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最大級の愛を君へ

うう、サンタクロースのソリを運ぶトナカイは必ずメスです

わけがわからない。なんで俺はトナカイに吹き飛ばされて、医務室のベットで起きて、なぜか部長からおこずかいをもらって、その金でいつもは買わない肉を買って家に帰ってるんだ?


結果から見るといつもの今頃はもやしを買って家に帰っているところが今日は肉を買って鳩尾(みぞおち)のあたりが青くなっている。よく考えたらプラマイゼロじゃねえか。考える前はプラスだと思ったんだがどうやら勘違いだったようだ。じゃあ今度から俺はトナカイに飛ばされると肉が買えるのか…。今日はさしずめ一トナカイ激突と言ったところか


俺の中のサンタクロースのイメージがソリに乗ってプレゼントを配る笑顔の老人の姿からトナカイに飛ばされる若者に変わる


はぁ〜明日もトナカイを手懐けるのか、そうだよなクリスマスだけ働くなんて甘かったよな。でも、給料いいしそれなりに頑張らないとなぁ。


愚痴というか言い訳というかそんなことをつぶやきながら俺は自分の住んでいるアパートに戻る。


「ただいま〜」


「遅い!」


家に帰ってきた俺の前には小学生くらいの幼女がいた。まあ、実際に小学五年生の『麻倉 優』という少女で隣に住んでいる幼女なのだが、ユウの母は夜まで仕事が忙しく、晩御飯を用意できないためユウの晩御飯は俺が作ることになっているのだ。


「まあまあ、落ち着けって、この遅さには理由があるんだよ…ジャーン!今日の報酬!」


俺は高々に肉の入ったビニール袋を掲げる。本当は鳩尾の痣も見せたいのだが我慢だ。


「おお!これどうしたの兄貴。いつもはもやしばかりなのに」


ユウは年相応に喜ぶ。


「フッ、仕事を始めたんだよ。いろいろあって上司がお金をくれたんだ」


「上司の太っ腹!ありがたいね。どんな仕事なの?」


「それはなサン……」


待てよ。このサンタクロースという職業をむやみに言いふらしていいのだろうか?生まれてこのかた二十四年だがそんな職業聞いたことがなかったのだ。もし、ユウに教えてしまうとその責任を取られ失業なんてこともあるかもしれない。ここは誤魔化さなくては


「あのな俺の職業はサラリーマンだよ」


「さっき『さん…』って言ってなかった?」


しまった!くそ!『さん』から始まる職業じゃないといけないのか。えーと


「えーと。あれだ。『酸性の液体を頭からかぶるとどうなるか』という実験の研修生になったんだ。そしてこれは教授からのプレゼントというわけだ」


俺は肉を掲げる。こんな苦しい言い訳通るわけが…


「ふーん。それよりご飯食べようよ」


なんというか俺が肉に負けたような気がする。気のせいだよな。気のせいだよな!


俺はまた自分に言い訳をしてご飯を作る。






「もやしもいいけどたまには肉もいいね。美味しかった」


「おー、まあ、収入が安定してきたら毎回食えるから期待しとけよ」


「えー、うん。まあ、それなりに期待してるから」


「その言い方地味に傷つくからな。俺頑張ってるからね」


「はいはい。私宿題しないといけないから帰るよ」


「おお、そうか、またな」


「うん。またね」


ユウはそう言って隣の部屋へと消えて行った。


「よし!明日もトナカイにぶち飛ばされるぞ!」


やる気が出た。ただ、ユウに肉を食べさせるという理由でやる気が出た。仕事をする理由なんて子供を喜ばせるというだけで十分だ!







デーンとそびえ立つビルが俺の目の前にある。俺は少しその威圧感に飲まれるが、中に入りエレベーターに二回乗って仕事場に向かう。どうやらサンタクロース協会はこのビルの十階から上のことらしい。一階から九階まては普通の会社でカモフラージュのようなものだと言っていた。そして、このビルは四十階あり、そのフロアごとがなぜか見た目よりでかくなるという現象が起こるためサンタクロース協会は実はめちゃくちゃでかい。そして、俺は住宅地のようになっている十三階のフロアへと行き、一番近くにある家に入る。


「ちわーす」


「ちわーす!」


俺の適当な挨拶に尋常じゃない気合を入れて返してくれたのは俺の上司である中西だ。中西はかなり可愛いのだが彼氏とかいるのだろうか?いや、いないな。なんというか雰囲気的に。ついでに言うと、部屋の奥の机で新聞を読んでいるのは沼部長だ。未だにつかめない人というのが俺の認識だ。


「あのですね。昨日少し調べたのですがこの前のカリンちゃんの頭突きはですね。『ショットガン』という最上級の愛情の表現なのです」


「そのわりには名前が凶悪な気がするんですが。もしかして中西さんが勝手につけた名前じゃないですよね」


「ばれましたか」


「まさか図星だったとは…」


それにしてもカリンとかいうトナカイと良好な関係を築かないとプレゼントを配るのも無理になるわけで、給料が入ってこなくて、ユウに肉をくわせてあげられなくなる。それだけは避けなくてはならない。


「よし!じゃあ、あのトナカイに会いに行くか」


「また頭突きされますよ。大丈夫なんですか?」


「大丈夫じゃないけど、俺は金のためにというか肉のために頑張る!」


「おお!では、カリンちゃんと仲良くなるためにこれからのメニューはしばらくトナカイの世話にしましょう」


「お、おおふ。頑張りまふ」






というわけで例の牧場のような場所に来たわけだが、俺は今何をしてると思う?


答えは逃げてます。トナカイから。トナカイの足はめちゃくちゃ速い。どんだけ走っても追いつかれる。中西から聞いたんだが最高時速は80km/hであるためそこらへんの車よりも速い。もちろん平均的な男性よりも下回る体力を持つ俺は逃げ切れるわけもなくトナカイの頭突きをまともに食らい数メートル吹き飛んで気絶する。これを朝からずっと繰り返しもう夕方だ。


「ファイトです!だんだんカリンちゃんの頭突きの衝撃を受け流すのが上手くなってきましたよ」


気絶のショックから立ち直った俺にそう声をかけてくれる中西。


「いや、そんなの上達しても意味ないですよ。てか、絶対うまくなってはいけないスキルですよね!中西さんはどうやってトナカイと仲良くなったんですか」


「ああ、私ですか。私は普通に会った瞬間懐いてきて、アハアハフフフフフって感じで仲良くなりましたよ」


「ごめん。全然わかりません」


「私が無理なら…そうですね…沼部長に聞くしかありませんね」


「呼んだ?」


「ぶ、部長!」


新たな声がした方を向くとそこには話題に上がっていた沼部長が立っていた。あんたは瞬間移動でも使えるのか


「ああ、沼部長!実はですね、幸太郎さんがどうあがいてもカリンちゃんと仲良くできないんです。どうしたらいいと思いますか?」


「ん?カリンと?んー、幸太郎君。君は人間だろ?」


「え?あ、はい。人間ですけど…それがどうかしたんですか?」


「いや、君は人間だけど人間と呼ばれたことはないだろ?もしかしたらカリンのことも君はただのトナカイとしか思ってないんじゃないのかな?」


「そ、それは…」


「そういうところをサンタクロースのトナカイは敏感だ。カリンをカリンとして見てやってくれ。あいつはトナカイじゃなくてな。元は人間だったぐらいの勢いでね」


「トナカイじゃなく、カリンという人間として見る。いや、カリンをカリンとして見るのか」


できるだろうか?相手はずっと頭突きをしまくっているトナカイ…もといカリンだ。俺がどんだけ心を入れ替えても無理なんじゃないのか


「これをできなきゃ一生プレゼントは配ることができないよ。つまり、減給だ」


「げ、減給…」


減給→金がない→貧乏→肉買えない→ユウに嫌われる→死


「部長!俺やって見せます!肉のために頑張ります!」


「お、やる気になったね。じゃあカリンを呼んでこようか」





というわけで、俺は牧場の広場でカリンを待っていた。遠くからドドドドドという音が聞こえる。


来たか…俺は絶対にカリンと仲良くなって見せる。


「うおおおお、来いやぁ!カリンぃぃぃぃん!」


俺は大声でカリンの名前を呼んだ。しかし、勢いは収まらない。クッ!俺じゃ結局ダメなのか


「諦めるな!お前の言葉には愛が感じられない!愛を叫べ‼︎でないと減給だよ」


部長の言葉が胸に突き刺さる。主に減給の部分が


そうだよな。ここから巻き返すには俺が頑張らないとな。愛を叫ぶ、愛を叫ぶ、愛を叫ぶ、愛を叫ぶ!愛を叫ぶ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎


「カリン!俺はお前のことが大好きだ!愛してるぅぅ!」


ピタリとかカリンの動きが止まる。文字通りピタリと、ってあれ?動き出したと思ったら俺に突進してません?今までで一番速いですよって


「あああァァァァァ」


俺はカリンに時速300kmで頭突きされ今までで一番高く宙を舞う。その時中西の声がフラッシュバックする。


『頭突きはショットガンという最上級の愛情表現なんですよ』



はは、これがショットガンか…




ベチャッという情けない音を立てて地面に落下し俺は気絶した。










「おじゃましまーすって、兄貴?横の鹿なに?」


「鹿じゃなくてトナカイだ。カリンっていう名前でな、今日からこの家に住むことになった」


ついでに現在地は俺が住んでいるアパートの部屋で俺の横にはカリンがいた。なぜこのようになったかというと、俺はカリンに吹き飛ばされた後サンタクロース協会の医務室で起きたのだが、その俺が寝ている横にカリンがいて、そのまま中西と沼部長に挨拶をして帰る時にもなぜか俺の横にいて、こうして今も俺の横にいるというわけだ。


「へえ、トナカイね。カリン!よろしくね」


するとカリンは頷く。そして糞をこぼす。




え?糞?



「ちょっと待てぇぇ!こんなところで大便してんじゃねえよカリン!」


その叫びが夕方の空に響いた。何はともあれ家族が一人増えたような感じでいいか。





ちなみにそのあとカリンは外に繋がれて外で育てることになりました。



前書きで話したソリを運ぶのはなぜメスなのかというと、トナカイの角がありますよね。あれって抜けたり生えたりするんですよ。オスは秋、冬に抜けて春、夏に生えてくるんです。逆にメスは春、夏に抜けて秋、冬に生えてきます。サンタクロースのトナカイはツノが生えているのでメスということですね。ついでにこの時のカリンはツノがないです。

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