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本日二話目です
そして現在。
いつもより早く仕事が終わったという陛下と共に、離れの庭先でお茶をしている。
今年は夏が長かったから、10月に入って漸く外で過ごすのが気持ち良い季節になった。庭の小さな池に映る空の色も夏とは違い優しい。
あぁ、なんて素敵なティータイム。
心の中はブリザードだけれども。
「この歳にしてビッチってどうよ」
むぅ、と口を尖らせれば、陛下の長い指が私の唇をつまむ。やめれ。
「…………『有り』だな……まぁ君の望みとあらば私も協力は惜しまない」
「オイ待てロリコン。協力って何する気!?」
「『何』もなにもナニでしょう」
「エミーも無表情でそういう事言わない!普段無口なクセに、こういう時だけは外さないわね」
私付きの筆頭女官であるエミーは音もなく茶を注ぎ、再び音もなく主人の背後に下がる。その所作は流石上級女官と言えたが、親指はしっかり立っていた。いい仕事をしたつもりらしい。無表情だけど。
「私もナニの事なら自信が「側妃達に披露してこい!」」
そのワッキワキさせてる手は何!?
「あのねビッチになるって話じゃ無いの!余所で私がビッチ呼ばわりされてる件について嘆いているの!」
だいたい陛下や子爵が10歳の少女に手を出す様な鬼畜変態だとでも言うのか。まぁ、実際陛下はロリコンだけど……うん。いやいや、だからといって教会の教えに背くわけがない。つーか、側妃3人もいるんだから、子供に手を出す必要はないでしょ。
そもそも此処には陛下以外の男性は来ない。その陛下だって夕食後は直ぐに私室のある北宮にお帰りになるから夜は独りで過ごしてる。子爵とだって当然白い結婚で、しかも彼の屋敷には1週間しか滞在してない。ビッチになる要素が何処にある。
前世の経験人数だって〈ピー〉なのに!
「まぁ私がロリコンかどうかは兎も角として……イタすのに時間は関係無いよ。なんなら15分もあれば「そんな事は聞いてない!」」
「左様で御座います。奥様のお身体を考えれば最低でも1時間半は時間を掛け「エミーは黙って!」」
ねぇ、君たちワザとやってるでしょう?仮にも10歳児に聞かせていい事じゃないよね!?
チョット、ソコ笑って誤魔化さない。エミーも逃げんな。
「コホン…あ〜、ところで、そんなコト誰に言われたのかな?」
「や、はっきり誰というわけではないんですけどねー」
あ、なんだ、怒ってくれてはいるのね。
陛下の笑ってるのにやたら鋭い視線に器用だなと苦笑いしつつ、冷めた紅茶に手を伸ばす。
この離れには決まった人間以外立ち入れないけれど、だからといって完全に隔離されているわけではない。それに贈り物や手紙も届く。過激なものはエミー達が先に処分してくれるから、私の手元にくるのは内容が有るのか無いのか分からない様なモノだけ。それでも文の端々に隠された本音や当てこすりが滲み出ていたりするのだ。
手紙の他に招待状も月に数通は届いている。エミー達の活躍(?)により詳細はわからないが、どうやら茶会だけでなく夜会の招待状も紛れているらしい。この国の貴婦人方には常識がないのか、それとも悪意の塊がドレスを纏っているのか悩むところだ。
宛名こそ子爵夫人ではあるが、子爵家を通さず王宮に直接送ってくる時点で、私が愛人とはいえ宿下りを許されない身であることを理解しているはず。もし外出が許されたなら、それは陛下の御心が離れたと看做される。その上私は既婚ではあるが未成年。デビューしていない者が夜会に出席など許されない。
行けない茶会、許されない夜会。はなから招待するつもりなどないのだ。要するに届けられる全ての招待状が悪意そのもの。つーか、貴族が悪巧みの証拠残してどうすんだ。未だ王妃も世継ぎもいない国王の寵姫(?)にイヤがらせって肝座ってんな。最も、馬鹿正直に自分の名を書いて送ってくる奴なんていないと思うけどね。
まぁ、あれもこれも元凶は隣で上品に紅茶を飲みながら鼻血垂らしてる奴なんだけど……鼻血!?
「ちょっ、大丈夫ですか!?どうしました!?」
「君のデビュタントボールにどんなドレスを着せるか想像してたらつい、ね」
鼻血拭きながらウインクされてもキモいだけだからやめて欲しい。
つーか、妄想してないでヒトの話聞けよ。さっきまでの剣呑な目は何処行った。あと、くれぐれも鼻血の出るようなドレスは選んでくれるな。
「………はぁ、もういいや。最後まで責任取ってくださいね」
「勿論だとも。彼等が何を言おうと、私が守るからね。さて、少し風も出てきたし、そろそろ部屋に戻ろうか。」
陛下にエスコートされて部屋に戻れば、既に新しく茶の準備ができていた。
エミーさんマジ優秀。でも鼻血に気づいていたなら茶よりも先に陛下に手当てをしてあげて。
「奥様以外の血液になど興味ございません」
「待て、リリーの血は私のもの「ヤメテ!なんだか分からないけど、まじヤメテ!」」