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第123話 ホットライン

短めです

翌日、俺はバイエライド郊外にいた。

ランドローバーSOV、そしてM998HMMWV(ハンヴィー)とLAV-Lが付いて来ている。


「あっちぃ……」


一応周囲を警戒しているとはいえ、うだる様な暑さに参ってしまい、ヘルメットを脱いでブーニーハットを被っている。


「こう暑いと注意力も散漫になってしまうな……」


助手席でM240E6汎用機関銃の席についているエリスは水筒(キャンティーン)に入れた水を飲んでいた。


しかし暑い、そろそろ夏も終わりと言う時期になるだろうが、やはり地形と気候のせいだろうか日差しが容赦なく肌に突き刺さる。日焼け止めでも持って来ればよかった。


『こちらトレイン1、ETA(到着予定時刻)2分後、投下に備えろ』


「了解トレイン1、投下地点をレッドスモークで指示する、その周辺に落としてくれ」


俺は無線にそう言うとグライムズとアイリーンに目配せ、2人は頷くと、M4に取り付けているFN Mk.13EGLMに発煙弾を装填。


「距離300」


「了解」


「距離300……良し!」


少し横にズレている照準器を立て、安全装置を解除、照準を合わせて構える。


「撃て」


合図と共に擲弾手2人が中指で引き金を引く。


ボポン!


普通の銃より軽く篭った音を立て、FN Mk.13EGLMから40mm発煙弾が発射された。


低圧ガス射出システムによって300m先まで投射された発煙弾のグレネードは、地面に命中する。いや転げ落ちると言う表現の方がいいか、着弾するなり赤い煙を上げ始めた。


「トレイン1、こちら偵察隊。レッドスモーク展開中」


『了解、到着まであと1分』


2人が追加でスモークグレネードを発射、4発の発煙弾が展開され、赤い煙を放出し始める。


その時、ヘリの音を重く細かくした様な音が上空から響いた。

音の方向を見る、東側だ、すると向こうの空に小さな影がこちらに向かって来ているのが確認出来た。


直線翼に計4基のターボプロップエンジンを取り付け、クジラの様な胴体をした異世界には無い空を飛ぶ物。


ロッキードC-130H、あの輸送機の名前だ。

2機の輸送機が異世界の砂漠の空を翼で切り裂き飛んで来る。


『トレイン1、貨物投下用意』


C-130Hが後部ハッチを開け、500mの低空を低速で空を横切る様に飛んで来る。


『Air drop……now』


その無線が聞こえた直後、後部ハッチから貨物が投げ出された。

貨物はすぐにパラシュートを開き、ゆっくりと地面に落ちていく。


『トレイン2、Air drop……now』


後続の2番機の後部ハッチから同じ様に荷物が投げ出され、荷物が出て来た瞬間にパラシュートが開く。

パラシュートは輸送機の狙い通り、レッドスモークの周辺に落着した。


「トレイン1、2。荷物の降下を確認、また頼む」


『偵察隊、また足りないものがあったら配達するぞ。トレイン1、RTB』


『2』


それを最後に2機のC-130Hは左に大きく旋回、基地へと進路を取り帰投して行った。


C-130Hを導入した事により、こうした遠隔地での作戦における物資輸送もスムーズに行える様になったのは嬉しいところだ。


もっとも、危険度の高い地域へは護衛が必要になる場合もあるが、バイエライド一帯は王国竜騎兵師団とベルム街の戦闘ギルド"ドラゴンナイツ"によって制空権が確保されている為、問題は無い。


早速コンボイを投下された荷物の方へと寄せ、荷物を積み込み始める。

特にLAV-Lは中に大量の物資を詰め込める上、燃料缶(ジェリ缶)は車外のラックにも搭載出来る。


荷物の中身は燃料、飲料水、食料、弾薬、医療品などの消耗品と……


「あったあった」


緩衝材に包まれていた俺のiPhone5だった。

FOBの施設に水道と電気を引く為だ、後回しでも良いのだが、流石に任務期間中に水道が使えなかったり、俺自身魔力が全くなく魔術を使えない為部屋の明かりをつける為わざわざエリスや他のメンバーを呼ぶのも申し訳ない。


と言う事で、荷物を積み込み次第FOBに戻り、基地のインフラを整備する事にした。


外のはしごを使って屋根に登り、太陽光パネルを召喚、設置する。

日照時間が長く、晴れの日が多いバイエライドの街には最適の発電方式だろう。


次に浄水セットを井戸に仕込み、ポンプを使って水を汲み上げる。もちろん地下水が枯れない程度に制限を付け、周囲に影響が及ばない様に配慮をしてだ。


そして太陽光発電装置から施設の召喚の応用である"改造"を施し、各部屋に電源を引っ張って来る。

あとは各部屋に蛍光灯とスイッチを設置すれば完成だ。


「よし、出来た」


完成したFOBを目の前に、俺は満足げに頷きながらスマートフォンの画面を閉じる。


「……あ、そうだ、忘れてた」


ハッと思い出し、忘れていた事を終わらせてしまおうと思い、FOBに引っ込んだ。


===========================


「……これは何だ?」


司令部に呼び出された俺は、あるものを持参しロンメルの机の上に置いた。それを彼女は怪訝な表情で見つめる。


「これは電話だ、離れたところに居る相手と会話出来る」


「……勅令魔術……とは違うのか?」


「似た様なものだが、魔術は一切使わない」


「……?」


ロンメルがいまいち分からない様な表情を浮かべて見つめる。

俺が持って来たのは電話だ、その為に電源を少し司令部に引いて電話を使える様にして置いた。


俺が考えているのは、FOBとレジスタンス防衛隊司令部の間にホットラインを引こうと言う事だ。

意思疎通と情報伝達を迅速にする事で、俺達も素早い対応が出来る、と言う事だ。


因みに俺達のホットライン用電話は書斎だった司令室にある。


「まぁ見ててくれ」


俺は受話器を取り、回線番号を押す。

暫くの呼び出し音の後、エリスが出た。


『もしもし、私だ』


「あぁ、俺だ。会合中だが、電話のデモンストレーションをしてる」


『あぁ、そう言うことか』


俺とエリスが電話越しに話していると、誰と話しているのかとロンメルが首を傾げる。


「少し代わる、良いか?」


『あぁ、構わない』


俺はロンメルに合図し、ロンメルに受話器を渡す。


「……あー……」


『私だ』


「!?」


ロンメルが驚いて目を剥き、受話器から顔を離す。


「……ど、どこから声が出ているんだ……?」


「良いから、そのまま話せるぞ」


首を傾げながら彼女は再び受話器のスピーカーに耳を当てる。


「あ……あぁ、私だ。エリス……か?」


『ふふっ、そうだ。電話は"もしもし?"から始めるんだぞ?』


「もしもし?……変な言葉だな」


『それがルールみたいなものだ、今度からその電話を使って緊急の時は連絡して来るといい』


「はぁ……なるほど……?」


首を傾げるロンメル、原理は分からないがとにかく使えると言う事が分かったらしい。


『それじゃ、また今度』


「あぁ……また今度」


それで通話は切れたらしく、近くにいた俺にも通話終了のツー、ツーと言う音が微かに聞こえるし、ロンメルも耳から受話器を離す。


彼女は俺に受話器を渡し、受話器を置く。


「今度からこれを使ってくれ、俺達と防衛隊とのホットラインだ」


「仕組みは分からんが分かった、そうしよう。さて、今日呼び出したのはこのホットラインに着いてでは無いんだ」


そう言うとロンメルの狐耳がピクピクと動く、他の部隊の指揮官達もロンメルの話に聞き入る。


「私達は散らばったレジスタンスを集めて防衛隊を再編成、ジャララバードの街を奪還する!」


ロンメルはそう言って立ち上がり中央にあるテーブルに歩み寄る、俺もそのテーブルに寄ると、地図が広げられていた。


地図にはバイエライド、クァラ・イ・ジャンギー要塞、ジャララバードが記されており、ロンメルが指し棒を使いながら説明に入る。


「まずはレジスタンスを集めて騎兵隊を組織、2000人ほどの兵力をクァラ・イ・ジャンギー要塞に移動させる」


指し棒をバイエライドからクァラ・イ・ジャンギー要塞にスッと引っ張る。


「しかしこれは囮だ、公国軍はクァラ・イ・ジャンギー要塞に引きつけられるだろう。その間に部隊を少数に分割、ジャララバードの西側と南側へと迂回した部隊が敵を背後から奇襲する!」


つまり、まとまった軍勢をそのままジャララバードに送り込むのでは無く、別個の部隊を途中で合流させ、手薄になった西と南からジャララバードに攻め込む、分進合撃の一種である。


「しかし指揮官殿、部隊と合流するのでしたら、それを知る術が無ければ。狼煙を上げられればバレますし」


「それに戦力が分散しますから、敵の大部隊と接触した際、そのまま飲み込まれる危険性があります」


作戦室にいた男のハーフエルフの部隊指揮官がそう言う。

確かにそうだ、分進合撃は味方部隊との綿密な連携が必要である上に、戦力が分散するので各個撃破される可能性がある。


しかしロンメルは不敵な笑みを浮かべ、話を続けた。


「その役割は、ガーディアンに任せようと思う」


まさかの使命である、伝達役を任されるとは俺も予想外だった。


「え、俺達が……?」


「君達ガーディアンは妙な荷台を持っている、……何て言ったっけ」


「車輌か?」


「そう、それだ。そのシャリョウとやらは馬より速く走る、伝令にはぴったりだろう。それにこのデンワとやらの様な離れていても話が出来る魔術道具も持っている様だし……」


確かに車輌は馬より速く走り、燃料が尽きるまで止まることは無い。それに無線機もある為素早く意思伝達を行う事が出来る。


「加えて貴殿らは偵察隊、斥候に適した兵も要している、伝令にはぴったりでは無いか?」


「……なるほど、そう言う事なら引き受けよう。ただし、条件がある」


俺が承諾した事に満足げに頷くが、条件があると言った途端に不安要素があるかの様に眉を顰める。


「俺達の車輌の数にも限度がある、戦闘に投入出来る車輌数に合わせて、分割する部隊は8つまでとさせて貰う」


戦闘に投入出来る車輌はランドローバーSOVが2輌、HMMWV(ハンヴィー)が装甲、非装甲で4輌、コヨーテ戦術支援車とLAV-25A2の計8輌だ。

LAV-Lは装甲化されてはいるが、戦闘地域に物資を輸送する為の輸送車両で、積極的に戦闘に参加する車両では無い。


「加えて馬が車輌の匂いや音に反応して暴れ出す可能性が高い、なのでその訓練も作戦までの間に行う様にする。その2つだ」


商隊護衛の時、商隊の荷台を引くのは馬だ、車輌の音や匂いに驚いて暴れ出すと言うのも報告で上がって来ている。

機動力の根幹である馬が使い物にならなければ意味がない、そこで馬を車輌に慣れさせる訓練が必要なのだ。


「分かった、その条件を飲もう。私は作戦を詰める、クルト騎兵隊隊長はガーディアンと共に訓練を始めて欲しい」


「了解しました」


クルト、と呼ばれたハーフエルフの男性は俺に向き直り微笑む。


「クルト・クニスペルだ、騎兵隊隊長をやってる、よろしく頼む」


「あぁ、よろしく」


クルト・クニスペル……どっかで聞いた事あるな……

そう思いながら、俺は彼と訓練の予定を話し合う事にした。

まずは馬を車の匂いと音に慣れさせる事からである。


===========================


第三者視点


「あっつ……」


「日焼けしちゃう……」


「次の補給品に日焼け止め貰える様に進言しておこうよ」


バイエライド西のオアシス、その西岸。

森の中で偵察をしているのは、ガーディアン第2狙撃分隊の4人だ。


FN Mk.13EGLMを取り付けたMk.12mod1 SPRを持っているローレル・ラフィルズ。

ストックはMAGPUL(マグプル) CTRストックに換装されていて、スコープはRMRが載せられたELCAN(エルカン) SPECTER(スペクター) DR倍率切り替えスコープを載せている。


そんな彼女が話しかけているのは、固定ストックのMk.12mod0 SPRを持ったシェリー・ガブリエルだ。

彼女のMk.12mod0はKnight's(ナイツ) QDフォアグリップがハンドガードに取り付けられ取り回しを良くしており、EOTech(イオテック) 553ホロサイトとG33 STS Magnifire(マグニファイア)ブースターが搭載されている。


2人とも珍しいカスタムのMk.12を持っているのは、この2人が元々マークスマンだからだ。


「日陰だからまだいいんだけどね……」


「日向だと悲惨な事になりそう……」


そう言いながら彼女は周辺を見張っているが、横から声が割り込んでくる。


「静かに、私達は今偵察に来てるんだから」


「ごめんごめん……」


そう言うと2人は喋るのをやめ、見張りに着く。

彼女達を咎めたのはもう1人のマークスマン、エル・リークスである。

彼女はCTRストックに換装し、ハリス社製バイポッドとLeupold(リューポルド) Vari-Xスコープを載せたSR-25Kを傍らに置き、目にかからない程度に擬装したブーニーハットを被り、測距用のスコープを覗いていた。


その隣にはバイポッドを立ててL115A3を構え、スコープを覗き込むアンナ・ドミニオンが伏せていた。


「……公国軍が集結してる……」


「距離は?」


「1200m、左右に広がってる」


「届くよ、撃つ?」


「撃たない、偵察なんだから」


「……」


不機嫌そうな顔をするアンナ。

そのまま偵察を続ける、スコープ少し調節して覗くと、騎馬の兵が5人ほどこちらに向かってくるのが見えた。


「騎馬兵5、接近中」


「……見えた、距離800」


「撃つ?」


「撃たない、あくまで偵察」


「……」


再び不機嫌そうな顔をするアンナ。

その間にエルは敵の情報と見える限りの動きを偵察、メモに残していく。

そしてアンテナを開いた無線機で回線を開き、FOBとHQに繋ぐ。


「こちらS2、偵察結果報告。敵の部隊は南北に広く展開、観測地点からの距離1200m。1時間おきに騎馬の斥候が様子を見に来ている」


『了解、こちらFOB、様子を見て撤収せよ』


「了解」


今動いたら斥候に見つかる、と思いそのまま伏せている4人。

彼女達は敵の様子を睨みつけながら、斥候が去るのを待った。


===========================


その頃、公国軍バイエライド地方侵攻司令部は大騒ぎになっていた。


「北からの奇襲隊が全滅だと!?」


驚いた様な声を上げるのは、侵攻軍の司令官だ。

髭を蓄え、如何にも高級士官らしい出で立ちをした彼は、人間の兵士の報告に立ち上がる。


「はっ、奇襲部隊は全滅。生存者確認出来ず!バイエライドからかなり離れたところで1人残さず殺されておりました」


「ぐぬぬ……何と言う事だ……魔物にやられたのか!?それとも気候か!?」


あの一体は大サソリやボーンドールの様な強力な魔物が出る上に、渇きと暑さも敵である。


「それが……離れた場所に、こんなものが落ちていまして……」


その兵士が取り出したのは、真鍮色の筒、途中が括れていて、まだ輝きが残っている。

彼が拾ったのは、7.62×51mmNATO弾の空薬莢であった。


「これは何だ……?」


「分かりません、しかしやられた奇襲隊の付近に大量に落ちていました。推測ですか……奇襲隊がやられたのはこの金属筒の持ち主なのでは?」


指揮官がうーんと唸る、考えてはいるが、そう遠く無いうちに兵と同じ結論に辿り着くだろう。


「……この持ち主、どれ程の力を持っているのか……」


この力の持ち主、魔術師も多く含む奇襲隊を殲滅する程の力の持ち主は、侵攻に際し障害になる事は確実である。


「……新兵器を投入する、屈服させてやる。部隊を移動させろ!」


「はっ!」


侵攻軍指揮官はそう指示を出し、伝令がその命令を各部隊へと伝えて行った。

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