*第7話*。:*~思いがけない日々~
長文となっております・・・汗
最後まで読んでいただけると幸いです!
よろしくお願いいたします・・。
昔からそう。
私は口より手を出すほうが早かった。
特に友人に害を加えた相手にはよく、怒鳴る前に平手打ちをしていた。
昔から活発な私は、大切なモノが傷つくことが一番嫌いだったから、壊されたらとにかく腹が立っていた。
…そんな自分が嫌いだ。
だから自分が傷つかれたとしても手は出さない。
…また壊された。
一階へと降りる階段と、教室のある二階へと上がる階段の狭間で、私は美奈子の彼の胸ぐらをつかんでいる。
何の騒ぎかと見にきた約20人ほどの、クラスメイトや同級生の中に、千夏やさつきが心配そうに見つめていた。その近くには勇司君もいた。
「どうゆうこと?」
私は雅也の目を見て聞いた。
「何が?仲田も俺に言ったじゃん。最低だって」
「そう言うことじゃないでしょ」
「どうゆうことだよ?」
「ごまかさないで答えなさいよ!」
「ごまかしてねぇよ!」
涙の訳をあかそうとしない美奈子の彼は、胸ぐらをつかんでいる私の右手を振り払い、私を睨んだ。
「美奈子に呼ばれたんでしょ?」
「行かねぇよ」
「何で?」
「話すことなんかない」
「聞くことは出来るでしょ?美奈子はあんたに…」
「話を聞く気もねぇよ」
美奈子に対する彼の冷たい言葉に、私は怒りを抑え込んだ。
「美奈子と本気で別れるつもり?それでいいの?」
「ああ。もう終わった事だろ?」
迷った素振りを見せない彼は当たり前のように答えた。
何で…?今までのあれは何だったの?
…美奈子の一体何が悪かったの?
…涙を流した。
でも私じゃない…
雅也でもない。
きっと美奈子だ。
誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
千夏とさつきの声もかすかに聞こえる。
それなのに雅也は冷静にし、私の後ろ側にある1階の階段へと向かった。
「あんた…このままだと、ろくな死に方しないよ」
私は通り過ぎ行く雅也に、聞こえるようにつぶやいた。
それでも階段を一段、また一段と降りて行く雅也は止まらなかった。
「一度、女に好きだと言った男は責任を持って最後まで愛することをする…私はこれを常識だと思ってる。…ねぇ雅也。あんたがはっきりと美奈子に嫌いだって振らない限り、私も美奈子もあきらめないから!」
最後の階段を降りた雅也はこちらを振り向くことなく玄関へと姿を消した。
私のあの言葉には何の根拠もない。ただ本当に常識だと思っている。
だって…そうでしょ?
本当に好きな人に振り向いてもらえたら嬉しいし、一度でも好きだって言ってくれたら、また言ってもらいたいって思うとおもう。
そして彼を愛するし、愛されたいと願う。だから女の子は可愛くなろうと自然に頑張ることをする。
だから男の子はね。その女の子の努力や心を壊すようなことはいけないと思うの。
あの言葉は
私のどうしても譲れない気持ちだった。
そして、美奈子に対する償いでもあった。
…雅也を止められなかったから…。…美奈子の傷を私の手で深くしてしまったから…
『美奈子と本気で別れるつもり?それでいいの?』
『ああ。もう終わったことだろ?』
私は泣いている美奈子の元へと階段を上がった。
泣きくずれている美奈子の肩にさつきが優しく手をかけていた。
美奈子に傷をつけたのは私…
「ごめんね…」
そう言ったのは私じゃない。美奈子だった。驚いた私に美奈子が続ける…
「私…何にも出来なかった…!見てるだけだった…!私が動かないといけないのに…っ!…震えてて…っ」
泣きながら詫びる美奈子に私は首を横に振り、
「美奈子は何も悪くない!…ごめんね…っあんな事を言わせるつもりはなかったのに…美奈子を傷つけちゃった…!」
抑えていた涙が私の頬をつたって、次々と流れ落ちる。
「そんなことないよ。真耶は美奈子にチャンスをくれた…そうだよね。美奈子
」千夏が私の頭を撫でながら言った。
「私、真耶が言ったとおり、あきらめないから…!!私、次はちゃんと話すからね…っ!」
美奈子のそんな心からの言葉に私は嬉しさと申し訳なささで涙が溢れ出した。
一部始終を見ていた観覧者達の中にはもらい泣きをしている人もいれば、馬鹿らしいと言わんばかりで帰って行く人も中には数人いた。
泣きやんだころには私達4人以外誰もいなくなっていた。
教室からカバンを取り、千夏の笑い話ですっかり明るくなった私達は学校を出た。
この日はなぜだか、一段と夕日が綺麗に見えた。
泣いたあとだからかな…
翌日、いつもなら隣の席にいるはずの雅也がいなかった。欠席したのだ。
「どこまで逃げるんだろうね」
さつきが言った。
「逃げても無駄だもんね~真耶!」
「そうそう!美奈子のしつこさは筋金入りなんだから!」
「ちょっと~!一途って言ってよ~!」
こんな馬鹿らしい会話が本当に馬鹿な話だったと感じたのは放課後のときだった。
千夏がすごい勢いで教室に入ってきて、美奈子に衝撃の事実を話した。
「さっき、うちの彼から聞いたんだけど!今朝、雅也が先輩に殴られたらしいよ!んでそのまま家に帰ったって…!」
「えー!?」
私もさつきも紀香も、声を出して驚いたけど美奈子は言葉も出ないほど驚いていた。
「何年生に!?」
私が聞いた
「3年生らしいよ。先生達はまだ知らないみたい」
「昨日のことでイライラしてて、先輩にはむかったとか?」
いかにもありそうな紀香の考えは違っていたみたいで、千夏は首を横に振った。
「理由はわからないけど…体格の大きい4人組がいきなり雅也を囲んで何かを話していた後に殴られてたって…。」
美奈子と目があった。
千夏が話を続ける…
「うちの彼が遠くからそれを見てて、先輩が去ったときに雅也に近づいたら、このことは誰にも言うなって言ったらしいよ。通りすがりの男性が、ボロボロの雅也の姿を見て家まで送って行ったんだって」
千夏が話を終えた時、沈黙が続いた。
「これって…美奈子の件とは関係ないよね…?」
千夏が沈黙を破った。
私は今までの、数々の不自然な雅也の行動を思い出していた。
「…ねぇ。美奈子」
「わかってるよ真耶。私、雅也に会いに行くね。話をしてみたい。」
私はうなずいた。
「私も行こうか?」
「大丈夫だよ。さつき。ありがとう」
「メールしてね」
「うん!」
美奈子は私に笑顔で返してカバンを持った。
さつき達と一緒に美奈子を学校の玄関で見送った。
美奈子はしばらく、こちらに手を振っていたけど前を向き直して、小走りして行った。
「うまく行くといいなぁ…」私の心からの願いだった。
だってあんなに幸せそうだったんだもん。あの2人…
「さ~て!応援団の名簿を出しに行くよ千夏!」
さつきが言った。
「待って!メロンパン買ってから行こう!購買部が閉る!」
「私も買う!」
購買部へと走る千夏と紀香を見ていた私は、ふと校長室に目を向けた。
そこからでてきたのは…
「…!雅也!?」
…だった。
私は慌てて駆け寄った。
雅也は右目をガーゼで軽くとめられていて口や頬に痛々しい傷があった。
「…美奈子は?」
「さっき雅也のところに…」
「は?何で?」
「あんたが傷ついたって聞いたから…」
それを聞いた雅也は頭をかいた。
さつきと千夏と紀香が走ってきた。
「何であんたがここにいんのよ!?」
千夏が聞いた。
「あんたの彼氏が校長に告げ口したんじゃない?訳を聞きたいから学校に来いって呼び出されたんだよ」
あきれた口調で雅也が答えた。
「あ…そうかも。昼休みに私があいつと会う前に校長に会ったから…」
「で、何で殴られたの?」
さつきが私より先に質問をした。
「…帰る」
そう行って立ち去ろうとする雅也の腕を私が掴んだ。
次はどんな冷たい言葉を浴びされるんだろう…
正直、少し怖かったし、二度と聞きたくなかった。
振り払う素振りもせず、私達を見ずに、静かに雅也が答えた。
「…美奈子をつれ戻す。…あいつの家は真逆だからな」
「…え」
今度はさっきの美奈子と同じ感じで驚いた私達は、顔を見合わせた。
「話せば長いけど…俺は美奈子に嫌いだなんて言えない」
私達は一斉に笑顔になった。これほどの喜びは高校入学以来のことだった。
「俺は美奈子が好きだ…」
「そんなことは良いから早く美奈子のところに言ってあげなよ!」
「なんだよ仲田!腕を掴んでおいてその冷たさ…」
みんなまた顔を見合わせて喜びの笑顔で笑った。
「よくわかんないけど…まぢで良かった!超嬉しい!」
千夏が本当に嬉しそうに言った。
「んじゃあ…俺行くわ」
そう行って走りだそうとした雅也より先に、私の携帯が鳴った。…電話だ。
「やば!電源切ってなかった!」
「早くしまえ!しまえ!」
紀香がせかした。
「校庭を出たら?そしたら学校内じゃないから携帯使えるよ」
さつきが教えてくれた。
「え?そんなもんなの?校則って」
私は関心した。
雅也を含めたみんなで、そのまま靴に履きかえて校庭を出た。正門前のところで校舎から見えない位置で携帯を取り出した。
電話は美奈子からだった。
さっきは驚いたから切ってしまったため、私からかけ直そうとした。するとまた美奈子から着信がきた。
「もしもし?美奈子どうしたの?」
私が聞く前に美奈子の声が早く耳に届いた。
…その声はひどく疲れきっていて、必死な…でも微かな小さな声だった。
「たすけて……!!」
驚き焦った私は美奈子の名前を呼んだ。
「美奈子!?どうしたの!?美奈子!」
「え!どうしたの!?」
さつき達が駆け寄り、千夏が携帯の裏側に耳をあてた。
そんな様子にただならぬ雰囲気を感じとった雅也は何かをさとったように美奈子が向かった道を走り始めた。
美奈子が狂ったように助けを呼んでいる。
「助けて…っ!お願い…!」
この呼び声は私達にではなく美奈子の目の前にいるであろう誰かに言っているようだった。
微かに男の声が聞こえた。と同時に電話が切れた。
突然のことで途方にくれていた私にさつきが
「美奈子を探さなきゃ!」
と背中を押した。
「とりあえず紀香はここにいて!何かあったらすぐに連絡するから。
その時までは先生に言ったらだめだよ。」
さつきはそう指示し、私と千夏と共に雅也が走り去った道へと急いだ。
「美奈子…っ!」
この時の私の心臓は今にもはちきれそうなほど鼓動が早かった。