休日の過ごし方 3
なんとか間に合った、か?
とりあえず2000字じゃ、終わりまで行きませんでした。
どんだけ長い休日なの!?
「お庭に花が無い分、一層湖の色が美しく見えますねぇ」
「ええ、この離宮は純粋にあの湖を楽しめるように作られているのよ。水の色を見て驚いたでしょう?」
「はい。まさか本当に宝石のようなエメラルドグリーンだとは思いませんでした」
義母様は到着なさいましたが、1階のサロンに移動して未だ三人でお喋りしておりますよ。既にバーベキューの準備は出来ているようだけれど、流石に馬車から降りて直ぐ食事とはならないのだ。
上流階級の食事は面倒臭い。特にディナー、前世の日本だと餐の字が付く食事の場合、先ずサロンで食前酒を頂いてから食事の席に案内され、その後再びサロンへ。若しくは男性陣と女性陣で別れて、其々お茶やお酒と共にゲームや会話を楽しむ。兎にも角にも会話で始まり会話で終わる。この会話が出来ないと社交界では爪弾きにされてしまうのですよ。恐ろしいですね。
バーベキュー如きに昼餐と言われてもと思うのだが、まあ仕方ない。というわけで、未だ肉に辿り着けず、義母様と会話を楽しんで(?)おります。うぅ、義母様はお茶会や会話などのマナーレッスンの先生なのですよ。まさに今、その成果を試されているのです。うぅ。
「もしかして、石灰が採れるのはこの近くなのですか?」
ニスタルは石灰の産地なんですよ。地理の時間に学びました。
「ええ、そうよ。この離宮も、その石灰で作られた漆喰を使っているの」
「成る程、ですから湖があの様な色になるのですねぇ」
そう言って義母様から外へと視線を移す。しかし、陛下が『バーベキューにもってこいの場所』と言ったのも頷けるロケーションですな。これまた白いタイル敷きの広〜いポーチに、2階から大きく張り出したバルコニーが丁度良い日陰を作っていて、長時間外にいても疲れないようになっている。これだけ庇があれば、雨の日でもポーチに出れて良いね。霧けぶる湖も美しかろう。
ポーチの先には、湖に向かう緩やかな斜面が芝の広場となっていて、その中をポーチと同じタイルを使った小径が伸びている。先程は木立で見えなかったけれど、簡易な船着場もあってボートに乗れるみたい。あー、住みたい。よし、住もう。
「ダメだからね」
「喧嘩したらここに来ますから、探さないで下さい」
「そもそも王宮から出さないよ」
義母様は生暖かいような、酸っぱいような微妙なお顔で私達の会話を聞いていらっしゃる。その憐憫に似た視線が痛いです。
「リリスはこの離宮が気に入ったのかしら?」
「はい。出来ましたら今この瞬間から終の住処にしてし「「ダメです」」」
お、おぅ。ダブルダメ出し。でも、夢を見るくらい良いじゃありませんか。だって、こんな理想的な……あ、陛下が不機嫌になってきた。
「お食事の支度が整いましてございます」
エミーさんナイスタイミング。
さてバーベキューの始まりですよ。と言っても、こちらはいわゆる欧米式。焼肉タイプとは異なります。その場で焼いて食べると言うよりは、既に調理されたものを頂く感じですね。料理人さんも居ますし、尚更です。今度、焼肉タイプを伝えてみようかしらね。いや、王太后陛下のドレスが焼肉臭いとか無理か。
「陛下、イサカ牛が輝いてますよ」
「リリーは本当に牛肉が好きだねぇ」
「成長期なんだから良いのよ。沢山お食べなさい」
「有難うございます。イサカ牛は特別なんです」
実を言えば、私は5歳まで肉も魚も嫌いだった。しかし、末端とは言え貴族の端くれ、正餐となればコース料理で、当然メインは肉か魚。子供のうちはいいが、大人になって他所にお呼ばれされる様になれば、食べれないなんて言っていられない。而して、大人達による好き嫌い撲滅キャンペーンが行われたのである。でもね、所詮男爵家ですよ。美味しいお肉なんて常に手に入るわけがない。よって、かなり長いこと私の舌と大人達の攻防は続いたのだが、それを終わらせたのが牛肉様なのである。
ある日父が王城より、大変高級な牛肉を頂いてきた。ニストラス産のイサカ牛。調理人も、これ程の肉に無駄な事はすまいと考えたのだろう。その日のメインディッシュは、我々の目の前で軽く炙って塩胡椒しただけのステーキだった。コレがもう、ホントに素晴らしかった。とろける脂、でもくどくも臭くもなくて、塩胡椒だけの味付けが更に旨味を引き立たせていて……いやぁ、あの一口でお肉に対する嫌悪感が無くなったね。一度お肉というものを受け入れてしまえば、後は簡単。鳥や豚も食べれる様になり、それが好きに変わる頃には魚も平気になった。
今思えば、アレはきっと陛下が手配したんだろう。成長日誌とか毎月提出させてたらしいし。その存在を知った時は、王宮ごと燃やして消し去ろうかと思ったよ。だって1歳から毎日、おはようからおやすみまで、いや、寝言から寝相まで記録されてるのよ!?その他アレやコレやの恥ずかしい事だってお察しよ!まあ、今この瞬間だってしっかり記録されているのは分かっているから、もう諦めたけど。
「あの時のイサカ牛は陛下が?」
「うん、肉だけはどうやっても駄目だって聞いたからね」
「お陰様で、お肉が好きになりました。」
「ヴィクトル、貴方あの忙しさの中、よく成長日誌なんて読んでいられたわね」
「日誌を読んでからでないと眠れなかったので」
あ、周囲の目がドン引き派と憐憫派に分かれてる。私は遠い目派です。スミマセン。
ヴィクトル=陛下です




