。:第1話:。・**王子と姫*
ここからが「ゆきがるま」本番のようなものです。
最後までご観覧いただけると幸いです♪
「ゆ~うしっ!一緒に帰ろ~!」
「わりぃ。俺英語の追試で残んねえと」
彼の机の上はプリントや教科書、辞書が無造作に広げられていた。
当の本人は頭を抱えていた。
「英語の追試?ん!じゃあ待ってるよ!」
「いいよ。遅くなるだろうから」
「いいの!」
勇司の席は窓側で私は廊下の窓から顔をのぞかせて、目に入った彼の英語の辞書を手に取り、
「分からないとこは私に聞いてねっ」
と自信を持って言った。
「つか、教室入れよ。廊下じゃ冷えるだろ?」
「勇司、寒い?」
「俺は寒くないけど」
「心配してくれるんだ~!」
「お前の彼氏だからな」
彼氏。あなたは私の彼氏。
念願の本命の彼氏。
時期は秋になっていた。
…もう冬なのかな?
高くて大きな雲はいつのまにか低めでぼや~とした雲になって、練乳入りのかき氷が評判の屋台が焼鳥屋に、セミのこえがコオロギのこえに変わっていた。
運動会は凄く楽しかった。
友人の美奈子やさつき、千夏、紀香はもちろん、勇司を思いっきり応援した。
競技の部では美奈子の彼氏の雅也と、紀香の想い人の良弘と、私の彼が活躍して三年生と五十点差で勝つことが出来た。
応援の部では完敗。
あれから練習をさぼって勇司とデートしたりしたの。
団長さんには悪いんだけど。私は暑苦しい応援団の練習より涼しく有意義に過ごせる勇司との時間が大切だった。
「私なんかに構ってないで、追試頑張りなさい!」
「へ~い」
勇司はね。見た目は不良なんだけど中身は結構真面目なんだよ。
言葉遣いは荒いけど、実は優しくて思いやりな面があるの。
そんな彼のギャップを好む女子は少なくなくて、ファンクラブとかがあるほど、彼の人気は高い。
今この時代にあるものなんだね。ファンクラブ。
「わっかんねぇ~!」
そう言って金混じりの髪を掻く彼の目は男らしくて鼻筋は通っていて、唇はセクシーで…(笑。
「な~に俺の顔見て赤くなってんの~?」
勇司が私の視線を感じ、バカにしたように言った。
「えっ。そんなんじゃないよ!何でこんなに簡単な問題が出来ないのかな~ってバカにしてたの!」
「何だよそれ!だったら教えろよ!」
「仕方ないなぁ~ちょっとそのプリント見せて」
そう言ってちょっと離れた位置にあるプリントに手を伸ばしたその時、勇司が私にキスをした。
他に人がいるのに!
「バカぁ!」
私は勇司に言った。
…だって!
恥ずかしいでしょ!?
恥ずかしいでしょ!?
恥ずかしいでしょ!?
焦っている私を見て勇司が笑いかけて言った。
「見せびらかし」
勇司意味わかんない!
「はぁあ?」
「顔赤いよ」
「バカぁ!」
「キスはもうなれたでしょ?」
勇司はわざと大きな声で言った。
「…っバカぁ!」
照れくさくしている私を見て勇司はまた笑った。
ああ。神様。どうかこの笑顔が永遠でありますように…。
勇司のクラスに残っている生徒は見てみぬ振り。
明らかに悔しそうにしている女子も数名いた。
ごめんね。あなた達の生きがいを奪ったみたいで。
私なんかより長年、勇司を好きでいた子もいたと思う。告白をして振られてもまだ好きでいる人もいたと思う。
でもね。勇司は私を選んでくれた。容姿端麗な女子なんて沢山いるのに私なんかを選んでくれたの。
勇司は格好良くて人気者。私は通称普通の女子生徒。
そんな名声が違う2人を、こんな素敵な関係にしてくれたのは誰なのかな?
今は自称幸せ者のお姫様。
お姫様は両膝を地につけてお祈りをするの。
「王子様との関係が永遠でありますように」って。
きっとね。永遠なんだよ。魔女さえ現れなければ。
毒リンゴを食べさせようとする魔女さえでてこなければ。
勇司の追試が終わり学校をでた頃、辺りはすっかり夕暮れ時で、カラスが鳴いて飛んでいた。
「真耶って英語の他に何が出来んの?」
「地理と理科と体育以外なら大抵は得意だよ」
「大抵得意とか自慢かよー」
「え?勇司が聞いてきたから答えたんだよ~?」
家の方向は逆だった。でも勇司は私を家まで送るってきかなかった。
「ごめんな。すっかり遅くなっちまった」
勇司は申し訳なく謝った。「謝らなくていいよ。勇司と居れて幸せなんだから」
「ありがとうな」
勇司は優しく笑った。
「こちらこそ。勇司の彼女にしてくれて」
ありがとう。
本当にありがとう。
私は凄く幸せです。
帰りはいつも商店街の端っこにある小さな喫茶店で時間をつぶしていた。
今日はいけなかったけど。
「明日は行こうね」
私はそう言って勇司の腕を優しく組んだ。
勇司は歩きながら優しいく応えた。
「あぁ。行こうな」
とある家にある木の紅葉がふわりふわりと落ちてきた。木には数枚しか残っていない。
でもなぜか温かみがあった。
この燃えるような赤い空とこの黄色い太陽の光が私達を暖かく見守ってくれた。
数日後、この日は休日だった。昼から私は勇司の手に引かれ祭りの時に行った、海の見えるところへと来た。
空は青い。
「真耶。今日の日付は?」
「9月29日だけど?」
…そう。今日は1ヶ月記念日。私がお姫様になって1ヶ月が経ったの。
私はそれを知ってて何も言わない。まるで忘れたように接してみる。
「それが何なの?」
…てね。
「わかってるくせに」
勇司はそう言って両腕を私の首にまわし、軽くキスをして優しく離れた。
何かが首元につけられたのが分かり見てみると、
「ゆきだるま…!」
シルバーのゆきだるまがついたネックレスだった。帽子の部分には小さなダイヤモンドがついていた。
「季節はまだだけどさ。冬ってこれからだろ?」
「可愛い…!」
私は嬉しくて。
ほんっとーに嬉しくて。
…でも涙が出そうなのを我慢した。
「単なる安モンにすぎねぇよ。クリスマスはもっとすげぇのくれてやる!」
そう言って彼は私の頭を軽くポンポンとしてくれた。
「ありがとう…っ!」
私は涙ながらにお礼を言った。
彼は優しくみつめてくれる。
私は涙を拭って
「私もあるの。でもここには無いから、ついてきて!」
向かった場所はあの喫茶店だった。
いつもは飲み物だけでクッキーを足すぐらいだけど今日は私が勝手にちょっと高めのクッキーセットを注文した。
「クッキーセットって…そんなにお腹すいてんの?」
クッキーセットはバスケットの中に二十枚ほどの様々なクッキーが入っているセットだった。
「お腹すいてるの~!」
私は笑顔で返した。
注文したものが白いテーブルクロスの上に並んだ。
運んで来てくれたのは店長さんだった。
「珍しいな店長が接客って」店長が去った後に勇司が言った。
「もう無い事かもよ」
私はクッキーを見た。
美味しそうなクッキー。
いつもの丸や、動物の形をしたクッキーの中に、いつもないような形のがあった。
「勇司!ゆきだるまだよ!」
勇司のくれたゆきだるまと同じかたち。
「まぢだ!まだ秋なのに」
勇司もバスケットからゆきだるまのクッキーを手にとって
「真耶に似てる」
と笑って言った。
「私そんなに顔丸い!?」
「冗談だって!」
勇司はそう笑いクッキーを食べた。
「ん!んま!今日のは特別うまいな!」
「おおげさだよ~!いつもと同じでしょ」
食べてみたら本当に美味しくて、あれ?って思った。いつも美味しいけど今日はそれ以上に。
2人とも気づいたら黙々と食べていた。
「ん?」
残り数枚となったときに勇司が不思議そうにバスケットの中をみた。
「紙が入ってる」
そう言って取り出し内容をみた。
ここからが私のサプライズ。
「何これ」
と笑顔で、ちょっと照れくさそうに勇司が言った。
その手紙の内容は私が書いたもので、勇司にあることを指示した内容だった。
「これ店員に注文すんの?」
「そう!」
私は注文したホットミルクを両手に、飲んだ。
勇司は本当に照れくさそうにしていたけど、呼び鈴をならして店員をよんだ。
しかし来たのは店長だった。
そして…
「オホン…!…えっと。ままま…真耶の…真耶の…」
「勇司頑張って!」
「真耶のあい…?を下さい」
なんと恥ずかしいことやら。てか何で若干疑問なの!?
そう。私は彼になんとも恥ずかしい、サプライズというより迷惑行為的なものを送った。
彼なりに頑張って言ってくれた。
しかし店長は
「申し訳ありませんがもう一度…」
と言った。
「だっだから!あの~…」
私と店長は勇司が下を向いている間に顔を見合わせ、クスッと笑った。
すると勇司が意を決したように店長を見上げ…
「ま…真耶の愛を下さい!」
と言った。
数名の他のお客さんがこちらをみた。
「かしこまりました」
と言って店長が去って行く。
勇司は眉間に手をあて、言ってしまった~という表情だった。
「よく言えました~」
私は笑顔で拍手を送った。
「軽くいじめですよ。真耶さん」
「来月もしようか?」
「やめて下さい」
勇司は呆れて笑った。
店長が持ってきたのは1人分の小さなショートケーキだった。それを勇司の目の前に置いて
「ごゆっくり」
と言い残して行った。
「ん?このケーキ前からあったけ?」
勇司がケーキを見て言った。
「ないよ。だって私の手作りだもん」
そう私が明かしたとき、勇司は驚いた。
「作ったって…いつ?」
「今朝だよ。店長さんにワケを話して作らせてもらったの」
お菓子作りはちょっと苦手だけど、自分で材料も買って、1から10まで全部私が作ったの。
「かたちは歪なんだけどね。味は保証するよ」
勇司は用意されたフォークを使ってケーキを口に入れた。
「うまい!」
そう言って勇司は黙々と食べ続けた。
美味しそうに…。
店長がやってきた
「良かったな真耶ちゃん。喜んでもらえて」
「今日はどうもお世話になりました」
「若いっていいねぇ!おじさんも青春を思い出したよはっはっはー」
「他のお客様もありがとうございました」
私は今いるみんなにお礼を言った。
「良いものを見せてもらったよ」
「勇気があるね兄ちゃん!」
「お幸せにね」
優しい言葉が嬉しかった。
「真耶」
勇司が私を呼んだ。
私は彼の方を向くと、
彼は優しくキスをした。
私はびっくりした。
近くに店長もいるし、お客もいるのに。
「恥ずかしい?俺は恥ずかしくないよ。さっきのお返しな」
勇司は笑った。
商店街の端っこにある小さな喫茶店。今日はとても賑やかだった。
「お代はいらない。また来てくれればそれで良い」
と店長は言ってくれた。
帰り道に勇司は
「こんな体験初めてだった」と言って笑った。
「今日は本当にありがとな」
今日はいつも以上に充実した日だった。
幸せだった。
そして思わぬところで魔女は現れる。
いきなりのことだった。
どうしてそんな事いうの?
勇司を信じられなくなるじゃん…!
あなたは私を応援してくれるんじゃなかったの?
ねぇ。
さつき。