Witch's Dream
最近、不思議な夢を見る。細かいところでの差異はあるものの、夢の大筋や結末はいつも同じ。
とある森に静かに佇む洋館の、一人の女性とのお話。
夢の話なので欠落している部分は多いし、表現が曖昧な点も多々あると思われるが、幾度となく繰り返し見てきた夢を、覚えている限りここに綴る。
舞台は森の中に静かに佇む洋館。
と言っても、例えばホラー映画などに登場するような暗い雰囲気の、いかにも何か出そうなおどろおどろしい館ではない。
木漏れ日が柔らかく周囲を包む、とても暖かな印象のある館だ。
そんな館で、ある日の夜パーティが催されることになる。話はそのパーティの最中から始まる。
「今宵は私主催のパーティへようこそ。大した御もてなしはできませんが、皆々様どうぞ存分に楽しんで行ってくださいませ」
そう告げるのは、思わず見惚れてしまうような美しい女性。
腰まで伸びた綺麗な黒髪。見た目では年齢が分からない整った顔立ち。優しいながらも張りのある声。
彼女こそが、この洋館の主その人である。
詳しいパーティの概要は、幾度となく見た夢でもよく分からない。
いつも同じなのは、この後ディナーの時間になること。
気が付くと、自分の周りには高貴な貴族のような人や、どこかのお偉いさん。
はたまた町で働いている商人風の人や、小さな子供がいることだってある。
共通して言えるのは、少なくとも日本人ではない。
唯一日本人として認識できるのは、いつも隣に座っている私の現実世界での友人ただ一人。
さて、ここまではいつも同じ風景。違うのは客層くらいなものだ。
ここからも大筋は共通なのだが、見るたびに若干内容が違う部分が出てくる。
そう、例えば――
◆◇◆
運ばれてくる料理。賑やかな雰囲気。皆が皆パーティを楽しみ、談笑しながら料理を摘まむ。
そんな、特に代わり映えのない日常の中に、明らかに見て取れる異物が一つ。
隣にいる友人が、料理を見て青ざめている。ただその一点だけが明らかに常軌を逸して温度が低い。
それを不審に思う者が誰一人としていない状態が、さらにその違和感を際立たせている。
それに気づいた私は、彼の目線を辿る。
何も不思議なことはない。とても美味しそうな料理があるだけ。
臓物のソテーや目玉のサラダ、血のワイン―――。
――いやまて、何かがおかしい。
何かの見間違いだろうか。だって周りの人間達は、いかにも美味であると言わんばかりにそれらを頬張っているのだ。
もう一度、今度は自分の料理に目を落とす。
なんてことはない、そこにはとても美味しそうな…
人間だったものの肉塊が置いてあった。
突然目の前が暗転する。いや、部屋の照明が急に落ちたのだ。
今まで賑やかだった場は静まり返り、月明かりと扉の近くの松明だけが不気味に部屋を照らす。
気付いてはいけないことに気づいてしまった。そう思った時には遅かった。
周りの人間たちは奇怪な形に姿を変え、ギラギラと光る瞳でこちらを見つめている。
たまらず視線を隣の友人に向けると――
友人の姿はなく、洋館の主がこちらを見つめていた。
◆◇◆
結論から言わせて貰えば、館の主は魔女であり、パーティは餌を呼ぶための罠であり、私はその餌に他ならなかった。
友人がどうなったのか、そもそも本物だったのか。そしてあのおぞましいディナーの後どうなったのか。
周りの奇怪な生物たちに捕まったのか、はたまた全てが幻影で、夢の中でなお悪い夢を見せられていたのか。
正直よく分からない。恐らく、見るたびに内容が一番変わる部分の一つなのだと思う。
しかしこの後の展開は変わらない。
私は魔女に囚われ、毎日のように拷問を繰り返される日々が続くのだ。
拷問の内容も、共通点こそあれど基本的には毎回若干の差異が生まれる。
共通しているのは、毎日決まった時間になると魔女に欠けられた魔法が作用し、結果としてそれが拷問となる。
時間は昼の十二時か一時のどちらか。これも見るたびに変わるが、この二通り以外は今のところ見たことはない。
拷問の内容は例えば、その時間になると呼吸ができなくなる。初日は一秒。二日目は二秒。日が進むに連れて時間が一秒単位で伸びて行く。
例えば、その時間になると体の一部に激痛が走る。最初は手や足の指。次に手首や足首。肘・膝。少しずつ端から中へ。最終的には心臓に至るようになっている。
他にもいろいろな拷問があったはずだが、特に印象に残っているのはこの二つだ。
なぜ自分がこんな目に合うのか、当然見当は付かない。
そもそも、あくまでこれは夢であって、理由なんてないのかもしれないが…
拷問を受けていると言っても、基本的に屋敷内は自由に動くことができる。
食事も用意して貰えるし、寝るための部屋やベッドだって与えてくれている。
そう、拷問こそ過酷なものであるが、その点さえ除いてしまえば不自由することは特にないと言える環境なのだ。
そんな日々が続いたある日のこと。
もう何日拷問の日々が続いたか分からないが、次の拷問が来れば確実に死ぬ。そういう日。
最後の時を待てども待てども、しかし何も起こらない。
自分の死を覚悟していた私は不審に想い、例のディナーが行われた広間に足を踏み入れる。
するとそこには、この洋館の主にして私を捕えた張本人が、こちらに背を向けて一人静かに窓辺の椅子に座っていた。
彼女は私が来ることを知っていたかの用に、意識だけをこちらに向けてただ一言。
「髪を梳いてはくれないかしら」
そう言うのだ。
意味も分からないまましかし、私は彼女の言葉に従い、テーブルに置いてあった櫛で彼女の綺麗な黒髪を梳いていた。
不思議な時間だった。
なぜか彼女に対する負の感情は、まったくと言って浮かんでこなかった。
彼女は一言も発さず、ただただ私に髪を梳かれていた。
そこでふと、思ってしまった。
彼女はもしかしたら、単純に友人が欲しかっただけではないのか…と。
これは彼女なりに、私を友として迎えたいという意思の表れなのではないかと。
もちろん私のただの妄想かもしれないし、夢の中の魔女の感情など私に読み取る術はない。
それでもなぜか、そう思った。
◆◇◆
しかし、そんな時間は長くは続かなかった。
突然広間の扉が開き、大きな声が鳴り響く。
「大変だ!兵隊にこの屋敷が見つかった!」
恐らく魔女の部下であろう男がそう叫ぶ。
彼女は静かに立ち上がると、男が来た扉から出ていく。
私はそうしろと命じられたわけでもないのに、その背中を追って行った。
扉を抜けると、そこは変わった作りの空間だった。
まず扉を抜けた先には、数メートルほどの通路。その先には数段の階段と扉。恐らく外に繋がっているのだろう。
通路の右脇には別の部屋に通じているである扉。
そして左には、高さ十メートルほどの堀のようなもの。水路にでも繋がっているのか、下には水が張っている。
「あなたはその下に隠れなさい。万が一見つかったら『魔女に囚われていた。あの魔女と私は無関係だ』と答えなさい。きっと悪いようにはされないわ」
彼女はそう言うと、私を堀に突き落とした。
幸い張っていた水はそれなりの深さがあり、怪我をすることはなかった。
突然の出来事にパニックになっていた私は、それでも何か衝動的なものに突き動かされていた。
上では兵隊らしき男と魔女の部下たちであろう声が、何やら大声で問答している音が聞こえてくる。
しかしそれも少しの間を持って静まりかえり、通路の右側にあった扉のほうへと足跡は遠ざかって行った。
その時の私の感情は夢が覚めた後でも鮮明に覚えている。
友人を助けたい。
ただ、それだけだった。
そう、私は酷い仕打ちをした魔女を、それでもかけがえのない一人の友人と認めてしまっていた。
堀から通路までは梯子が掛かっていて、特に苦も無く上ることができた。
通路の先の扉は開け放たれていて、簡単に出ることも出来た。しかし私は、足音が去って行った方向へ迷わず進んだ。
そこで見た光景は、あまりに残酷だった。
兵隊たちの剣に、銃に、一人で立ち向かい、まるで部下を庇うように全身を貫かれた、私の友人の姿だったのだ。
◆◇◆
気が付くと、私は目が覚めていた。
この夢はいつもここで終り、この先がどうなるかは分からない。
後に残るのは、ようやく友として認めた人が目の前で死んだという虚無感と、途方もないほどの非現実感。
そこで悟る。ああ、夢か…と。
この夢にどんな意味があるのかは、私には分からない。
それでも一度きりの夢ではなく何度も見る夢と言うことは、何かしらの意味があるのだと信じ、ここに残す。
―END―
あとがきというか補足のようなもの。
まず初めに、これ、ホントによく見る夢です。
最初に出てくる現実世界の友人は男です。なので魔女=現実世界の友人ではありません。
ディナーでの展開は今回は一パターンしか書きませんでしたが、私が料理の異変に気づき、それを不審に想った友人が声をかけて来て気づき、気付いてしまった友人が殺される…なんてパターンもあったりします。
他にも魔女がその料理は実は~とネタばらしして、会場が阿鼻叫喚に包まれるパターンとか…ホントに見るたびに変わるんですよこれ。
あとは兵隊が突撃して来るシーンも、大筋だけ書いてだいぶ端折りましたがいろんなパターンがあります。
魔女と一緒に逃げるパターンや、魔女だけを逃がして部下と一緒に残るパターンとか。
まぁ結末はいつも魔女が殺されちゃうんですけど…。
話の冒頭にも書いてますが、夢の話なのでどうしても曖昧な部分が出てきます。
一部脚色があるのも認めます。例えば最初の魔女のセリフ「今宵は~」のあたりは、ホントにそんなこと言ってたかな?なんて部分でもあります。その辺はご了承いただければなと。
魔女の出てくる夢についていろいろ調べては見たんですが、話がちょっとごちゃごちゃしすぎてて、これだって言うのは正直なんとも言えないところですかね…。
最後に、こんな駄文を読んでくださった皆様、ありがとうございました。
魔女の夢に興味がありましたら、ぜひ調べてみてください。
それでは~




