第124話 訪問者アリ
ガーディアンが出発してから2週間後、ベルム街。
西へと移動する王国の騎士団や王国軍増援が、ベルム街へと到着する。
街の飲食店や武器屋、道具屋は騎士団や軍人相手に大繁盛、宿も連日満室と言う盛況っぷりだ。
そんな街並みを歩くのは、アレクシア・ルフス・グライディア、国王の3番目の娘である。
騎士団の装備を整えている彼女はベルム街を見渡しながら歩く、いや、正確に言えば何かを探している様にも見えた。
「この町の人々は豊かに暮らしているのだな……」
付きの者が「そうですな」と良い静かに頷く。
「治安もいい様で、レムラス伯爵の騎士団もよく訓練されている様です」
彼女の横を歩くのは"カイ・ライノルト"、赤毛に優しそうな眼差し、手に持っているのはサーベルだ。
「そうだな……レムラス伯爵に挨拶に行った時も、騎士達が良く剣を振るっていた」
通り掛かった八百屋に立ち寄り、果実を手に取る。
リンゴの様な果実は丸々と太っていて、このまま齧ったらとても美味しそうだ。
「……見ろ、この果実を。普通ならこの大きさになる前に、農場を荒らすゴブリンなどに食べられてしまう……それにこんなに大きくなるのは、土が良い証拠だな」
アレクシアはカイに果物を見せながら、国内で暮らす民の豊かさを喜ぶ。
するとその店の店主がアレクシアに声を掛けた。
「ガーディアンのお陰さ」
「ガーディアンの……?」
アレクシアが振り向き、驚く。
「ガーディアンはこの街に本拠地を置く戦闘ギルドさ、伯爵からの依頼は大体ガーディアンかドラゴンナイツへ行くくらいだ、最近はドラゴンナイツも抜きそうな勢いで発展してる。彼らが魔物から農場を守ってくれるし、良い肥やしの作り方も知ってる。だからこんなに良い果物になるのさ」
大柄な店主がそう言いながら笑う。
街の発展はガーディアンと、ガーディアンの本拠地の設置を許可したレムラス伯爵のお陰らしい。
そう言えば先程から王都では見ない様な形の馬車が町全体を走っている。
車輪は銀色と黒を組み合わせていて、ガラガラという音は小さい。そして車輪は地面の揺れを捉えて揺れているのに車体の揺れは恐ろしく少ないのだ。
「あの馬車は……」
「あぁ、アレもガーディアンが販売してる馬車の車輪だ。今までよりも静かで速い、そして揺れも少ないんだ」
アレクシアはその馬車をじっと見つめる、よく見ると同じ様な車輪を付けた馬車がそこら中を走ってる。
流石はガーディアンのお膝元と言うか……この街の馬車は全てこの車輪に変えられている様だ。
普通の車輪を付けた馬車は冒険者の馬車か、他の街から来た馬車、そして王国軍や騎士団の馬車位のものだ。
「ガーディアンは凄いな……こんなに街を豊かにするとは……」
ガーディアンだけでは無い、その本部の設置を許可し、共同で治安維持や対外防衛を行っているレムラス伯爵の功績でもある。
「辺境だが、手練れのギルド達が揃っている。貴族騎士団の練度も高い……良い街だな。それで、ガーディアンの本部はどこに?」
「あっちだ」
八百屋の店主が指差したのは、ベルム街の南の丘。
柵の向こうには、色の抜けた様な直線の建物が建っていて、その上では"空飛ぶ風車"が飛んでいた。
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「本当に行くのですか?」
「あぁ、本当だ」
南の丘まで1km程、アレクシアとカイの2人はその道を歩いていた。
頭上をバタバタと音がしたと思えば空飛ぶ風車が頭上を飛んでいき、前から何か来ると思えば馬が引かずとも走る荷車とすれ違う。
それに乗っていたガーディアンの兵士は皆奇怪な格好をしており、胸の部分だけを覆う鎧と飾りのないヘルメット、ベルトにぶら下げられた巾着。
果ては全身が緑と茶色のまだら模様と来たもんだ。
「盾も持ってないのか、彼らは……弓の一斉発射からどう身を守るんだ?」
「鎧の面積も小さい様です……それに皆クロスボウの様な物を持ってますね」
怪訝な表情を浮かべつつ、王女と付人はガーディアンの拠点の営門へと足を向ける。
ガーディアンの拠点の前には門と高い壁があり、その上には荊棘の様な金属線が続いている。
門の所には守衛所があり、歩哨が数人立ち番をしているのは他の騎士団の屯営地と同じだ。
歩哨に立っている兵士は、さっき見た兵士と同じく斑模様の服を着て胸の周辺だけを覆う鎧を着、飾りのない兜を被ってクロスボウの様な武器を持っていた。
歩哨がアレクシアを見つけると、歩哨の兵士は彼女に敬礼をした。
「グライディア王国第3王女、アレクシア・ルフス・グライディアである。ガーディアンの代表者はいますか?」
「王女殿下でありますか。ヒロト隊長は現在、民兵の偵察隊として西に向かっております。2週間程前からになりますが、約束などはおありでしょうか?」
斑模様の兵士はすぐに答えた。
「……抜かったな……そう言えば公爵に依頼したんだったな……公領で最も優秀だと思うギルドを行かせてくれと……」
アレクシアは額に手をやり目を閉じて眉間に皺を寄せる、入れ違いになった様だ。
「……いつ帰って来るかは分かるか?」
「最短で2週間って所でしょうか、多分、結構かかるとは思います」
2週間、このベルム街に止まる訳にもいかない、こうして居る間にも西の防衛が崩れてしまう可能性もある。
「……中で連絡を取る事は出来無いのか?」
「ヒロト隊長から、事前許可が無い者は何人たりとも通すなと命令されています。例え王女殿下であっても通す事は出来ません」
斑模様の兵士は首を横に振る、反対側に立つ兵士も動かず、どうやら通さないのは本当の様だ。
と、その時、彼女と話していた兵士が突然、耳に付いていた耳当ての様な物に手を当てる。何かが聞こえて居るのだろうか、驚いた様な表情を浮かべて頷いている。
招集を掛けたのか、自走する荷台や空飛ぶ風車も基地へと戻って来ていた。
「武器とダンヤクを準備!キューアールエフは待機に入れ!」
門を開けて荷台を基地へと入れる歩哨の口調、一瞬で張り詰める空気、最早何かあったのは明確だ。
「一体何が!?」
只ならぬ雰囲気に驚くアレクシアの問いに、歩哨が答えた。事態は動いていた、それも悪い方向に。
「クァラ・イ・ジャンギー要塞が攻撃されました、現在レジスタンスを中心とした守備隊が応戦中です」
王国は、公国との戦争に転がり落ちていく。
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ヒロト視点
少し遡り、場所はバイエライド。
ガーディアンと守備隊の騎兵隊が訓練しているのは、ガーディアン・バイエライド臨時FOBである。
俺達はG3コンバットシャツとニーパッドの挿入れたG3コンバットパンツを身に纏い、プレートキャリアは身に付けず、ベルト、つまり1stラインのみだった。
車輌のエンジンの音と馬の嗎が同居する事に強烈な違和感を感じつつ、俺はランドローバーSOVの隣の馬を訓練していた。
ディーゼルエンジンの音と匂いに馬が驚き、嘶きながら前脚をあげる。
「どうどうどう!」
2m以上ある馬が立ち上がると結構怖い、踏まれない様に飛びのきすぐにエンジンを止める。
1週間ほど音と匂いに慣れる為の訓練をしたが、やはり馬にも個体差があるのか、慣れる馬と慣れない馬がいる様だ、慣れた馬は既に車と共に街を歩き回っている。
「まだ慣れないか……」
「仕方ないぞ、こんな乗り物俺だって初めて見た」
騎兵隊隊長のクルト・クニスペルは馬を操りながらそう言う。
流石はレジスタンスと言うべきか乗っている動物も様々で、象に乗っている兵士も居た。
象は主にその力強さで荷物が多く積まれた荷台を引いたり、突進で敵を蹴散らしたりと重戦車の様に使われる。
「車に慣れたら今度は銃声と火薬の匂いにも慣れてもらわないと」
馬は聴覚と嗅覚が発達しており、第2次世界大戦時に米軍レンジャーが馬上で銃を扱う際にも音と匂いに慣れさせる訓練が必要だったらしい。
「銃ってそれか?」
「あぁ、簡単に言えば光の弓矢だな。クロスボウみたいな構え方が出来る」
「ふむ……似た様な物を何処かで見た事がある気がするな……」
「どこかで?」
俺はクルトの話に聞き入るが、その話を遮る声があった。
「ヒロトさん!ホットラインで電話です!」
その声に振り返る、見ると第3分隊のストルッカ・スミスが司令部の母屋の玄関で呼んでいる。
「すまない、少し外す」
「あぁ、どうぞ」
クルトにそう言ってその場を離れ、母屋の玄関へ。
「ロンメルか?」
「ええ、かなり慌てている様で……」
そう聞いて俺は階段奥の司令室へと向かう、指令室のドアを開けると、屋敷を見張る監視カメラの映像が映し出されるモニターと屋敷の維持に必要な各装置の制御パネル、そして机の上には電話があり、その電話がホットラインだ。
「もしもし?俺だ、ヒロトだ」
『も、モシモシ?ヒロトか!?丁度良かった、今伝令が帰って来て……』
「落ち着け、落ち着け、それで要件は?」
声色から相当焦っている様だ、そんな彼女を落ち着かせ、一瞬の間の後、ロンメルは相変わらず慌てた様な声色でこう告げた。
『クァラ・イ・ジャンギーが攻撃された!!』
「……何?」
クァラ・イ・ジャンギー要塞はバイエライトの南にある要塞、円形の要塞で、西以外の3カ所に城壁に開けられた城門がある。
偵察衛星による画像では城壁上にバリスタや投石機もあり、防御は硬そうにも見える。
「その情報は確かなのか?」
『あぁ、今から騎兵を送ってもかなり時間がかかる……!』
「分かった、装備を整えるまで5分かかる、その間にこちらに来られるか?」
『すぐに行く』
それを最後に電話は切れた、俺は受話器の回線を館内放送に切り替える。
「ガーディアン全隊、装備を整え弾薬を補給し、玄関前に集合しろ」
その一声で、館内が騒がしくなり始める。
階段を駆け上がり自室に入り、無線機の電源を入れて、ガーディアン・アーマーが挿入されたプレートキャリアを身に付ける。
ライフルの弾倉に抜いていた5発をクリップで留めて装填、30発をフル装填しておく。
身に付けたJPC2.0にマガジンを差し込む、フロントフラップに3本と、フラップに挟み込んで固定しているポーチに1本、計4本だ。
マルチカムのTYR Brokosベルトに取り付けたFASTマグポーチに入れたP-MAGと合わせて弾倉は5本+1本、180発の5.56×45mmNATO弾を携行する事になる。
車輌には更に弾薬箱を置く為、携行数はこれで充分だ。
次にM4を確認、M4に取り付けたウェポンライト、レーザーサイト、ホロサイトが点灯するかを確認。
FAST"ドラゴン"ヘルメットを被り、チンストラップで固定する。
MERRELL MOAB-MID GTX XCRトレッキングシューズの紐を締め込み足を少し踏んで具合を確かめる。
準備が完了した、取り付けたMAGPULMS3モノスリングでM4を担ぎ、広場まで走る。準備が早かった隊員は既に出てきており、分隊ごとに整列している。
全員が揃うまで10分とかからない、その間にもロンメルがFOBに到着していた。
「ヒロト!エリス!」
ロンメルが狐耳を揺らしながら駆け寄る、彼女は息を切らせながらまっすぐこちらを見据える。
「敵の数は2500ほどらしい!大規模作戦の前だったのに……!騎兵隊の半分を要塞へ向かわせる事にする」
「事態は一刻を争う、犠牲を度外視で要塞の完全防衛か、要塞を放棄しても1人でも多くのレジスタンスを救出するか、俺達が即応出来るのはどちらかだ」
ロンメルに決断を迫る、究極の選択だ。
要塞を完全に防衛すれば戦線の後退は免れるだろう、しかしそれに莫大な戦力を費やす事になりかねず、戦死者もかなりの数に上るだろう。下手をすればガーディアンにも死傷者を出す事になるかもしれない?
要塞の防衛を諦め要塞からの撤退に専念すれば、味方戦力の損耗は少なくて済むだろう、人命第1の選択と言える。
しかしそれを選べば、要塞を放棄せざるを得なくなる。防衛の要衝である要塞が敵の手に渡れば防衛線が南から前進し、最悪の場合バイエライドが包囲される危険性もある。
また要塞は非常に攻め難く、奪還するのも難しくなるだろう。
人名と要塞防衛、両方を成立させるには戦力が足りな過ぎる。
俺達の手持ちの戦力で出来るのは、この2つのどちらかだけだった。
「……すまねぇ事だが、この部隊は偵察隊だ、出来る事は限られてる」
「……後者だ、これ以上貴重な人命を喪わせるつもりはない!」
「要塞は放棄しても?」
「構わん!人命を喪うより要塞を喪った方がマシだ!」
「よく言った!」
俺は怒鳴りつけるようにそう言うと、その場で振り返り全員に呼び掛ける。
「これより全力出動とし、クァラ・イ・ジャンギー要塞の撤退を支援する!敵の数は凡そ2500!敵は要塞南側からの侵入が予想される!北から侵入し、西と南からの攻撃を抑えつつレジスタンスを離脱させる!」
「「「「了解!!」」」」
「弾込め!安全装置!」
そう叫ぶと、全員が初弾装填に入る。
Safariland6378ALSホルスターからP226を抜き、スライドを引いて初弾装填。
更にスライドを少し引いてエジェクションポートから9×19mmパラベラム拳銃弾が薬室に入っているのを確認し、スライドを掴んで押し、スライドを完全に閉鎖、デコッキングレバーを下げてハンマーダウンし、ホルスターに戻す。
今度はメインウェポンのM4だ。P-MAGが差し込まれたM4のチャージングハンドルを引いて離し、初弾装填。
チャージングハンドルを少しだけ引き、薬室に5.56×45mmNATO弾が収まっている事を確認する、確認したらまた少しチャージングハンドルを引いて、スプリングの力でボルトを完全閉鎖させ、パチンとダストカバーを閉める。
「各員搭乗!輸送隊員はランドローバーとHMMWVに分乗しろ!」
「了解!」
「イエス・サー!」
LAV-Lは装甲が施された輸送車両ではあるが、こうして積極的に戦闘に参加する車輌では無い。
5人の輸送隊員の内1人が俺のランドローバーSOVに乗り込む。
「アルフィー、頼むぞ」
「了解、お任せを!」
赤髪に金のメッシュが入った輸送隊員のアルフィーが運転席に座る、俺は50口径の重機関銃、ブローニングM2の銃座につく。
弾薬箱を運び込み、蓋を開けて12.7×99mmNATO弾を流し込む。
蓋を閉じてコッキングレバーを2回引き、発射可能な状態に。
エリスは助手席に座り、据え付けられたM240E6汎用機関銃に7.62×51mmNATO弾を装填、射撃準備を整える。
後部座席に乗り込んだブラックバーンとクレイも後部に据え付けられたM240E6汎用機関銃に弾薬を装填、車外にM4を向ける。
「ここに残る騎兵隊はこの基地の守備を頼む!ロンメル、良いな!?」
「分かった!騎兵隊の半分はガーディアンの拠点を守れ!」
「了解!」
騎兵隊が応答すると、俺は車に乗る皆に目配せ。エリス、クレイ、ブラックバーン、アルフィーの4人が頷き、出発準備が完了した事を伝える。
「行くぞ!出発だ!」
それを合図にアルフィーがアクセルを踏む。俺の乗るランドローバーSOVを先頭に、車列が走り出した。
騎兵隊がそれに続くように走り出すが、馬の速度で車の速度に追いつけるはずがなくあっという間に置き去りにする。
『こちら最後尾!騎兵隊がFOBの営門を閉めました!』
「了解!このまま行くぞ!」
アルフィーは更にアクセルを踏み込み、バイエライドの街を疾走する。
そのまま街を抜け、砂煙を立てながらクァラ・イ・ジャンギー要塞を目指しひたすら走った。
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第3者視点
その頃、要塞は地獄と化していた。
突如として公国軍が南から侵攻を開始、応戦したが、敵の勢いは凄まじかった。
「このクソどもが!」
クァラ・イ・ジャンギー要塞のレジスタンス達が叫びながら、剣や鉈、斧を手に公国軍へと襲い掛かる。
「神に選ばれし者の為に!」
公国軍の弓兵による弓の一斉射撃、殺傷には充分な運動エネルギーを持って、矢はレジスタンスに降り注いでいく。
城壁の上には連弩やバリスタが装備されており、城壁上から後方の部隊に向けても矢が射出されるが、その攻撃もすぐに収まってしまう。
何処からともなく飛来した翼竜がバリスタ兵の頭に齧り付き、喰い千切ってしまったのだ。
濁音のみで構成された汚い悲鳴と共に翼竜の口から血が噴き出し、翼竜は人肉を咀嚼しつつ連弩やバリスタを踏み潰して破壊して行く。
城壁上からの防御を失ったレジスタンス達は第2防衛線へと後退、もちろん後退出来ればだが……
「嫌ァァァっ!」
「おい見ろ!汚いレジスタンスの女が居るぞ!」
「ガハハハッ!戦利品だな!たっぷり楽しむから取っておけよ!」
物陰に隠れていたレジスタンスの女性が髪を掴んで引っ張り出され、公国軍の男どもの手によって衣服を引き千切られて行く。
「貴様ら!クラリッサから汚い手を離せ!」
怒号と共に男性が防衛線から飛び出してくる、恐らく彼女のボーイフレンドだろう。
彼は手にサーベルを握っていた。公国軍に駆け寄り、サーベルを振り下ろす。
公国兵の肩に刃が食い込み、角度を変えて身体の中心へと切りすすめると、切り込んだ肩から大量の血が溢れる。
サーベルを抜いてクラリッサを掴む公国兵の手の肘から先を斬り落とし、彼女の手を引いて公国兵から救い出す。
「大丈夫だ、すぐに____」
「ピーター!逃げて!」
サーベルを持つ男性が手を引いて逃げようとした瞬間、男の腹部を槍が貫いた。
「ぐふっ……!」
「この女は俺の獲物だ、薄汚いレジスタンスめ」
「ピーターッ!」
クラリッサの悲鳴が響き渡る、口から大量の血を吹き出したピーターは、彼女の目の前で息絶えた。
「レジスタンスの分際で!神に選ばれし者達に刃向かうなよ!」
死んだピーターの頭をトドメとばかりにガンガンと何度も踏み付ける公国兵は、ぎょろっとした目を再びクラリッサに向ける。
「へへへっ!もうじき皆で気持ち良くしてやるからよ!」
「嫌ッ!やめてっ!やだやだっ!痛っ!いやぁぁぁっ!」
彼女の髪を掴んだ公国兵はそのまま城壁の外に彼女を引きずり出す。
その間にも公国軍はクァラ・イ・ジャンギー要塞の中に入り込み、殺しと略奪を繰り返して行く。
「男は殺し、女子供は捕虜に取れ!レジスタンスは王国兵ではなく、恐れる必要は無い!」
「"我ら神に選ばれし者"の軍勢の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
口々にそう叫ぶ公国兵、逃げ遅れたレジスタンスの男に槍を突き立て、逃げるレジスタンスにも弓やクロスボウで射撃を加えていく。
女性や子供は公国兵が追いつけば捕虜になり、刃向かう者は女子供でも容赦無く斬られ、刺され、殺された。
「キャァァッ!!」
「アンドラ!」
ある所では夫婦が引き裂かれ、旦那は殺され妻は裸にされ繋がれ、奴隷として馬車に積まれていく。
「一回やってみたかったんだよ!首絞めて殺すの!」
「ぐぅぅっ……やめ……か……っ……」
ある所では反撃して来た女を、剥いた後に公国兵が首を絞めて殺していく。
公国兵が攻め込んだ後には、原型を留めない程に損壊した男の死体と、ある程度は原型を留めている女や子供の死体。
更には生きてはいるが裸にされ、ある者は首輪と鎖で繋がれてある者はその場で犯されていた。
そんな光景が、要塞の南側の至る所で繰り広げられる。
そうこうしている間に、南側の武器庫がある第1ブロックを公国軍は突破、第2ブロックの門へと迫りつつある。
第2ブロックの中は居住地もあり、第2ブロックの陥落は即ち要塞の陥落を意味していた。
クァラ・イ・ジャンギー要塞が陥落するのは、時間の問題であった。