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第102話 対装甲機動中隊

「1週間待たせてこれかよ!?」って言わないであげて下さい、お願い石投げないで。

第3者視点


ヘリは上空で飛び回り、ロケット弾の掃射を加えていく。

轟音と共に70mmロケット弾が発射されて地面に突き刺さり、ラプトルやカノーネン・レックスを巻き込んで次々と爆発していく。


カノーネン・レックスの表皮はそこまで硬くなく、7.62mmや12.7mmでも貫通可能で有効弾を送り込む事が出来た。


そんな亜竜達の群れに、ワルシャワ条約機構軍の機甲部隊を粉砕する為に生み出された怪物、AH-64Dアパッチ・ロングボウがM230 30mmチェーンガンの機銃掃射を加えていく。


カノーネン・レックスやカノーネン・アンキールは時折アパッチに向けて砲弾の様な炎を吐き出して来るが、100km/hで常に飛び回っている攻撃ヘリは命中する頃には未来位置に既に移動している。


『2時方向、アンキロが居るぞ』


『了解、攻撃する』


前席に座るガンナーがファインダーを覗き込み、カノーネン・アンキールをロックオン。


『撃て!』


『発射』


スタブ・ウィングのランチャーレールに取り付けられたAGM-114Lヘルファイア対戦車ミサイルを発射、ミサイルはミリ波レーダーによって誘導され、誘導電波を捉えたシーカーが目標に真っ直ぐ突き進む。


アクティブレーダーによって誘導されたミサイルはミサイル自身がレーダー波を発している為、ミサイルが目標を捉えれば発射母機は退避出来る"ファイア・アンド・フォーゲット"、つまり撃ちっ放し能力を持つ。


そんな正確なミサイルに狙われれば、外れるなんて事は無い、カノーネン・アンキールに正確にミサイルは突き刺さり、9kgのタンデムHEAT弾頭は起爆とほぼ同時に金属噴流(メタルジェット)を発生させ、マッハ20の金属噴流(メタルジェット)がカノーネン・アンキールの鱗を貫通、炎を貯める体内器官を直撃してカノーネン・アンキールが爆散した。


『命中』


『ラプトルへの攻撃を続けろ』


『了解』


タロン21(ツー・ワン)のガナー席に座るサニード・ディスクがヘルメット表示照準装置と連動したM230 30mmチェーンガンを向けたが、そのタイミングで通信が割り込む。


『こちらダーター51(ファイブ・ワン)、南側より攻撃進入する』


その直後、狙っていた方向にいたラプトルの群れが弾け飛んだ。

リトルバードに武装させた攻撃ヘリ、AH-6Mキラーエッグの機銃掃射とロケット弾攻撃だ。


アパッチと同じロケット弾であるハイドラ70によって爆撃されたラプトルの群れは吹き飛び、2門のM134Dミニガンの機銃掃射で蜂の巣にされていく。


機銃掃射はカノーネン・レックスの足元まで及び、低空を飛行するAH-6Mを煩わしそうにして排除しようとしているのか噛み付きにかかるが、AH-6Mはひらりと躱す。


鞭のようにしなる尻尾の一撃も躱し、カノーネン・レックスに至近距離から2門のM134Dミニガンによる銃撃を加えた。


ミニガンは強い破壊力を持つ7.62mmの凄まじい連射によってカノーネン・レックスの表皮を蜂の巣にしていく。


1秒間の間だけで150発以上の7.62mmNATO弾を食らったカノーネン・レックスは呻き声を上げる、アイスピックで小刻みに突き刺されている様なものだ。


頭部から腹部に掛けて大量に7.62mmNATO弾をその身に受けたカノーネン・レックスは苦しそうにその場に倒れる。


まだ呻き声を上げるが、その堅い頭蓋骨にAH-64Dアパッチ・ロングボウの30mmチェーンガンがトドメを刺した。


地上を歩くカノーネン・レックスはこれだけではない、アパッチから見える範囲では更に10頭前後が残っている。


そんな敵に向けて、90式戦車が照準する。


「弾種対榴(HEAT-MP)、次弾徹甲(APFSDS)、交互に装填!」


「了解!」


90式戦車の隊長車の中で、坂梨中佐が砲手に指示を出す。

砲手の田中中尉が弾種の選択、HEAT-MPであるJM12A1を選択すると、自動装填装置から砲弾が薬室に送られて尾栓が閉鎖される。


砲手は既に次の砲弾の選択を終えており、後は発砲する度に自動装填装置からHEAT-MPとAPFSDSが交互に装填される事になる。


「照準をレックスに、合わせ次第撃て!」


「了解!」


照準を合わせ、砲手が引き金を引いた。


ドン!


凄まじい轟音と共に90式戦車の50.2tの車体が揺れ、Rh120滑腔砲からHEAT-MPが発射される。


カノーネン・レックスの胸元に命中したHEAT-MPは信管が起動し、炸薬が起爆して爆圧によって金属ライナーが流体化、マッハ20以上と言う超高速のメタルジェットが発生する。


発生したメタルジェットは圧力以前に3000〜4000℃以上と言うその高温を以ってカノーネン・レックスの表皮を蒸発させる。

そしてメタルジェットの圧力は表皮に邪魔される事なく体内の火球を発生させる器官を貫き、内側からカノーネン・レックスを爆散させた。


爆発したカノーネン・レックスの腕や脚、尻尾は千切れ飛び、90式戦車の近くに吹き飛んだ頭が落ちてくる。


焼尽薬莢の底部が排出され、尾栓が再び解放される。

自動装填装置が作動し、ラマーがAPFSDSを薬室に送り込む、次弾の発射準備が完了するまでおよそ4秒。


砲手はその間に照準を調整する、狙うのは2000m先のカノーネン・アンキールだ。


「撃て!」


車長の号令と同時に砲手が再び引き金を引く。マッハ4とも5とも呼ばれる速度で砲口を飛び出したJM33翼安定装弾筒付徹甲弾(APFSDS)は飛翔中に装弾筒を分離させて、L/D比20の砲弾がダーツの矢のように飛ぶ。


カノーネン・アンキールまで一瞬で距離を詰めたAPFSDSは命中し、圧倒的な速度と砲弾自身の質量であっという間にユゴニオ弾性限界に達して軽々とカノーネン・アンキールの鎧を突き破った。


カノーネン・アンキールは首元を貫かれ、体内で破片が弾け飛んで内臓を刻んでいくのと同時に、エネルギーを失わなかった破片が反対側の鎧を突き破って飛び出し、そのまま呻き声を上げながら地面に倒れ込んだ。


「命中!」


2発目が命中した時、歩兵部隊から通信が入った。


『こちら1-1、住人の避難完了、これより歩兵部隊も撤収に入る。戦車隊及び航空隊は後退しつつ援護を』


「了解、全車陣地変換、繰り返す、全車陣地変換!」


『了解』


『了解!』


『了解ッ!』


4輌の90式戦車はディーゼルエンジンを唸らせて超信地旋回、回頭して操縦席が村の方を向くと、全速力で陣地転換を始める。

もちろん後退中も射撃を行い続け、ラプトルやカノーネン・ディノザオリアを遠ざける。


カタカタカタと履帯を鳴らしながら異世界の地上に履帯の後を刻み込み、その度に履帯に張り付いた地面が剥げて落ちる。


HEAT-MPの鉄球とワイヤー、そして7.62mm同軸機銃がラプトルの群れを次々と食い破り、カノーネン・ディノザオリアにAPFSDSが直撃し爆散する。


『歩兵部隊収容完了、城門まで離脱するぞ』


『C2より全車、陣地変換!陣地変換!』


『ヘリ部隊全機は車輌部隊の後退を支援、敵対空砲火には厳重警戒せよ』


上空を飛行するC2ヘリコプターから次々と指示が出る。

AH-64Dは後退する90式戦車を援護する様に上空で配置に着き、30mmチェーンガンとハイドラ70の掃射を敵に浴びせ、近い位置にいるカノーネン・ディノザオリアにAGM-117Lヘルファイア対戦車ミサイルを発射、亜竜の群れを遠ざける。


A(アルファ)小隊全車、陣地変換、城門で合流せよ』


A(アルファ)1、了解、陣地変換、城門にて合流する』


2個歩兵分隊と10人の狙撃兵を乗せた89式装甲戦闘車も陣地変換を開始、砲塔を後ろに向けて全速力で走り出す。


ヘリ部隊の支援を受け、8輌の装甲車両は一直線に城門へと走る。


城門へと辿り着くと、昨日と変わらずぽっかりと門が口を開けていた。


A(アルファ)1より各車、4から順に城門へ入れ壁に擦らない様に気を付けろ』


『了解、A(アルファ)4、行くぞ』


第3狙撃分隊を乗せた89式装甲戦闘車からトンネルに入る、4輌の89式装甲戦闘車がトンネルに入った時、亜竜達が追い付いた。


『撃て撃て、近付けさせるな!』


外へと繋がる城門を陣取る90式戦車が同軸の7.62mm機関銃を連射する、横薙ぎに撃った弾丸はラプトルを捉え、何頭かがその場に転がる。


その後ろにいるのはカノーネン・レックス、更に後ろにはカノーネン・アンキールが見える。

2頭が交互に砲弾の様な炎を吐き、70cm近い厚さの複合装甲に炎が命中する。


ガツンと強い衝撃が車内に伝わり揺れる、坂梨中佐はヘルメットを狭い車内にぶつけていた。


「くそッ……撃ち返してやれ!JM33D装填!」


「了解!」


田中中尉がパネルを操作、弾種はJM33Dが選択される。

件のドラゴンの爪や牙から削り出した砲弾で、撃角0、距離2000mで射撃した際、RHA換算で780mmの装甲を貫通する。


この数値は劣化ウラン弾よりも遥かに高く、最新のDM53より少し低い程度の数値だ。


既に装填されているHEAT-MPであるJM12A1を先に発射、迫り来るラプトルともう1頭のカノーネン・アンキールを狙う。


カノーネン・アンキールの首元に命中、信管が作動してマッハ20と言う凄まじい速度で圧力を発生させて鱗を貫通、内側から爆散させる。

外側の鉄球も飛び散って、数頭のラプトルを吹き飛ばした。


「次弾!良く狙え!」


「了解!」


砲手が照準を合わせる、狙うのは胴体中心線より少し下。


「照準出来次第、撃ってよし」


「……!」


砲手はタイミングを見計らって、引き金を引いた。


ラインメタル120mm滑腔砲から飛び出したJM33Dは、装弾筒(サボット)を脱ぎ捨ててマッハ5で飛翔、カノーネン・レックスの下腹部に命中する。


命中したAPFSDSの弾芯はカノーネン・レックスをそのまま貫通、形状をほとんど変えないまま背後にいたカノーネン・アンキールの頭に突き刺さり、2頭のカノーネン・ディノザオリアは殆ど同時に倒れた。


1発の砲弾で2頭を同時に仕留める間に残りの90式戦車を城壁外へと退避させる。


「砲弾残り8発!」


砲手が自動装填装置に入っている残弾を告げる、潮時だ。


『C2へ、中佐、退避を』


「了解!これより退避する!」


操縦手の伊藤 菜月中尉に指示を出すと、90式戦車が後退を開始。しかもトンネル内をバックしながらの退却だ。


「田中、HEAT1発、牽制入れろ」


「了解」


トンネルを半分まで進むと、90式戦車は再び発砲、壁の内側に群れる亜竜を牽制した。


その時、衝撃でトンネルの通路内にあった扉が両方とも開く。発砲の際の爆圧で鍵が吹き飛んだのだ。


しかしそこから追加の亜竜が出てくると言った事は無く、坂梨中佐の90式戦車含め、機甲部隊とヘリ部隊は全て森から引き上げる事に成功した。


===========================


ヒロト視点


ラプトルの森から撤退するときに少しもたつきがあった為ヒヤヒヤしたものの、無事に森から離脱出来て良かった。

失ったものと言えば、機甲部隊とヘリ部隊が撤退の際に使用した弾薬くらいだ。


門の出口に横付けした89式装甲戦闘車から降車し、ラプトル達が出て来るのに備え、ライフルを向けてスコープを覗く。


しかし、ラプトル達が出て来る様子はなかった。

ラプトル達は門の内側で、離れていても分かりそうな悔しさを醸し出しながらも森の奥へと引いて行く。


「……どうして追って来ないんだ?」


エリスは自分のM4に乗せているEOTech EXPS3とタンデム搭載しているG33 Magnifireブースターを展開させて覗き込みながら言う。


「……俺の推測で喋って良いなら、転生者が出してる命令が有効なのは"ラプトルの森"の中って範囲内だからじゃないか?」


俺はエリスに自分の推測で良いならと聞かせる、エリスも納得した様に深く頷いた。


頭を切り替え、俺はラプトルの森の奪還作戦を立て始める。

手持ちの戦力は少ない、しかし攻撃ヘリが弾薬と燃料を補給し、基地から増援を呼べば考えようはある。


頭の中で基地から呼べる戦力を考え、口を開く。


「エリス、C2に報告、予備の弾薬と"対装甲機動中隊"を呼べ、と」


「……あぁ、分かった」


エリスもニヤッと笑って、無線のスイッチを入れた。


===========================


ガーディアン本部基地


車輌格納庫のすぐ近く、門に続く通称"中央通り"に呼び弾薬をたっぷり積んだ73式大型トラック4輌と燃料タンク車に加えて、18輌の戦闘車輌と整列する。

レオパルト2A6の砲塔を小さくしたものを乗せた様な8輪の装甲車である16式機動戦闘車と、LAV-25ファミリーの対戦車タイプ、LAV-ATだ。


砲弾とミサイル、燃料をたんまり積み込んだ18輌の装甲車輌の車列の先頭、中隊長車となっている16式機動戦闘車に搭乗するのは、大崎 誠少佐だ。


ドラゴン討伐戦において彼は昇進し、新設された"対装甲機動中隊"の中隊長に抜擢された。


対装甲機動中隊


歩兵部隊を援護する目的の歩兵科部隊で、16式機動戦闘車とLAV-ATを主力装備とし、歩兵の要請に応じて対装甲車及び対戦車戦闘を行う部隊だ。


歩兵部隊はもちろん携行対戦車ミサイルや携行対戦車ロケット、無反動砲などの対戦車火器を有しているが、あくまで自衛程度で限界がある。


そこで敵の装甲車輌、この異世界に於いては銃の通用しない様な鱗の堅牢や相手と積極的な戦闘を行う為の部隊で、言わば装甲戦闘に於ける歩兵の矛となる部隊だ。


16式機動戦闘車の主砲は105mm、フル規格の"戦車砲"であり、93式装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)との組み合わせは90式戦車に匹敵する装甲貫徹力があり、RHA換算で414mmの貫通力を持つ。


その上ベルギーで開発されたAPFSDSであるM1060A3は、105mmでありながらRHA換算460mmと、90式戦車とほぼ同じ装甲貫徹力を持つ。ガーディアンでは評価試験が終わり適応が確認され次第、93式装弾筒付翼安定徹甲弾からM1060A3に更新していく予定だ。


この矛に対抗出来るものは、ドラゴン以外に存在しないだろう。


歩兵の要請に応じて即座に強力な攻撃を叩き込む、それが対装甲機動中隊なのだ。


『AT各車、準備完了』


『こちら16(ヒトロク)MCV、準備完了』


その無線を受け、大崎少佐は回線を開く。


「これより要請のあったラプトルの森へと出発する、敵は異世界の魔物で姿は恐竜に近いと言う。敵に注意しつつ、殲滅に当たる。全車前進用意!」


そう言って手を上に振り上げると、18輌の装甲車輌のディーゼルエンジンが一斉に唸りを上げる。


「前進用意!前へー!」


手を振り下ろすと、操縦手がアクセルを踏んでゆっくりと走り出す。

開いた正門を抜け、16式機動戦闘車9輌とLAV-AT9輌、6輌の支援車輌で構成された車列は一路東へ、ラプトルの森を目指して進んで行った。

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