表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/215

第120話 王国民兵ギルド ガーディアン

「ガーディアンが、グライディア王国軍の民兵として召集される事になった」


俺は隊員を集めた作戦棟の作戦室で、全員に向かって発言をしていた。


「俺はそれに応えた、勝手に決めてしまってすまない、反発する奴も居ると思う。だから俺はこうしたいと思う」


全員の前でマイクを切り、声を張り上げる。


「目を瞑ってくれ」


全員に目を瞑らせる、目を瞑ったのを確認すると、またゆっくりと、確実に届く声で呼び掛ける。


「ガーディアンが王国軍民兵として動く事に反対な者、不満な者、次の作戦から外れたい者、手を挙げる様に。尚ここで手を挙げたからと言ってペナルティは全く発生しない」


考える時間を与える為に3分間待つ、そして時間が経ち、それぞれの意思が決まった様だ。


「目を開けてくれ……このモノ好きの馬鹿どもめ……」


作戦室がドッと笑いに包まれる。

誰1人として、手を挙げる者は居なかったのだ。

俺は胸に熱く込み上げてくる物を堪え、気持ちを切り替えて説明に入る。その段階になると隊員達の笑い声も収まっていった。


「ガーディアンは西の国境防衛並びに警備に当てられた、3日後に偵察を出す。明後日までに情報局は各所から情報収集、偵察衛星による現地の情報収集も行ってくれ」


「了解」


情報局の担当であるナツが返答をし、副官になったローナが頷く。


「本部長達は集合、派遣部隊の抽出を行う」


「おう」


第1小隊本部の健吾と地上部隊の総合指揮を執る孝道が了解の返答をする。

現時点で歩兵科には2つの小隊があるが、第2はまだ動かせる練度に達しておらず、RPGで言うところの経験値蓄積中の状態である。高い判断力と突発的な戦闘に対応出来る戦闘力が必要な偵察には尚更だ。


「他各員は別命あるまで待機、訓練と自己管理を怠るな、武器の整備もな」


「「「了解」」」


「各分隊の分隊長はまた集合をかけた時に集合する事、以上解散!」


隊員達は散々午後散っていく、俺はまず、情報収集から始める事にした。


ガーディアンの情報局は優秀で……と言うか優秀過ぎて、1日で必要な情報が全て集まってしまったが……


====翌日====


「情報収集の結果が出ました」


第1作戦室の楕円の卓を囲んでナツが立ち上がる、隣にいるのはもちろんローナだ。


「西の国境沿いを偵察衛星で調べたが、大きな街が1つ、砦を囲む街が1つ、要塞が1つあった。恐らく王国軍の国境警戒部隊が居ると思われる」


モニターに映されたのは地図で、任された地区は南西へも広がっている様で最も南の砦を囲む街から30km程南に行けば海がある様なところだ。


そこから大体20km程北には要塞が、更に20km北のグライディア王国領土寄りには大きな街がある。


「この街までは250km、馬車で5日程度だそうで……無理に飛ばさず一定速度で行けば3日は掛からないだろうとの予測です」


隣のローナが仕入れて来た情報を皆に伝える、ローナはあの新聞社ともパイプがあり、新聞社だけあって様々な最新情報が集まってくる。

因みに今日の新聞の一面は珍しくガーディアンの誹謗中傷では無く、昨日集められたギルドの民兵招集の件だった。


「大きな街は"バイエライド"、砦を囲む街は"ジャララバード"、要塞は"クァラ・イ・ジャンギー"だそうです」


「先ず最も近い"バイエライド"の街を目指す、先鋒の偵察隊の状況によりこちらも派遣する部隊を検討する」


ローナとナツが立て続けにそう報告し、それを俺はメモに取る。

街の位置、規模、距離や日程などだ。


「既に国境では小競り合いが始まっており、クァラ・イ・ジャンギー要塞やジャララバードの町付近では越境して来たシュラトリク公国と交戦状態にあるらしいと言うのを偵察衛星が捉えた」


偵察衛星の精度は凄まじく、建物に出入りする人間の足跡や数からその建物の中にいる敵の数を割り出す事が出来、更に映像まで撮影出来ると言う。


「報告は以上だ、質問があれば補足を入れる」


「"敵"の数と装備は?」


俺の隣に座るエリスが手を挙げて質問をナツに投げる、エリスは元々騎士団団長の戦士である。根っからの戦士であるだけそこが気になるのだろう。


「敵の数は1000から先は数えてないが、数えた数の5倍以上はまだ国境の向こう側で越境して来たのはその1000から派生した小規模部隊だ。装備は剣や弓矢、クロスボウ、槍などが確認されている」


偵察衛星の画像を拡大し、公国軍兵士と思しき鎧姿の兵士を映し出す。

確かに剣やクロスボウを持っているのが見えた、銃で武装していたら分からないが、剣やクロスボウならまだ想定の範囲だ、敵に魔術師がいる場合もあるから、それにも気をつけねばならない。

高位の魔術師では、低レベルの無詠唱魔術すら流し込む魔力量によってはかなりの威力になるからだ。


続いての質問がない様なので、団長である俺がその場を引き継いだ。


「敵は交戦状態という事か、万が一……でなくとも戦闘になる可能性が非常に高い。それを抑えるなら派遣部隊も想定より規模を大きくする必要があるな」


「あぁ、偵察行ってやられちゃいましたじゃ話にならんからな」


健吾がそれに同意する様に頷く、その場の全員も俺の意見には賛成らしい。


「では歩兵部隊では……第1と第3を出すか」


え?また俺達か?


「またか?」


「どう考えても市街地戦やら特殊戦やらの練度は第1が最も高いだろ、第3は車輌戦闘が得意だ」


設立時からのメンバーで構成されている第1分隊は、リンカー付近の村の強襲やエリス派の救出作戦、飯喰い(コーマ)の1件など全ての作戦に従事しているため自動的に練度は高くなる。


加えて第3分隊は分隊長のストルッカ・スミス以下分隊員はエリス派騎士団の騎兵、つまり馬に乗っていた兵士であり、車輌の運転技術や車輌を使った戦闘では全部隊の中でも頭一つ飛び出た成績を残している。

今回は長距離移動になる為、まだ当然の選択だろう。


「加えて第1狙撃分隊を指名する、狙撃で部隊を援護して欲しい」


健吾が更に部隊を指名、ランディが静かに頷いた。


「残りの部隊は追って連絡する、先程指名した部隊は隊員達と調整に入ってくれ」


「「了解」」


俺達は返事をしながら頷き、配られたレジュメを持って目を通した。

レジュメを見る限り、野営では無く街道上にある宿場町に宿泊する行程であるらしい。


これは商隊護衛より長い仕事になりそうだ……俺はそう思いながら更にレジュメを捲ると、そこにはこう記されていた。


"異世界の人海戦術に対する擲弾(グレネード)の有用性について。"


「……これ、誰が追加した?」


「あぁ、俺だよ」


孝道がスッと手を挙げる。


「俺は軍事に詳しく無いからこういう事しか分からんけど、グレネードランチャーって破片と爆風による攻撃だから、横一線に拡がってくる敵への攻撃に有効かと思って」


孝道の話を聞きながらレジュメを読むと、同じ様な事が書かれてある。

グレネードランチャーに使う40×46mm擲弾は、32gのコンポジションB爆薬を使用し、主に俺達の使うアンダーバレルグレネードランチャーであるMk.13EGLMから発射される。有効範囲は約10〜15mと言われており、その範囲の敵を爆風と破片で圧倒する事が出来る。


面に対する攻撃でこれ程有効な物は無い、その範囲に展開する敵に敵の数だけ弾を撃ち込む必要は無く、下手をすれば数発撃ち込むだけで敵を全滅させる事も出来るのだ。


機関銃の機銃掃射と組み合わせれば、その効果は絶大であろう。


「……分かった、効果は実証してるしな。車輌の内2輌はMk.19自動擲弾銃を積む事にしよう」


「了解」


俺は1つ頷いて装備を決定して行く、今日の会議は行程の確認と現状部隊の装備についてで終わった。


====2日後====


俺はロッカールームに居た、偵察に出るのに必要な装備を整える為だ。


コンバットシャツの上からいつものプレートキャリア、CRYE(クライ) PRECISION(プレシジョン) JPC2.0を着込む。

ドラゴンの鱗を加工して作った防弾プレートに弾力のあるソフトアーマーを身体側に貼り付けて作った、通称"ガーディアン・アーマー"が前後に挿入されている。


左腕側のフロントカマーバンドに挟み込む様にTYR(チュール) Front(フロント) Wing(ウィング) Mag(マグ) Pouch(ポーチ) Adapter(アダプター) 5.56- Left Sideが取り付けられ、プレートキャリアに入るマガジンの量は4本と増加している為、継戦能力は更にアップだ。


セットアップは前とさほど変わらないが、左側の後ろの方、邪魔にならない位置にATS 152 MBITRラジオポーチが取り付けられており、AN/PRC-152が収まっている。PTTスイッチはケーブルを伸ばし胸元で、スロートマイクとヘッドセット用のケーブルをも付いている。


右側のカマーバンド、邪魔にならない脇腹下側のPALS(パルス)ウェビングにはTYR(チュール) シングルグレネードポーチが2つ取り付けられており、バックルフラップによって開閉するこのポーチにはM67破片手榴弾(フラグ・グレネード)が2つ収まっている。


実はラジオポーチとフラグポーチに付いては、俺は今選んでいるところだ。

ショップが出来てから良いポーチが沢山出ている為、色々あって選ぶのも楽しいが、それだけ装備も迷う。


因みにショップの装備は店員をしている隊員からの要望で俺が召喚している為、俺も初めて知るポーチや装備も多い。


ベルトはTYR(チュール) BrokosベルトにATSのコブラバックルベルトをインサートしている。

右側の腰にはSafariLand(サファリランド)6378ホルスターをローライドUBLとQLSアダプターを介して取り付けており、腰から2インチ、約5cmほど下に下がっておりセカンダリのP226が抜きやすくなっている。


腰の左側にはTYR(チュール) Pistol Mag Pouch - Double 9mm Glockと呼ばれるダブルピストルマグポーチを1つ取り付けている。

グロックと名前が付いているが、9mmの拳銃の弾倉なら大体入る。

そして外側から内側へと止めるフラップが付いており、薄く弱い磁石がインサートされている為、フラップを止めなくてもマガジンが保持されるのが便利なマグポーチだ。


その左腰のピストルマグポーチの後ろ側にはITW FASTマグポーチが1つ、ライフルの弾倉1つが収まるプラスチック製のこのマグポーチは、マガジンの弾性だけで弾倉を保持することが出来る。


その後ろ側にはダンプポーチ、使い終わったマガジンを入れておくポーチを腰から下げている。

EAGLEのロールアップダンプポーチだ。


右側の後ろにはATSのSOFメディカルポーチを備えている。

このポーチはバックルを外すとベルクロで取り外しが出来るポーチで、中には歩兵用のメディカルキットや止血帯、衛生用のゴム手袋が入っている。

基本的に負傷は衛生兵が治癒魔術によって治すのだが、後方までの応急処置のためだ。

因みにメディカルポーチに入っているファーストエイドキットは「仲間を治療する」のではなく「自分の治療をしてもらう」為のものだ。


ベルトを前でコブラバックルで固定し、腰に下げる。


ヘルメットにはシュラウドが取り付けられており、暗視装置などが取り付けられやすくなっている、カウンターウェイトやストロボなどもユーティリティポーチの中に入っているので、暗視装置を使用する際はこれらをヘルメットのベルクロに固定するのだ。


暗視装置はAN/PVS-31にしろGPNVG-18にしろそれなりに重量があるので、ヘルメット自体がドラゴンの鱗を加工して作った軽量なものになっている。

インナーパッドは柔らかいものに変えて頭への負担を更に減らそうと目論んでいる。


ロッカーの中の引き出しから5.56×45mmNATO弾が10発ずつ止められたクリップを出し、ガイドを使ってMAGPUL(マグプル) P-MAGに装填していく。

強いスプリングなら問題ないらしいが念の為マガジンの保護を考え、装填数を25発で止めておく。

残りは5発装填用のクリップにまとめてユーティリティポーチと弾薬箱に分散して置いておいた。


拳銃は今回はP226を持って行く、6378ホルスターにぴったりと収まるサイズだ。

拳銃もマガジンには12発を装填しておき、残りの9×19mmパラベラム拳銃弾はポーチに入れておいた。


MAGPUL(マグプル) MS3モノスリングで担いだM4はハンドガード右側にVTACのライトマウントを介してSUREFIRE(シュアファイア) M600Cを取り付けている。

VTACのマウントを使う事でフォアグリップを握ったままライト後部のスイッチを押しやすくなっている。


フォアグリップはTangoDown(タンゴダウン) BVG-ITIをハンドガード下部に取り付けて、M4の取り回しの向上を図る。


ハンドガード上部の手前側にはLA-5/PEQレーザーサイトがあり、こちらはグリップにスイッチを取り付けている。


機関部上部(レシーバートップ)に載せている光学機器はEOTech(イオテック)553ホロサイトに換装してあり、近距離での戦闘に対応出来る様にしている。

何しろ今回の任務に就くのは市街地だ、敵との交戦になった場合は市街地戦になると見込まれるからだ。


ストックはMAGPUL(マグプル) MOEストックに換装している為、軽量化と肩付けの感覚が良くなり、サイティングもしやすくなった。


因みに今は軽量化の為付けていないが、P226にもSUREFIRE(シュアファイア) X300ウェポンライトを取り付けられる様に携行する。


M4をスリングに下げ、P226をホルスターに入れ、OPS-CORE(オプスコア) FASTマリタイムヘルメットを持って車輌格納庫へと出る。


そこには既に車輌がコンボイを組んで待機していた。


先頭の2輌はお馴染みランドローバーSOV、ランドローバー110をベースに特殊部隊の車輌として生まれ変わったもので、米軍ではRSOV、英軍ではWMIKとしても使用されている。

車体が小型の割には搭載量が多く、例に漏れずこのランドローバーSOVにも凄まじい量の兵器や弾薬が積まれている。


ボンネットの上の2つの収納箱にはM18A1クレイモア地雷やMK3A2攻撃手榴弾、M67破片手榴弾、TH3焼夷手榴弾がみっちり詰め込まれている。

更にボンネットの上のスペースにはAT-4CS使い捨て無反動砲が3つも備えられている。


屋根のターレットリングには"代替無き老兵"とも呼ばれるブローニングM2重機関銃が、助手席と後部の機銃にはFN M240E6汎用機関銃が1挺ずつ備え付けられている。

ブローニングM2の両脇の屋根には91式携行地対空誘導弾"SAM-2B"のランチャー・チューブが2発分備えられている、本体は車内に置いてある。

その他後部側面の貨物ラックにはパンツァーファウストⅢが4発に、後部には01式携行対戦車誘導弾と84mm無反動砲カールグスタフM3などの武器弾薬、外部の貨物ラックには予備燃料のタンクやスペアタイヤがあり、車内にも予備弾薬や食糧、飲料水など必需品が積まれている。


ランドローバーSOVには第1狙撃分隊と第1分隊の半数である4人が乗り込む。


残りの半数と第3分隊はHMMWV(ハンヴィー) M1044に乗り込む事になっている、3輌の内第3分隊の車輌が1輌ブローニングM2を搭載しており、第1分隊と第3分隊に各1輌ずつ、Mk.19mod3自動擲弾銃を搭載しているHMMWV(ハンヴィー)が配備されている。

このHMMWV(ハンヴィー)にも乗り込む隊員の補給品などが積まれている。


その後ろに並ぶのはイギリス製、コヨーテ戦術支援車だ。

6輪のこのこの車輌はランドローバーSOVの様にフレームパイプをメインに構成されているが、左右には装甲板が付いており、4人乗りに加えてガナー席がある。

ガナー席付きのターレットリングに備えられているのはもちろんブローニングM2重機関銃、助手席にもM240E6汎用機関銃が備え付けられている。


座席の後ろ、トランクとも呼べる貨物スペースにも武器弾薬、燃料、食糧が積まれている。


これを運転するのは輸送科の隊員、乗り込むのは第2狙撃分隊だ。


「済まないな、最初は予定していなかったんだが……」


「良いんですよ、私達も暇でしたし。それにこの装備にしてからまだ1度も実戦に出てませんでしたからね」


L115A3を携えるアンナ・ドミニオンが答える、彼女ら第2狙撃分隊は4人全員が女性であり、勝つ2つの班を統合した分隊なので遠距離の射撃に特化している。


マークスマンのエル・リークスはMAGPUL(マグプル) CTRストックを取り付けたSR-25Kを装備。

擲弾手を務めるローレル・ラフィルズはFN Mk.13EGLMを取り付けたMk.12 mod1 SPRを携行している。

ライフルマンのシェリー・ガブリエルもMk.12 mod0 SPRを携えている為、全員が精密射撃が可能だ。


彼女らのコヨーテ戦術支援車は、その後ろに続く輸送車輌を守る目的がある。


輸送車輌には、ホロ張りのM998HMMWV(ハンヴィー)とLAV-25ファミリーであるLAV-Lが選ばれた。

衛生兵のセレナも乗り込むM998HMMWV(ハンヴィー)にはM134Dミニガンが、弾薬燃料食糧や予備部品を満載するLAV-LにはM240E6汎用機関銃がそれぞれ搭載されている。


それに加えM998HMMWV(ハンヴィー)には水の牽引トラックを、LAV-Lは燃料の牽引トラックを牽いている。


これで36人が1週間、生存と作戦行動が可能になる。


では残りの隊員はどこに載っているか。


隊列の最後尾、砲塔を持った車輌が1輌いる。ガーディアン偵察隊に配備されたLAV-25A2である。

砲塔に搭載したM242 25mmチェーンガンによる火力は、今回の作戦で使用される火砲の中で最大火力に属する物になる。


そしてLAV-25A2に乗り込むのは、設立した軽機関銃分隊だ。

俺の目標とする歩兵中隊の中の火器小隊の中に2つの機関銃分隊がいるが、その片方である。


「ハリエント!」


「ヒロトさん、火器小隊第1機関銃分隊、準備完了です!」


分隊長を務めるハリエント・ウェルストン少尉が、ドラゴンの鱗でつくられたACHを持って敬礼する。

彼の背後に並ぶ隊員は5人、擲弾手兼副官に、M240E6を携行するLMGガナーとサポートするライフルマンが二人ずつである。


機動性は多少低いとは言え、7.62mmNATO弾を使う汎用機関銃の火力たるや凄まじいものがある。「特殊部隊の火力の頼みの綱はグレネードランチャーとマシンガン」と言われるほどだ。


そんな火力支援の一部を担うのが、この機関銃分隊である。


「君達は初の実戦だ、俺達を火力で支援するのが君達の任務だが、最も大切なのは君が隊員を全員生きてこの基地に連れて帰る事だ」


「心得ています、必ず全員生還させますし、隊長達に適切な援護を提供しますよ」


「頼むぞ」


ガシッと握手をすると、彼はACHを被って隊員を率い、乗り込む様に指示を出す。

俺も自分の乗るランドローバーSOVに戻り、いつも通り最後の打ち合わせを行う。


「高ちゃん、気を付けてな。作戦室では待機してるから、必要あればいつでも呼んでくれ」


「おう、そっちでも呼ばれない事を祈りつつ呼んだらすぐに来られる準備しといてくれ」


健吾と孝道が見送りに来る、この2人は今回の作戦の緊急対応部隊(QRF)として待機、攻撃ヘリと駆け付けて来る体制を整えている。


「それじゃ、行ってきます」


「おう、行ってらっしゃい」


ランドローバーSOVに乗り込み、ドラゴンの鱗を加工して作られたFASTマリタイムヘルメットを被る。

助手席にはエリスが座る、エリスも傍にヘルメットを置きM4を携え、振り向いて頷いた。


「では各車、準備報告」


『先頭S(シエラ)1、準備完了』


1-2(ワンツー)、準備完了』


3-1(スリーワン)準備完了、いつでも行けます』


3-2(スリーツー)準備完了!』


S(シエラ)2、準備完了しました』


B(ブラボー)、準備完了』


L(リマ)1、準備完了です』


『最後尾、準備完了しました!』


「1-1、準備完了。これより出発する!」


俺はハンドルを握りエンジンを掛けた、ディーゼルエンジンが唸り、車体が震え始める。


「出発、前へ!」


そう通信を入れると、先頭のランディ達の分隊が乗るランドローバーSOVが走り出した。

基地の大通りを抜け、正門を潜ると車列は左折、街道へと合流し、9輌の車列は一路西を目指して走り始めた。


===========================


街道を西へと飛ばす車列、平均時速は70km程だ。

とは言っても街道も直線になっている訳では無い、曲りくねったり途中の街道との交差点、合流もあるし、宿場町や河を渡る為の橋もかかっている。


「川幅はおよそ100m、橋の幅は8m、橋の材質は木製、川の深さは0.4m、付近には障害物は無しか……」


橋の手前で待機し、橋を偵察する。

橋があればそこを渡る、では無く、まずは橋が俺達の車輌の重量と速度に耐えられるかどうかを調べる必要がある。


「田舎の橋だが腐食は見られないな……新しく掛かったようだ」


隣で橋を望遠鏡で見つめるエリスもそう呟くように言う。


基本的に渡河は1度に行う事は無い、もし車列が一度に橋を渡っている時、橋に仕掛けられた爆発物が爆発して橋が落とされれば一網打尽にされてしまうからだ。

1台ずつ渡る事で「相手の仕事の効率を下げる」と言う事だ。


HMMWV(ハンヴィー)まではギリ行けるとして……LAVは無理だろうな……」


「あぁ、橋の寿命を短くしてしまう恐れもある……」


車列まで戻り、次は対岸を偵察する事にする。


「第1分隊の男子組、対岸の偵察に行くぞ。女子組に車輌を預ける、第1狙撃分隊は渡河中の援護を頼む」


「分かった」


「了解」


橋は待ち伏せ攻撃には最適な場所だ、露払いとして先鋒は俺達が務める。

M4を上部の装備取り付けラックから取り、チャージングハンドルを引いて初弾装填、安全装置を掛けて指名した3人と共に橋を渡り始める。


上流のこの川は水深も浅く、船の往来も無いので橋を架けるには最適なのだろう。

橋の橋脚にトラップが無いか確認しながら、100mの橋をゆっくり確認しながら進む。

全ての橋脚の確認と対岸の安全を確保するまでに25分を要した。


「1-2へ、こちら1-1、橋と対岸の安全を確認、進んで良し、オーバー」


『1-2了解、アウト』


通信を入れると、川の向こう側から再びディーゼルエンジンの響きが聞こえる。


1輌目のランドローバーSOVが渡り始めると、下流側の川をM1044 HMMWV(ハンヴィー)が川へと入っていく。

装甲車はある程度の深さであれば、浮揚渡河する事が出来る。HMMWV(ハンヴィー)も0.4m程度の深さの川など、簡単に越える事が出来るのだ。


橋をランドローバーSOVとM998 HMMWV(ハンヴィー)が渡りきり、コヨーテ戦術支援車が渡り始めると、川に入ったのはLAV-Lだ。

牽引トラックは橋を行くコヨーテ戦術支援車に任せ、LAV-Lは川の中を渡る。

続いてLAV-25A2も川へと入り、水飛沫を立てながら川を渡りきった。


ガーディアンで採用しているLAV-25ファミリーは、浮揚渡河の為の推進力を得る事が出来るので、渡河する際は橋に頼る必要が無いのはとても助かる。


とは言っても、この程度の浅さでは浮揚渡河能力は必要無いが……


LAV-25が渡りきる頃、最後尾の警戒をしていた第1狙撃分隊の乗るランドローバーSOVが橋をゆっくり渡り始める。


後方の機銃とターレットリングに搭載したブローニングM2を後ろに向けながら渡り終えると、9輌の車輌は無事に川を越える事が出来た。


===========================


「定時連絡、定時連絡。行程通り宿場町に入った。今日はここで休む事にする」


『了解、お疲れさん。休む時も武器弾薬の管理な厳重にな』


「了解、通信終わり」


エリスがランドローバーSOVに積まれた無線機で、本部基地の作戦室にいる孝道と交信する。


彼女の交信を終えると、人通りのある宿場町の大通りを進みながら宿を探す。

宿泊する宿は夜と朝の食事付き、馬車を止められるスペースのあるところが好ましい。

と言うのも装甲車ならまだしも、ランドローバーSOVやM998HMMWV(ハンヴィー)、コヨーテ戦術支援車は屋根も壁も無い為、装備品を盗まれる可能性があるのだ。


その為馬車を1台1台停められる"車庫"付きの宿を俺達は探していた。


と、第1狙撃分隊が乗る先頭のランドローバーSOVから通信が入る。


『こちらS1、前方100mの交差点右側に宿発見。"車庫あり"、"団体様歓迎"の字を確認』


「了解、そこを目指すぞ。取れれば今日の宿はそこにしよう」


俺達はその宿の前まで車を走らせ、車列を宿の前に停める。

宿は冒険者向けの宿で、ギルドも宿泊するという事で馬車の車庫と大部屋がいくつもあるのが売りの宿だった。


36人が宿泊すると伝えると店主は驚いては居たが、適正料金での宿泊に歓迎してくれた。

大人数になると気持ちが大きくなるのか、武力を盾に値引き交渉をする悪質なギルドも居るという。


馬車の停泊は馬の餌代と水代は無しなので、こちらの方でコストが抑えられて良かった。


ランドローバーSOVが2輌、HMMWV(ハンヴィー)が4輌、コヨーテ戦術支援車とLAV-L、LAV-25A2が各1輌、揃って馬車の車庫へと入る。

LAV-25のサイズだとギリギリだが、より大きな馬車や複数台の馬車を格納する為の車庫もあったのでそちらを借りる事が出来た。


横並びに取る事が出来た為、歩哨を立てる人数と回数も少なく出来る。


部屋は相部屋、1部屋に6個のベッドがある部屋を4つ取る事が出来た。

潜水艦では無いが、経費の削減と警備のシフトの関係上こうしたほうがいい。所謂人肌寝台と言う訳だ。


しかしこうして宿で身体を休められるのは精神衛生的にも肉体的にもとても良いものだ。


と言うことで俺達の隊は今日、この宿で休む事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ