*第6話*。:*~泣いた人~
翌日、2人は本当に別れた
「昨日の夜にね、あいつからメールがきたの」
朝、渡り廊下にみんなを呼んで美奈子が言った。
「そう…」
私はどう答えたら良いのか分からないまま、美奈子に財布を渡した。
「あっやっぱり落としてたんだ!ありがとう真耶」
みんなに「別れた」と打ち明けた美奈子は、その後も明るく接していたけど放課後
「我慢しなくていいんだよ」ってさつきが言ったら
「何言ってんのよ~!別に私は我慢なんてしてないんだから!」
って強がる言葉とは裏腹に、明るかった表情は徐々に消えはじめ、美奈子は静かに涙をながし、崩れるように泣きだした。
その日、勇司君にあったことすら分からなかったほど、私はヒドく美奈子のことを心配していた。
それから数日後、
美奈子と雅也のことがクラス中に噂になった。
雅也はなにくわぬ顔で過ごし、帰りはずっとあの女と一緒にいた。
美奈子は笑顔を絶やさなかったけど、目の下はいつも赤くはれている。
あの時、私が雅也を殴った時、私は少しだけ期待をしていた。
実は彼女じゃなくて、知り合いだったとか。
ただ相談を受けていただけだったとか…。
押し返された時に願ってた。
「何勘違いしてんだよ!」
って言われることを…
美奈子は私なんかが思っているより深く深く、傷ついているはずなのに
雅也が他の女と楽しそうにしている姿をみても、
私達に心配をかけないように笑顔で接する美奈子。
「私、応援団しようかな~」美奈子が、まだ誰も丸をつけていない名簿に、しるしをつけた。
「美奈子がするなら私も~」丸つけた。
「練習頑張ろうね真耶!」
「そうだねっ」
その時、あの女が教室に入ってきた
「まさやん居る~っ?」
明るく、幸せそうな雰囲気を出していたが、確実にこちらを意識していた。
「今から迎えに行くとこだったのに」
「待ちくたびれて来ちゃった」
2人が教室から姿を消したのを美奈子は見ようとしなかった。
丸をつけた名簿をずっと見つめていた。
心配な私は声をかけた。
「美奈子…」
しかし美奈子は笑顔をつくり
「購買部いかない?私お腹空いちゃって!」
そう言ってまた強がった。
「そうだね。行こう!」
私は美奈子の気持ちを考えて返事をした。
本当は我慢しないで欲しかったけど…。
購買部に生徒は誰もいなかった。
カウンターの奥で腰を下ろし、今朝の新聞を読んでいるおばちゃんに
「メロンパンある~?」
と美奈子が聞いた。
「あるよ~!」
美奈子が財布を開け、120円を取り出した。
私もメロンパンを買った。
誰もいない教室に戻り、美奈子は私の後ろの席に座りメロンを食べ始めた。
ふと、美奈子が置いた財布を見ると、私は美奈子の今の気持ちが少し分かった。
美奈子は彼を諦めてはいなかった。
美味しそうにメロンをかじりつく美奈子の財布には、あのプリクラがまだ大事そうに残してあった。
「真耶…ありがとうね」
「え?」
「彼を叩いたんでしょ?千夏から聞いた」
「あ…うん、でもお礼なんて言わないでよ。私は思ったことをしただけだから」
「言うより手が早いんだねっ」
そう笑って言った美奈子の笑顔は本物だと感じた。
「私、ちゃんと雅也と話してみるね。このままお互いを忘れるなんて私には出来ないもの」
その時「あ…っ」と思った。美奈子は、私がプリクラをみて考えていることがお見通しだったのだ。
「力になるから、何でも言ってね」
私は親友として当たり前のことを言った。
美奈子は優しく微笑んだ。
夏休みまで3日の今日。
下校時間になり帰ろうとした雅也を美奈子が呼び止めた。
クラスが静まり返った。
「…何?」
雅也は冷たく言った。
「話があるの、いい?」
美奈子は真剣な眼差しで彼に言った。
雅也はため息をつき、目をそらす。
「屋上で待ってる。1人できて。」
美奈子は先に教室を出た。
雅也も後を追うように静かに歩き出した。
しかし彼の方は、階段を下に降りはじめたのだ。
「まて!!!!!!」
私は怒鳴りつけ、走って雅也の胸ぐらをつかんだ。
近くにいた生徒は驚いていた。そこには勇司君もいた。
けど今の私にはそんな事
待ったく気にならなかった。
「お前…!!自分がどんだけ酷いことをしてるのか、分かってんのか!?美奈子に謝れ!!」
私の後ろは階段が下に続いている。
雅也は押し返さなかった。
「お前には関係ねぇだろ?」私は掴んでいる胸ぐらを引っ張った。
「許さない」
「許さなくて結構だ」
「最低」
「そうだな」
「美奈子は闘おうとしてるのに、逃げるなんて最低!」
「だから他の奴と付き合えばいいだろ?」
「今までのは何だったの!?」
雅也は少し言葉を詰まらせた。そして静かに答えた…
「単なるあそ…」
「ふざけんな!!」
「さっきから何なんだよ!」
「あんたこそ何よ!……っ何が遊びよ!!」
「遊んじゃわりぃのかよ!?」
「私が言いたいのはそう言う事じゃない!」
「はぁ!?意味わかんねぇよ!!」
「嘘をつくなって言ってんのよ!!!!」
辺りがしんと静まり返った。
「は?」
雅也は一言返すと、前髪に手をあて、くすくすと笑い出した。
目に涙が浮かんだ。
でも私じゃない…
雅也だった。
「分ってるさ。俺は最低な奴だよ」