第111話 報酬と機械化歩兵
ベルム街ギルド組合
同・応接室
「ではこちらが報酬になります」
俺はギルド組合の応接室で、伯爵と組合からの報酬を受け取っていた。
金貨が合計3000枚、双方から仕事に見合った報酬を受け取った。
その場で依頼完遂の書類を書き、持って来ていたレポートと共に提出。
これが一通りの報酬受け取りと依頼達成報告の流れだ、伯爵絡みの依頼などはいつもこうして受け取る。
「今回の依頼達成でラプトルの森の調査も進むだろう、遺跡や壁画の調査も竜人族との合同で進められる。良くやってくれた」
「いえ、我々も新しい兵器の実戦投入が出来て良かったです」
お礼を述べて握手を差し出す伯爵の手を握り頭を下げる。
「また次があったら頼みたい、良いか?」
「えぇ是非、今度共よろしくお願い致します」
報酬を受け取り手続きを済ませると、俺はギルド組合を出る。
外に駐車してあったM1044 HMMWVのトランクを開けて報酬の金貨が入った麻袋を置き、トランクを閉めて助手席に乗り込む。
「報酬、どの位になった?」
運転席に座っていたエリスがエンジンを掛けながら問い掛ける。
「3000枚だな、これでまた給料が増えるだろ」
「ああ、主計科も大喜びだ」
馬車感覚でギルド組合の建物前に駐車していたHMMWVを走らせ、基地へと向かった。
ベルム街からガーディアンの基地まで続く道は3〜4km程南へ伸びていて、街道を側道へ左折して更に1km程走る。
そんな丘の上に、我らガーディアンの基地は存在する。
北側の門が正門、正門をくぐると中央通り沿い、左側に5階建の宿舎があり、右側には3階建の司令部庁舎がある。
そして司令部庁舎の向こう側にHMMWVやランドローバーSOVなどの汎用車両が並ぶ車輌格納庫が、中央通り奥の突き当たりにはピラーニャやLAVなどの装輪装甲車が格納されている格納庫がある。
汎用車輌の格納庫にHMMWVを駐車すると、エリスはエンジンを切って先日召喚した基地業務群の整備士に鍵を渡していた。
俺はトランクから報酬金の入った麻袋を取り出す。
「整備と補給を頼む」
「了解しました」
整備士に敬礼すると、彼は答礼で返した。
そのまま司令部庁舎の事務所の主計科に報酬金を持っていく。
ジーナ准尉は主計科と事務科のチーフを兼ねている、毎度毎度部隊拡張の度に難しい顔をするのは彼女だ。
「隊長……軍拡も良いんですが、タイヤ販売だけだとギリギリになって来ますよ?」
「まぁな……そろそろ他の手段も考えるか……」
「お願いしますよ、少ない予算ではどうにも出来ませんからね」
毎度毎度、ここに来る度に彼女の小言を聞くことになる。部隊が大きくなる度にガーディアンは資金が不足し始めるのが悩みどころだ。
タイヤ販売でまだある程度の余裕があるし、部隊が大きくなる事で振り分けられる商隊護衛や魔物討伐のシフトも増えるから報酬金も貰える額が多くなるが、それでもやはりもう少し余裕が欲しいと思う。
カツカツと言う程では無いが、資金は潤沢にあった方が良い。
執務室に戻ると会議の準備、今度は施設の増築についてだ。
かなりの規模の兵站要員を召喚した為、宿舎は間に合っているがそろそろ司令部庁舎の方が手狭になって来た感じはある。
「ヒロト、次は?」
「基地業務群の施設科と会議だな、基地の増築の構想を相談する」
「……頑張ってるな、ヒロトは。適度に息抜きしないとダメだぞ?」
エリスは気を遣ってくれる、それすら嬉しくて、俺は一旦作業の手を止め執務机に手を突いて覗き込むエリスの柔らかい金髪を撫でた。
「ありがとな、でもここが頑張りどころだ」
「ん……そうか、まぁ私は、頑張ってるヒロトも好きだけどな」
エリスはそう言ってにっこり微笑む、俺は応える様に微笑み返し、作業を再開させた。
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「ではこれで会議を終了する、皆お疲れ様」
俺がそう言うと施設科の隊員がゾロゾロと席を立ち、散っていく。
一応この会議で増築予定がある程度決まった、あとはシステム関係で構築を行う必要があり、それは施設科のシステム担当官に任せた。
さてさて……残りの仕事は……第2小隊の視察か……
頭の中に用事を思い浮かべながらパソコンを持って会議室を出る。
忙しくなって来た、設立した組織が大きくなっているのを肌で感じる。
こんな多忙な日々も悪く無い、と思いながら俺は執務室にパソコンを置き、引き出しから双眼鏡を取り出す。
執務室を出ると、階段を降りて車輌格納庫に向かうが、徐ろに指パッチンをする。
「エイミー」
「ここに」
冗談でやったのにマジで来た……
え、何、エイミーお前忍者なの?時間を操る程度の能力でも持ってんの?
「……まぁいいや、第2小隊の演習の視察に行く、主要メンバーを集めてくれ」
「了解しました」
エイミーは音もなく俺の隣を通り過ぎ、階段へと消える。
俺が彼女の後を追って階段を曲がると、既にエイミーの姿は無かった。
おいマジで何者なんだエイミー……ただのメイド長か?
そして書類を揃え、一度ロッカーに寄り、自分のヘルメットとプレートキャリアを持って車輌格納庫に歩く、使う車輌は幌張りのM998HMMWV、ガーディアンでランドローバーSOVと並ぶ汎用車輌だ。
後部はベンチシートになっており、詰めれば8人が乗る事が出来る。
更に幌を支える支柱の天井には丸いターレットリングが取り付けられており、M240E6汎用機関銃やM2重機関銃、M134Dミニガンなどを搭載する事が出来る。
今回は自衛の為、M240E6汎用機関銃が積まれていた。
基地から一歩でも外に出る時は自衛用火器の携行を義務付けているし、車輌にも最低1挺のM4A1もしくはPDWを搭載するのも義務だ。
車輌格納庫で待っていると、主要メンバーが揃った。
山口孝道、細野夏光、沢村健吾の司令部要員に、護衛にエリスとエイミーがフル武装で付く。
「集められた理由はエイミーから聞いてると思うけど、新設第2歩兵小隊の演習の視察だ」
「場所は演習場?」
孝道からの質問に頷く。
「そうだ、第2歩兵小隊は今練度向上の為の演習中だ。彼らの13週間の成果を見に行こうと思う」
「了解」
「じゃ、行くぞ」
各員がHMMWVに乗り込む、護衛のエイミーは当たり前の様に運転席に座っていた。
俺は運転席後ろに、俺の隣はエリス、助手席は孝道で、ナツと健吾は後だ。
全員乗った事を確認すると、エイミーはHMMWVのアクセルを踏んだ。
目指すのは基地の東側に広がる実弾射撃演習場である。
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異世界の大地を踏みしめるのは、鉄を繋げた履帯。履帯は起動輪に噛み込んで動かされ、異世界の地面に履帯の後を刻み込む。
その履帯が支えるのは50.2tもの巨体、そしてそんな巨体をパワーパックが唸りを上げ、時速60kmで疾走する。
120mmという巨大な滑腔砲を持ち、そこから吐き出される徹甲弾は460mmの防弾鋼板を貫通する事が出来る。
改良した油気圧サスペンションと砲安定装置により、オリジナルには無いスラローム射撃も可能としてしまった、異世界に存在するはずの無い鉄の塊。
90式戦車、ガーディアンの主力戦車だ。
砲塔に描かれているマークは"士魂"、第11戦車大隊の所属車両である。
『6の台敵戦車、徹甲!小隊集中行進射!撃て!』
1号車の車長の号令と共に砲口から砲弾が撃ち出される、撃ち出されたTPFSDSは1.3km先の戦車の形をした標的のど真ん中に突き刺さった。
その標的がパタッと倒れると、別の方向から戦車の形をした標的が起き上がる。
90式戦車は搭載している自動装填装置から2発目のTPFSDSが薬室に装填され、間髪入れずに2発目のTPFSDSを新たな目標に叩き込む。
再び命中、90式戦車の高性能なFCSは、70km/hで走行中に3km先の標的に初弾を命中させるほど優秀なのだ。
90式戦車が目標を破壊し尽くすと、今度は人型の標的が草むらから現れる、距離は300m程で、戦車の死角となっている部分に現れた。
いくつかの標的はRPGを模した筒を持っており、実戦であれば90式戦車はダメージを受ける事になる。
しかし、人型の標的が立ち上がった次の瞬間、いくつかの標的が纏めて薙ぎ払われた。
戦車部隊の後に続いて現れたのは、戦車に似ているが戦車ではなく、よく戦車と間違えられる歩兵戦闘車の部隊。
装備している車輌は、89式装甲戦闘車である。
M2ブラッドレーやLAV-25よりも強力なエリコン35mm機関砲KDEを装備し、79式対舟艇対戦車誘導弾のランチャーを2基、砲塔脇に装備している。
戦い方によっては主力戦車すら袋叩きにする程の戦闘車両が4輌、90式戦車の後に続く。
35mm機関砲が火を噴く度に焼夷榴弾が命中し、地面を抉る度に小爆発を起こして破片で標的を蜂の巣にする。
また焼夷効果のある砲弾は命中する目標を燃え上がらせ、真っ黒な炭へと変えて行く。
89式装甲戦闘車が90式戦車を援護する様に入り、停車する。
ハッチが開くと、マルチカムのコンバットシャツとコンバットパンツに身を包み、EAGLE MBAVプレートキャリアを身に付け、ACHヘルメットを被った兵士が飛び出してくる。
彼らが持っているのは、ガーディアンで主力として採用しているM4A1だ。
ある者はTorijicon ACOG TA01を乗せてKnight's QDフォアグリップとLA-5/PEQをハンドガードに取り付けている。
またある者はAimpoint COMP M3ダットサイトにTangoDown BVG-ITIフォアグリップとレーザーサイト、Surefire M952Vをハンドガードに取り付けて居る。
ACOGに加えて、FN Mk13 EGLMアンダーバレルグレネードランチャーを取り付けている隊員もいる。
こう言ったカスタムの自由度が高いのも、M4A1MWSの特徴だ。
加えて中にはM249MINIMIを持った兵士も居て、バイポッドを開いて伏撃の姿勢で射撃体勢を整える。
そんな彼等ドラゴン襲撃の折、村から避難して来た避難民の内、自警団などの志願者などを訓練した"第2歩兵小隊"である。
「目標正面!敵対戦車歩兵!撃て!」
先頭、小隊長を務めるシュバルツ・ラインハルトが命令を下す。
M4の銃床を肩に当て、引き金を絞る。
セレクターはセミオートに入っており、引き金を絞る度に1発ずつ銃声が響き、薬莢が地面に落ちる。
M249MINIMIの掃射が横薙ぎに標的に命中し、標的を次々と撃ち倒していく。
「遅いんだよ!!それじゃあ!」
その隊列の後ろから歩兵に向かって檄を飛ばす同じ迷彩のコンバットシャツを着た隊員がいる。
HMMWVに乗った彼等は、教導小隊の隊員である。
「お前ら勝つ気はあるのか!?」
「サー・イエス・サー!」
教導小隊の隊員の怒号に、第2小隊の隊員は腹から声を出して返答する。
教導の歩兵分隊員は、米海兵隊と陸上自衛隊レンジャーの隊長で構成されている。
彼らは「兵士が強くなる為なら何でもする」と言うものだ。しかし、身体を叩くなどの体罰や暴力は一切していない。と言うより、唾がかかる程近くで怒鳴り付けたりはするが、ほぼ一切隊員に触れる事は無い。
体罰や暴力は人を成長させないだけでなく、萎縮させてしまうと言う事を指導者として知っているからだ。
機甲部隊は歩兵をIFVに再び収容すると、そのまま演習場の中にある"キリング・ハウス"と呼ばれる市街地へと入っていく。
90式戦車の車列が一旦停止、またも89式装甲戦闘車から第2小隊の機械化歩兵が放たれた。
戦車の影を援護する様に歩兵が展開し、先遣の分隊が建物の陰で敵戦車を狙う対戦車兵器を持つ敵やIEDを破壊する。
8人の分隊が4人1組にまとまり建物に張り付きながら進み、建物の陰でRPGを構える敵に向かって発砲する。
とは言っても敵は人と同じ大きさのマネキンだし、RPGもダミーなのだが。
「おらだから遅いんだよ!そんなんじゃ戦車がやられるぞ!もっと素早く撃て!」
「サー・イエス・サー!」
怒号と銃声、戦車のエンジン音が演習場のコンクリートで出来た灰色の市街地に響き渡る。
キュルキュルと履帯を踏み鳴らし、戦車は歩兵が随伴出来る速度で前進する。
機械化歩兵とは本来、こうして戦車と共に前進し、戦車を守る為の歩兵だ。
サイボーグやアンドロイド、ロボット兵を機械化歩兵だと思っていた人は執務室に来なさい。
IFVに乗り、戦車と共に機動して戦闘を行う。こうした戦い方を"歩戦共闘"と呼ぶ。
もちろん戦車を守るのが機械化歩兵とは言え、"戦闘のプロ"で無ければそれは成り立たない。
覗く双眼鏡の先、先遣の分隊がドアに駆け寄り、1人は背負っていたショットガンを構えてロック機構に押し当てる。
どうやらあの建物のドアは押し戸らしく、ショットガンでロック機構を破壊すると別の隊員がドアを蹴破って突入していき、ショットガンを持った隊員ともう1人は背後を守る為に外に残る。
突入後、部屋の中から数発の銃声、歩兵が部屋の中を対戦車兵器を持つ敵を"掃除"している間に90式戦車はゆっくりと進んでいく。
「……遅いな」
「ああ、遅いな」
俺の隣で健吾が頷きながら双眼鏡を覗く、直接戦闘に携わる事がほぼ無いナツと孝道は首を傾げていた。
もちろん第2小隊は未だ実戦を経験しておらず、練度も低いと言わざるを得ない。13週間にも渡る訓練をこの間終えたばかりなのだ。
「……」
何か、あの訓練見てたらウズウズして来た……
訓練は欠かしていないとは言え、最近はデスクワークが多かった。銃を撃つ機会と言うのはめっきり減ってしまった。
「……おい、行くぞ」
「え?」
「彼らにルームエントリーを教えてやるんだ」
俺は双眼鏡を置き、軽く身体をストレッチさせる。
「エリス、エイミー、健吾、行くぞ」
「……ふふっ、了解」
「了解しました」
「……ったく仕方無いな……」
エリスは苦笑しながら肩を竦め、エイミーは当然の様に付いて来る。健吾は肩を竦め、半ば諦めた様な返事で付いて来る。
階段を降り、大通りへ出ると、戦車部隊が歩兵部隊を引き連れてゆっくりと前進している。
念の為制圧済みの区画から歩兵部隊と合流する。
こちらに気付いた隊員が敬礼を向け、答礼を返す。
俺とエリス、エイミー、健吾の4人は先頭集団へと歩いて追い付き、教官に声を掛けた。
「寄居隊長」
「団長、お疲れ様です」
「軍服は慣れたか?」
「自衛隊では自衛隊迷彩の戦闘服だったので……特殊作戦群の隊員はコンバットシャツとか着てたみたいですが、まだ慣れませんね……」
そう返す未だコンバットシャツに慣れない、隊長と呼ばれた日本人は、寄居 拓中尉。教育部隊の隊長だ。
彼の感じる違和感は自衛隊の一般部隊では採用していないコンバットシャツの感覚と、纏っている迷彩が自衛隊迷彩では無くガーディアンで採用しているマルチカム迷彩であるという事だろう。
「団長はどうしてここへ?視察だったはずでは……?」
「ちょっとルームエントリーの手本をと思ってな、彼らに少し指導しても良いか?」
「あ、ええ、どうぞ?」
隊長の許可も降りた事だし、ちょっとやるか。
「誰か!M4を貸してくれ」
そう言うと隊員の数人がM4のスリングを渡して来る、俺と健吾は2人から1挺ずつ借り受けた。
Aimpoint COMP M3ダットサイトにLA-5、ナイツQDフォアグリップ、Surefire M952Vライトでカスタムされた隊員のM4を借り、マガジンを一度抜いて装填されているかどうか確かめてチャージングハンドルをもう一度引く。
5.56×45mmフランジブル弾が装填し直され、安全装置を1度掛けてダストカバーを閉める。
「今から手本を一度見せる、見逃さない様にしてくれ。エリス、エイミーは突入、健吾、プリーチャーとバックガンを頼む」
「了解」
「了解」
3人は頷き、健吾がドアの前に立つ。エリスとエイミーは俺の後ろで待機、俺はハンドサインでカウントし、健吾がドアを蹴破る。
部屋の隅にあるドアから室内の壁沿いに移動する様に突入、部屋の中にある標的に2発撃ち込む。
ダンダンダン!!!
いつもの様に耳栓やヘッドセットをしていない為、音が煩く室内へと反響する。
ガーディアンの訓練で使われている標的は、弾が命中すると倒れる様になっている。
しかし設定によって、"複数発撃ち込まないと倒れない様に"設定している。
なので銃声の煩さに顔をしかめつつ、COMP M3ダットサイトのレティクルに標的を合わせ、標的が倒れるまで射撃を続けた。
突入から室内にある標的全てが倒されるまで、凡そ4秒。
健吾はバックガンとして、部屋の外で敵を警戒する役に付いていた。
「おおー!」
「凄いな」
「鮮やかだ……」
「エリスさん可愛い」
「速い……!」
窓から室内を見ていた第2小隊の隊員から歓声が上がる、寄居隊長も驚いた様に笑っていた。
今のは"モディファイド"と呼ばれる突入テクニックで、ドアが部屋の中央ではなく端にある部屋に突入するのに適した突入方法だ。
人数が多くても実行しやすく、また外開き、つまり突入待機している外側へ開く日本によく見られる様なドアでも、突入路を塞がれにくいと言うメリットがある。
スムーズに実行出来るのも、日々の訓練の賜物だ。
「室内への突入テクニックは?」
「一通り教えましたが、実戦はまだ」
寄居隊長はそう言って肩を竦める、教科書ではやったものの、訓練と演習ではまだやった回数は少ないと言う。
「M4、ありがとう、誰だろう?」
「あ、はい!自分です!」
手を挙げた隊員にM4を返し、礼を言う。健吾も隊員にM4を返していた。
「ありがとう、君、名前は?」
「はっ!ジョンソン・トラーシャ上等兵です!」
「ジョンソンか、良い名前だ。第2小隊もここまでとは言わんが、市街地における特殊戦技能は今後必須になる、身に付けてくれるとありがたい」
ジョンソン上等兵だけでなく、第2小隊全体に言い聞かせる様に言う。
「見事でした、第2小隊だけでなく我々教導隊も手本にしたいですね……」
「教導隊のお墨付きで嬉しいよ、では続きも頑張って」
「了解しました!」
俺達は教導隊と第2小隊の成長を祈りながら、元いた建物の上へと戻る。
屋上では孝道とナツが観察を続けていた。
「どうだった?」
「デモンストレーションやって来た、第2小隊はまだ練度低めだからな」
第2小隊はまだ設立して間も無い、練度が低めなのも致し方ないだろう。早く成長して一緒に戦いたいとは思うが、即席では意味が無い。ゆっくりでいい、確実に成長して欲しいと思った。
「次は?」
「あっちの演習場だ」
俺は野戦演習場に双眼鏡を向け、覗き込んだ。
あちらでは、新設した部隊と増強した部隊が訓練中だ。
台座を設置して支脚を立て、見た目は斜めに筒を立てているように見える火器。
隊員はそれに砲弾を落とし、撃発されると高く高く砲弾は登っていく。
そして2km程先の弾着地点に落下すると、砲弾は炸裂して爆炎を上げる。
時間差で"ズム……ズム……ズム……"と他の砲弾が命中し、弾着地点一体に砲弾が降り注ぐ。
彼らが操作しているのは、ガーディアンで採用している歩兵用の軽迫撃砲、M224 60mm軽迫撃砲だ。
3人が1基、1個分隊9人が3基の迫撃砲を操作しており、3個分隊9基の迫撃砲がドンドンと射撃している。
その隣では、6人1組になった2組が、M240E6汎用機関銃を伏撃の体勢で射撃、的が倒れる前にズタボロにしていた。
彼らはガーディアンの歩兵に対し、火力支援を提供する"火器小隊"の隊員達だ。
迫撃砲や機関銃、時には対戦車誘導弾などによって歩兵の進行を妨げたり、歩兵の妨害を行う敵を火力によって圧倒、薙ぎ払う。
ドラゴンから逃げて来た町の自警団の殆どは第2小隊所属となったが、小隊が定員以上となった為発足させた。
第2小隊もそうだが、新設部隊の3割は俺が召喚した人員である。
召喚した人員と現地民を混ぜて運用する事によって、現代兵器や戦術に対して知識のある人員と、その指導を受ける現地民で練度の向上が早まると見てだ。
もちろん、手っ取り早く頭数を増やせると言う利点もある。
残りの7割が新設した第2小隊と火器小隊に振り分けられた。
加えて、別に整備した部隊がその後ろに並んでいる。
迫撃砲部隊の後ろにずらりと並ぶのは、LAV-25シリーズの迫撃砲搭載型、LAV-Mである。
以前はLAV-EFSSを採用していたが、歩兵の火力支援には120mmは若干過剰であり、砲弾の重量もかさむ事、訓練を重ねて分かった事だが、試験段階の兵器を実戦投入した上で色々と問題点が浮かび上がり、LAV-Mの方を採用することにしたのだ。
ストライカーMC、LAV-EFSSの旧車輌は評価試験隊へと預けられ、データを取った上で標的となる。
隊員はLAV-Mの車輌を引き継がれるように使用している。
演習場に低く響く爆発音、その横から連続する銃声、標的へと伸びて行く7.62mmの曳光弾。
俺達の軍拡は、ここから始まる。