第107話 帰還後の計画
ラプトルの森、竜人族の村の上空でヘリが飛び回る、竜人族の村への復帰作業が始まったのだ。
幸いにして村の被害は少なく、家屋の全壊が1棟、半壊が3棟程度だった。
被害の少なかった村に村人達は喜び、不幸にも被害を受けてしまった家屋の住人は村人が全面協力、ガーディアンも全面的な支援を約束した。
村の復帰作業を手伝いながら安全確保の為に見回っていると、村人達に歓迎された。
しかし最終的に転生者を倒したのは俺達ガーディアンでは無くゴードンとそのラプトル達、そして野生の亜竜である為、なんだかむず痒い様な気持ちになる。
「……なんか、申し訳ないな……」
「そうだな……なんとも言えない……」
しかし、目的は果たされ、依頼は達成された。これは成功と呼んでも良い収穫だろう。
「ちょっと失礼、すみません通して」
と、そこへゴードンが人の波を掻き分けて近づいて来る。
「ヒロト氏、村長がお呼びだ」
「村長が?」
「あぁ、何でも今回の立役者であるあんたに渡したい事と言いたい事だってさ」
1番の功労者が何を言ってるんだ……
と思ったが彼ら曰く"貴方達が居なかったら今頃ラプトルの森は奪われていた"と……
何だか複雑だが、褒められるのは悪い気分ではない。
「エリス、付いて来てくれるか?」
「ん?あぁ、村長のところか。良いぞ」
エリスは二つ返事で了承してくれた。
俺とエリスは2人、ゴードンの導かれるままに村長の家へと足を運んだ。
村長の家は村のほぼ中心に位置しており、広場に程近い場所にある竪穴式住居だ。
その割には中は広く、内装も質素ながらこの国の一般人よりも住み易い環境ではあった。
ヘルメットとグローブを取ってゴードンと共に村長の家へ、ゴードンがドアをノックすると、ドアの向こうから村長の声が帰って来た。
「失礼します」
村長の家に入ると、既に話し合いの準備は整っていたらしい。
俺も一言断って村長の家に入る。
「若いの、座るがいい」
リビングと呼べるのだろうか、長椅子とテーブルがある席に村長は座っていて、後ろには男が2人、村長の左手には奥さんと見られる女性、右にはもう1人男が座っていた。
俺は言われた通り村長の向かいに座る、それを待って髭を蓄えた村長はゆっくりとした口調で話し始めた。
「……今回の件、本当に良くやってくれた、心から礼を言うよ、本当にありがとう」
村長がテーブルに頭が付くほど深々と礼を言って頭を下げる。
「頭を上げて下さい、最終的に余所者を排除したのはゴードンとそのラプトルです、1番の賞賛は彼らに贈られるべきでは無いかと……」
「それでも、あんた達が居なかったらそれも達成出来なかっただろう」
「全体を見ても、あんた達の手柄だ」
村長の隣にいる男性とゴードンが口を開く。彼ら曰く、俺達が来なかったら彼らを排除する事は出来なかったと言う。
「そう言う事だ……それと……少ないが、報酬を」
村長の隣に座る男が小さな麻袋を机の上に置き、差し出す。
置いた時のジャラッと言う音から、中身は恐らく貨幣だろう。
「……確認しても?」
俺は村長に問うと、村長は無言で頷いた。
麻袋を開けてみる、中に入っていたのは、金貨50枚であった。
「え……こんなに沢山、受け取れませんよ」
「良いんじゃ、君達の手柄じゃ、少ないが持って行って欲しい」
「いえ、第一報酬は伯爵からも出ますから……」
「それでもだ、この報酬は俺達の気持ちだ、受け取ってくれ」
村長の隣に座る男がまた深々と頭を下げる、しかしこの村も決して裕福とは言えないだろう、そう思うとやはりこれを貰うのは気が引ける。
しかし、彼らも本心から感謝しているからこそ、受け取って欲しいのだろう。純粋な目で言われたらその善意も少し断り辛い。
「……で、では、10枚だけ頂きましょう。残りは貴方方が、生活やベルム街との貿易に役立てて下さい」
「何と無欲な……」
無欲なんじゃ無い、もちろん欲はあるし、組織の運営費に欲しいとは思う。
だが、その報酬は伯爵から直接貰うし、あまり裕福とは言えないこの村からは取る気にはなれない。
「そうして下さい、我々は村から報酬を取る為に協力したのでは無いのですから……」
確かに報酬を得られなければ、仲間と共に戦う事は出来ない。だが報酬を得るために仲間と共に戦ったり、こうして協力するのとはまた違う。
ガーディアンには傭兵業務などの他に"タイヤ販売"と言う安定した収入源があるのだ。
「ではこれとは別に……儂らからの贈り物じゃ……」
村長は今度はそう言うと、村長の奥さんが村長にあるものを手渡し、村長が俺達の前へそっと2つ置く。
それは俺自身も見た事がある、と言うか、さっき見た。
ラグビーボールをそのまま小さくした様な、350mlのペットボトル程度の大きさの楕円球体。
「これって……」
「知っているかね?ゲオラプトルの卵だ」
先程洞窟遺跡から回収したのと同じ、ラプトルの卵だ。
「ラプトルは儂らにとってパートナーじゃ……しかし良きパートナーになりもするし、今回の様に強大な敵にもなる……力の使い方を見誤るな、見極められよ、若いの」
俺は差し出されたラプトルの卵を手に取って、じっと見つめた。
「……ありがとうございます」
ラプトルの卵を見つめたままお礼を言い、頭を下げた。
「時に若いの、貴殿らの戦闘能力は素晴らしい物があるな」
「ありがとうございます、我々の力は仲間と、ベルム街の住人を守る為のものです」
「なるほど……貴殿らの姿勢、儂は大変気に入った、貴殿らが良ければ、協力させて欲しい」
村長はそう切り出した。
これはあれか?疲れからか黒塗りのラプトルに激突してしまい、そのラプトルに乗っていた村長からの示談の条件か……?
村の被害を0にする事は出来なかったし、どうなんだ……!?
俺は腹を決め、次の言葉を覚悟して待った。
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帰還任務が終わったヘリは早々に基地に帰投し、俺達は話し合いの後、村の大勢に見送られて村を後にした。
示談の条件を突き付けられる様な事は無く、村長に若者の出稼ぎを手伝って欲しいと頼まれたのだ。
ラプトルの森の産業は基本的に自給自足、偶に足りないものがあれば街に買いに行く。
それでも足りない分は街に出稼ぎに行く、と言うのだ。
その出稼ぎ先に、ガーディアンが選ばれた。
俺は今、エリス、エイミーの2人と共に90式戦車の貨物ラックにタンクデサントしている。
何故かといえば、同じ90式戦車にタンクデサントしている2人の安全対策の為だ。
"ゴードン・ブルーザー"
"アレク・カークスビル"
この2人は竜人族、そして今回の出稼ぎの為に選ばれた2人だ。
2人とも年齢は20代後半、ゴードンは金髪で切れ長の目をしているが、アーレンは年に見合わない程童顔で身長も低め、10代後半にしか見えない。
彼らは正規兵では無く、"オブザーバー"としてガーディアンが雇う。
そして彼等には2頭のゲオラプトルが付き、戦車の隣を歩いていた。
そんな2人が戦車の上に乗って、異世界地球の乗り物の初めての乗り心地にそわそわしていた。
「なぁ、この乗り物は何て言うんだ?」
「戦車だよ、"せんしゃ"」
「戦車?あの戦車とは違うみたいだけど……」
「あぁ、俺達の"味方戦車"と言われれば、この戦車なんだ」
「へぇ……カノーネン・ディノザオリアも1撃で屠る事が出来るヒロト氏の兵器……」
ゴードンが感心した様に90式戦車の表面の複合装甲を撫でる。
硬く冷たい、ゴツゴツとしたセラミックスの感触は、この異世界には無いだろう。
強いて言うなら、土を焼き固めた様な感触だ。材質は全くと言って良いほど異なるが……
そう言っている間にも移動していて、ラプトルの森の城門が迫ってくる。
最初にここを通り抜けた時、天井画に驚いた物だが、森の中に彼らの様な竜人族が住んでいるのであれば彼等の古い文化なのだと納得出来る。
90式戦車がトンネルを出ると慣性の力で俺達が落ちない様にゆっくりと停止、城壁上に展開していた第3狙撃分隊を回収する。
「首尾はどうでした?」
「バッチリだ、敵は排除した、撃破確認も終えている」
「了解!お疲れ様です!」
狙撃分隊の4人が89式装甲戦闘車の4号車に乗り込み、それが確認されると26輌もの装甲車列はスタガード・カラムフォーメーションを組んで、ラプトルの森を後にする。
森の中からまるで暫しの別れを告げる様な、カノーネン・レックスの咆哮が夕暮れの空に響き渡った。
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基地に帰投すると戦闘装備を解き未使用の弾薬を返納、制服に着替えて通常業務に復帰する。
整備隊も大変だ、今頃戦車の整備で大忙しだろう、何しろ踏んで行った亜竜の肉片が土まみれ泥まみれで履帯にこびり付いているのだから、整備士達は涙目で履帯を掃除しているに違いない。
お疲れ様です、と彼等の苦労に頭を下げ、自分は自分の仕事へと取り掛かる。
まずは戦闘の経緯をレポートにまとめる、ラプトルの森に住む竜人族の依頼を伯爵が受け、伯爵がギルド組合を介してガーディアンに依頼すると言った所だ。
間にギルド組合と伯爵を挟む事で報酬交渉による不正な報酬の売り上げを防ぎ、且つ"公的な仕事"として処理され報酬はきちんと支払われる為、依頼をする方も受ける方も損はしなくなる。
しかしその仕事ぶりや依頼の達成を裏付ける物の1つが、このギルド組合に提出するレポートだ。
もちろんレポートだけでなく、依頼達成を確認する為に組合から冒険者や伯爵の騎士団が派遣されたりもするので、依頼は確実にこなさなければ"詐欺"として厳罰に処される。
レポートをガリガリと書き終える、これを後回しにするとあとあと面倒なのでとっとと終わらせるに限る、しかし適当に書いてはいけない。
レポートを終わらせてクリアファイルに入れ、机の上に置いておく。
引き出しの中から鍵を出し、金庫の鍵を開ける。
金庫の中には自分のスマホが入っている、転生の時も使っていたiPhone5、MAGPULのケースが付いている。
ホームボタンを押して開くと、壁紙には"レベルのお知らせ"とだけ通知が来ている。
パスコードを解除してアプリの"召喚"を開く、今となっては既に古い機種ではあるが、サクサク動いてくれる。
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レベルが上がりました!
Lv48
【航空機】C-130Hハーキュリーズ
【航空機】エアバスA400M
【航空機】C-27J スパルタン
【航空機】AC-130Uスペクター
【航空機】Tu-22M バックファイア
【航空機】MQ-1プレデター
【航空機】C-1輸送機
【航空機】P-3Cオライオン哨戒機
【歩兵】連隊規模歩兵
【舟艇】LCAC-1級エアクッション揚陸艇
【設備】1000m級滑走路
【ミサイル】PAC-3
【ミサイル】9K37M1-2"ブーク"SAMシステム
【スキル】グリーンベレー CIF
【スキル】スペツナズ・アルファ
【スキル】スペツナズ・ヴィンペル
【スキル】GSG-9
【スキル】国家憲兵隊治安介入部隊
【スキル】JW GROM
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大量の亜竜を倒したからか、レベルの上がり方がえげつない。
まぁ、ドラゴンに匹敵する脅威をあれだけ倒せれば、レベルも上がるか……
それにしても、今回のレベルアップで初めて出て来たのは固定翼航空機だ。
未だ輸送機と哨戒機、Tu-22Mは爆撃機と現場で召喚しても使い所が微妙に困るものなので、今の所は保留だ。
しかし、スキルの方は役に立つものが増えた。
米軍に限らず、ロシア軍にドイツ連邦警察にフランス憲兵とポーランド軍の特殊部隊と来た。
スキルを自分と隊員達に装備させて戦力強化を図るのも良いかもしれない。
だがその前に、そろそろタイヤ販売とクエストによって資金的にも大きく余裕が出て来た。
隊員達の給料を増やしながらも、戦力増強を行える程にだ。
質は維持、もしくは向上を目指す、今の俺達に圧倒的に足りないのは"頭数"だ。
そろそろそれを増やしても良い頃なんじゃないか?と考えていた。
執務室のドアがノックされ、その音が部屋に響く。
「どうぞー」
「失礼します」
聞き慣れた声でそう言って入って来たのは、既に迷彩服から制服に着替えたエリスだった。
「様子はどうだ?」
「レポートは終わり、各部の状況は?」
「整備隊は総動員で戦車や装甲車の履帯の清掃がようやく終わったところだ、細かい整備や補給があるらしいけどそれは後だそうだ。航空部隊は整備完了、歩兵部隊は全員弾薬の返納と戦闘装備を解いて休息に入った」
「そうか……戦車部隊を初めて大規模に動かしたからな、整備と休息は入念に、だ」
「あぁ、それから、ゴードンとアレクの2人に部屋の鍵を渡しておいた、2人の部屋は後で確認しておいて欲しい」
「了解、正規隊員では無いにしろ、彼らには頑張って欲しいからな……」
「あと、そろそろ食堂もピークを過ぎる、一緒に食べに行かないか?」
「ん、あぁ、もうそんな時間か」
エリスからディナー、と言うほどでも無いが、ご飯のお誘いだ、断る訳が無く、また乗らない訳がない。
俺はスマホの電源を切り、金庫の鍵を掛けて執務室を後にする。
1階に降りて、通路からガラス張りの食堂が見渡せる。エリスの言う通り、混雑具合は引いて来たようで空いてる席が増えていた。
どうやら今日の夕食のメニューは野菜炒めらしい、さっきまで肉片取りをしていた整備士達も居るからな……と思ってクスッと笑ってしまった。
エリスと共にトレーを持ってカウンターに並び、順番を待った。
ガーディアンのシェフ達は優秀だ、どんな飯を作っても美味い。
今日の夕飯も楽しみだ。
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飯は美味かった、程よく塩胡椒が効いた濃いめの野菜炒め。調子に乗ってご飯を3杯おかわりしてしまった、正直腹一杯で苦しい。
とは言ってもそれで仕事を放り出す訳には行かない、幸いエリスも手伝ってくれる。
「グライムズからコーヒーを貰ってきた、彼のコーヒーは美味しいからな」
「お、ありがとう、助かる」
礼を言って受け取り、一口コーヒーを飲む。
舌に感じた熱さと苦味、コーヒー独特の香ばしさが鼻に抜ける。
ふぅ、美味い。香りも良いし味も深い、苦味もさほど強くはなく飲みやすく、酸味は少ない。
グライムズはコーヒーを淹れるのが美味い、自分で淹れ方を研究していて、喫茶店が開けるレベルだ。
そんなレベルの高いコーヒーを飲みながら、レポート用紙に部隊拡張計画を取りまとめる。
それから今回貰ったラプトルの卵が孵化した際、ラプトルを操るオブザーバーとしてガーディアンで雇う事になった竜人族の2人の処遇についても考えなければならない。
いろいろ考えて、そろそろ切り上げようと思ったら既に夜の10時を回っていた。
「エリス、そろそろ切り上げる。帰ろうか」
「分かった、こっちも書類はまとめ終わったからもう終わりだ」
エリスはソファで書類整理などを終えていて、立ち上がると俺のコーヒーが入っていた空のカップを取って給湯スペースへカップを洗いに行く。
俺はその間に書類をまとめておき、机の上に。
「よし、大丈夫だ」
「ん、ありがとう。帰ろうか」
「あぁ、お疲れ様、ヒロト」
エリスはそう言ってにっこり笑う、この笑顔も俺は大好きだ。
俺達は執務室を後にした。
その執務室の机の上には"第2小隊整備計画" "後方支援部隊整備計画" "K9計画"と書かれたレポートが置かれていた。
これより日常パートに少し入る為、更新が遅れる事があります。