第113話 狙撃手と軽機関銃
ガーディアン基地
同・野外演習場
ランディ視点
クソ暑い直射日光が降り注ぐ中、俺は相棒の引き金を引いた。
強い反動が肩にかかると共に、スコープにマズルフラッシュと共に巻き上げられた土煙が薄くかかり、すぐに消える。
銃口から秒速約900mで8.58×70mm、.338Lapua Magが発射され、850m先の標的に寸分の違いもなく突き刺さる。
気温が高いと光が熱対流によって多少曲げられ、照準線が狂う事があるが、今の気温はまだ大丈夫な様だ。
「命中、ヘッドショット」
レーザー測距装置の付いたスポッティング・スコープを覗きながら隣でそう言うのは、妹のクリスタ・ヘイガート。
その傍らには、Leupold Vari-Xスコープを乗せ、銃口側にハリスのバイポッドとLA-5/PEQを付けたハンドガードの他のレールをレールカバーで塞いだSR-25が置かれている。
俺が使っているM24 SWSと合わせて、とても精度の高い狙撃銃である。
俺には銃による狙撃の腕は元々眠っていたものらしく、それを引き出してくれたのはヒロトさんだ。
俺の率いる第1狙撃分隊は、狙撃手兼分隊長である俺。俺の妹で、マークスマン兼観測手であるクリスタ。
そしてヒロトさんが召喚した人物である、特殊部隊員のマーカス。女性の通信手のカイリー。
この4人で1個分隊が構成されている。
元は2人1組でスナイパー組が構成されていたが、風俗街での戦闘の折、狙撃班の火力の脆弱性が指摘され、火力増強の意味を込めて4人1個分隊増強された。
もちろんこれで狙撃部隊が独自行動を取っても敵にしっかり対応出来るようにもなったし、投入される作戦も増えて相棒や妹と共に連携を取って戦果を上げる事が出来たし、肉薄されると弱いという狙撃手の弱点も克服する事が出来た。
俺の愛銃であるM24 SWSは薬室とバレル、マガジンを変更し、8.58×70mmの.338Lapua Magを発射出来る様に改造が施され、高精度のLeupold ULTRA M3スコープを乗せている。
なるべく長距離を高精度で狙えるライフルが欲しいとヒロトさんに打診した結果だ。
そんな俺のライフルだが……最近不具合が割と多く起きるようになって来た。
次弾を装填しようとボルトハンドルを跳ね上げて引き、ハンドルを押し込んで次弾を薬室に押し込もうとすると、ハンドルが引っかかって前進しなくなる。
フィーディング・ジャムだ、弾薬が上手く薬室に滑り込まず、手前で引っかかってしまう。
「……またか……」
一旦引き、再び押し込むのを何度か繰り返すと、ボルトが正常な位置に戻りボルトハンドルを回してロックをかける。
再びスコープを覗き込み、十字のレティクルを標的に合わせ、引き金を絞る。
標的の後ろで煙が上がったが、音はしない。1度目で貫通した穴に再び入ったのだろう。
「命中、ワンホールショット」
隣でスポッティング・スコープを覗きながらクリスタが命中を告げる。
素早く次弾を装填しようとボルトハンドルを起こそうとしたら、今度はボルトハンドルがガッチリ固定された様に動かない。
最初から.338Lapua Magの様な大口径弾やマグナム弾を撃てる様な狙撃銃では無いらしいが、この様に大口径弾やマグナム装弾を発射するボルトアクションライフルでは、ハイプレッシャーが掛かってボルトが回らない事があるという。腕の力を使って強引に回してみるがそれでも回らない。
俺はストックを脇に挟んで、ボルトハンドルを掌底でカチ上げる。
そしてボルトハンドルを握って思い切り引き、再び戻す。
俺はそれを手元の弾薬が尽きるまで続け、今日の訓練を終わりとした。
「何だランディ、調子良く無いのか?」
そう話しかけて来たのは、俺の隣でFN Mk13EGLM付きのM4で射撃訓練をしていたマーカスだ。
「あぁ……精度も良くて気に入ってる良いライフルだったんだけど……替え時か……それとも新品で同じ物を頼むかな……」
俺はそう言いながら自分の相棒を撫でる、ヒロトさんと出会ってからここまで、ずっとこいつと戦って来た。決して出番が多かった訳では無いが、それでも俺と相棒で切り抜けた場面は1度や2度では無い。
その相棒が調子が悪い……なんか悲しいな……
取り敢えず、ヒロトさんに報告上げとこう、と思い、ライフルを片付ける。
「撤収!余った弾薬は返納し、各自解散!」
===========================
「ねぇ、兄さん。本当に手離すんですか?」
「手離すかどうかは分からん、アレを改良出来るかもしれんし」
作戦棟で着替え、管理棟へ続く通路を歩く。
「俺達は狙撃の技術は高いが、現代兵器に関しては全くの素人だからな。どれが良いかは分からん、だからヒロトさんに意見を仰ぎに行くんだ」
「……そうだね、私も兄さんや他の分隊のスナイパーさんが使ってるライフルしか知らないし……」
と言うことでクリスタと向かっているのは執務室だ。
装備関係ではショップに行くべきだが、銃器などの場合は召喚するのはヒロトさんなので、ヒロトさんに相談しにいった方が良いのだ。
「お、ランディか?」
「……ヒューバートか」
執務室をノックしようと思った時に声を掛けてきたのは、第1分隊のSAWガナーであるヒューバート・ハドックだ。
ガーディアン設立時からのメンバーで第1期生、そして"召喚者"として軍歴を持つ者の1人だ。
「妹もお揃いで、ヒロトさんに様か?」
「あぁ、ライフルの調子が良くないんでな、新しいライフルにしようか相談だ」
「なるほどな……実は俺も使ってるMINIMIの件で相談があって来たんだ」
「ほう……」
ヒューバートも使ってる銃器の件について相談があるらしい、同じ様な悩みというか、内容なのだろうか?
俺はそんな事を思いながら執務室のドアをノックした。
恐らくヒロトさんが中で仕事中だろう。
===========================
ヒロト視点
昨日の基地案内の後、笑顔を頂いたって何したって?ベッドでぎゅっと抱き締めながらキスし合ってただけだ、取り敢えず服は脱いでないから期待してパンツ脱いでた紳士諸君はパンツ履け!風邪引くぞ。
真昼間はエリスが恥ずかしがるからすけべな事は一切無い、OK?
昨日散々エリス分を補給した俺は基地の拡張に伴って基地業務群との連携で、予算や申請書の確認などの書類仕事の負担がだいぶ軽減されたので俺が暇になった……と言うと言い方が悪いが、手が空くようになった。
幸いやる事はまだあるのでその内の一つである射撃訓練とタクティカルギアの構築にでも行こうかなと腰を上げた途端、ドアがノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
「失礼します」
ドアの向こうから帰って来た声は聞き覚えのある声3つ、内1つは女の声。
入室を許可すると、入って来たのは3人だった。
第1分隊のSAWガナーのヒューバート・ハドック伍長と、第1狙撃小隊第1分隊分隊長のランディ・ヘイガート曹長、その妹で第1狙撃小隊の観測手兼マークスマンのクリスタ・ヘイガートだ。
「あれ、珍しいな、どうした?」
「ちょっと使ってる銃器について相談が……」
先に口を開いたのはヒューバートだ。
「なるほどな、お前もか?」
ヒューバートの言葉を受けてランディにも問い掛けると、彼はこくんと頷く。
クリスタがなぜいるか気になったが、ランディと一緒にいるのでこの際気にしない事にした。
取り敢えず彼らをソファに座らせ、冷蔵庫からこの季節常備しているアイスティーを氷の入ったグラスに注ぎ、3人の前に置く。
「ありがとうございます」
「良いんだ、んで相談ってのは何だ?」
ヒューバートがランディに目配せ、ランディは軽く会釈するようにして話し出した。
「実は最近、使ってるM24の調子が悪くて……精度には問題無いんですが、マルファンクションが多くなって来まして」
ランディの悩みは相棒であるライフルの事だった。
彼の使用するスナイパーライフルはM24A2 SWSの薬室とバレル、マガジンを改造して.338Lapua Magを使用出来るようにしたものだ。
M24A3という.338Lapua仕様があると言えばあるのだが、最初に見せたM24A2をランディがいたく気に入り、彼自身の要望である"長距離を高精度の狙撃が可能なスナイパーライフル"が良いという事でこれを改造したのだ。
M24A2は元々.308Win、つまり7.62×51mmNATO弾を発射する仕様である為、この改造は多少無理矢理なところがあった。
動作不良が起きやすくなってたか……盲点だったな。
とすると.338Lapuaを使用するライフルを選定する必要がある。
俺は席を立ち、執務机からタブレット端末を持って戻ってくる。
メモ帳を起動し、.338Lapuaを使用出来るスナイパーライフルをいくつか出し、ランディに向ける。
……この際だから、スナイパーライフルも統一してしまうかと思う。
特に長距離狙撃を得意とするアンナとランディ、弾薬が.338Lapuaを使うのはいいとして、アンナの使ってるレミントンMSRは未だ評価途中だしな……
「ほんで、ヒューバートは?」
「俺も銃器の事なんですが……MINIMIの取り回しを良くしたくて……」
「バレルを短くするだけ……じゃ、ダメって事だよな」
「ええ、出来れば」
「とすると、伸縮ストックに取り外し可能なバイポッド、ハンドガード側面と下面のピカティニー・レールって事か」
「流石はヒロトさん、分かっていらっしゃる」
「よし、待ってろ」
俺はそう言うと執務机に据え付けてあるiPhoneを取り出し、召喚のアプリから銃器を、さらにその中で細分化されている"マシンガン"の項目から"M249軽機関銃"を出す。
そこからヒューバートが選び出したのは______
===========================
翌日、野外演習場
ヒューバートはM249に付けられた、収納式の銃床を展開する。
太い2本のパイプのような形状が特徴のこの銃床を伸ばし、4分の1回転させて固定。
RMRマイクロダットサイトが乗ったTrijicon ACOG TA31ECOSを搭載したフィード・カバーを開け、200発の弾薬ベルトを挟み込んで固定、右側のコッキングレバーを引いて初弾装填。
ハンドガード下部に取り付けられたMAGPUL RVGをサポートハンドで握り、展開した銃床を肩にしっかり引きつけて前傾姿勢で引き金を引く。
ババババッ!ババババババッ!バババッ!
細かい銃声が連続する、銃声の音だけ弾薬ベルトが吸い込まれ、5.56mmNATO弾が吐き出されていきながら空薬莢とベルトリンクが反対側のエジェクションポートから排出される。
ヒューバートは射撃を止め、走り込んで地面に伏せて、ハンドガードを挟む様に畳まれているバイポッドを展開、サポートハンドをフォアグリップから離し、ストックの中に手を入れて掴み、反動に備える。
ババババババッ!バババババババババババッ!
同じ様に5.56mmNATO弾の暴風が吹き荒れ、前方の標的を薙ぎ払っていく。
「撃ち方やめ、撃ち方やめ」
俺はブザーを鳴らし、射撃の停止を合図する。
それが聞こえたヒューバートは安全装置をかけてフィードカバーを開け、ベルトを外す。
「これ、良いですね、取り回しもいいし今までよりも軽い」
ヒューバートは手にした獲物を新しいおもちゃを喜ぶかのように眺める。
彼の手の中で先程まで弾丸を吐き出していたそれは、M249MINIMIパラトルーパー、通称"para"と呼ばれるモデルである。
今まで使用していたM249MINIMI PIPとの相違点は、まず銃床は、M249 PIPはプラスチックの固定式なのだが、M249paraは2本のパイプが特徴の収納式銃床担っている。
M4に似た形のリトラクタブルストックもあったが、縮めた時の全長がこちらの方が短くなるので、ヒューバートはこちらを使用している。
そしてハンドガード下面にピカティニー・レールを追加、それに伴いバイポッドは下部へしまうことが出来なくなった為、ハンドガードを挟むように畳む事が出来る取り外し式に変更された。
そしてパラトルーパーは銃身が短くなった為、連射力の速いM249ではあっという間に銃身が過熱してしまう。
そこで例の如く耐熱性に優れた17-4鋼を使用する事で、この問題を解決した。
このM249paraにヒューバートはRMRマイクロダットサイト付きのTrijicon ACOG TA31ECOSを乗せ、ハンドガード右側にはLA-5/PEQが取り付けられており、ハンドガード下部にはMAGPUL RVGが取り付けられていた。
更には軽量化の為とバレル交換を容易にする為、上面のヒートシールドは取り外されている。
車載銃架取付基部が取り外されているのも、軽量化の為だ。
どちらかといえばSPWに近いが、逆に弾倉取り付け部は残し、緊急時にはSTANAGマガジンを使用した射撃が可能になっている。
「後はお前の好きな様にカスタマイズすればいい、お前と共に戦う相棒だからな」
「ありがとうございます、気に入りました」
ヒューバートは笑みを浮かべながらこれから付き合って行く相棒を撫で、構える。
その横で、2人の狙撃手が頭を付き合わせて悩んでいた。
ランディ・ヘイガートとアンナ・ドミニオンの2人である。
2人とも第1期生の狙撃手で、共に第1第2の狙撃分隊長兼狙撃手を任せている。
因みにM24A2を使用しているハンスが居ないのは、彼はM24A2を使い続けると言う事でだ。
そんな彼らの前には、バイポッドで立てられた4挺の狙撃銃が並んでいる。
近未来的な外見と、ストレートプルハンドルが特徴のSIG ブレイザーR93 LRS2。
この狙撃銃が持つストレートプルハンドルは、ボルトを前後させる時にボルトハンドルを起こす必要が無く、速射が可能であり高精度だ。
またLRS2は.338Lapua Magを使用することの出来るモデルで、装填数は5発。その見た目と作動の特徴から、フィクションでもお馴染みの狙撃銃だ。
紅茶が足りてる英国面、L96A1の派生型で、AW338狙撃銃のイギリス軍正式採用モデル、L115A3。
特徴的なのは折りたたみ機構の付いたサムホールストックだろう、競技射撃の選手が設計に関わっている事もあり、射撃・携行においてバランスの取れた狙撃銃だ。
装弾数5発のボックスマガジン式、10発入り弾倉も用意出来る。.338Lapua Mag仕様で、こちらも長距離の狙撃が可能、実戦における狙撃の世界記録を打ち立てた事もある。
フランス、PGMプレシジョン社よりノミネート。ウルティマラティオとヘカートⅡの中間に位置する狙撃銃、PGM.338。
"ミニ・ヘカート"とも呼ばれる様に、ヘカートⅡの.338Lapua Magモデルであり、外見もヘカートⅡを少し小さくした様な感じだ。
装填数は10発と多く、また精度も高いライフルである。
ストック後部には精度向上の為、ストックの下で握り込める様なバーティカルグリップが付けられている。
最後に現在アンナが使用している、骨組みの様な外観が特徴のレミントンMSR。
Modular Sniper Rifleの頭文字を取るこのライフルは、複雑・多様化する現代戦の流動的な状況下でも生き残れる様にレミントン社が設計した狙撃銃である。
1つの狙撃銃をプラットホームとし、様々な状況に対応出来、ピカティニー・レールのお陰で様々なアクセサリーパーツを取り付ける事も可能だ。
これも装弾数10発と多く、当然の事ながら.338Lapua仕様である。
「……どれにしよう……」
「撃ち比べは?」
「それはもうした」
「どれがいい?」
「……正直悩む、ランディは?」
「……どれでもいい、って言うと語弊があるけど、どれも良い……」
2人の狙撃手が、狙撃銃の前で新たな狙撃銃を選んで腕を組む光景は、何処か強烈な雰囲気を放っている。
彼らの狙撃に命なのは"精度"だ、しかし、精度ばかり重視していて携行製を損なっては、作戦行動に支障を来たす。
この中から選ぶとなると……と言う事で、彼らは悩みに悩んで選んでいるのだ。
そして彼らが炎天下の中狙撃銃を撃ち比べ、悩んだ末に出した結論が______
ヒロト「タクティカル講座ー」
エリス「そう言えば中で出てきた"サポートハンドってなんだ?」
ヒロト「サポートハンドってのは、ハンドガードを持つ手の事だ」
エリス「私は右利きだから……」
ヒロト「ちょっと違う……非利き手の事は"ウィークハンド"という呼び方をする事がある。サポートハンドは射撃時にハンドガードを持つ手の方だ、例えば右手でトリガーを引くなら、サポートハンドは左手に。左手でトリガーを引くならサポートハンドは右手になる」
(構えを作りながら)
エリス「なるほど……」
ヒロト「以上、タクティカル講座でしたー」