File3.幽霊の正体見たり枯れ尾花
一年振りの更新。文章書きのリハビリ中。
流石にマンションがいきなり建ちましたよ。ということは無いはずだ。
……無いよな?
「怪奇現象の類とでも言いたいのか?」
「嘘じゃないってば! 所長は事務所から出てないから知らないだけで結構噂になってるよ!」
手をブンブン振り回してプリプリ怒る美月にそう言われて一考する。
確かに……出歩いても人と話す事が減っている。
イカン。どこの引きこもりだ。安楽椅子探偵を気取れるほど俺は優秀じゃない。
仕方なしで俺は美月の言う13番目のマンションを探しにこの暗がりを歩く羽目になった。
マンションの各戸から漏れる光と昆虫対策のオレンジ色の薄暗い街灯だけが俺たちの足元を照らしている。
懐中電灯を使えば随分とマシにはなるだろうが、その明るすぎる光源には余りお近付きになりたくない虫達がお集まりになるので迂闊に使えないのだ。
団地の建設に山を切り開いたという経緯もあって時折繁殖を求めてか大量の虫が飛来するのだ。
「それでその13番目のマンションはこの並びで合っているか?」
「うん」
白というよりはベージュ寄りな外壁に錆防止塗料のせいで真っ赤な外付け階段。
側面には等間隔で縦六つ、横四つの窓と棟を示す黒いデジタルフォントの数字。
1
ぼんやりとしたオレンジの明かりに照らされた人影が二つ、マンションに沿う様に並んで歩く。
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3
4
幾つかの棟を越え鼓動と共に緊張感が高まっていく。
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足音は二つ。俺も美月も声が出せない。
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不思議だ。午後20時過ぎ、遅いとは言ってもまだまだ生活音が響いていて良い筈。だがしかし異様な静けさに背筋に冷たい汗が流れる。
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12
俺と美月に緊張が走る。
次だ。
A
「……オイ」
「あれぇ……」
一々住んでもいないマンションの棟番号を確認しちゃ居なかったがまぁ……これは酷い。幾らなんでも酷い。緊張感を返せ。
「ったく与太話もいい所だな美月」
「えっ……嘘っ」
「あ?」
腰が抜けたように突然座り込む美月。
「アレ……」
と、指差す方向。
13
「マジかよ……」
逃げ出しそうになる足と気持ちを身体を叩く事で奮い起こす。
幽霊など有り得ない。
そんなものが居たら……居てくれたら悪人誰一人逃げ切れるものか。
「確認してくる」
「やっ……おいてかないで!」
ズボンを鷲掴みにされ足が止まる。
「大丈夫だ。幽霊も怪談も存在しない」
美月の手を振り切り13番目のマンションに走りこむ。
不気味に瞬く光。
階段の影に並ぶ鈍い銀色の箱。
走る文字に指を滑らせる。
予感めいた閃きに間違いはなかった。だがどうして?
考えを巡らせ幾つかの推論に達する。
「う゛ーバカしょちょー置いていくなー!」
戻ってきた俺を美月が涙目で責める。
「美月、幽霊退治だ」
「どういうごどよ?」
鼻水を啜りながら問う美月に向かって懐から懐中電灯を取り出す。
足元からマンションの外壁へと光を滑らせるように向ける。
「別の意味で悲鳴をあげるなよ?」
照らすその先は側壁の数字……いや記号。
そして蠢く無数の何か。
「……もしかして蛾?」
「多分な」
「って事は……」
「Bという記号の一部に蛾が集まり13に見えていた。直前にA棟があって良かった此処だけ縦に並んでたら泣いて逃げいたかもしれないな」
「一件落着だろ?」
「あのさ、しょちょー?」
「ん?」
なんだ美月の目が座っている気がする。
「幾ら幽霊や怪談じゃないって思ってもあんな暗い所に花の女子高生を放置するってどういう事?!」
「え? どこに? 花の女子高生なんてのはどこにいるんだ?」
「ぶあぁああか! しょちょーのバーーカ!」
最近見ないようなアッカンベーをかまして美月は足早に帰っていた。
送るべきだったろうか?
しかし……くだらない事件だった。
噂自体は前後を確認するまでもなく余りにも特異な「13」を見て驚いて逃げ出したという事だろうな。
しかし、あんな風にあんな場所に一列に蛾が集まるものか?
否、自然ではない。
夜光塗料ではないだろう。
誘引するような成分を含んだモノが塗られている?
誰が、何の為に?
……足を使うか。放置しておくには近すぎる。
そういえば懐中電灯くらい渡してから離れるべきだったな。
次からは気を付けよう。
話は頭の中にあるのにそれを文章に出来ないもどかしさ。