第118話 Rapter K9
ゴードン視点
今日はヒロトから命じられた仕事がある、ギルド組合からの要請があった付近の山での魔物狩りである。
魔物はラプトルの森の中とは違い、ここではゴブリンやオーク、コボルト、トロールなどがメインだと言う。
ゴブリンは体長1m程の魔物で人型、知能がそこそこあり弓矢や棍棒で攻撃してくる繁殖欲の権化だ。
オークはゴブリンを体長2m程まで大きくし肥満体にした様な感じで、むしろ武器は持たず素手で攻撃してくる。
コボルトは2足歩行する狼で体長は1.4m程、足が速く素早い上、鋭い爪や牙で攻撃する冒険者や傭兵達から危険視されて居る魔物だ。
トロールは体長3m程、オークを更に肥満体にした様な見た目で怪力、剣や弓矢などの細かい攻撃は効き目が薄い。
どうやら山菜採りに山に入った冒険者に魔物の群れが襲い掛かり、冒険者に犠牲者が出て居る様だ。
その魔物の群れを狩るのが今回任された仕事である。
俺の仕事場であるラプトル飼育舎の待機室に行くと、既にアレク達は集合して居た。
「ようゴードン、遅かったな」
「うるせぇ、開始まで時間あるだろ」
そう言って待機室から飼育小屋へと入る、中ではガーディアンの正規隊員がラプトルの世話をして居た。
「よしよし、良い子だ……」
中でラプトルを撫でているヴィーノや、ラプトルと一緒に走っているラッセルは、そのガーディアンの正規隊員である。
ガーディアンのK9オブザーバーに就任してからまず始めに彼らに教えたのは、ラプトル達との信頼関係を築く事だ。
信頼出来る関係で無ければラプトル達は従ってくれない、それは俺達竜人族も同じ事だ。
そして自らがボスであると示す事、この2つで命令系統とそれに従う上下関係を作り上げる。
そして現在K9には2つのチームがある。
"クロスロード・チーム"と"アイビー・チーム"である。
1チーム2頭のラプトルと4人の人間で構成されており、現在2チームが作戦に当たる事になっている。
今回はその2チームを投入する事になる、魔物達が住み着いた巣を見つけ、撃滅する。
"撃滅"と聞いた時、とても驚いた、この少人数でそんな事が出来る訳が無い、王国騎士団だっておそらく不可能だろう。
しかし、ヒロト達は驚くべき武器を持っている。
弓矢でも届かない遠距離から、クロスボウも足元にも及ばない様な光の矢を放つ武器だ。
これがもし他の戦士達の手に渡ってしまえば、鍛えられた一糸乱れぬ戦列など無意味、今までの戦い方が根底から覆されてしまう。
それにヒロト達が乗る荷車や箱も凄い、ガラガラと変な音を立てながら、馬車の2〜3倍の速さで駆け抜けるのだ。
「んで……今回使う"シャリョウ"は?」
「あぁ、外に用意してあるぞ」
ラプトルの世話をしていたラッセルは立ち上がり、作戦の為の防具を身に付ける。
彼に限らず、ガーディアンの兵士の戦装束は"変だ"と言わざるを得ない。
よく分からない斑模様の服を着て、鉄兜を被り、服と同じ斑模様の防具を着るが、その防具で守られて居るのも胴だけで腕などは切ってくれと言わんばかりに守りは薄い。
しかし普通の防具よりも数段軽く、かなり動きやすい。動きやすさを重視して居るのだろう。
K9チームの彼らが着ている防具はJPCと呼ばれていた、肩のつなぎ目は薄く、すぐに千切れそうだが心配は無いらしい。
彼らはM4と呼ばれる黒いクロスボウの様な武器を肩紐で背負い、鉄兜を被って顎紐を締める。
俺も渡され、使い方を覚えた彼らと同じ得物を手に取る、渡されたものはM727"アブダビ・カービン"と呼ばれるものだ。
彼らが取り付けている望遠鏡の様なものは無く、照準を合わせる時は手前の円と奥の突起を合わせる感じで行う。
そしてもう1つ、マガジンと呼ばれるものは、"光の矢"を入れるものだという。
俺が渡されたのは20発入りのもので、あまり撃たない指揮官用だと言われた。
その代わりと言うか、箱から棒が伸びている物を渡された。
無線機も呼ばれるこの箱は、スイッチを押すだけで遠くの仲間に指示を飛ばせると言う、成る程、指揮官は指揮を取るのであまり戦う事は無いのか……
俺も彼らと同じ防具を身に付け、ラプトル達を檻から出す。
ラプトル達に話し掛ける様に念じると、答える様にこちらに振り向き、後を付いてきた。
外に出ると言われた通り、"車輌"が用意されていた。
"HMMWV"と呼ばれるよく使われる物が2台、上には俺達の得物を大きくした様な物が付いている"キジュウ"と呼ばれる物で、今乗っているのはM240E6と呼ばれる"キジュウ"だと言う。
そしてもう2台、新しい"車輌"がある。
「ほぉ、ポラリスATVか……」
「MRZR-4だな、最新型か……」
彼らが何を言っているかは分からないが、新しい車輌らしい。
操舵輪の様な物が付いている椅子の隣の椅子、助手席側にはM240E6の"キジュウ"が1つ付いており、骨組みだけで構成されている。
「おう、揃ったか」
HMMWVの運転席から降りて来たのは、スティール・ライン、第4分隊分隊長の准尉だ。
「あぁ、今日は宜しく頼む」
「亜竜を乗せるなんて初めてだからな、オブザーバーはこっちに乗ってくれ、後はATVに」
「分かった」
俺はアレクと共に後ろの2台へと回る、ラプトル達はそれに付いて来た。
第4分隊の隊員が後ろの観音開きのドアを開ける、俺はラプトル達に中に入る様に言うと彼らは大人しく中に入った。
第4分隊の隊員が扉を閉める、俺は後部座席に乗った。
ラプトルのオブザーバーである俺とアレクは2台のHMMWVに乗り、他のK9の隊員はATVとやらのシャリョウに乗り込む。
『準備良いか?』
第3分隊のスティールが回線を開きながらエンジンをかける、他の隊員は準備を終えたらしく、同じく無線で呼びかけていた。
この"無線機"と言うのがまだよく分からない、どうして離れたところにいて、ここに居ない奴と会話出来るのか……
そんな事をぼんやりと考えていると、俺を乗せたHMMWVは走り出す。
向かうのはベルム街郊外の山、目的は魔物の駆除である。
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ヴィーノ視点
ベルム街郊外の山へは20分ほどで到着、ガーディアンのK9部隊初の"実戦"である。
ヒロトさんが今回の戦闘で航空部隊では無くK9部隊を指名したのは、やはり経験値を積ませて練度向上を図る為だと言う。
そりゃそうだ、新しく採用したC-130HにMOABを搭載して空爆、その後で攻撃ヘリを投入すれば簡単だろう。
しかしそれではK9部隊の実戦投入が遅れ練度が保てないし、何より航空機からの目は誤魔化しやすいので取り逃がす恐れがある。
実際にイラク戦争でもチートじみた航空戦力を持つアメリカ空軍がイラク空軍を亡き者にした後、徹底的な爆撃を加えて地上部隊を殲滅しようと試みても、イラクの損害は全体の30%にしか達しなかったと言う。
もちろん航空部隊だけでは無い、基地に通信を入れればすぐにアパッチが飛んで来られる体制は整っている。
車を目的地に止めると一旦降り、HMMWVに乗っているゴードンと合流する。
「この辺りか?」
HMMWVを降りたゴードンが首を傾げてM727アブダビカービンをローレディ・ポジションで携える。ラプトルのオブザーバーとしての参加だが、現代兵器や戦術に一応は対応出来るようにトリガーコンシャスやマズルコンシャス、銃の操作方法など基本的な事は叩き込んである。
「あぁ、最新の目撃情報はこの辺りだ、ラプトル達を降ろそう、追跡させる」
「分かった」
ゴードンと共に後ろに回り、M998HMMWVのホロ張りの荷台の観音開きのドアを開けると、小型犬より少し大きいラプトルが降りて来た。
今のラプトル達の大きさは膝くらい、体高は凡そ4〜50cm、体長は1m程だろうが、これがおそらく更に大きくなる。
ラプトルは俺の足元に甘え付いてくるが、俺はしゃがんでラプトル達の頭を撫でながら言う。
「お前達の力が必要だ、力を貸してくれ、エイブル、ベイカー」
灰色の身体に白い横ラインが入っており、"A"の首輪を付けた"エイブル"。
エイブルと同じ灰色の身体だが、身体のラインは白い横縞が7本入っている"ベイカー"。首輪は"Bk"。
俺のラプトルはこの2頭だ。
"かう!" "くぁあ!"
小さい身体だが、しっかりと頷く様に鳴いてくる。
ラプトルの言葉は分からないので何て言っているか分からないが、ゴードンを見上げるとうんと一つ頷いた。
どうやらラプトル達も分かってくれたらしい。
このHMMWVの後ろでも、アイビー・チームのラッセルとラプトル達が準備をしていた。
「ゴードン、ポラリスの後ろに乗れ、行こう」
「分かった」
アブダビカービンを携えたゴードンは頷き、4人乗りのポラリスMRZR-4の後部座席に乗る。
俺は運転席に乗り、エンジンを吹かすとラプトルが呼応する様に吠え、匂いを辿る様に森の奥へと進む。
俺達を追い越す様に"アイビー・チーム"のラプトルも進んでいった。
ポラリスに乗った俺達はアクセルを踏み、2台で森の奥へと入っていく。
「うは、すっげ……」
ラプトルの走破性は、予想していたよりも高かった。
ずっと一定速度で走りながら障害物を避け続ける反射神経、その一定速度と言うのも人が走る速度ではなく、車で追い付く様な速度だ。
こりゃバイクの方が都合いいなと思いつつ、ラプトルを見失わない様に追いかける。
4頭のラプトルは2頭ずつのチームに分かれ、魔物達の匂いを辿る様に走り抜ける。
魔物の巣はすぐに見つかった、犬の数倍と言われる嗅覚を持つラプトルは半端では無い。
ラプトルが立ち止まり鳴き声をあげたのは崖の近くにある洞窟だった、恐らく魔物の出入りがあるのだろう、周囲のブッシュは踏み倒されている。
「……あれか……」
「ラプトル達もあの洞窟だと言っている、多数の魔物の匂いと襲われた人の血の匂いで鼻が曲がりそうだとさ」
洞窟が魔物の巣になっているのはどうやら間違いない様だ。
「よし、一旦引くぞ」
「このまま行かないのか?」
ゴードンが声を潜めながらそう言う、まぁ、勝てない事も無いが、トンネルに突っ込んでしまうのは相手のフィールドという事になる。わざわざ相手の土俵で戦う事は無い。
「もっと効率的な戦い方がある……っと……」
俺は葉擦れの音に気付き、息を潜めてポラリスから降りて伏せた。
足音が低く響く、そっと頭を上げて覗くと、巣の前を歩く影があった。
トロールだ、体調は3mほどの肥満体で怪力の魔物だ。確か情報によれば、少なくとも1体のトロールがうろついつていると言う。
トロールが消えるのを待って俺達はホールディングエリアに設定した所まで後退した。
地面に木の枝で線を描き、石ころを俺達に見立てて作戦会議を行う。
「車にはクレイモアが積んである、クレイモアを仕掛けて奴らを誘導しよう。他の方へ行かない様にクレイモアの包囲網は二重にし、正面奥をわざと空けておきそこに誘き出す」
巣を囲むように"只"の文字を書き込んでいく。
ゴードンやアレクも聞き入る、彼らはラプトルを操るオブザーバーであるので、作戦を立てるのは俺の仕事だ。
「なるほど……敵は必然的に包囲の薄いところに集まって来るわけだな?」
「そうだ、けど相手は魔物だ、クレイモアが効かないなどの想定外もあるだろうから、そうした時はラプトル達の出番だ、包囲網の中に入る様に追い立てて貰う」
背後で作戦会議をして居る俺達の背中を守るラプトルにちらりと視線を投げて説明を続ける、ゴードンはそれを見てうんと頷いた。
「これで行くぞ、準備はいいか?」
全員の顔を見回す、それぞれがそれぞれの表情で頷く。
「では、状況開始」
俺はM4のチャージングハンドルを引いて離し、初弾装填。
8人がそれぞれの目的を達成する為に動き出した。
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状況開始から2時間かけてじっくり包囲網を形成、20個のクレイモアを仕掛けた即席の包囲網が完成した。
ポラリスに積んできた分だけでなく、待機しているHMMWVのところまで戻ってクレイモアを借りて来た。
魔物に見つからない様に匍匐前進でゆっくり巣に近づき、クレイモアの足を地面に埋める、目立たない様に木の根元の茂みに隠してだ。
それからワイヤーを張り、引っかかったら爆発する様に仕掛けた、更には遠隔起動用のワイヤーも伸ばし、不発がない様にする。
キルゾーンに設定した場所には4つのクレイモアがキルゾーンに死角を作らない様に配置させ、安全圏に退避している俺達が更に射撃を加えると言う二重包囲である。
キルゾーンのクレイモアは有線爆破なので地雷の様に引っかかる恐れは無いので、魔物をおびき出してから更に細工をする必要は無いのだ、
「良いか?」
「あぁ、ちょっと行って来るぞ」
俺はカールグスタフM3を担ぎ、HEDP502砲弾を装填し、もう1発同じ砲弾を持っているラッセルを引き連れて匍匐前進で洞窟まで向かった。
匍匐前進で進む事30分、洞窟の入り口正面200mのところに回り込む。
「いいか?」
「あぁ……」
肩当をしっかり肩に当てて安定させ、カールグスタフの安全装置を解除、後方の安全を確認してから、引き金を引いた。
ドン!
重い音が響き、225m/sの砲弾が盛大なバックブラストとともに飛び出した。
ズシンと爆発音と共に洞窟の内側が崩れる音が聞こえる、その音を聞きながらラッセルが再装填、カールグスタフの腹を満たした砲弾を俺がもう1発撃ち込んだ。
2連続で砲弾を撃ち込んだ俺達は立ち上がって即座に退避、振り向く瞬間、埃まみれになったゴブリンやオークが出て来るのが見えた。
「逃げるぞ!異世界の敵だ!」
「ホントファンタジーだなこの世界は!?」
ラッセルとそう話しながら30分かけて匍匐で移動した道を1分もせずに駆け戻る。
「どうだ!?」
「バッチリだ!後は来るのを待つだけ!」
ポラリスの銃座に座り、M240E6を構えるゴードンにそう言うと俺たちの後ろから不気味な声がした。
"オオオオォォォォォォ!"
山に響く咆哮、魔物達の声だ。
俺達も初めて経験する異世界の実戦……5.56mmは通用するが、どの程度となるのか……
カールグスタフM3にHE441を空中炸裂信管を設定して装填、いつでも射撃出来る様にしておく。
地響きの様に魔物達が駆けてくる足音が聞こえ始めると、バンバンとトラップとして設置したM18A1クレイモア地雷が炸裂していた。
巣の左右へ広がる事を諦めたのか、魔物達はまっすぐ突っ込んで来る。それも隙あらば左右から回り込もうとして来るが、回り込もうとする度にクレイモアが炸裂するので回り込めずにいた。
二重のクレイモアを自爆させても尚外に出ようとする魔物はラプトルが仕留める。
ラプトルはその獰猛さを遺憾無く発揮してゴブリンに飛び掛かり、足の鋭い鉤爪を引っ掛けて皮膚を引き裂き、首に噛み付き首の骨をゴキリと折った。
魔物がキルゾーンの中に集まっていく、ラプトル達はキルゾーンに近付かないように退避させた。
そして先頭集団がキルゾーンの中に入った時、ホチキスを巨大化させた様なガジェットのスイッチを起動させた。
轟音と共に4つのクレイモアが同時に起爆、キルゾーンを四方八方から飛び散る散弾が埋め尽くし、魔物達を吹き飛ばしていく。
それと同時に後方の安全確認をしたカールグスタフM3を発射、HE441が発射されると空中で炸裂、仕込まれた鉄球が魔物を切り刻む。
「射撃開始!」
クレイモアの爆発を合図に一斉に射撃を開始、けたたましい銃声と共にM240E6が7.62mmNATO弾を吐き出していき、魔物の群れを掃射する。
射界がオーバーラップしたキルゾーンの中に立往生したおおよそ200の魔物の群れは次々と5.56mmとは桁違いのパワーを持つこの弾丸の餌食になり、地面に倒れていく。
「ゴードン!短連射だ!」
「短連射ァ!?」
「指切り連射の事だ!」
「ああ!あれか!?」
ゴードンはM240E6の射撃を引き金を引きっぱなしの掃射から指切りバーストの短連射に切り替える。
弾薬の節約と早期の銃身過熱を避けると言う役割がある。
しかしそれをしても汎用機関銃の火力と言うのは凄まじい、1挺で歩兵10人分の火力を持つと言うのも頷ける。
更に機銃掃射を擦り抜けたゴブリンやコボルトを俺がM4で射撃して仕留めていく。
Trijicon ACOG TA01のレティクルを合わせ、ゴブリンにダブルタップ。
5.56mm弾が音速の3倍ほどの速さでゴブリンの脳を食い破り、反対側へと破片を撒き散らす。
「トロールが来たぞ!」
その声に見回してみると、トロールが2体、こちらに向かってくる。
「1体じゃなかったのか!?」
「少なくとも、だ!これ以上いるかもしれないしな!」
M4に安全装置を掛けて下ろし、カールグスタフM3にHEDP502を装填し、砲尾を閉鎖、後方確認を行い安全を確保すると引き金を引いた。
HEDP502の貫通力はHEAT571などには及ばないにしろ、しっかりとHEAT弾なのでトロールを屠るなど容易い。
胸元に84mmの砲弾が命中するとそこから上が綺麗に吹き飛び、残った部分がその場に崩れ落ちた。
"ギシャァァァ!"
"キュァァア"ア"!"
もう1体のトロールに向かって、ラプトルが突撃していく。
トロールの身体に鉤爪を引っ掛けてよじ登り、背中と頭に噛み付いた。
トロールは腕を振り回し振り払おうとするも喰い込んだ鉤爪のお陰で離れず、むしろ鉤爪がさらに喰い込んで腕の筋肉を切断してしまう。
そのまま様々な腱や筋を噛みちぎり地面に引き倒してしまった。
「離れろ!」
ゴードンがラプトル達に命じるとラプトル達はサッと離れ、離れた隙にゴードンはトロールの頭部にM240E6を発砲、確実にトドメを刺す為に5〜6発撃ち込んだ。
トロールが殺られたのに動揺したのか、魔物達は巣に向けて後退していく。
「敵は後退してる!追撃するぞ!」
「了解!」
隊員がクレイモアの起爆スイッチを押すと、爆発せずに残っていたクレイモアが魔物を追撃するかのように全部炸裂、魔物の大部分を削り取る。
「いくぞ!」
俺はポラリスATVに乗り込み、エンジンを掛けて魔物を追撃する為に走り出した。
ラプトルもそれに着いて走って追い掛ける、なんと言うか、ラプトルはコボルトよりも速い。
運悪く転んだコボルトがラプトルに追い付かれ、鉤爪で地面に押さえつけられながら首の骨を折られていた。
流石は賢く狡猾なラプトルだ、ジュラシック何とかで見たまんまだな……
そう思いながら俺はM4を置き、別の銃器に持ち替える。車輌には必ず装備されているPDW、MP7A1だ。
右手でハンドルを握りながら片手でマガジンを装填、股に挟んでチャージングハンドルを引き初弾装填。
安全装置を解除して、フロントウィンドウが無いのをいいことにそのまま前へ発砲した。
走っていたコボルトやゴブリンが弾丸に捉えられ、オークも負傷して転び追い付いたラプトルにトドメを刺される。
俺は運転しながら発砲、ゴードンもM240E6を掃射し、他の2人の隊員も後部座席からM4を撃ちまくる。
魔物を逃さず巣穴の洞窟に追い立てると、巣穴の正面にポラリスATV2台を並べた。
「撃ち続けろ!」
ゴードンとアレクが助手席に据え付けられたM240E6を巣穴の洞窟に向けて射撃を続け、俺は運転席からM4を持って降りる。
ラッセルが残り少ない砲弾とカールグスタフM3を持って降車、ポラリスATVの間で後方の安全を確認しつつ、HEDP502を装填。
「良いか!?」
「後方よし!」
再びカールグスタフM3が火を噴く。対戦車榴弾はまっすぐと巣穴の洞窟の奥まで到達し、そこで弾頭が炸裂した。
「次弾装填!」
「装填急げ!」
ラッセルが次弾装填をしている間に、巣穴に向けて撃ちまくる。巣穴の中、奥まで弾丸が届く様にだ。
「装填完了!発車!」
ズドン!
2発目のHEDP502が発射される、洞窟の奥で爆発音が聞こえ、ラッセルは再び装填作業へ、どうやらここで砲弾を撃ち切ってしまうつもりの様だ。
ならば俺はそれまで抑える、洞窟の中は撃った弾の暴風が吹き荒れ、直撃や跳弾で魔物達は死屍累々だった。
ラッセルが装填完了、再び発射する。
今度はトンネル内部の奥の天井に命中、トンネルにヒビが入り、爆風がトンネル内を蹂躙する。
「これで最後だ!」
最後の砲弾をカールグスタフM3に装填、発射すると砲弾は最奥地まで辿り着き、中で洞窟は崩壊していった。
おそらく魔物達はあの中で生き埋めになっているだろう。
「撃ち方止め!撃ち方止め!確認する!」
声を張り上げると全員射撃を中断し、洞窟が完全に埋まっている事を確認する。
「……よし、OKだ!」
「ふぅ……終わったな……」
「状況終了!基地へ帰投する!」
その後のOH-1を残敵の偵察に出させたが、魔物の反応は1つも無かったという。
文字通りこの洞窟に住み着いている魔物は、俺たちが"撃滅"した。
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ランス視点
「ねぇ中尉、私達忘れられて居ませんか?」
「……言うな、ベティ軍曹……」
ベルム街から南へ伸びる街道を走るのは、4輌のM2A3ブラッドレー。
俺はそのブラッドレー小隊の指揮を執って居た。……のだが……
「忘れられてますよね、私達……」
「……忘れられてる訳が無いだろ、こうして商隊護衛をやってるんだ。ヒロトさんが俺達に命じた仕事だぞ」
マルチカム迷彩の施されたコンバットシャツの肩には、しっかりとガーディアンのパッチが付いている。
俺達の今の仕事は、こうして南の街へ向かう商隊を魔物や山賊から守る事だ。
森の側を通るこの街道は、山賊の待ち伏せ攻撃に遭い易い様で、既に戦闘も10回以上経験している。
「それにガーディアンの正式採用されたIFVは89式装甲戦闘車に決まったんだ、ブラッドレーはどうなるかは知らんけど……」
「どうなるんです?」
「偵察隊配備だろうな、LAV-25と一緒に運用されるんじゃ無いか?知らんけど」
「知らんけど知らんけどって、さっきから不確定要素ばっかりじゃないですかっ!」
ベティ軍曹が小さく頬を膨らませる、白人女性のこの軍曹は少しばかり虫の居所が悪い様だ。
と、左を走るブラッドレーから通信が入って来た。
『こちら1-2、八つ当たり要員発見、大サソリ、森を出てこちらにまっすぐ向かって来る』
「……隊長、八つ当たりの許可を」
「八つ当たりを許可する、撃ちまくれ」
「りょーかい」
機嫌が少し戻って来たベティ軍曹と一緒にハッチから車内に戻る、商隊は戻れ戻れと言っているが気にしない。
体長5m以上ありそうな大サソリ、偵察隊も戦った事があると言う。25mmの機関砲は有効だ。
「クライヴ!針路速力そのまま、ベティ、好きに撃っていいぞー」
「了解!」
「はーい……♪やった!撃ちます!」
ブラッドレーは針路を保ちつつ速力もそのまま、砲塔を大サソリの方へと旋回させる。
ドンドンドン!と主砲であるブッシュマスターM242 25mmチェーンガンが火を噴く。3点バーストだ、表示はAPDSになっている。
途中で装弾筒を脱いだ高速の徹甲弾は、大サソリと硬い殻を紙を裂くように簡単に貫通した。
「やった!全弾命中!続いて撃て♪」
ガシャッ!とベティ軍曹が嬉しそうに砲弾の種類を切り替える、今度はHEIだ。
再び3点バースト、同じ様に大サソリの鎧を貫いた焼夷榴弾は体内で小爆発を起こし、大サソリは苦しそうな呻き声を上げる。
"ピギギィィ!ギギギギィィィィィィ!"
「そろそろトドメを刺してやろう、各車TOW準備」
『了解、TOW準備』
商隊から少し離れて砲塔を旋回させた4輌のM2A3ブラッドレー全車の砲塔から、TOWランチャーがせり上がってくる。
「TOW、照準完了です!」
ベティ軍曹を始め、各車の砲手が発射準備完了の返答を返してくる。
「斉射用意……撃て!」
号令を下すと、4輌のM2A3ブラッドレーから一斉にBGM-71 TOW2B対戦車ミサイルが発射された。
ドンドン加速して行くミサイルはそのまままっすぐ大サソリに突き刺さり、4発のタンデムHEAT弾頭が文字通り大サソリを粉砕した。
撃破確認をするまでもない、千切れた毒の尻尾はどこかへ飛んでいき、脚はバラバラに散らばっている。獲物を解体する自慢のハサミも見る影もない。
「八つ当たり完了、ストレス解消になったか?」
「ええ中尉、ありがとうございます!」
ベティ軍曹にそう言われる、皆のストレス解消になったならよかった。
操縦手に後退を命じ、4輌のM2A3ブラッドレーは商隊へと戻った。