。*:第4話:**思いと考え*
彼は私の王子様。
格好良かった。
絵本にある王子様みたいに清楚な格好じゃないけど…優しかった。
王子様は私の汚い体操を何の躊躇もなく、笑顔で届けてくれた。
ぶつかって、王子様の大切な万年筆を落としても、私の心配をしてくれた。
その確かな優しさが私の気持ちを虜にした。
騙されたのかな。
まだよく分からない。
何がなんなのか分からない。分かりたくない…!!
ふと気付いたら、私はベッドの上で仰向けになっていた。布団がかけられている。
部屋の電気の明かりが優しく感じた。
私はしばらく天井を見ていた。
どこだろ…ここ。
「あ。気がついた?」
声がした。私に話しかけているようだった。
声のする方に目線を向けると、扉の前で美奈子が立っていた。
その時気づいた。美奈子の部屋だ。
「美奈子…」
私はそう言いたかった。けれど言葉より先に私から出たのは…涙だった。
美奈子がそこにいるって実感すると溢れんばかりの涙が私の顔を流れ落ちる。
辛い時。いつも美奈子に慰めてもらっていた。
慰める時、優しい言葉をかけてくれる美奈子。私の方に問題があったらしっかりと注意してくれる美奈子。
…美奈子の優しさを知っているからなのかな。なんでだろ。美奈子を見ると、すごく……
両手で顔を隠しながら泣いている私に美奈子がそっと近寄り、私の頭を静かに撫でてこう言った。
「落ち着くまで、一緒にいるからね」
温かな光が私を優しく包んでくれる。
だからこそ今の気持ちに正直になれる。泣きたい。思いっきり泣きはらしたい。
美奈子は私が泣き止むまで頭を撫でくれた。
いつまで泣いていたんだろ。外はすっかり暗くなっていた。
涙は収まらない。胸の苦しみも癒やされてはいない。でも言葉を発する事がようやく出来るようになった。
「…落ち着いた」
美奈子に言った。
「そうみたいね」
美奈子はそう笑顔で言って撫でていた手を止めた。
「もう大丈夫だよ。美奈子のおかげで傷が癒えた」
私はありがとうと美奈子に伝えた。すると
「癒えてないくせに」
美奈子は優しく笑いかけた。
私の強がる気持ちが美奈子にはお見通しだった。
「ふふ…っ」
笑いたかった。でもまた泣きそうになった。でも聞きたいことがいくつかある。泣いていたら伝わらない。
「さつきが連れてきたんだよ」
「…え…?」
私が聞きたかったことを美奈子が教えてくれた。
美奈子が私の頭の近くに両腕を置き、静かに話を続けた。
「…病院を飛び出して、信号も無視して横断歩道を渡ったってさつきが言ってた」
「え…。さつきが信号無視?」
「何言ってんの~。真耶、アナタ自身の事でしょ?」美奈子はクスっと笑った。「何も覚えてないんだ?」
美奈子の問いかけに私は頷いた。…覚えているのは…。
すると美奈子が私の頭をつつき、言った。
「今思い出すべきことは、昨日食べた夕飯ね」
「え。なにそれ…」
「だって今日の夕飯とかぶったら嫌でしょ?ほら!思い出して!出して!!」
「今日の夕飯…って」
「真耶は私の家でお泊まりね!嫌なら帰っていいけど~…」
そう言う美奈子は分かっていたと思う。私が嫌なんて思わないことを。
「ありがとう」
私は美奈子にありったけの気持ちを込めて、お礼を言った。
美奈子と居るとすごく…
…安心するんだぁ…。
私は美奈子のベッドの中で改めて考えた。
「何だったっけ…。昨日の晩ご飯」
・・・そんでさ!あの女クソ不味いケーキ食わせんの!
「・・・昨日の・・夕飯・・・」
・・・ごめんね美奈子。
私やっぱり駄目だ・・・。
どうしても思ってしまう。
・・・・・いますぐシニタイ・・・・・