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第一話

エルダーテイルによく似た世界で過ごすこと数日。

あの《大災害》が起きた時から、大勢の冒険者たちの混乱も少しばかり落ち着きを見せていた。

それは喚いたところで何一つ変わらない今に対する諦めから来たものであったとしてもだ。



「ふははは、見ろスケルトンがゴミのようだッ! 流石はゴーレムさん、かっけー!!」


「はあ、少しは手加減してほしいな…」



ほとんどの冒険者が無気力に過ごす中、<ホームタウン>のアキバから少し離れたフィールドで無気力とはほど遠い活力あふれる大きな叫びをあげる集団がいた。

一人は白いマントをゆらし、顔に独特な刺青をした法義族の男性が3mもあるだろう巨大なヒト型の石像、<ゴーレム>の肩に乗りながら、石像の足元に群がる骨だけで動く人型、<スケルトン>骸骨兵士を薙ぎ払うように指示していた。

ゴーレムの巨腕に吹き飛ばされる骸骨兵たちを地面から生み出す<召喚士サモナー>は黒い狩衣で和の装い陰陽師のような格好をし、顔も声も男性か女性かハッキリとしない中性的なために性別不詳である。

召喚士の二人は召喚魔法でB級ファンタジー映画さながらの戦闘を繰り広げていた。



カシャカシャ、カシャカシャ、カシャカシャ。


地面から這い出るように生み出されていく<スケルトン>は恐怖ホラーそのものだ。

スケルトンたちは錆びついた甲冑で全身を覆い、白骨化した頭の上に兜を被る。

その姿は戦国時代の武士を思わせるが、錆びた刀を握る手も、顔面も白骨化しているため恐怖を湧き起こす不気味さしかない。


「…行けッ、〈グレイブヤードウォーク〉」


陰陽師は静かに、しかし力強い言葉で骸骨兵士に命令した。

〈グレイブヤードウォーク〉は召喚中のアンデッドモンスターを一体に集中攻撃する特技だ。

命中力が下がるデメリットはあるが、その威力は12職のメインクラス中で最大の魔法攻撃力をもつ<妖術師>に並ぶ。

ゲームの中でのスケルトンはするとなったスケルトンたちは主の命に従い、目前のゴーレムへと殺到する。



「効くかーッ!!<ガーディアンフィスト>!!」


法義族の青年の叫びに応じるように、ゴーレムはゆっくりと巨大な脚を持ち上げる。

<ガーディアンフィスト>はゴーレムやスライムなどの人造生物を召喚しているときに使える特技。

力を込めた一撃を放ち、物理ダメージを与えるものだが、このスキルの真価は他にある。

それは、特技を実行している14秒間、特技を使用している召喚モンスターには<ダメージ減少効果>が付加されること。

大勢の骸骨兵たちは刀を振るい、数で押し切ろうとするものの<ダメージ減少効果>に、動きこそ遅いが優れたパワーとタフネスをもつゴーレムを倒すには届かない。

そしてゴーレムはゆっくりと持ち上げた脚を、容赦なく振り下ろした。


ズドオオオンッ!?


それは、大地を揺らした。

振り下ろされた脚の地面は抉れ、波が寄せるように周囲へと土や石がうねりをあげる。

ゴーレムは多くのスケルトンに囲まれながらも、その圧倒的な膂力で物ともしない。


打ち砕き、


握り潰し、


蹴り砕き、


踏み潰す。


その姿はは、まさに鋼鉄の巨人だった。


「<戦技召喚:雪女スノウ・ガール>」


だが、陰陽師は自身の骸骨兵が押されているのを見ても冷静に次の召喚を行う。

瞬間、ゴーレムの目の前に白いづくめの綺麗な女性が現れ、口から吹雪を吹きかけてきた。

吹雪に襲われたゴーレムはあちこち凍らされて遅かった動きがさらに鈍重としたものになる。


「さ、寒いいいい…<凍結>と<鈍重>のバステとか最悪…」


「…ハカセ、あなたの負けです」


ゴーレムはパワーとタフネスが優れている反面、動きが遅く魔法攻撃の耐性が低い。

<戦技召喚:雪女スノウ・ガール>は魔法攻撃の上に<凍結>と<鈍重>のバッドステータスを与える効果があり、特に<鈍重>はゴーレムの短所をより致命的にしている。

陰陽師の勝利宣言は事実そうなるだろう。



「朧、…馬鹿言うな」



だが、法義族の青年 ハカセは不定な笑みを見せ、言い放つ。




「俺は、負けず嫌いなんだよッ、<戦技召喚:鋼鉄騎士アイアンリッター>ッ、<サモナーズウィップ>!!」







「アハハハハ、アレはいつみても迫力満点ダネ。カレアチャン」


「………(コクコク)」



二人の争いを遠くで離れ見つめる二人の女性がいた。


一人は、褐色の肌、白い髪、白と黒のチェックの衣装に身を包んだ道化ピエロ

道化はゴーレムとスケルトンたちの戦いを見て、愉快に笑いながら、おどけながら隣の少女へ話しかける。


道化の言葉にうなづき返す少女。

耳が長く伸び、妖精のように細く小さい彼女はエルフだ。

着ている服も緑のケープも素朴で牧歌的で彼女のゆったりとした雰囲気に合っている。



「デラルテ、おなかすいた……」


「アレッ、もう昼過ぎカナ。オーイ、オフタリサン、ゴハンにするヨー」


マイペースな少女カレアの言葉に、道化の女性は苦笑しながら目の前で争う二人を呼ぶ。




  法義族の青年      マッド・博士


  陰陽師の召喚士       朧 


  道化の女性       デラルテ


  エルフの少女      カレア



彼ら4人はアキバの街を拠点とし、メンバー全員が召喚魔法をもつギルド 《サモンッ!?》の主要メンバー。


4人は異世界となったエルダーテイルを他の冒険者に比べてそれなりに満喫、適応していた。





俺たち、私たち、召喚士!?


一話「不味い味の方が幾分もマシだな。食べたいかどうかは別として…」





「本当にあきるな、この料理…」


「タシカニ、見目はヨイノダケドネ」


エルダーテイルの世界で過ごすことになって数日はたつが、やはりこの料理だけはどうにも慣れない。

デラルテの言うとおり、見目はいいのだ。外側は良い分、食べた時の気分は最悪で萎える。

この味を誤魔化す苦肉の策に俺は<タザネックの魔法鞄>から塩と砂糖の小ビンを取り出す。


「調味料をかける以外は、素材そのままで食べないと味が湿った煎餅じゃあ満足しないはな。カレア、塩と砂糖どっち?」


数日が過ぎ、料理アイテムの不味さが知られ、混乱していた他のプレーヤも同じ気持ちを味わっていることだろう。

素材アイテムには味がしっかりあるというのが分かるとアイテムを買占めや独占する考えはむかつきはするが分からないでもない。俺だって気づいたときは即メンバー全員で買い出しに急いだのだ。

そのため、素材アイテムを集めにこうしてアキバの外に出たわけだがな。



「…砂糖、食べ物の価値は美味いか不味いか…」


「ああ、その漫画、好きでしたよ。犯罪者の豹変ぶりが良かったですね。あ、ハカセ塩もお願いします」


「ほらよ、それよりもこれからどうするか考えねえとな」


「素材集めでしょう、そのために午前中は戦闘訓練と決めてたわけだし…」



そう、食材のために外へでたはいいがゲームが現実となっている影響でモンスターとの戦闘に大苦戦するはめとなった。

少し対処間違えたら神殿送りになるところだったろう。



「ああ、当分はそれでいいだろうな。俺たち全員が召喚士のおかげで他のプレイヤーよりは戦闘はしやすい」


そう、幸いなことにギルドメンバー全員が召喚士サモナー

召喚士の特徴は召喚魔法。特にその魔法で助かったのは<従者召喚>のシステムには大変お世話になった。

<従者召喚>は契約した精霊や幻獣なんかを呼び出し、戦わせるという実に召喚士らしい特徴。だが、それが仇となった。

戦闘慣れしてなくても従者召喚して走りまわってるだけでなんとか戦えてはいた素材集め初日、囲まれて逃げ切れなくなったときは焦った。

<ゴレーム>の動きの遅さに処理しきれず、朧が<スケルトン>を呼んだのだが、現実となった骸骨兵士にカレアが腰を抜かしたのだ。

乱戦の上にメンバー一人がお荷物化したときは生きた心地がしなかった。

いくら死んでも神殿送りということを知っても殺されかけるというのはぞっとしない。



「…怖かった」


「あー、泣くなよ」


「…泣いてない」


「ごめん、カレア…」


「仕方ないよ、私も恐くてめちゃくちゃしてたから」


「同感だ。つか、お前が先に怖がってくれたから何とか動けたわけだが」



乱戦を切り抜けた時は、カレアが涙目になるのも仕方がない。

デラルテがロールを忘れるくらいに朧の<スケルトン>は怖かった。俺だってちびりそうに、つかちょっと漏らした。

あれが地面から這い上がって生まれてくるのを直接見たら、そりゃトラウマにならなかっただけ良くたえた方だろう。

そういうことがあったため、朧の骸骨兵士に慣れるという理由もあって数日は素材集めをしつつ戦闘訓練をしていた。


さて、話は戻るが、素材集めはもちろん続けるがこのままでは苦しい。



「俺たちは現実になったこの世界で他の職の中でも最も戦いやすい職だが最初のうちだけだ。それはわかるな」


「召喚士自体、魔法系攻撃職の中でソロ向けですから」


「俺たちのギルドはメリットとデメリットがある」


「………人数」


「アア、ナルホド」


「そう、ギルドメンバーがここにいる4人と留守番中の新人2人で合計6人、素材アイテムの買い物の時もそうだが小規模ギルドじゃ出来ることは限られる」


「狩場の独占が起きるってことですか…」


「チカイウチ、オキルネ」



人数の差、大規模ギルドだからこそ出来る力技。

あまり悲観的に考えすぎているが、この状況では何が起きるかわからない。

それに大規模ギルドということは人数に応じてアイテムの必要数が増える。だからこそ狩場の独占が起きるのは確実だ。



「僕たちは人数がほかよりいない、素材アイテムを集める分は量が少ないから、今のうちに溜め込むでいいじゃないか?」


「………なあ俺ら死ぬことがない。食べて寝る場所がある。現実に戻る方法もそれを知る方法もわからない今、正直言ってやることがないんだよ」


「ドウイウウコト…」


「………生活の改善ぐらい現状やることがない」


「カレア、正解。俺が言いたいのは確実に味のある素材アイテムの確保だ」



そう、さっき言った通り、やることがないなら今の生活をマシにするくらしかない。

特に食事は早急に何とかしなければふやけた煎餅コースにまっしぐらだ。



「不味い味の方が幾分もマシだな。食べたいかどうかは別として…」


「…どうするの」


「考えがアッテイッタノダロウ?」


「おう、俺たちの最大のメリットである召喚士を最大限使う」


「………ハカセ、まさか」




「契約クエスト《実り豊かなトカチ農園》の<フルーツウッドの逆襲>と<ハニーベアの冬眠>を受ける。ススキノへ遠征するぞ」

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