第121話 バイエライドの街へ
4日後
9輌のコンボイは行程通り順調に進んでいた。
通常宿場町があるのは馬車で1日程度の距離だが、俺達は1日で2つの宿場町をスキップしたりしながら馬車より速く進む。
宿は基本的に中級から上位の宿を探すようにしている。店員が俺達や持ち物に手を出す事が無く、良く休めて良いサービスの受けられる宿だ。
そういった宿は宿泊している"人"の質も相応なので、宿自体の治安も良い。
途中ですれ違ったり追い抜いたりした民兵や冒険者、商隊の人々に怪異や魔物を見るような視線を向けられるのもそろそろ慣れてきた。
昨日は雨が降ったが、今日は一転快晴だ、街道を走る時も砂埃があまり立たない。
昨日の雨で少し発生した遅れを取り戻そうと、俺達は少し急ぎ足で目的地の街である"バイエライド"へ向かっていた。
俺はハンドルを握り、前を走るランドローバーSOVに追従する。
これを越えると国境地帯の砂漠が見えると言う峠に差し掛かり、順調に走っていたが、先頭の車輌から通信が入る。
『S1より全車へ、急ブレーキ注意』
「了解、急ブレーキに備え!」
俺も車にいる全員に声を掛けると近くの取っ手に捕まって備える、昨日警備の夜勤に入っており、後部座席で寝ていたエリスとクレイも目を覚まして捕まる。
前の車に合わせてブレーキを踏み、タイヤがガリガリと地面を踏みしめる。何とか追突せず、追突されずに停車する事が出来た様だ。
「……なるほどな……」
俺はサイドブレーキを引き、車から一旦降りて状況を確認する。
第1狙撃分隊が乗車するランドローバーSOVのところまで近付くと、状況がはっきり把握出来た。
「これ……進めませんね……」
「あぁ、これは厳しい」
1号車の前方50m、峠を越える切り通しが、崖崩れによって塞がれてしまっているのだ。
昨日の雨によってこの辺りの雨に弱い土壌が緩み、崖崩れになってしまったのだろうか。
超えられる様な崩れ方ならまだ良いかも知れないが、崩れた面がかなり急な崖の様になっている上に工兵の機材も持って来て居ないので、これを乗り越えて進むのは難しい。
「越えるのは無理か」
「バイエライドに入る道はこの1つなのか?」
「最短ルートだが……他にも3つほどあったはずだ」
俺はアドミンポケットから個人用情報端末を取り出す。
地図アプリから衛星で撮影したこの辺りの道順と地形を把握、迂回ルートを探す。
「10km程手前の交差点を左折すれば、大きく迂回はするが北側から街に入れる筈だ」
俺はそう言うとアドミンポケットに個人用情報端末を仕舞う。
「全車に通達、後退しつつ転換、来た道を戻るぞ」
「了解」
エリスは頷くと無線で各車両へと指示を出す、俺はランドローバーに戻りながら無線を入れる。
「コンボイよりHQ、バイエライド直前の街道上に崖崩れを確認。道が塞がれている。迂回してバイエライドに向かう」
『HQ了解、気を付けてな』
本部に迂回する旨を伝え、車列を交代させて切り返えさせる。
ところで、俺達は出発してからコールサインを少し変更してある。
各車の役割と部隊が直ぐに分かる様に、第1分隊が乗り込むランドローバーSOVとM1044HMMWVはA1と2のコールサインを受けた。
第3分隊の2輌のHMMWVはBのコールサインを、補給部隊のLAV-LとM998HMMWVはCと振り分けられた。
LAV-25A2のコールサインもDに改称されたが、狙撃分隊のランドローバーSOVとコヨーテ戦術支援車はSのままだ。
そうこうしている間に15分程前に通過した交差点まで戻ると、丁度商隊とすれ違う所だった。
「この先は崖崩れで通れなくなってるぞ」
「本当か?」
馬車を引く馬を操る御者に声を掛けると、彼は俺達の車輌を奇妙な物を見る様な目で見ながら聞く。
「あぁ、10km程先の峠の切り通しだ。俺達は危険だから迂回する」
俺達はそう言い残し、先を急ぐ為戻った街道を左折してバイエライドの街を目指し、走り始めた。
御者が何か言いかけた気もするが……何が言いたかったのだろうか?
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昨日の雨によって地面が多少湿っているとは言え、砂埃が全く立たない訳では無い。
路面が既に乾いているところは容赦なく砂埃を立てるし、下手をすれば前の車輌が水たまりを踏んで飛沫を浴びるかもしれない。
車間を十分に開けつつ、北から大きく迂回してバイエライドの街を目指す。
途中で休憩を入れながら迂回する道を取った為、予定の時間を大幅に過ぎてしまった。
北側の道は砂漠の中を走る為、日が昇って乾いた路面は砂埃を立てやすくなっていた。
そんな中、先頭を走るS1から通信が入った。
『S1よりA1、各車輌へ。左前方に煙が見えます。距離はおよそ3000』
「煙?土煙か?」
隣の席のブラックバーンが双眼鏡を覗くが、覗いたまま眉をひそめる。
「ダメだ、詳しく見えません」
「S1、こちらA1、見えるか?」
『S1、距離があり過ぎる。見えません』
「了解、全車停止、追突に注意せよ」
『了解』
『了解』
俺は前を走るS1に追突しない様に、且つ俺の後ろを走るA2に追突されない様にブレーキを掛けてランドローバーSOVを停車させる。
全車が停止すると、再び通信を繋ぎ呼び掛ける。
「S2、レイヴンの準備を」
『了解』
俺は装備の中にあるタブレット端末を取り出す、偵察カメラの映像がここに映し出される。
そうこうしている内に、第2狙撃分隊がコンテナから出して組み立てたラジコン飛行機の様なものを構え、紙飛行機を飛ばす要領で投げ飛ばした。
RQ-11Bレイヴン、小型の無人偵察機である。
見上げた時に空の色に同化する塗装が施されたRQ-11Bレイヴンは、どこまでも変わらない色の砂漠の空を飛行して煙の方へ向かっていく。
レイヴンが打ち出された直後、俺の持つタブレット端末に映像が送られてくる。これがレイヴンがリアルタイムで見ている偵察カメラの映像だ。
徒歩だと3kmというのは長い道のりだが、人間の数倍の速度で飛行するRQ-11Bレイヴンはその距離を僅か2分で飛行する。
偵察カメラから送られて来たのは、予想だにしなかった映像だった。
鎧を着た兵士、ロングソードや槍、クロスボウを持ち、隊列の後ろの方の部隊は弓を装備している。
隊列前方には杖と短剣を持ち、兜を被って居ない奴もいる。恐らく魔術師であろう、全体の規模は300人程。
「これは……?」
映像を拡大、威圧感を出す為か、周りで松明が燃やされている。
そして旗手が掲げる旗の紋章は"剣を咥えたカラス"。
「……シュラトリク公国軍だ、バイエライドに向かってる!」
俺はそう叫ぶとレイヴンを自動旋回モードにして、端末をシートの横に置く。助手席でブラックバーンが目を剥いた。
「あの無防備な街へこの兵士が乗り込んだら防衛線が突破されますよ!?」
「分かってる、先制攻撃の準備だ!S1と2は側面へ迂回して攻撃!A、B、Dはシングルファイルのまま接近する!レイヴンのコントロールを譲渡する、Cはレイヴンの回収を!」
『了解!』
『了解!』
各車から返答が来ると、俺はヘルメットに掛かっていたESS Tacticalプロファイル NVGゴーグルを掛けて、目に砂埃が入らない様にする。
背後にあるラックからMP7A1を取り出し、40連マガジンを装填、チャージングハンドルを引いて初弾装填し、座席の右側のラックに予備マガジンを立てて置く。
隣の席ではM4の準備を終えたブラックバーンがM240E6汎用機関銃にベルトを流し込んでコッキングレバーを引いて装填、天井にあるターレットリングではエリスがブローニングM2重機関銃のコッキングレバーを2回引き射撃準備を整えていた。
クレイも後部座席からいつでも撃てる様にM4を構えていた。
「A1、準備完了!」
『A2!準備完了しました!』
『B各車、行けます!』
『D班、準備完了!』
「いくぞ!掴まれ!」
俺は全員の準備完了報告を聞くと、ランドローバーSOVのアクセルを踏む。
サバンナの様な砂漠地帯をランドローバーに続いて3台の装甲HMMWVとLAV-25A2が走り出す。
「全車へ、目標から1500mでライン・フォーメーションへ展開!1200mから射撃開始だ、弓の射程外から撃ち込んでやれ!」
『D了解、エアバースト装填!』
ランドローバーSOVと3輌のHMMWVはシングルファイル、つまり単縦陣のまま敵へ接近する。
1500m付近で単横陣、つまりライン・フォーメーションに展開し、最大火力で敵を駆逐する。
ライン・フォーメーションに移行する直前で敵も気付いた様だ、こちらに向け弓を番えて放とうとするが弓は射程外。その前に移動を完了させたLAV-25A2の砲塔に主砲として鎮座するM242 25mmチェーンガンが火を吹いた。
太鼓を打ち鳴らすかの様な砲声と共に、LAV-25A2が25×137mmの砲弾を発射していく。
バムバムバム!
発射された砲弾は敵へとまっすぐ飛んでいき、"空中で"炸裂した。
エアバースト弾は空中で砲弾が炸裂し、破片効果によって敵を圧倒する。
発射した分だけ敵の真上で黒煙が上がり、破片が砂漠の地面や敵の身体に突き刺さり土煙と血飛沫を上げる。
「各車、撃ち方始め!」
「了解!」
距離は1200m、エリスがターレットリングに据え付けられたブローニングM2重機関銃の射撃を始めた。
俺が使っているM4よりも重い銃声を立てながら、凄まじい運動エネルギーを持って12.7mm弾が敵へと喰らいつく。
射程の長い12.7mm弾は1000mの距離もあっという間に飛び抜け、鎧の兵士を粉砕して行く。
ランドローバーSOVだけでは無い、B1のHMMWVに乗せられたブローニングM2重機関銃も同じ様に射撃を開始していた。
同時にA2とB2がMk.19mod3自動擲弾銃を射撃、敵を更に圧倒していく。
Mk.19から発射される40×53mm擲弾は炸裂する度に破片と爆風を撒き散らし、敵を纏めて吹き飛ばしていく。
距離を更に詰め、500mまで接近する。敵の弓の射程はまだだが、汎用機関銃の射程内だ、助手席のブラックバーンがM240E6汎用機関銃の射撃を開始、7.62mmNATO弾の弾幕も加わり弾丸の暴風雨が形成される。
300mまで接近、弓矢の射程に入ったが1発も飛んでは来ない。弓兵が全滅してしまったのだろうか。
「ヒロト!魔術が来るぞ!」
ターレットリングで50口径に着くエリスが叫ぶ。
銃声が響き、5発に1発程の割合で混ぜられている曳光弾が向こうへ伸びる中、敵の方から光が見えた。攻撃魔術の光だ。
横一列になって接近する5輌の戦闘車両の目の前にフレア・ジャベリンが突き刺さり爆発、土煙が上がるが、命中はしなかった。
LAV-25A2の目の前にアイス・ランスの氷柱が突き刺さるが、装甲に覆われた装甲車はこれを物ともせず跳ね飛ばし粉砕する。
次弾が来ると身構えていたが、魔術攻撃はその1波だけで終わった。
側面から迂回して来た狙撃分隊の2輌が十字砲火を浴びせ、敵の殲滅にかかる。
こんな遮蔽物の無い砂漠のど真ん中である上に、運悪く周囲には木や岩なども無い。
逃げようにも馬よりも足の速い車輌に乗っているのだ、俺達が追い付けない訳がない。
「追撃する!散開して敵を仕留めろ、深追いはするなよ!」
『了解!』
俺はアクセルを踏んで加速、狙いは前方の牙の集団である。
15頭程の馬に乗った騎馬兵に向け、ブラックバーンはM240E6汎用機関銃を、エリスはブローニングM2重機関銃を撃ちまくる。
後ろに回り込んで一矢報いようと攻撃魔術を仕掛ける敵には、後部座席に乗っていたクレイが後方に取り付けられたM240E6汎用機関銃を射撃、撃たれた敵の兵士は馬ごと地面を転がり土まみれになる。
運転席へと槍を持って飛び込もうとして来た騎馬兵も居たが、俺は片手で運転しながらMP7A1を相手に向ける。
セレクターはフルオート、ブレないように反動に備え、引き金を引いた。
パパパパッ!
指切りバーストだ、短い連射で命中精度の向上と弾薬の節約を図る。
狙い通り4.6×30mm小口径高速弾は騎馬兵に命中し、振り上げた槍は取り落として柄が車体にコツンと当たり音を立てる。
馬も陣地に戻って動物と意思疎通が出来る者や馬が直接喋ったりして俺達が報告されない様にブローニングM2重機関銃と共にキッチリ止めを刺して始末しておく。
馬に乗って一目散に逃走する敵も居たが、LAV-25A2の25mmエアバースト弾とHMMWVに搭載されているMk.19mod3自動擲弾銃にあっという間に制圧された。
戦闘とも呼べない様な戦闘は5分で終了、砂漠の真ん中に死体の山が築かれた。
「撃ち方止め!ヘッドカウントを取るぞ」
「了解」
敵の死体が転がる近くにランドローバーSOVを止め、敵の戦死を確認する。
2人一組になり、1人が常に援護しながら死体を調べる。
「よっ……と、どうだ?」
「……大丈夫だ」
俺が死体を起こし、エリスが下を確認する。敵の死体は鎧を着ている為無駄に重い。
次にポケットや持っているバッグ、ポーチを漁る、重要書類を持っている可能性があるので、見つけ次第書類は持ち帰るが……
「飴玉に……財布、公国軍のバッジ……これは水筒か」
大したものは見つからない、一人一人死んだかを確認しながら死体を漁るも、何も見つからないと思った矢先だった。
「誰か来てくれ!」
グライムズが叫んだ、そちらを向くとアイリーンと共に死体をチェックしている彼が手を振っている。
近くに行くと、彼は何かの紙を拡げていた。
「見て下さい、バイエライドの地図です」
彼がチェックしたのはどうやらこの部隊の指揮官らしい、北から街への矢印の書かれた地図があった。
「この部隊は偵察部隊か……?」
「にしては規模が大きいですね……」
偵察であればもっと少数でいいはず、そう考えながら地図を回収する。
他にも重要物があるかと思ったが、これだけだった。
「とにかく、バイエライドの街への急ごう。予定より遅れてるしな」
「あぁ、死体は如何します?」
「どうせ死臭に誘き寄せられた魔物が食ってくれるだろうよ、そのままにしとけ」
「弾薬を補給して出発するぞ!乗り込め!」
「了解!」
全員が乗り込み、その場で使用した弾薬を補給し、狙撃分隊とレイヴンを回収した補給部隊に合流して街道へ戻り、バイエライドの街に向かった。
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街道を1時間ほど走ると、バイエライドの街が見えてきた。
湖の畔に石造りの建物が並び、かなり大きな街が形成されているのが遠目に確認出来た。
「街の規模はかなり大きいな……」
50口径の銃座に着くエリスが呟くように言う、背の高い建物などはあまりない。目立つ建物は大聖堂くらいだろう。
「ああ……先頭、S1、何か見えるか?」
『大聖堂と……検問、ですね。街の人が公国軍かは不明ですが、街道から街に入る道の入り口に検問があります』
「了解、そこを通過しないと街に入れない。公国軍だった場合即座に交戦出来る様に警戒態勢を整えつつ、街の兵だった場合に備えて発砲は許可するまで禁ずる」
『了解』
『了解』
そのまま速度を落としつつ、検問所に向かって走る。
道は枝分かれし、街道から側道へと入り街へと向かうと、車輪の付いたバリケードが近付いてくる。その前では弓を構えた兵士がこちらに向けており、援護の為か更に後ろにも弓兵が、手前には槍や剣を構える兵士が数人いる。
武装は様々だが、総勢13人ほどの兵士が検問所に居た。
バリケードの前にゆっくり車列を停止させると、主導権を握る為にこちらから声を掛ける。
「グライディア王国民兵として招集されたガーディアンだ、バイエライドの街を目指している最中だ」
「……妙な荷台に乗っているな……これは何だ?」
検問の隊の指揮官らしき男が怪訝な目をこちらに向ける、最低限の防具を身に付け、兜も視界を覆わない様に頬の部分がカットされている。槍も短く切り詰めてあり、取り回しがいい様な改造が為されている。機動力重視なのだろうか?
「俺達の移動手段と使う武器だ、まぁ気にしないで欲しい」
「……そうか、王国民兵として来たのなら通行証を見せてくれるか?」
「あぁ、これか?」
俺はコンバットパンツのポケットから、木の板に掘られた民兵の紋章、槍と剣、矢が交差したエンブレムを取り出して見せる。
意味は「様々な武器を取って立ち上がる勇敢な民兵達」と言う意味だ。
因みに俺達は所属が分かる様にこれと同じデザインの円形の刺繍のパッチを、コンバットシャツの両肩に取り付けている。
いつものガーディアンのエンブレムである"盾の中心に弾丸"のパッチはプレートキャリアの胸元に移した。
「そうだ、本国もようやく動いてくれる事になったんだな」
「ようやく?」
「あぁ、公国が領土を主張しているのはもともとグライディア王国の領土だが、既に西の街が2つ焼かれた。俺達はその街のレジスタンスとしてバイエライドの街に後退して来たんだ。ともあれ歓迎するよ、通ってくれ」
そう言うと指揮官ともう1人が街の方に向けて手を振る、何かの合図だろうか。
「分かった、許可を頂き感謝する」
「街に入ったら現地指揮官の指示に従ってくれ」
「了解、感謝するぜ」
俺は何事も無く検問を通過出来た事に安心しつつ、バイエライドの街へと車輌部隊を進入させる。
進入させて分かった、こちらからは見えなかったが、岩陰に10人ほどの弓兵とクロスボウを持った兵士が隠れていたのだ。彼らに俺たちを撃たない様に合図したのだろう。
……にしても随分と守りが手薄だな……
バイエライドの街に入ると案内役なのだろうか、金髪の騎馬の兵士が先を案内する様に走り始める。俺達は速度を落とし、彼に追従する様に街を走る。
石造りの建物は2階から3階建程で、城壁は無い。この砂漠の真ん中で敵も少ないのだろう、街道の脇にはゴブリンやコボルトの乾燥した骨が散らばっているのも見た。
暫くその騎馬兵の後ろを付いて走ると、街の外縁、オアシスにもなっている街の西側の湖の畔の道を案内される。道は大通りは石畳で、路地は未舗装のところと同じ石畳の所があったりで、ベルム街と同じ様な感じだが、こちらの方が入り組んでいる様にも思える。
開けた所に出る、切り詰めた槍や剣を持った兵士がいる。軍人らしき人物もいるので、ここはどうやら守備隊の司令部の様だ。
俺達はそのまま司令部前に並べて駐車し、エンジンを切る。
「総員降車!分隊毎に集合待機し指示を待て!」
「了解!」
俺が車から降りたのとほぼ同時、建物から1人の女性が出て来た。
金色の髪を短くした俺と同じくらいの背の女性だが、狐の耳を生やしタイトスカートからは髪と同じ色の毛並みの狐の尻尾が生えている。獣人族で、恐らく狐族だろう。
「私はバイエライドの街の守備隊の指揮官だ、グライディア王国の民兵と聞いた、諸君の参戦を歓迎する」
凛とした声を上げる彼女は微笑みながら歩み寄り、握手を差し出す。
俺もゴーグルとヘルメットを取り、彼女に握手を差し出した。
「グライディア王国民兵、戦闘ギルド"ガーディアン"、指揮官の高岡ヒロトだ。あんた、名前は?」
「エルヴィン・ロンメルだ、守備隊の隊長が戦死なさったので、私が指揮を引き継いでいる」
「ロンメル……!?」
エルヴィン・ロンメルだと!?
俺の知っているエルヴィン・ロンメルと言えば、第2次世界大戦のドイツの軍人、アフリカ戦線で上げた功績から「砂漠の狐」と呼ばれた将軍で、連合軍からの評価も高かったと聞く。
「ところで妙な荷台に乗っていたり武器も見た事無いが……どうかしたか?」
「いえ……失礼だが、貴女は何というあだ名で呼ばれている?」
「私か?……そうだな、"砂漠の狐"、かな?」
……あだ名まで同じかよ……しかも狐族って、まんまじゃん。
「自己紹介はこの辺にしておこう、部隊指揮官は来てくれ」
「分かった……エリス、分隊の指揮をお前に預ける。良いな?」
「了解」
エリスは少し眉を顰め頷く、不機嫌なのか……?
少し不安を覚えつつ、俺はロンメル指揮官の後に続き建物の中に入った。
建物は豪華ではないが高級感があり、部屋がいくつかある。開いたドアから中を見ると兵士が待機して居たり、負傷兵の治療を行っていたりと様々だった。
中の1つの部屋に通されると、部屋は魔術ランプが灯されており、中には野戦服らしき服を着た男達が地図の広げられたテーブルを囲んでいた。
ロンメルはテーブルの上座に立つ、付いてきた俺は隣に立った。
「グライディア王国から民兵部隊が到着した、ガーディアン団長のヒロトだそうだ」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
軽く会釈をする様に頭を下げると、男達はフッと微笑んで握手を差し出す。
差し出された握手を取ると、ロンメルは忙しそうに解説を始めた。
「着いたばかりでバタバタしていて済まない、どうも公国軍が西側からこの街への侵攻を試みている様でな、部隊が集結中と斥候からの報告があった。レジスタンスの守備隊を西側の守りに充てているが、頭数が足りない、ガーディアンもその増援に向かって欲しい」
「侵攻を?……報告はどれくらい前だ?」
俺は少し引っかかるところがあり、彼女に質問を投げる。
彼女はこちらを向き、怪訝な表情を浮かべて答えた。
「報告は昨日受けた、敵部隊の規模も大きく、7000人ほどだそうだ」
彼女は敵の部隊がいる場所を指差し、大部隊が展開していると言う。
「街の守備隊の殆どをこちらの防衛に充てて……」
「……時間が経ち過ぎている、既に敵は侵攻を始めているんじゃ無いか?」
「それなら湖の向こうに敵の姿が見えても良いはずだが、敵の姿は無いからまだ到着してはいないんだろう……もう直ぐ斥候が帰ってくるが……」
その直後、作戦室に男が入ってくる。
「失礼します、斥候の報告によれば、敵は尚準備中、との事!」
「……これ、恐らく陽動だ」
「何……?」
俺がそう呟くと、ロンメルはハッとしたが次の瞬間納得した様に頷く。
「成る程……西に部隊を集めさせて手薄になった何処かから攻めて来ると言う事だな……だとすると前線は北が最も近い。部隊を北に向かわせ」
「いや、ちょっと待ってくれ!」
俺はロンメルの言葉を遮って止める、引っかかっていた事が繋がった。
「……俺、敵の奇襲部隊をさっき殲滅して来たばかりだ……」
「何だと……!?」
部屋にいた指揮官達が騒つく、ロンメルも驚いた様な表情を浮かべた。
北から街へ入る前、公国軍の集団がバイエライドに向けて進軍中だったのを襲撃した、恐らくあれは本命の奇襲部隊だったのだろう。
「……それは、本当か?」
「あぁ、東の街道が土砂崩れで通れなくてな、北から迂回して来た時に公国軍を見つけたんで殲滅しておいた」
「敵の数はどのくらいだったのだ……?」
「300人程度かな……5分で片付いたけど」
ただの偶然だけどな、と付け加える。
「ただの偶然で300人を5分で……何者だ、君達は……」
300人を短時間で殲滅、それに驚いた表情のままロンメルはこちらを向く、俺はそちらに振り向きニコリと微笑んだ。