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第103話 呼応する亜竜達

89式装甲戦闘車に積まれていたパソコンで進行ルートの確認する。

これより俺達はラプトルの森へと再度侵攻、遺跡を陣取る転生者を排除し、竜人族の森を解放する。


今回は偵察では無く、"攻撃"が目的だ、皆殺気立っているのはそのせいか。

チヌークとブラックホーク、オスプレイは基地には帰らず、外に着陸してエンジンを切って待機していた。


ヘリの周りには竜人族の住人達が「空飛ぶ風車」などと言いながらブラックホークやチヌークを興味深そうに見ている。

と共に、壁にポッカリと空いた門を不安そうな表情で見つめている人もいた。


お気に入りのおもちゃを忘れたと泣く子供も居れば、ぶすくれて蹲る青年も居る。


俺達ガーディアンは今回、彼らの森の為に戦う、そう心に誓う。


と、そこへディーゼルエンジンの音が滑り込む。隊員達はそれに気付いて音源へと顔を向けた。


走り込んで来たのは、96式装輪装甲車の上半分を薄くしてレオパルト2A6の砲塔を乗せたような姿をしている16式機動戦闘車と、ピラーニャを原型としたLAV-25の派生型、背中に2基のランチャーを装備したLAV-ATが9輌ずつ、そして燃料タンク車2輌と砲弾を運んで来た73式大型トラック4輌の車列だ。


73式大型トラックは整列している戦車部隊に横付けすると、待ち構えていた戦車の乗組員と連携して砲弾を戦車に積み込んでいく。

坂梨中佐も砲弾を受け取り、ブローオフパネルの1つを開けてそこから自動装填装置にAPFSDSとHEAT-MPを送り込んでいた。


90式戦車の自動装填装置は、バスル式弾薬庫にあるバンドマガジンに18発の弾薬を置き、ラマーで薬室に送り込まれる他、車内には予備の砲弾を15発ほど置く事が出来る。


世界戦車ランキングで3位を獲得した戦車だ、その上異世界でもこの戦車が通用する事は十分に実証出来ている。

砲手が一旦席に着き、HEAT-MPのJM12A1を装填する。


接敵する可能性がある時は初弾に装填する砲弾は車長に一任されるが、今回はHEAT-MPを選択した様だ。


カノーネン・アンキールの様な装甲の厚い相手に対してはHEATよりAPFSDSが適していると言われているが、アンキロサウルスより厚いと見られるあの鱗にはHEAT-MPも充分過ぎる程の効果を発揮する為、こちらになった。


燃料と弾薬を補給した戦車を先頭に複列縦隊、その後ろに同じく燃料弾薬の補給を終えた89式装甲戦闘車が並ぶ。

更に対装甲機動中隊の車輌が並び、長い車列を作る。


「分隊集合!」


俺はそう声を上げると、第1と第2の分隊15人と第3狙撃分隊4人、狙撃小隊本部6人全員が集合した。

このチームにゴードン達のラプトル班は居ない。


「戦車部隊から報告が上げられた、通路の中にあるドアは分かるか?」


第1分隊の各員は分かる為頷くが、その他の分隊員は首をかしげる。徒歩でトンネルを抜けて中を見たのは第1分隊だけなのだ。


「あのドアが戦車の撃った衝撃で開いたらしい。あのドアはどこに通じているかわからない、第3狙撃分隊に調査を命ずる。他の分隊はIFVに搭乗、トンネルを抜けラプトルの森に侵攻する」


「了解」


「了解」


誰1人、躊躇わず返事をする、皆それ程の覚悟があると言う事を思い知らされる。


俺も覚悟を決め、89式装甲戦闘車の1号車に乗り込む。

ハッチを閉じさせて安全確認、座席に座りベルトを締める。

ちょうどその時、C2から通信が入った、上空を旋回する"スーパー63"のコールサインを持つMH-60Mだ。


『C2より全部隊、ヘリ全機弾薬燃料補給完了。援護を行う』


『ポーラスター01より地上部隊、城門のすぐ近くにカノーネン・アンキールが、その後ろに防衛線を張る様にカノーネン・ディノザオリアがアンブッシュしている』


『了解、狙撃部隊からの連絡が着き次第出発する』


俺はそんな通信を聞きながら、機甲部隊、並びにに全部隊への通信回線を開ける。


「全部隊へ通達、これより90式戦車部隊のコールサインを"アイアンフィスト"、89式装甲戦闘車のコールサインを"カタフラクト"とする」


少しの沈黙の後、ははっ、と笑い声と共に通信が返ってくる。


『かっこいいじゃないですか、こちらアイアンフィスト1-1、了解』


『こちらカタフラクト1-1、了解!』


新しく与えられたコールサインを、機甲部隊は嬉しそうに復唱した。


===========================


第3者視点

第3狙撃分隊


オリバー・マーフィー伍長がMk.13EGLM付きのM4を前に向けながら警戒し、その背後ではオードリー・フレンストン伍長がカバーするようにM4を構える。


ハンスはM82A3を携えて警戒し、SR-25をバックガンとして構えたグリムがそれに続く。


オリバーはサイドレールに取り付けられたSurefire(シュアファイア)M300ライトを点けながら進み、トンネルの中ほどまでたどり着く。


ハンドサインでオリバーがオードリーに指示、オードリーはM4を隙無く構えてクリアリングし、ドアの中を調べる。奥は暗い通路になっていた。


「……行きます……」


彼女は覚悟を決めてゆっくりと進み出す、グローブ越しにM4を握る手に少し汗を握る。


600lmのライトで奥を照らしながら、トンネルの通路をクリアリングしていく。

既に安全装置は解除され、引き金に指を入れている。オードリーを先頭にグリム、ハンスと続き、今度はオリバーがバックガンに付き後方を警戒しながら進む。


通路を進むと曲がり角に階段があり、階段は上へと続いている。

クリアリングしようとしたその時、オードリーの前にラプトルが飛び出して来た。


"キシャァァ!"


吠えるラプトルに反射的に膝撃ち(ニーリング)の姿勢になり、グリムが空いたスペースにSR-25を構えて引き金を引く。


タンタンタン!ドンドン!


リズミカルに発砲された5.56mm弾と7.62mm弾は正確にラプトルの頭と首を捉え、通路に潜んでいたラプトルを始末する。


「……クリア」


グリムがショートストッキングの構え方でSR-25を構え直し、階段をクリアリングするオードリーの援護位置に付く。


オードリーは階段を駆け上がり、折り返し地点をカッティングパイで捜索。敵が居ないのを確認すると、今度はグリムがオードリーを追い越す様に前へ出て先へ進み、彼女が援護位置に付く。


相互援護を途切らせない集団戦、高い練度と頭数を揃え、蜜に連携を取った戦闘。

これこそがガーディアン第1小隊が得意とする"特殊戦"なのだ。


「屋上だ、恐らく城壁の上だろう」


グリムがドアに張り付き、3人がそれに続く。ドアの隙間からは光が漏れて、この向こうが外である事を告げている。


ハンスはオリバーを呼び、首を少し傾げて指示するとオリバーは無言で頷き、M4を構える。

鍵の部分にMk.13EGLMを構えて添え、引き金を引く。


バンッ!


低圧ガス射出システムによって撃ち出されたM433多目的榴弾は鍵の部分を容易く食い破り、ドアの向こうまで飛んで言って爆発する。グレネード・ブリーチングと呼ばれるものだ。


ハンスがドアを蹴破ると、オードリー、グリム、オリバーの順に入ってクリアリング、ハンスは後方を警戒し、最後に入る。


「クリア!」


「クリア!」


「クリア!」


「オールクリア!」


城壁の上をクリア、敵がいない事を確認する。

大きな弧を描いて遥か彼方まで続いており、見晴らしの良い壁の上はラプトルの森を見渡せる。

ハンスはM82A3のバイポッドを立てて胸壁に乗せ、銃床(ストック)の中に手を通して掴み安定させてスコープを覗く。


隣のグリムもSR-25のバイポッドを立ててスコープを覗き、森の中を観察。

オードリーとオリバーは後方にM4を向けて警戒を行なっていた。


スコープの向こうの森が広がる景色、保護色なのか目立ちにくいが、入ってすぐの茂みにカノーネン・レックスやカノーネン・アンキールが隠れているのが見える。


通信をC2経由で侵攻部隊へと飛ばす。


「報告する、城門前へのアンブッシュを確認した。カノーネン・ディノザオリアが複数、それにラプトルも居る。オーバー」


『了解、狙撃部隊より報告があった。カノーネン・ディノザオリアとラプトル複数のアンブッシュを確認、警戒せよ』


『了解、進発準備を行う!』


アンブッシュを突き破る算段だ、合計で26輌もの戦闘車輌がディーゼルエンジンに火を入れ、唸りを上げる。


「……前進!」


ヒロトが無線にそう叫ぶと、先頭の90式戦車が履帯を唸らせて走り出す。

複列縦隊になった車列は次々と発進し、並んでトンネルの中へと入っていく。


トンネルの中、土とは違った石の床を履帯が踏みしめ、キュルキュルと音を立てて凄まじい速度で走る。天井からパラパラと砂が落ちて来る程だ、恐らく時速50kmは出ているだろう。


この振動で門が崩れ落ちやしないかと不安になったが、不穏な音がしていない以上その心配は無さそうだ。


「門を抜ける!」


戦闘の90式戦車である坂梨中佐が無線に叫ぶ、光の中に突入した90式戦車を最初に襲ったのはガツンという衝撃だった。


かなり大きく、車体が発砲時並みに揺れる。

少し走って分かった、カノーネン・アンキールが門前に待ち伏せて、ハンマーで思い切り殴りつけて来たのだ。


真下だった為、狙撃部隊からは見えなかったようだ。


「対機甲戦闘!アイアンフィスト1は左を!2は右を!」


『了解!』


左側に居る坂梨中佐の車輌が砲塔を旋回させ、走行しながら最初の砲弾を叩き込んだ。


HEAT-MPであるJM12A1は1140m/sで砲口を飛び出し、カノーネン・アンキールの鱗に命中して爆発。

金属奔流(メタルジェット)がマッハ20以上と言う超高速で鱗のユゴニオ弾性限界を易々と超えてくる。


苦しげに呻き声を上げたカノーネン・アンキールは体内の火炎弾を生成する器官にメタルジェットをモロに食らって自爆した。


「次弾同じ!」


「了解!」


「展開始め、防御戦闘!」


「了解!」


アンブッシュを警戒して扇状に展開する90式戦車の中で車長が指示、砲手が素早く次弾を選択して装填する。

操縦手は車長の指示通り、50.2tの車体を操って凄まじい速度で展開していく。


『ポーラスター01、敵体内に高エネルギー反応多数!』


「了解!衝撃に備えろ!」


通信にそう叫んだ直後、四方八方から炎の砲弾が90式戦車とその後方にいた89式装甲戦闘車、16式機動戦闘車に浴びせられた。

ガンガンと次々に複合装甲に命中していく砲弾は、やがて燃え残った黒い煙や白い煙となって辺りに漂い城門前を隠してしまう。


カノーネン・ディノザオリア達は咆哮を上げて森の侵入者を排除した事を喜び、仕上げとばかりにラプトルを突撃させる。


……が、その煙の中から、凄まじい弾幕が姿を現した。

7.62mm以上の大口径の弾丸はラプトルの群れを蹂躙し、地面を抉って土煙を立てる。


そして煙を突き破って出て来たのは、元気に活動を続ける90式戦車を始めとした装甲車輌の隊列だった。


カノーネン・ディノザオリアの戦果はと言えば、砲塔や車体に付いた微かな焦げ付きだけ。

車体に対して横向きになったり正面を向いていたりするも、ピタリと亜竜達に向けられた砲口。

LAV-ATも、ランチャーを上昇させて発射準備が出来ていた。


『全車、自由発砲を許可する』


「撃て!」


命令が下された瞬間、13の砲口と9のランチャーが一斉に火を噴いた。

腹の奥に響く様な音と共に13発ものHEAT-MPが発射され、日本製の優秀な火器管制システムによって照準された砲弾は次々と命中、外れたものは地面を抉って爆発し、亜竜を巻き込んで吹き飛ばす。


ランチャーから発射された9発のBGM-71 TOW2B対戦車ミサイルが牙を剥き、亜竜達に次々と突き刺さって炸裂した。

炸薬量は戦車用砲弾よりも遥かに多く、第3世代主力戦車を1発で撃破する事も容易なミサイルが亜竜達を蹂躙して爆風を放つ。


同軸機銃を撃ちまくりながらラプトルの残りを殲滅し、周辺には小気味の良い銃声が響き渡る。


『ゴーレムクロー各車へ、2と3を門の守りに残し、残りは戦車部隊に随伴せよ』


『ゴーレムクロー2、了解』


『ゴーレムクロー3、了解』


4輌ずつの16式機動戦闘車とLAV-ATを門前に残して防御に付け、残りの16式機動戦闘車とLAV-ATは戦車部隊へ続く。


小隊規模の90式戦車と89式装甲戦闘車、そして5輌ずつの16式機動戦闘車とLAV-ATはそのまま森の奥地へと進んでいった。


日が暮れる前に片付けようと、戦車が全速前進、逃げ遅れたラプトルを踏み潰して進んでいく。


森を抜け、開けた平原を走ると、再び次々と炎が飛んで来た。

殆どは地面を抉るが、時折砲塔や車体へと命中して装甲車輌を揺らす。


側面の森の切れ目から攻撃して来ている様で、正面に回ろうと走っているのが見える、車長はペリスコープのモニターをOpticalからIRに切り替えると、カノーネン・ディノザオリア達は迂回して回り込もうとしてくる。


「させるか、森の切れ目、レックス、弾種、対榴(HEAT-MP)!」


「装填完了!」


撃て(てぇっ!)!」


砲声、車内に衝撃が走り、焼尽薬莢の底部が排出される頃にはカノーネン・レックスは血と臓物をブチまけながら地面に倒れていた。


「左よりラプトル接近!」


ペリスコープを覗いてみると、足の速い赤い目をしたラプトル達が走って向かってくる。

砲塔を旋回させ、同軸機銃で対処しようとした瞬間、何かの影が割り込んだ。


砲手も車長も最初はその姿を確認出来ず、思わずハッチを開けて様子を見てみると、驚く事が起こっていた。


何と、カノーネン・レックスがラプトルを噛み潰していたのだ。

89式装甲戦闘車の中で出番を待っていた第1分隊のヒロトも、ペリスコープでその様子を見ていた。


「カノーネン・レックスが味方に……?」


「見ろ、あれは目が赤くない。洗脳されてない"野生の"だ」


言われてよく見てみると、確かに目は黒いままだ。

更に車列の後方では、カノーネン・アンキールがラプトルを尻尾に付いた自慢のハンマーで叩き潰し、地面にクレーターを作っていた。


向こうでは、カノーネン・レックスの野生の個体と操られている個体が格闘を始めた。


グカァァァァァァァァ!


グォォォォァァァァァ!


互いに90度近く開く口で咆え、野生の個体が首元に噛み付く、操られている個体が普通のティラノサウルスより長い前足の爪で引っ掻く。

野生の個体が口を離した途端、首筋に噛み付き返すも反射で振り解く。

野生の個体は一旦下がり思い切り頭突きをすると、操られている個体はよろめいて深めの川に足を踏み込ませた。深さは多分、カノーネン・レックスの膝程だ。


反撃しようと咆えた瞬間、操られていた個体が水中に消えた。


グェァ!と呻き声を上げながら時折水面に顔を覗かせるも、そのまま沈んでいくカノーネン・レックス。


水面が盛り上がり、代わりに出てきたのは大きな円形の背びれを持つ、鰐のような嘴を持った大型肉食竜とみられる亜竜。

ヒロトはその姿を見た時、思わず声を漏らした。


「……スピノサウルスだ……」


カノーネン・レックスと並べても引けを取らないその体躯で、敵を川に引き摺り込んで溺死させたのだ。


グォォァァァァ!


カノーネン・レックスとはまた違った雄叫びを上げるスピノサウルスの様な亜竜、先程までカノーネン・レックスと戦っていた別の個体と睨み合う様に向き合う。


何度か咆え合うも、途中でコミュニケーションを取るかの様に鳴き声を上げる。


スピノサウルスの様な亜竜は俺達の戦車を一瞥すると、丸い背びれを揺らしながら進行方向に向かってゆっくりと歩き出す。


スピノサウルス擬きが戦列に加わった、野生の亜竜達が機甲部隊の隊列に次々と加わっていく。


後方のカノーネン・レックスは1頭のラプトルを捕食し、もう1頭のラプトルに噛み付いたと思ったら放り投げた。


そして放り投げられたラプトルが落ちた先には臨戦態勢のカノーネン・アンキール。

尻尾のハンマーをスイングさせラプトルを打ち返し、血と濁った呻き声を撒き散らしながら場外ホームラン。


カノーネン・アンキールが弾き飛ばしたのはそれだけではなく、地上にいるラプトルすらもフルスイングで弾き飛ばし、飛ばされたラプトルは星になる。


いつの間にか、スタガードカラムで行軍する機甲部隊の周囲で、亜竜の群が一緒に走っていた。

まるで一緒に討伐に行くという、同胞を喪った野生の亜竜達の怒りを表現している様だ。


「総員に通達、これより敵の本拠地である遺跡に乗り込む、森を支配しようとしていた奴には早々にご退場頂こう」


「了解!」


『了解!』


『了解!』


隊列は走り続ける。

森の奥の遺跡に向かって。


===========================


最初に野生の亜竜達が戦列に加わった(野生なので明確に加わったと言って良いものなのか疑問だが)時、とても驚いた。


しかし実際目の前にいる亜竜の群れ達は、こちらの意思を理解してかそうでないのか、こちらには目もくれず一直線に遺跡まで走り、立ち塞がる赤い目をした亜竜達を次々と葬って行く。


「……ところで、あの丸い背びれをヤツは何て言うんだ?」


俺は円形の背びれを持つスピノサウルス擬きのタイプは初めて見た、エリスがペリスコープを覗きながら答える。


「あぁ、あれは"スパイナス・ディノス"だな。水中に潜むハンターで獰猛、私も本物は初めて見た」


「なるほど……それにあの走る速さからして、待ち伏せ特化型と言う訳でも無さそうだな」


スピノサウルス改め、スパイナス・ディノスは足がなかなか速い、カノーネン・レックス並だ。

一般的に待ち伏せ特化型の魔物は足が遅い、もしくは動けない事が多いが、スパイナス・ディノスはそんな事は無い。


こうして走っている間にも、赤い目をしたラプトルを噛み潰したり、前足で引き千切ったりして次々と屠っていっているのが、その証拠だ。


ディーゼルエンジンが吠え、90式戦車を先頭に18輌の車輌が森へ入る。

森に慣れている亜竜達はそれに続き、木々の間を縫う様に走っていた。


『こちらポーラスター01、前方の渓谷に遺跡を発見、誘導する』


『了解。ポーラスター01、こちらアイアンフィスト1-1、誘導頼む』


『了解』


戦車部隊と上空を飛ぶヘリ部隊との間で盛んに通信が行われ、OH-1に誘導されて車輌部隊が方向を変えて進んでいく。


森の奥、崖に挟まれた渓谷までは、さほど時間が掛からなかった。

森の印象とは違い木々は無く、岩肌や地面が直接露出している所に遺跡の入り口が点在している。


その中でも1つ、かなり大きな入り口があった。カノーネン・レックスやカノーネン・アンキールも余裕で出入り出来そうな大きさの入り口だ。


その入り口の前に、見覚えのある1人の男が腕を組んで立っていた。


「全隊停止、全員降車。野生の亜竜達に十分注意しつつ、火力集中準備」


俺は降車の指示を出す、襲ってくる様子が無いとは言え、俺達の周りに居るのは野生の亜竜だ。


ハッチを開けて飛び出し、付近の岩場に身を隠す。

俺も8人の分隊を4人1班に分け、岩陰に膝撃ち(ニーリング)の姿勢でM4を構えてACOGを覗いた。


「戦車まで持ち出してくるとは卑怯な!しかしお前達はここで終わりだ!出でよ俺の最終兵器!」


中肉中背だが、精悍そうな顔立ちの転生者は大仰なポージングと共にステッキを振り上げ、下ろして俺達を指す。


次の瞬間、ズシン、ズシンと足音を響かせながら出て来たのは1頭の亜竜だ。

背丈はカノーネン・レックスよりも一回りほど大きく、皮膚で覆われて居るカノーネン・レックスとは違い鱗の様なもので表面が覆われている。


「何だあれは……」


ブラックバーンがM4に乗せているEOTech(イオテック)553ホロサイトのレティクルを覗き込みながら声を上げる。


「これこそ俺の最終兵器、名付けて、"アーマード・K・レックス"だ!」


効果音が付きそうなポーズを取り、ステッキを振ると、その"アーマード・K・レックス"が吠える。


グォォォォォァァァァァァァァ!!


空気がビリビリと震え、野生の亜竜達も怯んで一歩下がる。

それに加えて、従来のカノーネン・ディノザオリアやラプトルがその洞窟から続々と出て来たのだ。


新しい亜竜は良いが、いちいちポーズを決める辺り彼奴は中二病か?

まぁそんな事はどうでもよろしい。


俺はどんな奴が相手でも、もう躊躇わずに引き金を引く、命令を下す。

転生前の映画では銃を持った相手が恐竜に次々とやられていたが、俺達はそんな事にはならない経験と実力がある。


俺は目の前の状況から来る自分の中の畏れを打ち消し、無線のスイッチを入れる。


「全隊に告ぐ、竜人族の森を取り返す。そして全員生き残って帰るぞ」


『了解』


『了解』


対して転生者の男は、真っ白なマントをなびかせながらステッキを振るって言う。


「何にせよ、お前達はここで死ぬ運命だ。我々の栄えある計画の生贄第1号、それがお前達だ!」


呼応する様に亜竜達が吠える、もうそれに畏れる俺達では無い。


ガーディアンvs転生者の初めての戦いの火蓋が、切って落とされた。

1人称視点で書くなら特殊戦、戦車戦や大規模なこういった戦闘はなるべく3人称視点で書きたい中井でした。

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