*第8話*。:*~おかえり~
太陽が沈んでいこうとしている。けれどまだ外は明るかった。
「美奈子ー!どこにいるのー!?」
みんなは必死で美奈子を探した。
雅也の家までの道のりを千夏が案内した。
美奈子と必ず会えるはず…
しかし先に美奈子を探していた雅也が、前の方から戻ってきていた。
「俺は違う道に行く。何の手がかりもないんだ…とにかく手当たり次第に探し出す」
冷静な口調とは裏腹に、いてもたっても居られない様子の雅也は、すぐ近くにある左手側の道へと走っていった。
「雅也は怪我してる!私もついていくよ」
「わかった。任せたよ真耶。私は千夏と一緒に別の道を行くね」
雅也と私、千夏とさつきで二手に分かれて美奈子を探すことになった。
雅也はものすごい速さで走っていたため、見失わないように着いていくのが精一杯だった。
あの電話があってから数十分がたっていた。私の美奈子への心配がますます深まったその時。
雅也が遠くのほうで道を左に曲がったのを見て、私も後からそこを曲がった時、空き地の手前にある道路で体格の大きい男とその近くで倒れている雅也、そしてそれを支える美奈子の姿があった。
「美奈子!雅也!」
私は急いでかけつけた。
さつき達に連絡をすることさえ忘れて。
「お前。面白くねぇな!雅也。この前の約束忘れたのか?」
「…美奈子に手を出すな!」
幸い、美奈子には怪我は無く、無事だった。
しかし雅也の方は右腕を抑え立つことは出来なかった。
「言ったはずだろ?あの女と別れたら、お前の本命の彼女は俺がもらうってなぁ!」
どうゆうことなのか、私も美奈子も分からなかった。あの女って…アイスを食べていた先輩のこと?
「どうゆうこと?」
私が相手の男に聞いた。そいつは3年生だった。
「こいつが俺らにぶつかってきたんだよ。な?雅也くん。」
馬鹿にしたようにそいつは答えた。
「謝っただろ…!」
雅也が言い返す。
「謝った?いつの話だ?そりゃあ。あんな態度じゃ殺したくもなるわ!ボケえ!生きてるだけで幸せだと思いやがれ!」
「謝ったのに、何かに因縁つけて、無理やりあの先輩と雅也を付き合わせたの?」
私は怒り寸前の状態で、でも冷静に男に質問をした。
「あの馬鹿女はボケが好みなんだとよ」
鼻で笑い、男が答えた。そして話を続ける。
「それを分かってて俺はボケに告らせた。案の定OKってとこだ」
笑いながら言う男。私は足元に座っている雅也と美奈子を見つめた。
雅也が痛みながら、初めて訳を話した。
「…俺は軽い気持ちで…。振られると思っていたから…」
「それでなのね…」
美奈子は優しく雅也を抱きしめた。
「ったくよぉ…!何なんだ?お前の彼女は。あ?逃げ足は早いわ。隠れるわで、何も出来なかった」
頭をかきながら言った男はこれであきらめるかと思えばそうじゃなかった。
「約束は約束だ。渡せよ」
「誰がお前なんかに…!」
雅也が言い返す。
「あぁ!?」
キレた男が雅也に手を挙げる。
思いっきり振り下ろされたその手を私が、私の頬でかばった。
この時の私にはなんの恐怖もなかった。
自然と雅也をかばっていた。
「なんだよブス!どけよオラァ!」
私は雅也と美奈子の前をどかなかった。
男は威嚇する。
「あ?何だその目は?」
私は真っ直ぐに相手を睨みつけた。
そして私は、相手の右頬に思いっきり平手打ちをかました。
「最っっっ低!!」
私は唾を吹きつけるように先輩に言った。
男の怒りが頂点に達した。今度は私に大きくごつい手が振りかかった。
「真耶!!」
美奈子が叫んだ。
と同時に私はいつのまにか地面にふせていた。気付いたら誰かが私をかばっていた。
それは美奈子でもなく
雅也でもない。
…勇司くんでもないその人はどこかで見たような男子だった。
「大丈夫?痛かったらごめんね」
その男子が私に声をかける。
「良弘…!」
雅也が呼びかけた。
野崎良弘。私に告白をしてすぐに女をつくった、あの本人だった。
出来ればあんまり会いたくない人だったけど、悪い人じゃなさそうだし、今のこの状況で助けがきたのは少し安心した。
「…ありがとう」
そう言って
私はすぐに起き上がった。
「昨日の放課後だっけ?雅也に掴みかかったのって。あの時もすごかったけど、今もすごいね」
「うるさいなぁ」
避けられた上に勝ったような雰囲気の私達の姿をみて、男の先輩はとうとう怒り狂って良弘君の後頭部をめがけて殴った。
「いやぁっ!」
美奈子が叫んだと同時に良弘君は地面に倒れた。
「良弘!!」
「野崎君!?」
私は先輩をすぐに睨みつけた。
「さっきから何だよ!その目はよぉ!!」
怒鳴った先輩の右頬にグーが入った。…良弘君だった。
倒れかけた先輩はすぐに状態を起こし、良弘君の左頬を殴った。そして良弘君も殴り返す。
喧嘩が始まった。
私達が止めようとした時に一台の車が止まって、助手席側の窓側が開いた。
運転手の男性がそこから大声でこちらに呼びかける。
「なにやってんだ!」
その人は男の先輩の担任だった。
先生は車から降り、生徒をなだめた。
「学校に来い。山田」
「なんでスか」
「何でじゃないだろう!後輩を殴るなと、あれほど言ったのに!」
「知らねぇよ。んなこと」
「とにかく車に乗れ。いいな?…それから君もだ」
良弘君だった。
「先生!良弘は…!」
焦った雅也が先生に喧嘩の原因を話そうとした。
しかし先生は
「彼から直接話を聞く。君達はすぐに帰りなさい」
と言って、男の先輩と良弘を乗せて車を走らせ、去っていった。
当たりは静まり返った。
夕日の明かりが私達を優しく包み込んだ。
「良弘なら大丈夫だ」
そう言ってゆっくりと立ち上がった雅也は右足が特に痛むらしく、ほぼ片足で立った。美奈子に支えてもらいながら…。
「…俺は…弱い」
雅也はそう言って口元は笑って見せたけど、溢れた涙を止めることはできずに、美奈子を抱きしめた。
「ほら。すぐに泣くだろ?」
でも美奈子は黙って彼の背中に手をまわし
優しく応えた。
「おかえり雅也」
2人が元に戻った。
嬉しかった。
すごく、すごく!すっごーく!!
そして雅也と美奈子は
やっぱり憧れのカップルだった。
その後、今朝雅也を運んでくれた男性が車で通りかかり、また雅也を乗せてくれた。「よく喧嘩するね。若いなぁ~」
メールで2人のことを、さつきと千夏と紀香に連絡した。
みんなカバンを教室に置いているため、学校に集まった。
美奈子の無傷な姿を見て、千夏は泣いて喜んだし、さつきは「逃げ足早いんだね」と関心していた。
美奈子は何度か追い詰められてはいたけど、小柄なため、すり抜けてどこにでも隠れられたらしい。
「危なく、ゴミ箱の中にまで入ろうとしてたよ」
身長は私と変わらないのに細いからね。美奈子は。
紀香は良弘のことを聞いて心配していた。…やっぱり諦めてはいないようだ。
私の友人は一途な人が多いなぁと改めて思った。
「…てか真耶って、見かけによらずスゴいね」
さつきが言った。
「怖くないの?」
紀香が聞いた。
「怖くないって言ったら嘘になるけど…」
「必死になっちゃうんだよねっ」
私が言おうとしたことに美奈子がかぶさった。
「うん…悪いことだって分かってるんだけどね…」
「空手とか習ってたの?」
千夏が聞いた。
「何にも習ってないよ。昔ピアノを習ってた」
「え~!?意外~!!」
みんな口をそろえて言った。
「んで。ピアノ壊したんだね。強く引きすぎて。」
「バカにしないでよ千夏!」
カバンをもって
階段を降りた時に
勇司君にあった。
久しぶりにドキッとした。
…でもちょっと会いたくなかった。
変なところを見られたから…。
私は少し避けて靴箱に向かおうとした。
その時だった。
「じゃあな」
久しぶりに聞いた声は変わらない優しい声で、懐かしさと共に嬉しさが半端じゃなかった。
「またね」
と返してすぐさま靴を履いて校舎を出た。
外は暑くて、暖かい夕陽が私を照らした。赤くて綺麗な光は暑苦しく感じなかった。
久しぶりにいい気持ちで広い校庭をみんなと歩いた。
「良弘なら大丈夫だよ。紀香」
さつきが言う。
「うん。分かってる。そうじゃなくてね!……私もかばって欲しかった…」
「なにそれ!あきれた!」
さつきが本当にあきれたように言った。
あまりの衝撃発言でみんな大爆笑した。
私達の笑い声が校庭中に響きわたる。
こんなに笑ったのは本当に久しぶりで気持ちよくて嬉しかった。
「本当に良かったね!美奈子っ」
「うんっ!ありがとうみんな!これで夏は楽しく過ごせそう!」
いつまでもニコニコな美奈子と私にさつきが一言こう言った。
「応援団あるでしょ」