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一夏思い出

夏の淡い思い出の物語

さあ夏だ!夏といえば海とかスイカとかカブトムシとか蚊に刺されて身体中がかゆいとか熱中症で倒れて病院に運ばれるとか(その時誰も見舞いに来てくれなかった)そんな楽しい季節だ!早く夏休みにならないかなー


「サンタクロースに夏休みなんてないですよ」


え?






はあ、暑い。暑すぎんだろ。なんなんだよこの暑さは!もうさ、都会だから涼しいとかないの?アスファルト熱すぎだろ。これに牛肉おいたらジュージュー音を立てて美味しそうに焼けちゃうよ?即席焼肉パーティーの始まりだ。つっても俺友達いねえから焼肉パーティーなんてやったことねえんだけどな。惨めだ。あれ?この右頬に滴る液体はなんだろう?くそ!なんでこんな時に俺の横をリア充が通るんだ。リア充爆ぜろ。なんか、いいことねえな。こんな時は千葉の実家に帰って、|究極世界の創造の担い(エアコン)にあたりながら異次元の理想郷(エロゲ)をするに限る。俺はそう思って中西に聞いてみたんだ。「夏休みはいつですか?」と、すると帰ってきた答えは


「サンタクロースに夏休みはないですよ」


え?


というわけで冒頭に戻る。


「いや、マジでないんですか?夏休み」


「むしろなんであると思ったんですか。サンタクロースは一応国の援助を受けている組織ですから、協会とついていても公務員みたいなものなんです。休むわけにはいかないんですよ」


「そ、そんな…。さよなら二次元女子(カノジョ)


俺はその場にがくりと膝をつく。俺の横でカリンが慰めるように手をなめてくれる。


「おおい。そこの若いの。さっさと仕事だ仕事!汗を流せ!」


声をかけてくれたのは高血圧で倒れるんじゃないかとひそかに心配している沼部長だ。相変わらずテンションが高い。


「よし!してお仕事頑張りますよ。ねえ!幸太郎さん!」


「はあ、肉のために頑張るか」


部長 沼 茂


上司 中西 砦


新人 安藤 幸太郎


この俺たち三人はサンタクロース協会というところに勤めており、要するにサンタクロースそのもの。24日の深夜にプレゼントを配っている赤い服をきたあいつだ。そして、ここがそんなサンタクロースの仕事場である。ビルの13階を丸々使った住宅街の一つの家の中に俺たちはいる


「さあ、今日は新しい訓練がありますから楽しみにしていてくださいね」


そして、新人である俺はそこで訓練を受けている。


「新しい訓練?一体なにするんですか?」


その新しい訓練と聞いて興味を抱く。もうそろそろトナカイの世話やサンタクロースの基礎知識の授業は聞き飽きたからな。


「ふふふ。今回からかなり実践的な訓練となりますよ。なぜなら!サンタ服を着るから!」


「おおお!サンタ服!」


久しぶりのサンタクロースっぽいことにテンションが上がる


「そして!これが幸太郎さんのサンタ服です」


サッと紙袋を取り出して俺に渡す。中身は言わずもがな赤いサンタ服だ。


「おおお!サンタ服だ!」


「では!そこの部屋でちゃっちゃと着替えて、訓練しますよ」


「はい!」


俺は勢い良く返事をして、着替えるために中西の指差した部屋へと向かった。








俺は三分で苦痛にまみれた。サンタ服は複雑そうな構造に見えるが意外とすんなり着れた。問題はそこじゃない。


「はい!まだ始まったばかりですよ。サンタクロースぅぅぅ〜ファイヤー‼︎」


「ふ、ふぁいや〜」


元気良く右手を上げているのは中西だ。まあ、それに続いて弱々しく右手を上げているのはもちろん俺。なんでこんなに弱々しいのかというと…ん?いつも弱々しい?うるせえ!くそ!俺はそんなに弱そうに見えるのか。

話がそれた。なんで俺がこんなに弱っているのかというと、走っているからだ。こうなった経緯を話そう。







俺が着替え終わって家のリビングに戻ると、俺と同じくサンタ服を着た中西と、いつも通りパソコンのキーボードを叩いている沼部長がいた。ついでにカリンはすでにトナカイ小屋の中だ。


「さあ、行きましょうか」


「はい!」


お互いにいい感じに気分が上がってきたところで


「おーい。ちょいと二人ともこっち来て」


沼部長に呼び止められた。頭をひねりながら沼部長の大きな机の前に立つ。


「まあ、今から君たちには限りなく本番に近い訓練をこれからして行くんだけど、その前に中西君」


「は、はい」


突然名前を呼ばれ素っ頓狂な声を上げた中西。


「うん、君は鍛錬を怠っていないようだし大丈夫だね」


「ありがとうございます」


「じゃあ、次に幸太郎君」


「ふぇっふぉ?な、なんでしょうか?部長」


まさか俺も呼ばれるとは思ってなかったので、かなり驚き俺もまた素っ頓狂な声を出す。まあ、中西の声の方がアホらしかったがな。


「うーん。率直に言うと筋肉全然ないね」


「うっ」


「いやー、意外とこの仕事体力いるからね。そんな貧弱な身体じゃもたないと断言できるよ。むしろそこまでの貧弱ボディを作り上げることができていることに驚かざるを得ないね」


「いえ、これにはわけがあってですね。子供の時から運動が嫌いで、それに畳み掛けるようにこの頃はもやしばっか食べてて、そりゃこんな貧弱にもなりますよ。俺に非はないです。俺を取り巻く環境が悪いんです」


「おお!全て自分の環境のせいにするとはやるもんだね。でも、この仕事は体力いるから。体力をつけてから訓練を始めるから。異論は認めない。やっておしまい!中西隊員!」


「ラジャーです!では!行きましょうか幸太郎さん!愛と青春の汗をともに流しましょう!」


「いや、ちょっと待って、俺はまだ首を縦に振ってないし、もともと体力ないから死ぬ。絶対死ぬって」


「問答無用♪張り切って走りましょう!」


「そ、そんなぁぁぁ!!」









というわけで現在に至る。数分しかたっていないってのにもう、息が切れ始める。てか、ここのフロアは外の気候に限りなく似せているため、めっちゃ暑い。それに加えこの格好。めっちゃ暑い。しかも、この服は重たい。こんなに悪条件な中走っているのだから息が切れて当然だ。もう限界だ。なんとか、この地獄の走りをやめさせなければ…


「あの、中西さん。俺死にました」


「そう言っているうちは死んでませんよ」


チッ、なんでかからねえ


「中西さん。あの公園で蘇生させてください」


「まだ一キロしか走ってないじゃないですか」


チッ、さっさと協会で蘇生させろよ


「中西さん。俺今倒れました」


「またそんな冗談を。ほら、もっと頑張りますよ」


バタッ


「え?幸太郎さん?幸太郎さぁぁぁぁん」








気がつくと俺は公園のベンチで横になっていた。頭には柔らかい感触がある。どうやら気を失っていたらしい。


「うーん。ここはどこだ?」


「だ、大丈夫ですか?」


俺の目の前に中西の顔が見える。ちゃんと心配してくれてなんだか嬉しい気持ちに…


ん?この寝ている体制で中西の顔が目の前に見えるということは、つまり、この、頭の柔らかい感触は!


俺は体を起こして俺が寝ていた頭の部分を見る。そこには折りたたんだタオルがあった。


「ですよね〜。べ、別に膝枕なんて期待してないんだからね」


「全くなに言ってるんですか。一キロで倒れるなんて、みっともないですよ」


「いや、さっき心配してくれてたじゃないですか。大体!なんで中西さんミニスカサンタ服じゃないんですか」


いまの中西のは格好は俺と同じく暑そうなサンタ服だ。無論、脚むき出しミニスカサンタなどでは全くない。


「いや、それに対しては普通にクリスマスの日にミニスカサンタになんてならないからですよ。本番に着ない服をわざわざ着ませんよ。しかも、本番は冬ですよ。ミニスカートなんて寒くて凍え死にます」


くっ、正論だが俺は諦めん!


なぜか俺の中でスイッチが入った


「でも、このクソ暑い夏だけでもミニスカサンタでいてください。その格好だと暑いでしょう」


「確かに暑いですけど、このくらいの苦行に絶えないと立派なサンタにはなれないですからね」


くそ!ここで真面目なところをアピールしてきやがった。手強いな。こうなったら俺も本気でやってやる


「では、休憩時間に着てください!」


「え、え〜〜」


「100円払いますから」


「え、え〜〜〜〜〜」


「大体走っている時にミニスカサンタが前を走っていたらあと50mはいけました」


「え、え〜〜〜〜〜〜〜〜」


俺はさらに叩き込むが中西は「え、え〜」しか言ってくれない。もう、全財産をかけようとしたその時声をかけられた


「おお!いたいた!よし、お前ら集合!」


まあ、沼部長なのだが。今いい感じに覚悟決めたんだからタイミング考えろよ。と、心の中で愚痴りながら沼部長の元へ歩き出す。


「いやー、まさか一キロで倒れるとは思わなかった。だからこれから毎日倒れるまで走らせるから」


「え?マジですか?」


「まあね。でも、一回倒れるまで走るだけでいい。だから今日はもう終わり!明日もがんばってね!」


鬼や…わしの前に鬼が見える


「部長!そんなことを言いにここまでいらっしゃったわけではないですよね」


「もちろん。君たちにはなんでサンタ服を着せたと思っているんだ。えー、幸太郎君は初めてだろうけど、今から潜入訓練するから」


「潜入訓練…」


物騒な名前だな


「説明をお願いしたいんですけどいいですか?」


俺が部長に尋ねる。部長は一つ頷くと説明を始めた


「潜入っていっても別に物騒なことをするわけじゃない。子供達にプレゼントを配るための過程の動作にどうしても潜入という動作が必要だから訓練するだけだ」


良かった。プレゼントを調達するために盗みに行くための訓練かと思った。


「幸太郎君、サンタはどうやって子供の家の中に入ると思う?」


「え?そりゃあ、煙突からノシノシドスンと……って、あれ?」


俺はそこで重大なことに気がつく


「煙突が…ない…」


「そうなんだよ。現代の東京に煙突がある家は希少なんだよね。だから…」


そう言って中西を手で合図して家に向かって歩かせる。そして、中西は家のドアの前で立ち止まることなくそのまままっすぐ歩きドアをすり抜けた


「は?」


そして、すり抜け戻ってきた。なんだよ、すり抜け戻るって。文法的にも単語的にもおかしいがそれしか表現しようがない


「というわけで、煙突もない、ピッキングも時間がかかるし技術の会得にも時間がかかる。ならもうすり抜けるしかないよね」


ならもうすり抜けるしかないよね(迷言)


アホかぁ!何がすり抜けるしかないだ。犯罪じゃねえか。まあ、それ以外にどうするかと言われればそれしかないかもしれないが、それでも抵抗はあるだろ


「さあ!次は幸太郎君の番だ!さあ!行け!」


中西がすり抜けた家のドアを沼部長は指差し、背中を押す。


「幸太郎さん。あなたならできると信じています。頑張ってください」


中西にも励まされる。


フッ、ここで引いたら男が廃れるってもんよ。犯罪?俺はサンタクロースだ!法なんかにビビってんじゃねえ!


「では行ってきます」


俺はそう言うと持てる限りの全ての力を振り絞り地面を蹴る


「うぉぉぉぉぉおおおお」


ドアまであと5メートル


3メートル


1メートル


そして俺の目の前に家のドアが迫る。


「すり抜けろぉぉぉ」


俺は思いっきりドアに向かって思い切りダイブする。


ドシーン


この効果音を聞いたらわかると思うが俺はすり抜けることができずにドアに顔を思い切りぶつけた。


鼻血を出しながら薄れゆく意識の中でこう思った


サンタクロースってなんだっけ


そこで俺の意識は完全に途切れた


夏のゲスい物語

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