第104話 歩兵vs亜竜
今日のは短めです、結構短いです。
カノーネン・ディノザオリアは機甲部隊が、ラプトル達は歩兵部隊が相手をする算段になっている。
歩兵を下ろした車輌部隊の隊列は後退を開始、それを見て歩兵部隊22人はそれぞれ班ごとに分かれ、小さな洞窟遺跡に走り込む。
カノーネン・レックスが追って来て俺達を捕食しようとするも、口が入り口に入らず頭を何度もぶつける。
俺達はそれを見て既に準備を始めていた、ブラッドレーから持って来た強力な兵器である。
カノーネン・レックスが苦しそうな声を上げて蹌踉めく、脇腹からスパイナス・ディノスに突撃されたのだろう。
しかし、それによって栓が無くなった様にラプトルの群れが遺跡に雪崩れ込んでくる。
ギシャァァァ!と興奮した鳴き声を上げて突撃して来るラプトルに対し、2発、3発と牽制射撃を入れていく。
M249など流石は歩兵12人分の火力と言われるだけあってか、ベルトを吸い込んでいく分だけ弾幕を張り、エジェクションポートから空薬莢とベルトリンクが吐き出されていく。
弾が急所に当たったラプトルは地面に転がって倒れるが、流石は魔物の生命力と言うか、胴体に2〜3発喰らっても倒れない奴が居る。
そう言う時にM249の出番、指切りバーストの間隔を長くし、フルオートで胴体に弾丸を叩き込んでいく。
しかしラプトルはそれだけでは無く、どんどん押し寄せて来る。
M4をセミオートで撃つ、キレの良い単射の銃兵と共に5.56mmNATO弾を発砲していくが、異常が発生した。
ガキンと言う小さな音と共にM4が動かなくなり、引き金を引いても反応がない。
すかさずエジェクションポートを確認、見ると空薬莢が引き出されたが排出されず、ボルトに斜めに噛み込んで居る。
マルファンクションである。変則的だがダブルフィードに分類される。
「ジャム!」
そう叫んでM4から手を離し、ピストルトランジション。
リンバースリングのベルトを引いてスリングを縮め、6004ホルスターからロックを解除してM45A1を抜き、サムセーフティを解除、引き金を引く。
9mmより重い音を立てて.45ACPをダブルタップ、流石に大口径と言うべきか、ラプトルは呻き声を上げながら倒れる。
「グライムズ!ブラックバーン!終わったか!?」
「準備完了!いけます!」
「了解!ヒューバート後退だ!」
「了解!」
俺とヒューバートは射撃しつつ後退、曲がる瞬間ホールドオープンしたM45A1の空マガジンを捨て、新しいマガジンを入れて再装填。通路を曲がって退避する、ラプトルはそれを当然の様に追い掛けて来るが慌てない。
グライムズとブラックバーンが仕掛けていたのは"弁当箱"だ、知識のある俺達はその意味を理解していたが、意味を知らないラプトルはそれを無視してね通りがかろうとする。それが命取りだった。
ドッ!
ラプトルの足がワイヤーに引っかかり、弁当箱が爆発する。
2人が仕掛けていたのは、M18クレイモア対人指向性散弾地雷だ。
起爆すると700発ものベアリング球が扇状に広がり、キルゾーンに居る敵を殺傷する"面制圧"の地雷である。
ラプトルがその一瞬で吹き飛ばされ、無力化されて追っ手が消える。
その間にマルファンクション・クリアランス、チャージングハンドルを引いてボルトストップを掛けてホールドオープンさせる。
マガジンを力を入れて引き抜き、マガジンが抜けると未装填だった弾薬と空薬莢が落ちる。
弾薬は回収してダンプポーチに放り込み、再びマガジンを挿してチャージングハンドルを引き初弾装填、今度は上手く入ってくれた。
人の大きさほどのラプトルの死体がトンネル内に連なり、クレイモアが炸裂した付近など死屍累々である。
死んだふりをしているラプトルも入る可能性がある為、1頭1頭の頭に5.56mmNATO弾を叩き込んでいく。
岩盤で銃声は反響するものの、ヘルメットに取り付けたCOMTAC M3ヘッドセットのノイズカット機能で耳に大きな銃声は届かない。
ラプトルの戦い方は、基本的に孝道がクイーン・ビーと戦った時と同じだ。
どこから襲撃されるか分からないのなら、襲撃する方向を限定してしまえばいい。
トンネルの少し奥まった場所を陣取ればラプトルは正面からしか襲ってこれなくなるし、こちらは最大火力を発揮して反撃出来る。
「リロード!」
ブラックバーンがリロードに入る、1人分の火力が抜けた穴は連携で埋めるのだ。
「カバー!」
そう叫んでACOGのサイトをRMRに切り替え、至近距離での交戦でラプトルを打ち倒す、恐らく40m程だろう。
ポンッ!と音を立ててFN Mk13EGLMから低圧ガスによって40mmグレネードが発射され、高性能炸薬弾は着発して炸裂。
着弾場所の周囲にいたラプトル達を巻き込んで、破片が飛び散りラプトルを殺傷、爆炎はラプトルを圧倒して薙ぎ払っていく。
ライフルマンの正確無比な射撃、擲弾手と分隊支援火器手の火力。
この2つがバランスを取ることによって、歩兵部隊は連携して敵に損害を与え続けていくのだ。
「アップ!」
再装填が終わったブラックバーンが戦列に復帰、火力を回復してとにかくラプトルを撃ち殺す。
バツ!バツ!バツ!
装甲車の部隊から歩兵の援護に入った89式装甲戦闘車が35mm機関砲KDEの掃射でラプトルを射撃。バラバラになったラプトルの死体が宙を舞い、同軸機銃の7.62mm機関銃も手伝って敵を薙ぎ払っていく。
35mm機関砲から放たれるHEDP弾は、小銃弾などとは比べ物にならない破壊力を持つ。そのため35mm機関砲など喰らったラプトルの死体は弾け飛んでいて、もはや原型を留めていない程の唯の肉塊に成り下がっている。
ラプトルを屠った89式装甲戦闘車に、転生者を守っていたカノーネン・レックスとカノーネン・アンキールが咆える。
2頭が89式装甲戦闘車に向けて炎を吐く、炎は真っ直ぐ飛翔し、89式装甲戦闘車に直撃した。
一瞬炎に包まれる89式装甲戦闘車、しかし次の瞬間、炎を突き破って突進していた。
カノーネン・レックスは咆えながら向かっていくが、89式装甲戦闘車はカノーネン・レックスに向かって容赦無く発砲した。
35mmのHEDP弾はカノーネン・レックスの皮膚にめり込み、体内で小さく炸裂する。
それに苦悶の声を上げるレックスだったが、間髪入れずに次の35mm砲弾が叩き込まれる。
短い間隔で次々と撃ち込まれる35mmHEDP弾はカノーネン・レックスの体内で小さく破裂、爆発して内臓を切り刻み、最後には下顎を撃ち抜いてカノーネン・レックスが地面に倒れた。
しかし魔物の生命力が強力なだけあり、ウーウーと言う呻き声を上げながら未だ生きている。
その為トドメとして89式装甲戦闘車が前進、26.5tの巨体がカノーネン・レックスの頭を踏み潰した。
履帯に乗っかられてバキバキと音を立てて血を吹き出し、骨が砕かれていく。
流石にこの重量の重さには、カノーネン・レックスの頑丈な骨格も耐えられなかった様だ。
ブォォォォォァァァ!
カノーネン・アンキールも吠える、89式装甲戦闘車は弾種をHEDPからAPDSに切り替える。
撃角によっては90mmの圧延防弾鋼板も貫通出来るこの機関砲弾、砲の左右からマガジンによって給弾され、小銃弾とは比べ物にならない砲声と共に発射される。
太鼓の様に響く音と共に装弾筒を分離させ、カノーネン・アンキールの鱗に喰らいつく……が、3発のAPDSは突き刺さる事なく火花と共に弾かれる。
怒ったカノーネン・アンキールが突進するも、89式装甲戦闘車はそれを受けて全速力で後退、砲塔を向けたまま距離を取る。
その時、カノーネン・アンキールが通過した洞窟、エリス率いる第1分隊2班が籠もった洞窟遺跡からクレイが出てきた。
クレイはカノーネン・アンキールの背後に回り込み、背負っていた4本のAT-4CSを特異魔術を使って担ぐ。
2本は肩に担ぎ、もう2本は腰辺りに据え付けて。
誰が言い出したは知らないが、これをいつの間にか"クレイ・フルバースト"と呼んでいた。
AT-4CSは塩水をカウンターマスとしているので、普通のAT-4と比べてバックブラストは控え目である。
しかしそれはあくまで1本で発射した時の場合だ。
4本まとめてを一斉に発射する"クレイ・フルバースト"は凄まじいバックブラストを放つので、後ろに立っていると危険極まりない。
たった今も、クレイの背後から襲いかかろうとしていたラプトル3頭が纏めて吹き飛ばされた。
4発の対戦車榴弾はロケット弾とは比べ物にならない初速でカノーネン・アンキールの足元を抉り、内1発が右の後脚をもぎ取った。
その場に転び、無防備な姿を晒すカノーネン・アンキール。
89式装甲戦闘車の車長と砲手がその隙を見逃すはずが無く、砲塔傍の単装ランチャーから79式対舟艇対戦車誘導弾を1発発射した。
重MATとも呼ばれる89式装甲戦闘車が発射した79式対舟艇対戦車誘導弾は、主力戦車を簡単に撃破する能力を持つ。日本版のワイヤレスTOWと言った方が良いだろう。
戦車砲とは比べ物にならない量の炸薬が詰まった対戦車ミサイルは蹲ったカノーネン・アンキールに真っ直ぐ突き刺さり、炎の砲弾を生成する体内器官を誘爆させて鱗の隙間から炎を吹き出して爆散した。
35mmAPDSも弾く化け物の様な亜竜の鎧は、対戦車ミサイルの前に屈したのだった。
ラプトルが全滅、転生者を守っていたカノーネン・ディノザオリアも始末される。
俺達は洞窟遺跡の柱や瓦礫を遮蔽物にしてM4を構える。
転生者には22の銃口が向けられた。




