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第115話 そして砲兵隊は泣きを見る

戦力拡張に伴い、各部隊で教育部隊を整える事になった。

陸上自衛隊の富士教導団から選抜した、自衛隊とレンジャー教官で構成された部隊である。

戦車部隊には富士教導団戦車教導隊第2中隊が既に召喚済みである為、それを編入する形で"教導隊"の仕上げにかかる。

歩兵から1個分隊8人、砲兵は12人の教官チームを、工兵は8人の教官チームを召喚した。


この教導隊の指導の下、連日厳しい訓練が繰り返されている。

今日は砲兵部隊が訓練をしているのか、演習場の方からはひっきりなしに砲声が聞こえて来る。


先日の飛行場設営計画の通り、B案を主軸として基地から少し離れた所に飛行機を設ける事になった。

具体的には1km程離れた土地に、2000mクラスの滑走路を1本用意し、その周辺に司令部や宿舎、弾薬備蓄施設や格納庫、駐機場(エプロン)などの航空機運用施設を召喚する予定である。

その規模や配置はまだこれからの会議で進めていく予定だ。


また、それに伴い採用する航空機などの選定も始まった。

ガーディアン第1次C-Xである。

現レベルで召喚可能な固定翼航空機から、ガーディアンの主力輸送機となる輸送機を決めていく。


輸送機では、以下の機種が候補に挙がっている。


優れたSTOL性能を持ち、小さな飛行場でも運用可能な日本の輸送機、川崎 C-1。


荷を積んでいない状態であれば宙返りも可能な高い運動性能を持つC-27Jスパルタン。


空中給油/受油装置が最初から設計に含まれている中型輸送機、エアバスA400M。


2500機以上が生産され、NATO標準輸送機ともなっているロッキード C-130Hハーキュリーズ。


当てにしていたC-130Jスーパーハーキュリーズはまだ召喚のレベルに達していないらしく、ロックされたままだった。

この4機種の中から選定する事になっており、航空基地整備に伴いそれらの輸送機を配備する計画だ。


実は転生前、日本にいた頃は、C-130HとC-1しか見た事が無い。A400MとC-27Jは召喚すると、俺も初めて実機を見る事になる。


それは置いておいて、一応輸送機の召喚の目的は「隔離地への空挺作戦及び物資空中投下」である。爆弾を積んで出撃し、投下するのは攻撃機の役割であり輸送機の本業では無い。


現在のレベルではP-51マスタングやSBDドーントレスなど、第2次世界大戦期の戦闘機や爆撃機は召喚可能だが、俺が欲しているのは第3世代以降のジェット戦闘機及び攻撃機である。第2次大戦期の航空機にも優秀な機体は確かに存在するが、言って見れば守備範囲外、言い方は悪いが、"お呼びでない"のだ。


それから飛行場設営に関してベルム街の住人、特に基地の南西地域に住んでる住人に対して説明会を開く必要もあるかもしれない。


後からあのマスコミに焚き付けられたのが何をしでかすか分からないからだ。

離陸後のコースと着陸進入のコースも、ベルム街からは完全に外れる様に設定するつもりだ。


これは騒音以外にも、落下物や墜落事故のリスクを減らす為でもある。

念には念を、航空基地の周辺の土地を買い取り、演習場とする。普天間基地の様に後からわざわざそこに住み着いて「危険だ!」と言われるのを防ぐ為だ。

事務科と主計科でその予算要求と、手続きの書類が来ている。


また暫くは仕事の間に会議会議で忙しくなりそうだ。

と、先程まであんなに騒がしかった砲兵隊の砲撃音がぱったりと止んだ。


訓練が終わったのかな、もうそんな時間かと思い書類に手を付け始めた時、ドタバタと廊下を走る足音が聞こえてくる。

その足音はだんだんと近づき、ノックも無しに執務室の扉が乱暴に開けられる。


俺は思わずホルスターに入っているP226に手を伸ばしたが、扉を開けた人物を見て驚いた。


その人が今し方訓練をして居た砲兵隊の隊長、スカー・アンダーソン大尉であったからだ。

そしてスカー大尉は開口一番、こんな事を言い放つ。


「もう嫌だ!俺はガーディアンを辞める!」


「………ええぇっ!?!?」


===========================


取り敢えずスカー大尉を落ち着かせ、執務室の応接ソファに座らせた。

お茶を出し、俺は彼の目の前に座る。


「何でまた突然そんな事を……」


彼はお茶を取って一口飲み、大きな溜息を吐く。


「他の砲兵隊員はどうした?」


「兵科事務室に立て篭もr……もとい、引きこもってます」


「んで、何があった?理由は聞かなきゃならないからな」


「はい……それが……」


彼はそこで少し俯き言い澱むが、顔を上げて身を乗り出し主張する。


「砲兵隊の教官が理不尽なんです!」


そう言うと彼らは教官への愚痴の様な言い分を漏らし始めた。


「教官達に訓練30分前に準備始めようとしたら"まだ早い"って言われて……それなのに部隊展開始めたら"遅い"って言われ……何なんですか!?教官達は俺達が憎いんでしょうか!?それにヘリの観測はあれど初弾から命中!?そんなの無茶苦茶だ!」


声を荒らげながら主張するスカー大尉であったが、大筋の彼らの主張は理解出来た。

だが、これはスカー大尉に納得して貰う方が良い様だ……


「スカー大尉、君の言い分は分かる。通常なら砲兵陣地の構築は事前に済ませておくべきものだもんな」


「ええ、だからヒロトさんからも……」


「だがな、それは恐らく砲兵としての実戦部隊である君達と、自衛隊から選抜して編成した砲兵の教導隊の採るドクトリンと、それに合わせた練度の違いから来るものだ」


スカー大尉は口を閉じ、俺の話に聞き入る。

真偽は定かでは無いが自衛隊の練度の高さを表す逸話に、こんな物がある。


"米軍の砲兵部隊と自衛隊の特科隊の合同演習の際、米軍は演習開始1時間程前から陣地進入し、40分程かけて射撃準備をしていた。しかし15分前になっても来ない自衛隊にトラブルでも起きたのかと不安になる米軍だが、当の自衛隊は陣地進入後3分で射撃準備を終え、10分後には既にいつでも射撃出来る様になっていた"と言う。


更には"陸自と米軍の砲兵の合同訓練中、米軍は数回の射撃の結果を見て修正を行い命中させるのに対し、陸自は1発目の結果を修正して弾着させる。中には初弾から命中させる猛者もいたらしい。"

"そんなバカバカしい程の命中精度を見た米軍側が「超エリートを集めた砲兵部隊など訓練に寄越したら訓練の意味がない」と本気で忠告したらしいが、陸自が派遣した特科部隊は通常編成の特科隊だったと言う"と言う逸話まである。


因みにそれを見に来ていた第2次世界大戦とベトナム戦争の生き残りの退役将校が「彼らが居ればベトコンを一掃出来たし、あんなに犠牲者が出ずに済んだのに」と泣いたとか。


繰り返しになるが真偽は定かでは無い噂話であるが、自衛隊の特科の練度の高さがよく分かるだろう。


前者は主にドクトリンの違いである。


米軍は地上部隊を投入する際、基本的には制空権を確保して万全の状態で部隊を投入する。

なので敵の敵の攻撃機や他の攻撃に晒される危険は少なく、準備に40分かけて撃ちまくっても問題は無い。


しかし自衛隊の場合、陸自が出ると言うのは本土の制空権が相手に握られている、もしくはそれに近い状態であり、攻撃準備に時間を掛けていると敵の攻撃に晒される危険が非常に高いのだ。

その為短時間で準備を行い、短時間で効果的な攻撃を行い、素早く撤収しなければならないと言うのが自衛隊の戦い方である。


総火演で空中炸裂させた砲弾で富士山を描く様な集団なのだ、その練度は他国の砲兵より頭一つ飛び抜けていると考えて良い。


スカー大尉は米海兵隊だ、殴り込み部隊であるとは言え、普段からそんな訓練をしている訳では無い。


対して砲兵の教導を行っているのは陸上自衛隊の特科の中でもズバ抜けて練度の高い特科教導隊である。


採る戦術の違いであり、また「どちらも正しい」のである。


俺はそれをスカー大尉にゆっくりと、彼が納得出来るまで言い聞かせた。


「……な、なるほど……」


「米海兵隊は世界最強の諸兵科連合群だ、その戦術が間違っている訳では無い。しかしここは異世界、あらゆる攻撃を想定して短時間での攻撃を行う必要がある場合も想定して見てほしい」


「……」


"自衛隊式の正しさ"を押し付ける訳では無いが、異世界では早い展開を求められる状況も考えられる。その為ここはスカー大尉に納得して欲しい所だ。


「……分かりました」


俺は安堵してふぅ、と溜息を吐く。どうやら理解してくれた様だ。


「しかし、砲兵教導隊からは何も説明が無かったので、その点はヒロトさんから伝えて置いて下さい、突然言われたのでは納得出来ません」


「分かった、その辺の交流が少なかったのは済まないと思う。砲兵隊の教導に言っておこう、砲兵隊員の説得は頼めるか?」


「ええ、分かりました」


スカー大尉はそう言うとソファを立ち上がり、執務室を出て行く。

行き先は分かっているが、俺も砲兵教導隊に用事が出来た。


執務室を出るとスカー大尉の後を追うようなルートで作戦棟に向かう。

執務室から出て左手側の通路を進むと、そのまま作戦棟2階の兵科事務室のフロアに移動出来のだ。


廊下から部屋の中を覗ける窓からそっと中を覗くと、スカー大尉が中で他の砲兵隊員に声を上げていた。

40人近い砲兵隊員が立て篭もり、もとい、引きこもって居る砲兵隊兵科事務室は満員だった。


「スカー大尉!」


「おう、待たせたなお前ら」


砲兵隊の隊員達がスカー大尉を迎えて立ち上がる。


「どうでした?」


「……辞職願は俺から取り下げて来た」


「えっ!?どうしてです?」


彼がそう言い放つと驚きの声が上がり、どよめきが広がる。

マジで砲兵隊は総辞職するつもりだったのか……


「俺は、ガーディアンに着いて行こうと思っているからだ。今まではアメリカ軍という圧倒的な後ろ盾があったからこそ、砲撃陣地の構築に30分かけられたんだ」


そう言うとざわめきに包まれていた兵科事務室は一瞬で鎮まり返る。


「アメリカ軍としての後ろ盾を失い、ガーディアンの戦術に添い、それでも着いていくと誓ったのは俺自身だ。勿論海兵隊としての誇りは忘れない、だが俺達が今所属しているのは、どこだ!?」


「「「「「ガーディアンだ!」」」」」


「ガーディアンのどの部隊だ!?」


「「「「「砲兵隊だ!!」」」」」


「ガーディアンの為に、戦う意志はあるか!?」


「「「「「Sir!Yes Sir!」」」」


「ガーディアンに従う意志はあるか!?」


「「「「「Sir!Yes Sir!」」」」」


「訓練に訓練を重ねて、"ガーディアンの砲兵隊"として戦おう!」


「「「「「Hooah(フーア)!」」」」」


彼らはビリビリと兵科事務室の窓ガラスが震えるほどの声で揃って返事をし、外へ出る。


やべ、バレる。


そう思って反対の通路の方へ身を隠すが、砲兵隊員達は逆側の階段を使って下に降りていき、再び演習場に向かった。


「3分で陣地構築だ!」「教官を驚かせてやろうぜ」と言う声が口々に聞こえる。


溜息を吐き、自体が終息したと思い砲兵教導隊の隊長の元へ向おうとしたその時。


「……彼らがあんな風に思っていただなんて……」


背後からの突然の声に驚き振り向く。

そこにいたのは、コンクリートの壁に背中を預けて腕を組んでいる砲兵教導隊隊長、早川(はやかわ) (さとる)少佐である。


「何だ聞いてたのか……」


「はい……どう指導しようかと思ってて……」


「ま、確かに最初からのコミュニケーション不足は否めないわな……」


早川少佐も分かっているのかがっくりと肩を落とす。

俺はそんな彼に向き直る。


「ガーディアン砲兵教導隊、早川 悟少佐。砲兵教導隊と砲兵隊の合同演習を命ずる」


彼はそれを聞いた途端姿勢を正し、ビシッと敬礼を返す。


「はっ、謹んで承ります」


「足りない機材があったら逐次報告、ちゃんとした教導関係を気付けるように精進する事」


「了解しました」


敬礼を解くと、早川少佐は足速に演習場に向かっていった。


===========================


基地東側、宿舎脇、ラプトル飼育舎。


檻に囲まれたここでは、現在2頭のラプトルを飼育している。

K9計画でもあった、ラプトルの戦力化である。


そしてそのラプトル達を飼育するのは、ゴードンとアレク、そして部隊拡張の折に召喚したK9チームの合計14人が担当である。


「やぁアレク」


「ヴィーノか」


K9チームの隊員、線が細く背も高いタレ目のヴィーノがアレクに声を掛ける。

アレクの目の前には孵化装置があり、その中には4つのラプトルの卵が眠っていた。


「どうだ?」


「中で動くようになってきた、孵化もそろそろじゃ無いか?」


ヴィーノはアレクの後ろから嬉しそうに孵化装置を覗き込む、ラプトルの卵が孵るのがかなり楽しみなようだ。


「そう言えば今日、街に飲みに行かないか?」


「良いね、久し振りに街に出てみるか」


竜人族のアレクは何度か街に出たことはあるが、ヴィーノは街へ出たことが無い、好奇心もあるのだろう。


彼らはどんな物があるのか楽しみだと話しながら、孵化室から出て行った。


その直後、卵が大きく揺れる。

表面にヒビが入り、それがだんだん大きく深くなっていく。

そして卵の硬い殻を突き破る様に、湾曲した鉤爪が現れた。

来週の更新は、試験期間となるので無しになります。

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