を貸してくれ!破られそうだ!」
「この要塞は陥落する!ロンメル指揮官から撤退命令が出た!全員生きてバイエライドに後退せよとの事!」
騒めきが広がる、驚くレジスタンス達。当然だろう、防衛線を放棄して後退すれば、バイエライドも危うくなる。
公国軍の練度も高く、侵攻を許してしまえば敵も勢いづいてバイエライドにも侵攻してくるだろう。それは避けなければならない事だ。
「そんなバカな!」
「ここを敵に奪われれば、奪還も危うくなるぞ!」
「ロンメル指揮官からの命令だ!人命が第1!ガーディアンがここを抑え、撤退まで時間を稼ぐ!撤退しろ!」
主張は平行線、時間もない、強硬手段に出ようとした時、誰かが声を上げた。
「ロンメル指揮官の事だ!ちゃんと理由もある!」
門を抑える最後列の指揮官らしき人間の男だ、彼は他の仲間にも声を掛け、部隊を後退させようとしている。
「門の閂と心張り棒を強化!後はガーディアンに任せるぞ!」
「お前!名前は!?」
「騎兵隊分遣隊のミハエルだ!人名第1のロンメル指揮官だ!そう言うと思ったよ!」
ミハエル、と名乗った騎兵隊の分遣隊長は声を張り上げてそう言うと、門の強化を命じながら振り向く。
「分かった!全員連れて後退!到着した騎兵隊の誘導に従ってバイエライドまで避難しろ!民間人の防護が最優先だ!」
「了解した!門の強化は終わったか!?」
「終わりました!後退準備完了です!」
「撤退だ!急げ急げ急げ!」
ミハエルの号令と共に、門を抑えていた30人程が後退し始める。
猛然と走り出した騎兵隊を見送り、俺達も防御陣形を整える。
その間にも"ゴン……ゴン……"と言う重い音が響き、城門がミシミシと悲鳴を上げる。
120mほど後退、矢の射程内ではあるが、敵へ有効な弾幕を張る事の出来る距離でもある。
班に分かれ左右に展開、擲弾手とSAW手は防御戦闘で重要な役割を担う為、兵舎の陰に射撃ポジションを取る。
ズバァン!
轟音と共に城門が破られ、城門を破壊したと思われる木の杭が魔術によって吹き飛ばされ、城門の奥の建物に突き刺さる。
太い丸太だ、直径は優に50cmを超え、長さは5m以上ある。
破られた城門の向こうから、犠牲者の首を槍の先に付けた公国兵が姿を現した。
「射撃開始、繰り返す、射撃開始!」
俺は無線のPTTスイッチを押し、静かに命令を下す。
待ってましたと言わんばかりに、8つの銃口が同時に火を噴いた。
タタタタタタッ!と小気味の良い音と共に5.56mmNATO弾が2挺のM249から撃ち出され、音速の3倍で敵を次々と食い破っていく。
俺もEOTech 553ホロサイトのレティクルを合わせ、セレクターはセミオートに。ストックを肩に当て、引き金を絞る。
ガツンと肩に反動がかかる、5.56mmはさほど強力ではないが、それでもサブマシンガンなどとは一線を画す反動。
銃口からマッハ3の初速で発射された5.56mmNATO弾は公国兵の兜を高い音を立てて突き破り、脳を掻き回して反対側へと抜ける。
更には反対側の兜も突き抜けて血飛沫を上げ、仰け反った様に倒れていく。
俺達が優先的に排除すべき目標は弓兵、クロスボウを持った兵、そして魔術師。魔術師は何らかの特徴のある服装や装備を待っている為、判別は付きやすい。
そう言う奴らを最優先で排除、ホロサイトのレティクルを合わせ、引き金を引く。
時折炎系初級魔術のファイア・ボールや、より強力なフレア・ジャベリンが飛んでくるが、M249の断続的な弾幕射撃によって集中を遮られ、明後日の方向へと飛んでいく。
擲弾手のグライムズとアイリーンがM4を射撃しつつ、Mk.13EGLMの引き金を中指で引く。
装填されていたM441高性能炸薬弾を発射、低圧ガス発射システムの"ポンッ!"と言う軽い音と共に、40mmの敵弾が発射される。
120mの距離を放物線を描き、着弾。公国兵が吹き飛び、千切れた腕や血糊が四方八方に飛び散る。
更に精度を高めて来る魔術師は、狙撃分隊の狙撃手が排除していく。魔術ですら届かない距離から、察知も出来ない致死性の攻撃が飛来してくるのを魔術師達は戦慄した。
既にこの戦闘で、魔術師の優位性は失われたのだ。
公国軍は戦闘に勝ち目がないと見るや、第2ブロックから後退、第1ブロックへと向かっていく。
敵の第1波が引き、先程まで敵による喧騒に包まれていた第2ブロックは、静けさを取り戻しつつあった。
城門を閉じたいところだが、城門は既にぶち壊されて吹き飛んでおり、閉められる状況にない。
「機関銃分隊が城門を確保している、レジスタンス撤退完了の報告が来るまで、ここを守る」
『了解』
『了解』
先程まで勇敢に攻めて来ていた敵兵は城門の向こうまで引き、時折こちらに向けて矢や魔術を放ってくるだけになった、その度にセミオートで2、3発撃ち込んで黙らせる。
張り詰めた様な緊張と静けさが暫く続く、苦痛な程長く感じたが、敵が再び門から中に入って来る様子は無い。
「これなら時間を稼げそうだ……」
「先に奴らが諦めますか?」
「だと良いんだが……」
ブラックバーンの問いに、俺はそう返した。
門を見張りながら、顔を出した弓兵に2発、1発は肩に当たり、押さえようとした手にも1発が当たってその場に倒れこむ。負傷した弓兵を助けようとした兵士の頭に2発撃ち込み始末する。
倒れ込んで苦しんでいる弓兵にも、良く狙った1発を頭にプレゼント、これで痛みもなくなるだろう、命も無くなるが。
俺はその1発を最後に弾切れになったP-MAGをマガジンリリースボタンを押して外し、ダンプポーチに放り込む。
JPC2.0のフロントの右手側、非利き手で最も取りにくい場所のポーチから新たなP-MAGを取り、マグウェルに挿入。ボルトストップを押してボルトを前進させ、再装填完了。
M4は5.56×45mmNATO弾という新たなエサを与えられ、人を殺すパワーを得る。
ホロサイトで城門に狙いを定めながら、城門を偵察する。
第1波が引いてから既に1時間半が経過、奴らは撤退した?いや、門の向こうはむしろ騒がしくなりつつある。
第2波が来る……そう思った直後だった。
ダァン!
聞きなれた様な破裂音、俺達の隠れている近くの建物の壁に命中し、壁が砕けて煙を立てる。
「……誰が撃った?」
グライムズが声を上げる、音は間違いなく銃、敵が銃を装備している筈もなく、誤射としか考えられないからだ。
「私じゃないわよ」
アイリーンがトリガーから抜いた指を示す、トリガーコンシャスが出来ていれば、暴発の危険性はそれだけ減っている事になる。
『S1より1-1、こちらでも発砲を確認していません』
「……なら一体誰が……」
もう1発の銃声、銃弾は近くの地面で跳ねる。
エリスが慌ててブースターを展開、ホロサイトとタンデム搭載されたG33STSMagnifireを覗き込み、倍率を上げて城門を見つめる。
「……!拙いぞ、敵に銃を持った奴がいる!」
銃だと?
俄かに信じがたい、異世界に銃が存在するとは、今までで聞いた事も無い。
似たような武器ならクロスボウがあるが、あれは銃では無くどちらかと言えば弓の派生だ。
『確認した、狙撃銃の様なボルトアクションの銃を持った公国兵を第2ブロック奥に確認!』
だからこそ、その報告が簡単には信じられなかった。そして信じなかった自分を反省する事になる。
城門の向こうに、ボルトアクション小銃を持った兵士を目視で確認したからだ。
「銃だ!」
俺は再び肩にストックをしっかり当て、引き金を引く。
セミオートで2発、銃を携えた兵士が仰け反るように倒れ、動かなくなる。
公国軍の銃を持った兵士は、ボルトハンドルを操作、装填中の様だ。
敵の兵士は銃を構え、引き金を引いた。
ダァン!
銃声、かなり大きい。
敵の弾丸は石造りの建物の壁にあたり、壁が砕けて降って来る。
隠れている壁にも当たったが、壁を突き抜けて来る程の貫通力は無いらしい。
空かさず装填中の銃を持つ兵士の頭に狙いを定め、ダブルタップを叩き込んで始末する。
すると今度は門の向こうから、馬に乗った騎兵が突撃してきた。
騎兵は拙い、足が速い上にパワーもある。
「騎兵だ!」
「突撃破砕射撃!」
タタタタタタッ!タタタタタタッ!
ヒューバートがM249MINIMI paraを指切りバースト射撃で掃射、道の反対側に展開する1-2のエイミーとも射界をオーバーラップさせ、キルゾーンを形成。
銃兵と騎兵は、そのキルゾーンの中に立ち往生する事になる。
頭を狙われた馬はその場に倒れ込み、騎兵は馬の下敷きとなり別の騎兵に踏み潰されそれがまた転倒を呼ぶ。
5.56mmの断続的な射撃は、第2ブロックを突破してきた公国軍をまだ押し留めていた。
「L1!要塞撤退完了までの時間は!?」
『L1より1-1、推定8分』
「急いでくれ、敵が銃を持ってる!」
『銃を!?了解、早急に終わらせる』
『こちらタロン2-1、ETAは10分後』
機関銃分隊が撤退を終えるまで残り8分、攻撃ヘリのチームが到着するまで後10分と言うところか……持ち堪えられるか。
建物の路地、左側の奥から公国軍が廻り込んで来る。ブラックバーンがそれに気付きセミオートで4〜5発撃ち込む。
公国兵は銃を取り落としその場に崩れ落ちる。
別の公国兵は銃が破壊されたのか剣を抜いて襲い掛かるが、剣のリーチの外からのM4の射撃に切っ先は届かず、剣を取り落として倒れ込む。
「コンタクトレフト!回り込んで来るぞ!」
「了解!1-2!回り込ませるな!」
建物の裏を伝って肉薄してくる敵にも射撃を浴びせ、地面に空薬莢が澄んだ音を立てて落ちる。
その時、M249の射撃音が止まった。
「装填!」
弾切れだ、ヒューバートが叫ぶ。身体に巻いていた200発の弾帯を外し、カバーを開けて再装填を開始。その間俺達は援護に入る。
しかし高い火力を誇る分隊支援火器が再装填に入りその火力が外れた事で、弾幕が一時的に薄くなる。
敵もそれに気付いたのか、その隙を突破しようと騎兵と銃兵が突撃を開始した。
「敵が突っ込んでくる!」
グライムズがそう叫んだ、彼はMk.13EGLMにM441高性能炸薬弾を装填しながら、M4を敵集団に向けて射撃し続けていた。
騎兵の馬の頭を狙ってダブルタップ、馬はフラフラと蹌踉めき派手に転倒した。
後方から狙撃分隊の精確な狙撃が銃兵の頭を貫き、崩れ落ちた兵士の死体は騎兵に踏み潰される。
「騎兵の馬の頭を狙え!」
騎兵のメインウェポンはその馬だ、馬の足取りが止まれば騎兵も止まる。「将を射んと欲すればまず馬を射よ」である。
馬を失った騎兵は重過ぎて長過ぎる槍の取り回しに苦労し、機動力を削がれていた。
『こちらL1、要塞からレジスタンスの退却を確認。最後の兵に確認したが、残ってるレジスタンスは居ないようだ』
「了解、1-1はこれより後退する。センターピール!後退始め!」
1-2のアイリーンから後退を開始、続いて1-1のグライムズが後退、その間に俺達は援護に徹し、最後に俺が後退。隊列の最後尾に移動し、今度は俺が味方を援護する。
繰り返し援護を途切らせ無いようにしつつ、車輌まで後退する。
車輌まで辿り着くと、アルフィーが銃座で待ち構えていた。
狙撃部隊は既に建物を降り、ランドローバーSOVで待機している。
「運転は俺が!アルフィーは銃座を!」
「了解!さぁ食らいやがれクソ野郎!」
全員が乗り込むと、アルフィーがブローニングM2重機関銃で射撃を開始する。
5.56mmよりも遥かに重鈍な音を立ててM2が唸りを上げ、カラカラと頭上から極太の空薬莢が降って来る。
俺は運転席に座りエンジンを掛けながら回線を開く。
「S1から順に離脱!A1が殿を務める!」
『了解、先に離脱します』
狙撃分隊を乗せたランドローバーSOVが先に離脱、続いてM1044HMMWVが、最後に俺達が離脱する。
アルフィーはM2重機関銃を後ろに向け、ブラックバーンが後方に向けて取り付けられたM240E6汎用機関銃を射撃しつつ全速力で離脱する。
騎兵の馬や銃兵がパワーのある弾丸に捉えられ、腕や脚が千切れ頭が潰れて消し飛んでいく。ある兵は上半身と下半身が千切れ飛んでいた。
そんな兵士を踏み潰しながら、重戦車の如く象が飛び出して来た。
「戦象だ!」
3頭の巨大な象が全力で走りながら、ランドローバーSOVを追い掛けてくる。
7.62mmを食らっても倒れず、12.7mmの効きも薄い。
「くそッ!ダメだアイツ強い!」
「北側の第2城壁を抜ける!それまで威嚇でも良いから撃ち続けろ!」
効き目が薄いと分かると、今度は脚を狙って撃つ。
やはり象はその巨体故の頑強さからか、弾の効き目が薄い。
『こちらL1、第2と第1の城門の間でアンブッシュする。そのまま抜けろ』
「了解!突破するぞ!」
俺はアクセルを踏み込む、既に戦象の上に人はおらず、象だけが突っ込んでくるような状態だ。
第2城壁を突破、機関銃分隊とLAV-25A2が待ち伏せていたのが横目で見えた。
俺達はそのまま第1城壁まで抜け、味方と合流した。
俺達が通過した直後、進路を塞ぐようにLAV-25A2が走って停止、砲塔を象に指向する。
バンバンバンッ!
12.7mm弾の数倍も重い音を立てて、25mm弾がLAV-25A2の砲塔から撃ち出される。
歩兵用小銃どころか、重機関銃の何倍もの運動エネルギーを持って敵に襲い掛かり脚を狙った25mmのフルオート射撃は象の太い脚を貫いた。
苦しそうな呻き声を上げながら前のめりに象が倒れ込み、その象にトドメとばかりに7.62mm弾が襲い掛かる。
機関銃分隊に配備されたM240E6汎用機関銃は最多で4挺、更にLAV-25A2には主砲同軸とターレットリングに1挺ずつが備えられている為、7.62mm汎用機関銃の火力は6挺分となる。
象の皮膚があっという間に蜂の巣になり、血で染まって行く。
他の象が鳴き声を上げ、象を乗り越えようとするが、その頭上に象の鳴き声を搔き消す存在が現れた。
『こちらタロン2-1、航空支援を実施する、目標の指示を請う』
ガーディアン航空隊のAH-64E"ガーディアン・アパッチ"の航空支援が間に合ったのだ。
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第3者視点
『こちら1-1、後退を支援してくれ。目標は要塞内部、内側から外へ出ようとしている公国軍と、要塞を回り込んで北に向かう公国軍集団だ』
タロン2-1のパイロット、モーガン・ディーレイ大尉は、支援を要請した味方からの通信を受ける。
「了解、2-3と2-4は西側、要塞周辺を片付けろ。2-2は東側に回れ、北は俺が封鎖する」
『Roger』
『Roger』
タロン2-3と2-4の2機のアパッチは要塞の西側へと旋回、北上する公国軍の頭を押さえつける為にロケット弾と機関砲の掃射を浴びせて行く。
M230 30mmチェーンガンから放たれるHEDP弾の威力は凄まじく、偵察隊が持っている武装の比ではない。
ハイドラ70ロケット弾の掃射も地面を耕し、公国軍は爆発に巻き込まれて宙を舞い、千切れ飛んだ手足や身体の一部が飛散する。
俺達は第2ブロックから第1ブロックへと出ようとする敵の兵士を食い止める、が、見える限りではあの象2頭がターゲットのようで、他のターゲットは見えない。
「ディスク、外すなよ」
「この距離であの目標、外す方が難しいでしょうよ」
要塞の東側へと回り込み、射界を得る。
ガンナー席に座るディスクが照準器を覗き込み、狙いを定めるのは象。兵装選択スイッチで選んだのは"ヘルファイア"だ。
「準備出来次第撃て、安定させてやる」
「了解、発射!」
スタブ・ウィングに取り付けられたAGM-114Lヘルファイア対戦車ミサイルが、ロケットの飛翔音を立てながら宙を舞う。
ミリ波レーダーシーカーが象を捉え、あっという間に距離を詰めると外れる事なく命中、9kgのタンデムHEAT弾頭が炸裂し、象が爆裂して肉片を飛び散らせる。
「ターゲット1、破壊」
「次だ、クソ野郎共を叩き潰せ」
「了解、発射」
モーガンが引き金を引く、ヘリに軽い振動とバシュッ!という僅かな音を伝えながら、2発目のヘルファイアが飛翔する。
何も問題のない滑らかな動きで、300mも無い距離を滑空した対戦車ミサイルは、第3世代主力戦車すらスクラップに出来る弾頭を生物に叩きつけた。
「ターゲット2、撃破。撃破出来るターゲット全ての破壊を確認」
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要塞の上を4機のヘリが飛んでいる、そして到底生物に向けるべきでは無い火力を持って、地上に向かって吠えている。
「……了解、着陸地点を用意する。給油後、指示を出す」
バイエライドへと向かう馬車の隊列を護衛しつつ、殿であるランドローバーSOVの銃座をアルフィーと交換して無線を弄っていた。
LAV-25A2も既に交代しており、機関銃分隊6人を乗せた装輪式IFVは隊列の前方を護衛していた。
命に関わるような重傷者はM998HMMWVでセレナやスニッドの治癒魔術による治療を受けており、軽傷者は応急処置で重傷者の処置が終わるのを待ちながら馬車に揺られていた。
「……これからどうするんだ?」
助手席でM240E6に弾薬を装填し直していたエリスが見上げ、声を掛けてくる。
「……まずはレジスタンスの立て直しが急務、それから国境防衛の命令を果たさなきゃいけないからな……」
俺はそう言いながら、頭の中で計画を立て始める。
公国軍を押し出し、レジスタンスを立て直し、押し出した後にまで続いて国境を防衛する計画……
「……ガーディアンの本隊を呼ぶ、バイエライドに帰ったら、ロンメルと相談するしかない」
俺はそう言いながら、ゆっくりと走る馬車の後ろを守るランドローバーSOVに揺られ、砂漠を走って行った。
その日、クァラ・イ・ジャンギー要塞は公国軍によって陥落した。