二人目
白かベースのワンピースに所々にピンクの細かい刺繍されたレースがつき、胸元にはピンクの大きなリボンを付けたロリータ風の服着て、金髪でツインテールをした幼い少女は屋敷内を歩く。
なにもかも白く、主は潔癖症なのかと疑いたくほど白い屋敷。
少女は目的もなく歩いてるわけでない。
暇潰しを探していた。
少女は暇がとても嫌いなのだ。
だから扉を見付けたら見境なく開き、面白い者を探す。
白い空間に不釣り合いな黒の扉を見つけ、少し嫌な顔をしつつゆっくりと開ける。
その部屋も白く、白くないのは執事の燕尾服、お客様の服、執事接客用の赤いティーセットだけだった。
「ハイン、そのお客様はなにか困ってるの?」
ハインと呼ばれた初老の男性は苦笑いするわけでもなく、至って普通に掴みどころのない涼しげな顔で一礼してから話し出す。
「いえ、もう話は終わっています」
「そう、ありがとう」
部屋を出ようか出ないか迷っていた時、何気なくお客様を見る。
すらっとした手足で細くもなく太すぎず程よい筋肉、茶髪で清楚感漂う短髪、モデルみたいなスタイルで顔も爽やかで現世の言葉で例えるならイケメンだった。
だが、少女は違和感を覚えた。
ここに招待されるのは自殺者のみ。
招待されたのに関わらず、自殺者特有の暗く思い雰囲気がない。
まれにあるイレギュラーかと思ったが、イレギュラーだと決断が遅れ導くのに時間がかかるのだ。
少女はいてもたってもいられず、ハインに説明を要求する。
「この方はイレギュラーでもなければ、いつものお客様ではありません。
現世で噂されてる儀式を行ったのです」
「儀式とは?」
少女はハインの長過ぎる話を聞き流し、要点だけを脳内でまとめた。
お客様は所謂ネットでガセネタに騙されて結果自殺に繋がる行為をしたため、後悔し天国へ行こうとしたという。
だったら早く天国へ導いて次のお客様を呼ぼうと思い、隙間しか見えない少女たちの用語で言えば道を出す。
「ここを通れば天国へ行けるわ」
お客様は恍惚している。
少女が来てから一言も言葉を発していない。
「ハイン、この方は一言も喋らないの?」
「いえ…お嬢様が来るまではお喋り過ぎるってくらいお話してました」
「そう」
お客様についてハインも困ってるようだ。
道を出してるのに一歩も踏み出さない。
お客様はゆっくりと口を開いて少女に初めて声を聞かせた。
「金髪幼女キター!」
想像とかけ離れた言葉に唖然する少女。
ハインはこれを予想してたのか、バツの悪い顔で目を逸らす。
「関節球体人形みたいな美しさ、一つ一つ上品な仕草、魅惑のロリボイス!
決めた。
俺、天国行かない!」
「は?」
少女はだらしなく開いた口が塞がらない。
そして思った。
この青年は好きになれない。
「幼女について行く!
俺を雇ってくれ!
ヴァリルさん1人で働いてるんでしょ!?
雑用でもいい!
むしろそうしてくださいお願いいたします!」
少女はハインと目を合わせ、二人は困る。
青年の言うことは確かに出来る。
例がないわけじゃない。
だが、主である少女は使用人はハインだけで十分だと思ってる。
「ごめんなさいね。
もうこれ以上人はいらないの」
「雑用でいいのですか?」
二人の言葉が全く違う。
少女は必死に訴えるが、ハインは雇うことを視野に入れてる。
青年はハインの調子をのせ、気付けば二対一という状況。
決定的決断するのは少女であるが、この状況で決断するのは難しい。
いつも通りわがままを言えば収まるが、青年の言うことは筋が通るので断ると少女は人間ではないが人でなしと呼ばれてもおかしくはない。
少女は諦めた。
雇うことに決めたのだ。
「…いいわ。
その代わり、あなたはもう二度とお客様扱いしないし輪廻転生や現世に返ることが出来ない。
魂の寿命が尽きるまで、ここに縛られることが絶対に決められてる。
それでもいいなら、働きなさい」
「あ、ありがとうございます!」
生き生きとした顔で青年はハインと仕事について話し出す。
少女は1つ確認し忘れた。
「あなたの名前は?
知らなきゃ呼ぶときに困るじゃない」
「ジンです!
幼女様!」
「幼女禁止!」
先ほどから幼女幼女と呼ばれいらついていたところ、幼女様と呼ばれたら更にいらだつ。
そんなこと露知らずジンは少女について語る。
「二次元に行くより、RR…だっけ?
ここにいる方が断然いい。
アニメから飛び出てきたような幼女と、テンプレ執事で自殺者を導くなんて最高に面白いシチュだ!」
「頭が痛い…」
もう既に雇うことに後悔してる。
こんな人間を相手にするのは疲れるからだ。
少女はRRから出ようとするが、ハインに捕まりこのままお仕事をすることになった。
ジンの次は無を希望する人だったため、楽で愉快な所を見れた。
無を希望する人なんてひと握りしかいない。
それもそうだ。
少女は黙ってるが、周りが無で魂の寿命が尽きるか魔獣に魂が食われるまで意識だけはあるのだから。
そんなところに長時間いると、いくら強靭な精神でも壊れてしまう。
少女はそんな壊れるところを見るのが大好きである。
よくハインに趣味が悪いと言われるが、数少ない楽しみなためほっといて欲しいのが正直な所。
もしそんなこと言ったらおやつがなくなるため、言わない。
屋敷の主は甘い食べ物に弱く、おやつを食べられるのなら素直に言うことを聞くのだ。