*第3話*。:*~はじまりの鐘~
ご観覧ありがとうございます!!
今回は長めになっています・・・。
最後まで読んでいただけると幸いです!
この日は体育館で跳び箱をした。
いつもより綺麗に跳ぶことが出来て着地も成功した。運動は苦手だけど鉄棒と縄跳びはわりと得意。
「跳び箱も得意分野にしようかな」
って独り言を言ってみた。
体育館の舞台側にいる美奈子達の元へと走ろうとした時、隣のクラスの女子の歓声が耳に響いた。
野崎良弘って人が跳び箱を跳んだのだ。
「8段か~男子ってすごいなぁ」
なんて言ったけど。内心こんなにも人気があったなんて知らなかった。
そういえば野球でホームラン打った時も歓声あげられてたっけ。
あれは…まぁ。ホームランだから仕方ないとして、跳び箱8段でしょ?…ほら雅也君だって跳べてるじゃん。歓声は上がったけど野崎って人ほどではない。
モテてたんだ。あの人。
「すごいね!美奈子の彼氏」
「そうでもないよ。だって中学のころなんか9段跳べてたもん。」
「学校に9段とかあったの?」
「うん!真耶のところはなかったの?雅也と良弘と……ほら今8段を跳んだ、勇司って人が跳び箱凄く上手だったから中学の先生が特別に出してくれたの」
「あの人…」
茶髪まじりのボサボサヘアーで見た目チャラいその人は、梅雨の時期に廊下でぶつかった人だった。
……勇司っていうんだ…。
「な~に見つめてんの?」
跳び箱を跳んできたさつきが私に問いかけた。
「もしかして!良弘のことが…!?」
さつきは周りに聞こえないように冷やかした。
「え…!そうなの真耶!?」
なんて美奈子ものってきた。
「そんなわけないでしょ!今さっき美奈子が3人の名前を言ったよね?その人達ってモテてるの?」
「やっぱり気になるんだ~」「違うってば!」
後から来たさつきは何のことか分からない様子だったが「さんにん…?」とつぶやいた後、
「あ!野崎と時停と美奈子の彼氏のことね」分かったようなさつきに
「ピンポーンっ!」
と美奈子が
やっぱりモテてるんだなぁ。格好いいもんね。あの人達。
ってか時停っていうんだね。あの人。
「3人っていうか、一番はやっぱり私の彼氏がモテてるよね。さつき!」
「え。私のみる限りダントツ時停でしょ。ファンクラブあるし」
「え!ファンクラブあるの!!?勇司って人!!」
「2・3年の先輩にも人気あるみたいだよ。ってか美奈子の彼氏はそんなに人気ないっしょ~!」
さつきは「もう一回跳んでくる」と言って、5・6人並んでいる7段の跳び箱へと向かった。美奈子は
「さつき、もしかして勇司のことが好きなのかもね」と、冗談っぽく言った。
7段を跳ぼうとするさつきと未だに8段を跳び続けようとする勇司君が同時にスタートした。
勇司君のほうが先に着地に成功した。その後を追うようにさつきも。
なんだか微笑ましく思えた。
雲が高い夏の空。
気温もぐんぐん上がっていくなか、今日も私達は体育をしている。
外で野球だったため
汗で体はベトベト。喉はかわくし、疲れたし。
「なに?真耶。あんた水筒を持って来なかったの?」
「うん…忘れた~」
「あげようか?紅茶だけど」「いいよ。いいよ。そんなことしたらお宅の旦那がヤキモチやくよ~?」
「あはは。大丈夫!今いないしょ?更衣室だから」
「え!本当にヤキモチやくんだ~!」
「冗談だって~!私の旦那はそんな独占欲強くないもん」
「自分で旦那とか言ってるし!」
「だって結婚するのも時間の問題だも~ん!」
「さようで御座いますか。それでは遠慮なく頂きま~す」
「はいどうぞ~」
美奈子の紅茶は冷たくて甘さ控えめで飲みやすかった。
「うんまっ!」
「でしょ~?」
すると着替えを終えた千夏と友里奈と紀香がきて
「あんたら早く着替えなよ~!まだ下着姿ってどんだけよっ」
「千夏!スカートのファスナー開いてるよ!」
タオルで汗を拭き取りながら美奈子が言った。
「これはニューファッションよ!」
とか言いながら慌ててファスナーをしめる千夏。
さつきも着替えを終えて千夏の後ろから回ってきた。「なにさつきニヤニヤしてるの?」
やっと上着を着始めた私にさつきが耳元で何かを明かした。
「え!!うそっ」
私は思わず吹き出した。
みんなは何が何だかわからないようだけど、千夏達の後ろで着替えている女子生徒達は分かっているらしく、さつきや私と同じように笑っている。
みんな千夏をみている。
「ねぇ千夏!もしかして、それもニューファッション?」
私は笑いながら千夏に聞いた。
「はぁ?何が?」
「後ろのスカート!!」
そう私が言ったとたんドッと笑いが更衣室中に響いた。
千夏のスカートが凄く(すんご)めくれているのだ。
「千夏のスカートの端がウエストに引っかかってる!!それもダイレクトに!!なんで気づかないのか、不思議すぎてウケる!」
さつきの話を聞いて美奈子も友里奈もみんな爆笑!
「あんたらウチのパンティみたんだから一人ずつ500円払いなよ~!?」
「500円とか高すぎ~!」
そんな
くだらない話をしているうちに授業始まりのチャイムが鳴った。
「やばっ!私らまだ靴下とかはいてないのに!」
「千夏とさつきのせいだ!
「私は悪くないよ。千夏が悪い」
「ウチ悪くないでしょ!むしろ感謝しなさいよねっ!笑顔をあげたんだから!!」
国語の時間はだいぶ遅れたけど、「今度から早く着替えるように」と言われただけで終わった。
席につくと、私の上着の第2ボタンが開いてることに気づいた。
ちょっと千夏の恥ずかしい気持ちが分かった。
昼休みに班を作って美奈子達としゃべりながら弁当を食べていると
「仲田って子いる~?」
と、男子に呼ばれた。
勇司君だった。
一部の女子が顔を赤くしている。さつきは黙々と弁当を軽くしていく。
「私ですけど」
「これ、廊下に落ちてた」
そう言って差し出してきたのは汚れた体操服だった。
「…!これ私の…!」
「この学年に仲田って人は君しかいないからね」
そう言って微笑む彼は、格好良かった…。
「ごめんねっ!汗ついてるからすぐに手を洗って下さい!」
「ふふっなにそれ!」
そう言って私の持ってる体操服に指差して、
「たたんだら、変態扱いされそうだから止めといた」と言ってきた。
「あははっなにそれ~!」
お互いに笑って、じゃあねと自分のクラスへと戻った。
班に戻ると美奈子が頬杖をしながら私を笑顔で見つめていた。
それと同時に千夏とさつきの姿がないのに気づいた。
「良かったねっ!」
「良かったねの意味がわかんないよ。美奈子」
「勇司と話してたじゃない!」
私はすぐに渡された体操服を補助バックにしまった。
「その体操服、ちゃんと洗いなさいよ真耶。」
「洗うよっ!」
美奈子はニヤニヤしながら私を見ている。
そんな美奈子をほっといて
食べかけのお弁当に手をつけようとした時、
3人の女子生徒が集まってきた。
「ねぇ!なかおかさん!」
「仲田です」
「もしかして勇君と付き合ってる?」
「いいえ」
「ファンクラブ入らない?」
美奈子が吹き出した。
「…入りませんよ」
「私を入れて18人の会員がいるんだけど…」
「だからなに?」
私はこうゆう、普段は親しくないのに、人のことになるといちいち噛みついて来る人が好きじゃないから、早くどいて欲しかった。
すると名前を間違えた人が話しだした。
「あのね田中さん」
「仲田だって」
また美奈子が吹き出した。
「もし、勇様とお付き合いしたいと思っているなら必ず、ファンクラブに会員して付き合い許可証を会長の私に出してちょうだいね」付き合い許可証?ばっかみたい。
「はいわかりました」
私は付き合う気なんてないんだから。それに相手だってほかに好きな子がいるだろうし…
「分かれば良し」
そう言って3人はマニキュアやファッション雑誌が置かれた自分たちの班へと向かった。
私は妙にイライラした。
あの態度。まるで勇司君が自分たちの者であるかのような言いぐさ!!
その様子を見ていた
美奈子は頬杖を打ちながら私に言った。
「ほんと。真耶って単純で惚れやすいのねぇ…自分では気づいてないみたいだけど」
「恋してないもん。ただ、なんで許可が必要なのかが…」
「ほら!気づいてない」
恋はしてないよ。
…ただ…
「ちょっと気になっただけ」
美奈子はちょっと笑って
「応援するから」
って言ってくれた。
嬉しかった。
「ありがとう。美奈子」
7月上旬。
この日はいつもより気温が高くて暑かった。
これからもっと暑くなる。
私の気持ちもきっと高くなる。
この日から私は地獄へと一歩一歩進んでいくことになる。
はじまった。運命のカウントダウン。
あなたと私の出逢いの日が少しずつ近づいてくる。・・・と同時に
あなたと私の別れの日も近づいてくる・・・
学校中に鐘が鳴り響いた。
この運命へと向かう私に対してのはじまりの合図が
今、鳴っている。
「こら~!!いつまでくつろいでるんだ!!掃除をしなさい!!!!」