雪降って欲しい
クリスマス過ぎましたね
俺の起床は午前七時だ。この起床が社会人にとって早いのか遅いのかはわからないが、サンタクロースになる前は昼起きなんで当たり前だったので主観的に見れば相当早い方だ。
「こらー!兄貴!起きる時間だよ!」
俺がこんなに早く起きることができるのも毎朝ユウが起こしてくれるからだ。
あえて言おう!この朝の起床時間が俺の唯一の生きがいだと
多分この朝に舞い降りてくる天使がいなければとうていサンタクロースという職を続けてはいられなかっただろう。この天使のおかげで俺は自殺しなかったと言えよう。
朝起きて
天使と対面
幼女キタァァァァ
もはや毎朝作っている川柳も匠の域だ。
「ほら、早く起きないと強引な方法で起こすよ」
そう言ってゴソゴソという音が聞こえる
「はい、口を開けて」
俺は言われるがままに口を開ける
ピチョン
一滴の液体が俺の口に入り込む。なんだこの感じ。味はほんとんどないが、どうも水のようなさらさらした感じはなく、どちらかといえば少しドロリとしている。
「おいユウ。これはなんだ?」
さすがの俺も中身が気になる。すると、ユウはニヒヒと悪戯っぽく笑う
「目薬だよ」
「ぉおおおおぇぇぇぇええ」
俺はたまらず布団から飛び起き洗面台に顔を近づけ嘔吐する。
ひとしきり嘔吐し、気分が落ち着いてくるとユウをにらめつける。
「いいかユウ。世の中にはなやっていいこととやってはいけないことがだな」
「おはよう兄貴」
俺が叱りつけようとしたらユウはとびきりの笑顔で挨拶してきた。
そんな可愛く笑顔になればなんでも許すと思うなよ。許すに決まってるじゃないか!
長袖をきていても少し肌寒い晩秋。そろそろこたつを出そうかと思っている。
俺の朝はそれほど多忙じゃない。七時から八時までの間で朝ごはんに洗顔、歯磨き、エロゲなどを済ませ、仕事に必要な物をリュックに詰めて出勤するという余裕のあるスケジュールだ。
そこから、カリンとともに俺は自転車でカリンは走って出勤する。てんやわんやで八時半には協会に到着というわけだ。九時から仕事開始だから余裕で間に合っている。今度から俺のことを余裕のある男と呼ぶように。
「ちわーす」
俺はサンタクロース協会のビル十三階にある住宅地の一つの家の玄関のドアを開けて適当に挨拶する
「ちわーす!」
その適当な挨拶に勢い良く答えてくれるのは俺のサンタクロースとしての上司である中西だ。奥の方ではタバコを吸いながら新聞を読んでいる沼部長がいる。俺を含めてこの三人が東京にプレゼントを配るサンタクロースだ。サンタクロースってのは、あれだ、赤い服きたあいつのことだ。
「いやぁ、段々と外も寒くなってきましたね」
俺は中西に話しかける
「そうですね。そろそろサンタ服も暑苦しくならない時期になりましたね。そういえば幸太郎さん。クリスマスはもちろん仕事で忙しいのでもちろん予定なんかいれちゃダメですよ」
「あはは、じゃあ、画面の中の理想像とのデートはお預けってことですね。了解しました」
「へぇ、幸太郎さんに彼女がいたんですか」
「いや、まあ、この年だし、彼女なんて抱えるほどいますよ」
ああ、本当に抱えるほどの量のギャルゲ、エロゲをしてきた。
「そうなんですか。二股なんてダメですからね」
「わかってますって」
なんか心が痛い。そんな純粋に受け止めないで中西さん。
「はい!ゲームの話は終わりにして、仕事をするぞ!」
俺たちの会話に急に沼部長が割り込んでくる。
「じゃあもうそろそろクリスマスだし、そろそろトナカイとソリとサンタ服のサンタクロース三種の神器を使って実際にプレゼントを配る訓練を行うぞ!」
「「はい!」」
ソリの扱いについては中西から教わっていたのだが、実際に扱ってみると相当難しい。移動はただトナカイがソリを引くだけなのでたやすい。だが、乗り心地が最悪だ。空を飛んで移動するので(空を飛べる原理みたいなものの説明を受けたが全くわからなかった)空中という不安定なところにいることになる。つまり、めちゃくちゃ揺れる。そして落ちる。そしてまた病室に運ばれる。それの繰り返しだ。
「あの、今回のコツはなんですか?」
「うーん。今回ばかりは慣れしかないからなぁ。まあ、これからずっとソリに乗る訓練をするから安心していいよ。体力もついてきたしね」
「そうしてもらえるとありがたいです」
カリンも心配そうにこちらを見つめてくるが頭を撫でて安心させる。ソリのことに関してはカリンは何も悪くない。むしろ最高の引き方をしてくれる。中西は「二人の愛が織りなす技です」とか言っていたが、確かに相性はいいみたいだ。
「あの、沼部長」
「どうした?」
「何の脈絡もないですけど、この際いろいろな疑問を投げかけますよ。そろそろ最終回も近いので」
「ん?いいよ。最終回が近いからね」
「まずは俺はサンタクロースがくれるプレゼントは親がくれたものだと思ってました」
「ああ、それは超能力による記憶の改ざんだよ。サンタクロースがいるってばれたら何かと面倒だからね」
「マジですか。じゃあ次にプレゼントが俺の欲しかったものとは違うものだった時もありました」
「いや、そんなことはないよ。どれだけ上辺でこれが欲しいと思っても心の奥底では無理だと諦めてしまっている場合がある。その時は心の奥底で願っている物を渡すよ」
「じゃあ、俺が二十歳の時に頼んだ『超絶ラブリー学園』は本当は欲しくなかったのか」
「うん、サンタクロースは子供にしかプレゼントを渡さないからね」
「まあ、その他いろいろ聞いても超能力とかいう理由で突っぱねられるでしょう。最後にこれだけは聞いておきます。俺たちの給料とかプレゼントにかかるお金とかはどこから出てきているんですか?こればかりは超能力に頼るとまずいでしょう」
「ああ、それは普通に一般人からの寄付金とか、国からの援助とかでまかなっているよ」
「国の援助…」
「そう、世界中の…と言ってもサンタクロースの習慣がある国だけだけど…人たちが我々を助けてくれているんだ。その期待を裏切らないようにまず幸太郎君はソリに乗れるようにしようか」
「精一杯頑張ります」
俺は重すぎる期待に苦笑しながらしぶしぶ頷く。まあ、そんな期待がなくとも俺は頑張るんだけどな。そこまで言われて中途半端な結果に終わらせちゃダメだよな。よし!沼部長もソリに関しては慣れしかないと言っていたしいっちょやってやるか!
俺はソリに乗りカリンに進むように指示をする。橇はだんだんと地面から離れてはいき、家を見下ろすほど高くまで浮かぶ。そして、カリンが姿勢を低くして勢いよく走り始めた。
ドコドコドコドコ……ひゅ〜〜〜〜………どぐらましゃ
「痛い!」
サンタクロース協会は一日八時間労働を基本としているので朝九時から仕事を始め、昼休みの一時間を挟み、午後の五時に仕事は終了だ。俺はカリンと共に夕日で照らされたアスファルトの上をヨロヨロ歩く。俺の体には歴戦の猛者のように痛々しい傷が刻まれている。無論ソリから落下した際に刻まれた傷だ
俺はスーパーで少し買い物をしてアパートに戻る。いや、本当はまだうまくソリに乗れないから残業として練習しようと思っていたのだが、流石にそれはやばいと上司二人に止められた。情けないな俺。
俺はため息をつきながらアパートにつきカリンを鹿小屋の中に入れて自分の部屋に戻る。
「ただいま」
「兄貴おかえり〜」
天使の登場。俺のソリの落下でついた傷は一瞬で消える。幼女の前くらいカッコつけさせろよ
「じゃあ、飯を今から作るから少し待っとけ」
「はーい」
なんて素直でいい子なんだろう。そういや、いい子と言えば…
「おい、ユウ。いい子にはサンタクロースが来るぞ」
俺がユウに向かって言う
「う、うん。でも、私にプレゼントなんて来たことないし」
しかし、ユウの返事は歯切れが悪い
「それは多分心の奥でなにも望んねえからだよ。いいか、この際言っさまうが、サンタクロースはどんな子供でも差別せずに必ずプレゼントをくれるぞ」
俺はさっき得た知識を自慢するように言う。多分みんなも経験あるだろ。
「親がくれるんじゃないの?クリスマスプレゼント」
「なに言ってんだよお前。サンタクロースはいるぞ。だからお前は安心してプレゼントを頼め」
「う〜ん。兄貴が言うとまた二次元に魅了されたのかな?とか思うけど、兄貴だったらミニスカサンタのことを言うはずだから、やっぱりいるのかな?サンタクロース」
「なんだその俺の頭の中の考察。めちゃくちゃ残念な人みたいじゃねえか」
「え?自覚が…ないの?」
「…え?」
妙な沈黙が場を支配する
「ええい!俺の話なんざどうでもいい。とにかく、なんか欲しいものはないのか?」
「んー?そんな急に言われてもなー。そうだなぁ〜。……ふーむ……ん?」
ユウは何かに導かれるようにトタトタと俺の部屋の窓に向かって行った
「わぁ!ねえ兄貴!雪だよ!雪が降ってる!見てよ兄貴。もしかしたら明日積もるかなぁ」
俺も立ち上がり窓まで近づく。その窓から見えた風景は確かに弱々しいが雪が降っている
「ねえ、兄貴明日、雪積もるかな?」
普通に考えたらこんな弱々しい雪で積もるわけがないとわかるのだが、ユウの生き生きとした目を見るとそんなことを言えるはずもなかった。
「まあ、もしかしたら積もるかもな」
するとユウは一層目を輝かせる
「だよね!積もるよね!」
ユウは年相応に窓から見える景色を見て飛び跳ねた
そんな風にはしゃいでいたユウが急に静かになる
「ん?どうした?急なテンションの上がり下がりは描写しづらいぞ」
「私にサンタさん来るかな?」
「来るに決まってんだろ。ユウはいい子にしてるんだから。サンタクロースは絶対来るって俺が保証する」
「じゃあ…手袋が欲しいな」
「ん?」
「クリスマスプレゼントはあったかい手袋が欲しい」
「そっか…なら、ちゃんと俺が運んできてやるからな。だって俺はお前のサンタクロースなんだから」
「………プロポーズですか?」
「ちげえよ!」
雪降る街
子供の期待する顔
他にも美しいイルミネーションや街の浮ついた雰囲気
これらの事柄が否応無く一つの事柄を意識させる
もうすぐクリスマスだ!
欲望まみれの生活!