。*:第3話:*。**魔女と王子*
病室を開けた。
「よう!真耶。昨日4時には来るって言っておいて1時間も過ぎてんぞ?」
「ごめんね。追試があって…」
私が勇司に初めて言った嘘。
「追試?何の?」
「理科だよ。難しくてさぁ」
そんなことを話してるときに目についたのは、花瓶に一本のユリがいけてあったこと。
…さつきが…?
勇司は私の視線が花瓶に向いていることに気づき、笑って答えた。
「あれ、母ちゃんのだよ」
…本当に?
「ねぇ勇司。私のこと好き?」
「それ前も聞かなかった?」
「好きって言って!」
私は勇司を抱きしめた。
そして「お願い」って言った。
「どうした?いきなり」
勇司は焦ってた。
「勇司は私の彼氏だよね?」
「んで俺の彼女は真耶。お前だけだよ。」
…お前だけって。
それ本当に…?
この日は気分がさえなくて、すぐに帰った。
明日は来るつもりなかったから
「ごめんね。明日は用事があってこれないの」
ってまた嘘をついて。
翌日の朝、
美奈子に相談をした。
昨日のさつきのことと、勇司のことを。
…もしかしたら2人は付き合っているのかも…と。
「それは考えすぎじゃない?付き合ってはないよ。そんな感じがする」
「何でそう思うの?」
「勘だけど」
「……………」
…美奈子にしては無関心な返答だった。
何でちゃんと聞いてくれないの?
放課後、私は少し寄り道をした。
そこは勇司がつれてきてくれた、海の見えるところ。
木の柵が胸元近くにあって、そこに両腕を置くにはちょうど良かった。
波は穏やかで、冷たい空気が海風によって顔に当たる。
冷たい。
「恋って残酷よね」
振り向くと、みたことのあるような女の人が立っていた。
「あなたは…」
私には見覚えがあった。
夏休み前にあった、美奈子にとって忘れられない出来事。
雅也のことが好きな先輩。
「私ね、また男に振られちゃった」
そう言って先輩は私の隣に並んだ。
「誰も私に振り向いてくれないの。やっと繋がりが出来たって思っても偽りで、心も体もぐちゃぐちゃ。やんなっちゃう」
「本命と、って事ですか?」
「誰もって言ったでしょ?私は誰にも好かれてないの!あの日、雅也にも振られたしね」
私はまたあの事件を思い出した。
美奈子を襲った、事件の主犯である男の先輩の言葉…
『あの馬鹿女はボケが好みなんだとよ』
「そんなことないですよ」
少しの沈黙の後、私が静かに言った。
「え?」
「先輩のことが好きな男の人はいます。きっと」
先輩は私をみつめて、海をじっと眺めてこう言った
「そうだと良いなぁ」
先輩と2人で海を眺めた。
本命どころか、他の人にでさえ、認めてもらえない人がいる…。それに比べて私はなんて贅沢な人なんだろう。
ちょっとした不安で、何の根拠もない疑惑で、今の関係を崩しつつある。
…自分で。
「あの子元気?」
先輩が海から目線を外すことなく聞いてきた。
「あの子…って美奈子ですか?」
「私ね、雅也に振られた時心底彼女を憎んだ。なんでこんな奴に!って。どうやっていじめてやろうかって。…でもすぐにやめた。だってそんなの面白くないでしょ?私は新しい恋を見つけることにしたの。結局うまくいかないんだけどね。そんな時にあの2人を見てるとちょっとムカッて来て睨んだ時もあったけど…。やっぱり羨ましいなぁって感情の方が強くて…。見ちゃうんだよね。2人を」
やっぱり憧れるんだなぁ。美奈子と雅也カップル。
私も憧れた。こんなカップルになりたいなぁって。
…今はどうなんだろう?
本当に理想のカップルなのかな?私、ちゃんと彼女やってる?
…ううん。違うよね。
こんな半信半疑な恋愛、まったく望んでない!
先輩が話しを続ける
「そうやって見てたら、あの子と目が合うの。そしたらね、申し訳なさそうにして私に頭を下げるの。嫌みかって感じだけど、あの子は本当に私を心配しているってのが分かる。」
…本当の申し訳なささ…か…
…美奈子らしいなぁ。
「あのさ!今度あの子に言っててよ!私はあんたを憎んでない!むしろ恋の目標だって。頭下げんなって」
そう笑って先輩は去って行った。
先輩は強いなぁ。
私は先輩よりはるかに良い位置にいるんだから、幸せに感じないとね!
私はその場から離れ、ある場所へと足を運んだ。
今日は行くつもりのなかった病院。
勇司のいる病院。
「いきなり行って驚かせてやろうかな!」
私は病院の敷地内に入り、軽い足取りで進んだ。
出入り口にさしかかった時、誰かが私の腕を掴んだ。
…さつきだった。
「行ったらだめ!真耶!」
「は?何言ってるの?」
「今日は帰って!お願いだから」
「私と勇司の時間を邪魔しないでくれる!?」
「今行ったら不幸になるから!」
「不幸?何?勇司が死んだとか?」
「死んでるよ」
冗談のつもりで言ったのにそれが本当になるって…。
…嘘でしょ?
「嘘でしょ。さつき」
「あの人は死んでるの!心がすさんでる!」
「はぁ?心?」
「行ったらだめだよ」
「ばっかじゃないの?」
私はあきれてさつきの手を振り払った。
「…行ってきなよ。見てきなよ。真実をさ」
「真実?馬鹿じゃないの?勇司に別の女がいるってこと?」
そんなのあるはずがないって信じた。
私は信じることを決めたの!だから戻ってきた。
なのに
「…そうだよ。今来てる」
さつきは静かに答えた。
私は病室に向かった。
さっきとは比べものにならないぐらい足が重い。
下半身、水につかってるように…。
笑い声が聞こえた。
女の人がいるはずがない勇司の病室から。
「…看護婦さんでしょ」
自分に言い聞かせ、扉を開けようとしたその時、勇司の声が聞こえた。
「そんで!あの女クソ不味いケーキ食わせんの!」
…え
会話は続いた。
「まぢでー!?超頑張ったね勇司!んでクリスマスは?」
「遊んでやった!あの女ブサイクな声あげんの!もうまぢウケた!紗理奈が恋しかったし!」
「そんな言われたら嬉しいじゃん!勇ちんのばか」
頭が真っ白になった。