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Ⅰ.先ずは御伽噺から

 ジャンルは恋愛ですが、それらしくないかもしれません。

 設定が甘いです。何しろ思い付くまま、その場のノリと勢いで書き連ねたのであまり深く考えずに軽ーくと読んでいただけたら幸いです。


 これは、つい少し前のお話しです。



 ある所にアルロイドという国がありました。

 その国は今、疫病と飢えに苦しんでいました。


 ここ数年続く天候不順による不作から、いつの間にか恐ろしい疫病もが広まっていました。

 疫病は王族だろうが、貴族だろうが、皆例外なく国の民に猛威を揮い、治療の甲斐無く、その殆どの人々が儚く居なくなってしまいました。


 深く深く絶望し、悲嘆にくれるしかないアルロイドを哀れに思った創世の神、夫婦神がひとりの乙女を遣わしました。

 男神と同じ烏の濡れ羽色の髪に、女神と同じ黒曜石の双眸、そして、象牙の肌。

 アルロイドでは見た事のない容姿をしたうら若い乙女でした。

 それもそのはずです。乙女は夫婦神の呼び掛けに応じて異なる世界よりやって来たの稀人まれびとだったのです。


 夫婦神より授かった力を持って、乙女は手を翳しただけで身に巣くう疫病を癒し、歩くだけで周囲を緑豊かな大地へと変えたのです。


 正に奇跡。

 正に神の御業。


 そんな乙女の傍らには常にひとりの重騎士が控えていました。

 乙女への協力を惜しまなかった時の王が乙女の護衛の任を任せた国の騎士でした。

 王の覚えがめでたい重騎士でありましたが、如何せんその見た目に問題がありました。無骨で厳つい鎧を身に付けた、見上げんばかりの黒衣を纏った大男だったのです。

 悪魔かと見紛う異様な風貌に人々は畏怖し、震え、子供は大きく泣き叫んだが、乙女だけは鎧の中の誰よりも優しい、その真っ直ぐな心根を見抜いて、瞬く間に重騎士の事が好きになりました。

 そして重騎士を重宝し、どこへ行くにも一緒に連れて行ったのです。

 重騎士も乙女の人柄に触れる内に深く心酔するようになり、王様の命令なんて関係無くなっていました。

 乙女と黒衣の重騎士は、何時しか相思相愛となって、共に喜びに笑い合い、共に苦難に立ち向かっていきました。


 人々の救済に尽力し、国中を隈無く歩いた乙女のお陰で民は救われ、荒廃した土地は元通り。いいえ、アルロイドはこれまで以上に美しく生まれ変わったのです。

 アルロイドのみならず、周囲の国をも救った乙女を聖女と奉って、神の娘として、大勢の人々が崇めました。


 そして――乙女は。


 自らの役目の終わりを悟った乙女は、元の世界に帰る事となりました。――愛する者をアルロイドに残して、です。

 周囲が幾ら引き留めても「約束だから」と乙女はガンとして首を縦には振りませんでした。

 唯一人、黒衣の重騎士だけが不思議と何も言わず、乙女の傍に控えていました。只々、いつものように。


 誰しも納得したのではありませんでしたが、王様の一声でお城でお礼を込めた宴が開かれました。

 それはそれは盛大なもので参加した者は会場に溢れかえり、外にまで長い長い列を成して、口々に乙女への感謝を述べたのです。

 その宴の翌日が乙女の帰還の日でした。

 神殿の広間で王様やお后様、神官長を始めとする皆が固唾を呑んで見守る中、乙女が夫婦神の名を口にすると、それに応えるように不思議な事が起こりました。

 乙女の足元から、白く透明な光が石畳を走って、忽ち幾何学模様を描かれたのです。

 聖なる光に照らされた乙女は世話になった人々からそれぞれ挨拶を交わします。そして、黒衣の重騎士を最後に呼びました。


「私の騎士様」


 広間の後方に控えていた黒衣の重騎士はがちゃがちゃを音を立てて、乙女の前に跪きます。

 乙女は中腰になり、こうべを垂れる黒衣の重騎士の頬をそっと両手で挟んで、上を向かせるのです。


「…騎士様」


 乙女は黒衣の重騎士の目を見ながら、もう一度その名を呼びました。

 囁くような、小さい声だったのですが、大勢いる割には静かな広間によく響きました。


「貴方の事、大好きでした」


 だから――。


「たとえ世界が違っていようとも、ずっとずっと友達です。何処に居ようとも、大好きな貴方の幸せを願っています。友達として」


 乙女は見上げてくる黒衣の重騎士の額に祝福の口付けを落とします。


「も、もったいない、畏れ多いお言葉。――私奴を、友人等とは…」


 黒衣の重騎士は言葉に詰まって言い切れません。

 身体が小刻みに震え、その鎧の下で咽び泣いているであろう事は誰の目にも明らかです。


「聖女様の幸せを祈って、おります…故」

「ありがとうございます。騎士様、大好きだった人」


 慰めるように黒衣の重騎士の額に羽根のような口付けを、また一つ。


「皆様、さようなら」


 これが乙女との今生の別れになってしまいました。

 乙女が別れの言葉を言い終わる前に聖なる光はさらに輝きを増し、光の放流となって、皆の視界を真っ白に染めました。


 そして光の放流が収まると、乙女の姿は何処にもありません。

 ひらひらと、光の粒子が舞っている、美しく幻想的な神殿の広間だけでした。



 愛する者を無くした黒衣の重騎士も、いつの間にやらアルロイドから姿を消していました。


「陛下、今生陛下。申し訳ございません。私の剣は最早、聖女の為にあります。何卒、この後も聖女にだけお仕えする事をお許しください」


 聖女が帰還した翌日にはそう王様に願い出て、国の騎士の位を返上してしまったのです。


 その後、黒衣の重騎士を見た者は誰もいませんでした。

 風の噂では聖女を祀る神官になったとも、故郷に戻ってその生涯を独身で貫いたとも、云われています。



     【絵本 聖なる乙女の偉業と黒衣の重騎士の涙 より抜粋】






 聖女が去ってから、半年後―――。





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