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Royal Room  作者: のーと
3/7

三人目

目が覚めた時は不思議な部屋にいた。

白の壁紙、白のシャンデリア、白のテーブルとイス、白のテーブルクロス、白のカーテン、と全て白で覆われた部屋。

私はイスに座ってるようで、目の前に白の中で異質な色がある。

金髪で肋骨まであるツインテール、フリルがたくさんついた黒のゴスロリ風のエプロンドレス、極めつけは整いすぎて人形かと錯覚するほど美しい少女。

私は夢かと思った。

こんな現実離れした場所が現実なわけがない。

いや、案外夢なのかもしれない。

ここまでの記憶はないが、一番新しい記憶は私か首を吊る記憶。

現実の私は昏睡状態で、これは夢なのが正解なのかな?それとも違うのかな。

夢なのなら私の好きなようにしてもいいよね?

私はゆっくりとイスから立ち上がり、少女へ抱きつく。

少女はとても驚いている。


「な、なにするの!?」


「やわらかーい」


少女は必死に抵抗するが、力がないため意味がない。

暴れてもそんなに痛手ではないため、頬やお腹を触る。

華奢な体は見た目通り細く、肌も玉のように綺麗で羨ましい。

やはり子供なため、胸は発達してなかった。



「ハイン!

そこで見てないで止めて!」


知らない名前を少女は言ったため、私は焦りで触るのをやめて咄嗟に離れた。

乱れた服装を少女は必死に治し、いつの間にか現れた燕尾服の初老は涼しげな顔でテーブルの上にティーセットとクッキーやスコーンなど入ってるお皿をテーブルに置く。

深く一礼し、一瞬で燕尾服の初老は消え去った。


「手品!?」


本当に手品としか思えなかった。

いつの間にか現れ、目の前にいたのに一瞬で消えた。

少女は治しおわったのか、ティーセットに手をつけ少し小さめのティーカップに紅茶を注いだ。

安い葉とは思えない、上品で深みのある香りで包まれる。

慣れた手付きで角砂糖を2つ、ミルクをたくさんいれティースプーンでかき混ぜ一口飲んで落ち着いたのかクッキーに手を伸ばす。

一口サイズなのに、少女はリスみたいに両手で掴んでちびちびと噛んでいる姿に思わず頬が綻ぶ。

私、子供が好きで教師やってたな。


「美味しい?」


職業病でついつい聞いてしまった。

少女は特に気にしてないようで当たり前だと主張する。

クッキーを平らげた少女は満足気に、私へ話しかける。


「あなた、自殺したのでしょ?」


少女に自殺したなんて一言も言ってなく、恐怖で背中の産毛が逆立つ。

更に恐怖を煽るかのように少女はまだ言ってない情報を言う。


「職業学校教師。

子供が好きでたまたま教員免許が取れてしまい、成り行きでなった。

仕事は嫌いではなく好きで、順調だったが同僚に好かれず常に貶されてた。

親の会社が倒産、父親が借金苦で自殺、母親はストレスで精神を病み引きこもってるといった不運続きの中、あなたが自殺に繋がる決定的出来事は婚約者が浮気し捨てられた。

こんな世界からいなくなりたいって理由で自殺。

あってる?」


全てあっていた。

会って間もない少女に状況を全て把握され、誰にも言ってない婚約者のことまで。

得体の知れない恐怖で嫌な汗が流れる。

少女はそんな私に気を利かせたのか、空のティーカップに紅茶を注ぎわざと香り立たせる注ぎ方をした。

砂糖とミルクたっぷりいれ、子供らしさが目立つ笑顔でどうぞと言いながらカップを近付ける。

毒が入ってるかもしれない恐怖で飲めるわけがない。


「自家製ハーブティーよ。

ハーブには心を落ち着かせる効果があるの。

飲みなさい」


「得体の知れない物を飲むわけないよ」


「そう」


少女は笑顔のまま、短く返事し先ほど注いだ紅茶を一口飲む。

少女のはまだたくさん残ってるのになぜだろう、と思ったが少女の飲み方はよくドラマである毒見のやり方と一緒である。

これで安心でしょ?と言いたげで優しく手渡しされる。

それを見た私は悪い大人に騙されてるだけかな、と思い素直に紅茶を飲む。

香りだけで察してたが、やはり葉は安いやつではなかった。

味わい深く、コクがあり、ミルクも砂糖も高級品だとわかる代物。

もしかしてお皿に盛られたお菓子も高級品なのでは?と思い手を出したくなるが、職業病で我慢してしまう。

少女はそんな私を見て手のひらを軽く叩き、話を続けましょうと言う。


「あなたのことをなぜ知ってるかと言うと、私は自殺者を導く者で導かれる者の情報は必ず受け取るの。

私は、あなたを導かなければならない。

天国で輪廻転生を待つか、地獄で無に帰るか…。

あなたの体は綺麗ね…現世へも返れるわ」


「出来るの?」


少女は当たり前だ、ときっぱりと返しまたしてもクッキーを手に取り可愛らしく食べる。

私は無意識に母性で少女を見ていた。


「あなたはどうしたい?

天国?

地獄?

現世?

好きにしていいわよ」


もう話す必要はない、といった雰囲気で少女は食べることに夢中になる。

お皿の中身がなくなるまでを自分の中でタイムリミットにし、考える。

生まれ変われるのなら、次は幸せに過ごしたい。

無だとなにも考えなくていい。

現世だと辛い生活が待っている。

…正直、現世だけは戻りたくなかった。

なんのために死んだのかわからなくなるからだ。

あんな辛いところには戻りたくない。


「迷ってるようね?」


音も立てずに少女は紅茶を飲み、カップを皿に戻す。

少女は空中に何かを書き、書き終わった時にはビー玉くらいの大きさで丸なにかを空中で三個浮いてる。

綺麗な透明で、見とれていた。


「1つは死んだ後の現世を見れる

1つは生き返った後の現世

1つは中途半端に帰った後の世界

好きなのを選んでガラス玉を覗きなさい」


言われた通り、右端のガラス玉をとり覗く。

未来が気になるのか、神経を研ぎ澄まし集中して見ていた。


私が病院のベッドで寝ている様子。

体にはたくさんの管で繋がれ、機械によって生命維持しているようだ。

部屋の周りを見て、誰も見舞いに来た様子がなくやはり嫌われて最愛の両親は病んでしまった。

誰も来るはずはないのに、僅かな希望を持って見てしまった。

こんなのは見る必要ない、やめようと思ったら病室の状況が変わった。

私を捨てた婚約者がお見舞いに来てるのだ。

顔面蒼白、口をパクパクと開け閉めを繰り返し、肩が震えたと思ったら婚約者の顔から一粒の雫が落ちる。

なにかを言ってるのは確かだが、なんと言ってるのは聞こえない。

きっと少女が故意にやったのか、出来ないのかどちらかである。

婚約者は口を見る限り、叫んでるようだ。

寝てる私に抱き着き、異変に気付いた看護婦たちが必死に婚約者を止めてる。

ああ、私はまだ愛されてたんだな。

ガラス玉を覗くのをやめ、少女を見る。

私が決心したことを通じたのか、少女は立ち上がる。


「あなたの選ぶ場所はどこ?」


「現世」


「そう」


少女ははにかみ、両手を広げくるくると回る。

フリルのついたエプロンドレスがひらひらと舞、少女の美しさも相まって見とれてしまう。

少女はとても楽しそうに回る(おどる)。

部屋全体を回ったら少女は私の正面に立ち、手のひらを差し出す。


「これで現世へ返れるわ。

あなたの体、よく見て?」


言われた通り見たら足から少しずつ体が崩れ落ちていく。

怖さもなく、痛みもなく、あるのは心地よさだけ。

少女に礼を言い、意識だけで崩れを加速させてみたら案外出来るものでそのまま早くした。

崩れきった瞬間、私の意識はなくなった。



「一々回ったり書かなくても、私の力ならすぐに出来るのよ?」


「ただの余興よ」


「先ほどのお客様の結果を見に行きましょ?」



気付いた時には病室にいた。

死にきれてなかった。

吊ってすぐ誰かに見付かり、結果的に後遺症も残らずとてもいい状態だった。

死にたかった。

助かるくらいなら、首吊りを選ばず飛び降りを選べばよかった。

高層ビルの屋上から頭から落ち、地面に大きな赤の花を咲かせばよかった。

そんなことを小さく呟くと看護婦に止められ、精神科の人と話したら薬が追加された。

これを大量に飲んだら死ねるか?と問うと無視され、看護婦たちも誰も私の相手をしなくなり結果いらないものと扱われるようになる。

だったら助けるな、と叫ぶが正論で返されどうしようもなかった。

絶望しかない。

精神おかしくて、自殺未遂して、精神病棟に隔離されて幸せな未来をイメージ出来なくなってしまう。

全てを諦め、私は身を委ねた。









「可哀想に」


「このお客様は選択ミスをした」


「まあ私は絶望で終わる人生を見るのが好きだから楽しめたわ」


「お客様は中途半端な返しを希望したら、ガラス玉を覗いたシーンがあったのに」


「くすくす」


「また自殺者(おもちゃ)になるのかな?」


「でも、もうあなたには構っていられない」


「次来るときはハインにでも任せよう」

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