第114話 設営計画
今日も滑り込み入稿なので短めです、もう少し余裕持ちたい。
数日後、ガーディアン野外演習場。
2人が構えているのは、アキュラシー・インターナショナル製のL115A3だ。
狙撃手による狙撃銃の選定の結果、射撃精度と野戦での携行性のバランスを取った結果である。
マガジンは10発入りのロングタイプを支給し、.338Lapua Magながら10発と言う装填数の多さを誇っている。
尤も精密射撃をする上で弾薬の装填数はさほど重要では無いが、やはり手数が少ないのは作戦行動の際に不安が残る。
携行弾数は任務の期間と求められる機動力に寄って決められる、M4を携行するライフルマンで30発弾倉が5本+1本、180発を標準とし長時間の偵察などでは11本まで増加させる。
マークスマンでSR-25を装備している場合、標準で20発弾倉を5本+1本、120発が標準だ。
スナイパーライフルの場合は更に減る、メインのスナイパーライフルの弾倉が3本、つまり狙撃に使用する弾薬は約30発しか無いと言う事になるが、これも作戦に寄って増減する。
それからPDWとしてMP7を携行するが、その40発弾倉が3本で120発程だ。
狙撃手ではこれだけの手数しか持ち運びが難しく、且つこれ以上の弾数の増加はマガジンポーチの配列や重量の関係から機動力を削いでしまう可能性がある。
スナイパー分隊が2人から4人に増やされたのは火力の増強という面も大きい。
野外演習場で狙撃小隊が集合し、新しいボルトアクション狙撃銃のお披露目を行っている。
ランディの射撃、バイポッドを立てた減音器付きのL115A3で、900m離れた人型標的の頭部に当然の様に命中させる。
サムホール・ストックで一体化したグリップから手を離し、ボルトハンドルを起こして引く。ボールアンドソケット、またはピンチメソッドと呼ばれる、親指・人差し指・中指でボルトハンドルをしっかり握って引くテクニックだ。
グリップを力をあまり入れずに握り直し、そっと指を引き金に触れさせる。
パシンッ!
減音器を取り付けた場合、銃口から出るガスによって多少精度が落ちるが、ランディはそんな事は物ともせずワンホール・ショットを決める。
その横ではアンナが人型標的の致死箇所に.338Lapua Magを叩き込んで標的を穴だらけにしていた。
「良いライフルですね……精度も高くて撃ちやすい」
「私の体格にも合いますし、調整も出来る、持ち運びもしやすい、私もこれにします」
ランディとアンナからも良い評価を貰った、これとM24A2をガーディアンの正式採用狙撃銃としよう。
これを装備した彼らが今後どんな活躍をしてくれるか、とても楽しみだ。
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さて、そんな俺達の装備もかなり充実して来た。俺は今、執務室でベルトの構成を考えている。
特殊部隊の場合、装備の取り付けはプレートキャリアとベルトに分けて行われる。
これは負傷した際、プレートキャリアを切り離しても最低限戦えるようにだ。
その為プレートキャリアは肩部分を少し高めにして胸から鳩尾の下辺りまでをカバーするようにし、ベルトと併用して装備を取り付ける。
この時ベルトの装備を1stライン、プレートキャリアの装備を2ndラインと呼ぶ。
因みに3rdラインは背負うバックパックの装備を刺す事が多い。
ヘルメットはドラゴンの鱗を工房と評価試験隊が加工して作ったFASTマリタイムにシュラウドを取り付け、Wilcox L4G24マウントを取り付けて暗視ゴーグルを取り付けられる様にしている。
2ndラインのプレートキャリアは、CRYE PRECISIONのJPC2.0をベースにフラップのある3連マガジンポーチを前面に取り付けている。
そして動きを妨げない最低限の装備で、左脇にはTYR Front Wing Mag Pouch Adapter 5.56-Left Sideを取り付けており、腕の動きを妨げずにプレートキャリアにマグポーチを1本増やす事が出来る。
バックパネルは2種類用意してあり、作戦によって使い分けるのがこのJPC2.0の便利なところだ。
人質救出の際は、CRYE PRECISIONのポーチが付けられたZip-onパネルを使用。ポーチには3発の3をMk13 Mod0 BTV-ELフラッシュバンを取り付けて、残りのポーチには様々なツールを入れている。
ユーティリティポーチには作戦で必要だが、すぐに取り出す必要の無い物を入れておく、例えば地図やGPS表示装置、JDAM誘導用のデバイスなどだ。
左手側のカマーバンドには何も付けずに、右手側のカマーバンドには同社のフラグポーチを取り付けて、M67フラググレネードを収納、柔軟に戦術に対応可能に、更にLBT-6133Aラジオポーチを装備してAN/PRC-152を収納している。
直接攻撃の際はまたZip-onパネルの装備が異なる。
背中にフラグポーチを増設、スモークグレネードを入れるポーチも増やした。HR装備とは異なり、完全に"殺し"に特化した装備である。
プレートキャリアの構築を終え、ベルトに手を伸ばす。
1stラインのベルトだが、TYR Brokos Belt Low Profileをベースにしている。迷彩は勿論マルチカムだ。
腰に巻いてみる、コブラバックルで付け外しが容易になっている上に、ベルトの内側がメッシュ材になっている為、夏場付けていても快適だ。
左側にはTYR ダブルピストルマグポーチとITW FASTマグポーチを装備して、ウィークハンドで予備弾倉を抜きやすくしている。
そのすぐ後ろにはダンプポーチを装備しており、広口のEAGLE ロールアップダンプポーチを取り付けた事により抜いた弾倉をウィークハンドで取り、そのまま放り込みやすい様になった。
右側にはSafariLand ローライドUBLとQLSの組み合わせでベルトに取り付けているが、ベルトより2インチほど下に下げてあるのでセカンダリが抜きやすくなっている。
試しにP226をホルスターから抜き、構えてみるとベルトに直付けしていた時に比べて肘の上がり具合が抑えられ、拳銃を抜くのがかなり楽になった。
ホルスターの後ろはホルダーでナイフを入れている、M4A1の銃剣装置でもあるM9MPBSだ。
ベルトの後ろ側にはATS SOFメディカルポーチを取り付けており、このポーチはパネルにベルクロで止められている為緊急時に取り外して中を開く事が出来るのでかなり使い勝手がいい。メディカルポーチの中身はIFAKと呼ばれるファーストエイドキットで、応急処置を素早く出来る様に分けて収納されている。
因みに隊員1人が1つ携行してるこのIFAKの入ったメディカルポーチ、何の為に携行するのかと言えば「負傷した仲間の為」ではなく「自分の治療をして貰う為」なのである。
装備が増えるときは更にポーチを組み替えたりもするが、これが基本構成だ。
JPCにショルダーパッドでも付けようかと迷っているが、今のままで機動力を削ぐ事が無いかと少し躊躇っている。
俺は組み終えたタクティカルギアを見て満足げに頷き、ロッカールームにある自分のロッカーにギアを仕舞い鍵をかける。
ロッカー室のある作戦棟を出て、通路を通って管理棟の2階、執務室へ。
最近の仕事と言えば専ら、飛行場の整備計画である。
固定翼機の召喚レベルに達し、作戦によって輸送機や哨戒機、偵察機が必要になってくる可能性が浮上して来た。
その為、滑走路と駐機場、格納庫、管制塔等のそれに関連する施設・設備や、パイロット以外にも整備士、補給員、指揮を取る将校に、基地警備などの人員も配置しなければならない。
今から行うのは、そんな飛行場整備の為の会議である。
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ガーディアン基地 管理棟
会議室
昼前のこの時間、既に会議に出席する各隊長達は揃っていた。
まずは歩兵部隊から代表して、小隊長である健吾と孝道が。
機甲部隊からは、戦車部隊の隊長である坂梨中佐。
M777A2を装備する砲兵中隊は、スカー・アンダーソン大尉。
基地業務群隷下、基地警備隊からルート・バッキンガム大尉と、基地業務群の各課長。
航空部隊からは、航空隊の指揮を兼任するナツが出席している。
異世界側からの知見なども欲しい為、毎回こう言った会議には異世界人が出席する事になっている。今日は第1小隊第3分隊の分隊長、ストルッカ・スミスと、第2小隊の小隊長、シュバルツ・ラインハルトが席に着いている。
俺は"ガーディアン団長"とネームプレートが立てられた席に座り、レジュメを配布し口を開く。
「ではこれより、第1回ガーディアン固定翼機運用の為の滑走路及び関連施設建設に関する会議を始める。まず始めに滑走路の建設位置についてだが、これは2つの案を提示したいと思う。最初のページを見てくれ」
そう言うと会議室内の全員がレジュメを捲る音が静かな室内に響き、収まる。
そこには詳細画像付きで、"A案" "B案"と書かれていた。
「A案の方から説明していく。A案は基地に既にある回転翼機運用の飛行場を拡張し滑走路を建設、それに伴って格納庫の増設も検討している」
A案を開設するページは、今の基地の格納庫が増設してあり、エプロン地区なども広く、それに伴い長い滑走路を伸ばした全景の想像図が載っている。
「仮にA案とした場合、考えられるメリットが4点挙げられる」
その全景想像図の下に、メリットデメリットが箇条書きで書き連ねられている。
・陸空戦力の連携の強化が容易で、即応性が高まる。
・基地に設備が集約している為、管理や移動が容易。
・警備などに割く人員がB案より抑えられる。
・基地の敷地面積の削減、これは発電設備などインフラ系がより簡略化出来る事を意味する。
基地と飛行場を隣接させる事で、例えば地上部隊が飛行場の輸送機に乗り込む時の利便性は高い。
だが、同じくデメリットもある。
「完璧とはいかない、A案もデメリットがある」
メリットのリストの下には、デメリットが同じ様に箇条書きされている。
・航空機の騒音を隊員の近くで聞かせる事となる。
・基地が襲撃を受けた際、一度に地上部隊と航空部隊が全滅する。
・管理棟に固定翼機を運用する航空部門を増設しなければならないので、基地を召喚する際の引越し騒ぎがまた起こる。
・施設自体の複雑化が予想される。
・事故が起こった時に、基地全体が機能不全に陥る可能性がある。
この中で最も重要なのは1番目と2番目、そして最後だ。
騒音と言うのはどうしてもストレスになりやすい原因であり、宿舎は防音が効いてるとはいえ航空機の騒音は流石に防げない。
2番目と最後は、性質は異なるが状況としては同じだろう。
つまり、事故や襲撃で飛行場が陥落すれば、それがそのまま基地につながっている為基地の陥落に直結するのだ。
「では次にB案を見てくれ」
B案は新しい土地に飛行場を設営し、飛行場と基地を離す案だ。
メリット
・基地から飛行場を離す為、騒音をある程度軽減出来る。
・航空機事故を受けた時のリスクを軽減出来る。
・襲撃を受けた際に、基地の一度の陥落を防ぐ事が出来る。
・施設一式を別で用意する為、飛行場や駐機場、格納庫の拡張に制約が少なくなる。
基地を別で設ける方法は守備隊が更に必要になるが、それだけ守りが強固になる上どちらかが襲撃を受けてもどちらかが無事、つまり敵の攻撃の効率を下げる事が出来るのだ。
デメリット
・基地をもう1つ用意しなくてはならない為、広い土地が必要
・基地警備隊の増員におけるコスト
・離れた所に基地を置く為、地上部隊との密な連携が取りにくく、即応性が低くなる。
・召喚した整備部品や燃料、航空機用弾薬等の輸送の手間が掛かる。
「このA案とB案の2つの内、どちらかを選ぶ事にする」
隊員達からは悩み声の様な声が上がる。
「……完璧にとはいかない、どちらを採用してもデメリットは付きまとう。ならばデメリットを埋める様な改良をすれば良いじゃないか」
俺がそう発言すると、場の空気がガラリと変わる。
メリットが多く、デメリットが少ない方が良いに決まっている。しかし基地の召喚というのはある程度自由が効く為、構想如何ではそのデメリットを覆す発想を生む事も出来るのだ。
それなら、という雰囲気に変わる、どうやらどちらを採るか各員決まった様だ。
「では多数決を取るぞ、まずはA案から」
着席している隊員達から手が上がる。
俺はその隊員の数を数え、記録する。
「下ろしていいぞ、では次、B案」
同じ様に隊員から手が上がり、それを数えて記録する。1人で両手を挙げてる奴は一人分とカウントする。
「……よし、では飛行場設営計画はB案を主軸に進める事にする、意義がある者は挙手、発言を許可する」
意義を取るための挙手、しかし誰も手を挙げる事は無かった。
「では飛行場はB案で進めよう、後は各部隊からの要求があればこの場で聞く」
そうして会議は恙無く進んでいき、ガーディアンの飛行場の設営計画は着々と進行していった。
これが後に"ガーディアン空軍"となるのは、また別の話である。