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エミーさんの独白

本日二話目です


四角四面なエミーさん。読んでて息苦しくなったらゴメンなさい。


 陛下付きの母からリリス様の事は聞いていました。といっても、まだ1歳の赤子について聞く事など殆どありません。聞いていたのはリリス様に対する陛下、当時は王子殿下の御様子について。


 リリス様に相応しい男になりたいと努力なさるお姿も、手ずから離乳食を作ってしまう甲斐甲斐しさも、聞くだけなら微笑ましいだけ。しかし、そこにあるのは子供の恋とは到底思えぬ、異様なまでの執着なのだとか。いえ、赤子に恋してる時点で充分異様ですけれど。



 また、療養が上手くいき、多少体の調子が良くなってきていたとはいえ、リリス様の為にと成長なさる勢いは、例え健康な10歳児だったとしても異常に思える程だったとか。そう言えば帰国早々、近衛の護衛騎士隊と一緒に訓練してらっしゃいました。すぐに下級クラスとは互角にやり合えるようになって、当時は王妃であったマドレーン様はとても喜んでいらっしゃいましたが。


 確かに帰国後の陛下のご成長は目覚ましく、それは思いがけず13という若さで王位に就くこととなった陛下を大いに助けた事でしょう。元々才能がおありだったといえばそれまでですが、それでも一人の少年の運命を変えるほどの恋とはどの様なものなのか。リリス様はどの様なお子様なのか。マドレーン様が陛下の初恋を揶揄される度に、気にはなっておりました。



 陛下が即位なさって5年目、マドレーン様より異動の打診を受けました。というのも陛下が遂にリリス様を呼び寄せなさるそうで、リリス様に付く女官を求めていらっしゃるとのこと。陛下が未だリリス様一筋なのは奥では有名な話。これは暗に次期王妃付きの女官に推挙されたと考えるべきでしょう。己の能力を認められた喜びと同時に、背中に冷たいものが走りました。 私などに務まるのでしょうか。


 この10年マドレーン様に仕え、王妃と呼ばれる方の生活をお支えする術は少なからず学びました。今すぐ妃に付けと言われても、これ程不安を感じることは無いでしょう。ですがリリス様はまだ8歳。しかも妃としての教育は一切受けていないどころか、陛下のことすらご存知無いのだとか。そのお立場も含め、この王宮でのお暮らしは、大変厳しいものとなるであろう事は想像に難くありません。それでも私は代々王族に侍従してきたマーシャル家の娘。マドレーン様のご期待に応えるためにも、謹んでお受けさせて頂くことにしました。



 リリス様に付けられた女官は私を含め3人。畏れ多いことに私が筆頭となりました。任命された日からリリス様がご到着なさるまでは約2ヶ月半の予定と伝えられ、その間にしなくてはならない事を考えると頭が痛みましたが、なんとしてでもやり遂げなければなりません。


 私たちが先ず行ったのは、リリス様の成長日誌を熟読すること。王宮に入られたその日からリリス様に不自由なくお過ごしいただけるよう、サーガスでの暮らしぶりを知っておかねばなりません。陛下の元に毎月届けられるという日誌は、リリス様のご様子について大変細かく記載されており、私共の心強い助けとなりました。



 リリス様のお住まいは陛下のご意向により、王の住まう北宮と、執務室や謁見の間がある南宮の境付近にある離れとなりました。元々は密談などに使われていた場所らしいのですが、ご公務後に立ち寄りやすい場所である事、警備のしやすい場所である事、しかし良からぬ事を考える貴族が入りこみやすい場所でもあることが都合良いとなったのだとか。よからぬ者が入りこむのを許すということなのでしょうか?畏れ多くも陛下にお尋ね申し上げましたところ、リリス様には陛下の庇護下でしか生きられぬと認識させたいのだ、と。


 ぞわり、と、全身に薄ら寒いものが走りました。空恐ろしい。まだ8歳の少女に、このやんごとなき御方は何を求めていらっしゃるのか。『異様な執着』母の言葉が蘇りました。この御方が異様なのか、それともリリス様が異質なのか。『傾国』そんな言葉が頭に浮かび、慌てて考えるのを止めました。



 しかし左様なことは考えておられぬ程に日々は慌ただしく過ぎ、あっという間にリリス様が王宮に入られる日がやってまいりました。旅の間に陛下とはすっかり打ち解けられ、愛人になることも冷静に受け止めていらっしゃる。と、サーガスに同行していた母より聞いていたため、以前ほどの心配はありません。それでも、8歳のリリス様が現状をどれほど理解しておられるのか。私共はある種の緊張を抱えたまま、リリス様のご到着をお待ちしておりました。


 馬車から降りてきたリリス様は、こちらが拍子抜けするほどに普通のご令嬢でした。実を言えば、7年ぶりに会われた陛下が、それでも変わらずご執心でいらっしゃるのを聞き、さぞや美しい少女に成長なさっているのだろうと皆で話していたのです。いえ、とてもお可愛らしい方なのですが……思ったほどではなかった、といいましょうか……。


 無論、そのような思いはおくびにも出しません。感情を決して顔に出さぬ様、子供の頃より厳しく訓練されております。それでも、リリス様には悟られてしまったようで、私共に挨拶をなされた後、お年に合わない苦笑いをして『傾国にはなれそうもないでしょう?』と仰られたのには、内心忸怩たる思いをすると共に、成る程これが陛下の選ばれた御方と深く感じ入ったのです。




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