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ゆきだるま  作者: 梨奈
16/17

。*:第3話:*。**魔女と王子*






病室を開けた。




「よう!真耶。昨日4時には来るって言っておいて1時間も過ぎてんぞ?」

「ごめんね。追試があって…」

私が勇司に初めて言った嘘。


「追試?何の?」

「理科だよ。難しくてさぁ」



そんなことを話してるときに目についたのは、花瓶に一本のユリがいけてあったこと。




…さつきが…?





勇司は私の視線が花瓶に向いていることに気づき、笑って答えた。

「あれ、母ちゃんのだよ」


…本当に?


「ねぇ勇司。私のこと好き?」

「それ前も聞かなかった?」

「好きって言って!」

私は勇司を抱きしめた。

そして「お願い」って言った。

「どうした?いきなり」

勇司は焦ってた。

「勇司は私の彼氏だよね?」

「んで俺の彼女は真耶。お前だけだよ。」




…お前だけって。

それ本当に…?




この日は気分がさえなくて、すぐに帰った。

明日は来るつもりなかったから

「ごめんね。明日は用事があってこれないの」

ってまた嘘をついて。







翌日の朝、

美奈子に相談をした。


昨日のさつきのことと、勇司のことを。


…もしかしたら2人は付き合っているのかも…と。


「それは考えすぎじゃない?付き合ってはないよ。そんな感じがする」

「何でそう思うの?」

「勘だけど」

「……………」


…美奈子にしては無関心な返答だった。



何でちゃんと聞いてくれないの?







放課後、私は少し寄り道をした。

そこは勇司がつれてきてくれた、海の見えるところ。

木の柵が胸元近くにあって、そこに両腕を置くにはちょうど良かった。



波は穏やかで、冷たい空気が海風によって顔に当たる。



冷たい。











「恋って残酷よね」



振り向くと、みたことのあるような女の人が立っていた。


「あなたは…」

私には見覚えがあった。

夏休み前にあった、美奈子にとって忘れられない出来事。

雅也のことが好きな先輩。




「私ね、また男に振られちゃった」

そう言って先輩は私の隣に並んだ。



「誰も私に振り向いてくれないの。やっと繋がりが出来たって思っても偽りで、心も体もぐちゃぐちゃ。やんなっちゃう」

「本命と、って事ですか?」

「誰もって言ったでしょ?私は誰にも好かれてないの!あの日、雅也にも振られたしね」




私はまたあの事件を思い出した。

美奈子を襲った、事件の主犯である男の先輩の言葉…



『あの馬鹿女はボケが好みなんだとよ』










「そんなことないですよ」

少しの沈黙の後、私が静かに言った。



「え?」

「先輩のことが好きな男の人はいます。きっと」

先輩は私をみつめて、海をじっと眺めてこう言った

「そうだと良いなぁ」








先輩と2人で海を眺めた。


本命どころか、他の人にでさえ、認めてもらえない人がいる…。それに比べて私はなんて贅沢な人なんだろう。


ちょっとした不安で、何の根拠もない疑惑で、今の関係を崩しつつある。

…自分で。





「あの子元気?」

先輩が海から目線を外すことなく聞いてきた。

「あの子…って美奈子ですか?」

「私ね、雅也に振られた時心底彼女を憎んだ。なんでこんな奴に!って。どうやっていじめてやろうかって。…でもすぐにやめた。だってそんなの面白くないでしょ?私は新しい恋を見つけることにしたの。結局うまくいかないんだけどね。そんな時にあの2人を見てるとちょっとムカッて来て睨んだ時もあったけど…。やっぱり羨ましいなぁって感情の方が強くて…。見ちゃうんだよね。2人を」




やっぱり憧れるんだなぁ。美奈子と雅也カップル。

私も憧れた。こんなカップルになりたいなぁって。




…今はどうなんだろう?

本当に理想のカップルなのかな?私、ちゃんと彼女やってる?

…ううん。違うよね。

こんな半信半疑な恋愛、まったく望んでない!




先輩が話しを続ける

「そうやって見てたら、あの子と目が合うの。そしたらね、申し訳なさそうにして私に頭を下げるの。嫌みかって感じだけど、あの子は本当に私を心配しているってのが分かる。」




…本当の申し訳なささ…か…


…美奈子らしいなぁ。






「あのさ!今度あの子に言っててよ!私はあんたを憎んでない!むしろ恋の目標だって。頭下げんなって」

そう笑って先輩は去って行った。







先輩は強いなぁ。









私は先輩よりはるかに良い位置にいるんだから、幸せに感じないとね!










私はその場から離れ、ある場所へと足を運んだ。


今日は行くつもりのなかった病院。

勇司のいる病院。





「いきなり行って驚かせてやろうかな!」






私は病院の敷地内に入り、軽い足取りで進んだ。

出入り口にさしかかった時、誰かが私の腕を掴んだ。




…さつきだった。









「行ったらだめ!真耶!」

「は?何言ってるの?」

「今日は帰って!お願いだから」

「私と勇司の時間を邪魔しないでくれる!?」

「今行ったら不幸になるから!」

「不幸?何?勇司が死んだとか?」

「死んでるよ」






冗談のつもりで言ったのにそれが本当になるって…。



…嘘でしょ?




「嘘でしょ。さつき」

「あの人は死んでるの!心がすさんでる!」

「はぁ?心?」

「行ったらだめだよ」

「ばっかじゃないの?」




私はあきれてさつきの手を振り払った。

「…行ってきなよ。見てきなよ。真実をさ」

「真実?馬鹿じゃないの?勇司に別の女がいるってこと?」

そんなのあるはずがないって信じた。

私は信じることを決めたの!だから戻ってきた。





なのに

「…そうだよ。今来てる」


さつきは静かに答えた。










私は病室に向かった。

さっきとは比べものにならないぐらい足が重い。

下半身、水につかってるように…。









笑い声が聞こえた。

女の人がいるはずがない勇司の病室から。



「…看護婦さんでしょ」




自分に言い聞かせ、扉を開けようとしたその時、勇司の声が聞こえた。



「そんで!あの女クソ不味いケーキ食わせんの!」








…え





会話は続いた。


「まぢでー!?超頑張ったね勇司!んでクリスマスは?」

「遊んでやった!あの女ブサイクな声あげんの!もうまぢウケた!紗理奈(さりな)が恋しかったし!」

「そんな言われたら嬉しいじゃん!勇ちんのばか」











頭が真っ白になった。

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