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ゆきだるま  作者: 梨奈
10/17

*第9話*。:*~夏~






青くて広い空。白くて大きい雲。時期は夏。


今日は修業式が体育館で行われた。

人が密集していて暑苦しい時に、窓の方から時々流れてくる風は冷たく感じて気持ちよかった。



校長はいつもの夏の挨拶やこれまでの生徒達の様子などを話したあとに、雅也が被害をうけた暴力事件について少しだけ語った。


「本校のある生徒が………三年生は大切な時期であって………二度とこのようなことがないように………」






中学生のころと変わらない雰囲気で式は終了し、各生徒はざわざわしながら教室へと向かった。




通知表を受け取り

ホームルーム[帰りの会]が終わると、夏休みだ!と喜ぶ人もいれば、私のようにそうでもない人がいた。



だって私は…応援団の練習が…


結局、昨日の帰りに[応援団の参加者名簿]を提出するのを忘れていた千夏とさつきは、学校へ戻って私と美奈子しか丸がついていない紙を応援担当の先生に出したみたい。



「さっきの修業式に連絡があったように、応援団員希望者は13時に体育館へ集合しろよ~!」

担任そういって教室から出た。



「そんなに落ち込むことないって~!」

机にグッタリしている私に近づきながら千夏が言った。

「そんなに嫌なら丸しなければ良かったのに」

隣の席にいる雅也が笑いながら言った。



「だって!その時のノリっていうか…ねぇ!美奈子」

「私は雅也のいない暇な夏休みはつまんないって思ったから…」

雅也の机に両腕を置いて美奈子が雅也を下から見つめる。

「え!俺のせい?」

「雅也も応援団しようよ!ね!真耶」

「そうしなよ!雅也。美奈子、[雅也がいないと死ぬ病]にかかってるんだから!」

「そうそう」

さつきもうなずいた。



「応援団の入団者が、学年全員で10人って決まってるから、それ以下だったら雅也は入れる。それ以上だったら真耶と美奈子は抜けられる可能性があるよ」


さすが、しっかりした体育委員は先生の話を聞いている。でも千夏は「そうなんだ~」と関心する始末。






そんなこんなしているうちに時間は()ち、私と美奈子は体育館へと再び向かった。




集まりは10分程度で終了した。


「戻ってくんの早っ!」

千夏が焼きそばパンをかじりながら言った。

「どうだった?…ん~その様子だと2人とも辞められなかったんだね」


さつきは鋭い。10人募集をしたところ希望者はピッタリだったのだ。


私と美奈子は落ち込んだけど、私はちょっとやる気を出していた。だって…


「勇司君がいたんだよね。真耶」

美奈子がみんなに明かした。




これからほぼ毎日ある応援の練習…憂鬱(ゆううつ)だったのが今じゃ幸せの日々に感じる。



「あ!そういえば紀香(のりか)!良弘君も応援団にいたよ。団長だよ」

千夏のパンを欲しがっている紀香に報告してみると、

「え!戻ってたんだ!」

と、喜んだ様子で跳んできた。

「ほら。大丈夫って言ったでしょ私」

さつきが紀香に言った。紀香はうなずく。


「あ~あ…。私も応援団に入れば良かった…」

「今さらだよ」

千夏が軽くあしらった。


「そうだよね…。じゃあ私!応援団の応援する!」

「俺も!」

メロンパンをかじりながら、紀香の発言に同じる雅也。


みんな笑いながら

「なにそれ~!」

といつもの反応で場が盛り上がった。



ラブラブな雅也と美奈子。

良弘君のことが好きな紀香。

勇司君と同じクラスにいる彼と喧嘩をした千夏。


勇司君のことが気になる私。あ。もう好きって認めちゃおうかな。


さつきはどうなのかな…?

勇司君のことが好きなのかな。

もしかして私に気を使ってるのかな。






それがどうなのかは、ずっと先の未来で知ることになる。









美奈子と雅也は久しぶりに2人でデートをするらしく、一緒に学校を出て行った。


残った私と、紀香、さつき、そしてクリームパンを食べている千夏はもう少しだけ教室に残ることにした。



「やけ食いすると太るよ」

さつきが注意した。

私も心配した。

それでも千夏は

「いーの!」

と、かまわず食べ続ける。



それを見ていた私は、図書の本を借りる予定だったことを思い出した。


「楽譜があるでしょ?あれを借りたいんだけど、開いてるかな?」

「え!?今も習ってるの?」

千夏が聞いた。

「趣味だよ趣味!」

そう。趣味。私は家の片隅にあるキーボードで色んなアーティストの曲を弾くのが好きだった。




下手だけど。




私はすぐに一階へと向かい、購買部のすぐ左隣にある図書室へと急いだ。


「良かった…!まだ開いてた!」






欲しかった楽譜はしっかりとあった。私は安心して楽譜を手に取った。


「音楽が好きなの?」


ふと、振り返るとそこには…

「勇司君…!」




私はなぜか慌てて楽譜を隠した。


「あはは!隠すことないよ俺も音楽好きだし」


…そうなんだぁ!

「音楽っていいですよね!」

私が言うと、また勇司君は笑った。

「なんで敬語?」

そう言ってまた笑い出す。


その笑顔は本当に輝いていて、ますます愛おしく感じる自分がいた。




「勇司君はどんな楽器が…」

「あ。俺のことは呼び捨てで良いよ。俺も真耶ってさりげなく呼び捨てしたし」

「…え?」

私はいつのことか分からなかった。


「あれ?分からなかった?ほら!放課後ぶつかってさぁ!」


…あ!私が勇司君の万年筆を落とした時だ!

でも名前で言われたことは気づかなかった。


「あの時はごめんね…」


大事な物を落としちゃったから…。

そう謝ったらまた勇司君は笑った。

「まだ言ってる~!謝ることないって言っただろ?」

よく笑うその人は本当に思いやりがあって、でも見た目はチャラい感じもするけど、温かみのある優しい人だった。


「も~!笑いすぎだよ!!」


私と勇司君は一緒に笑った。


そしたら

図書の先生が「静かに!」って注意された。


私と勇司君は一緒に怒られた。



けど顔を見合わせてお互い微笑んだ。










この時は本当に幸せで、夢のようで、どこかの恋愛漫画の世界にいるようだった。



「応援団、優勝目指して頑張ろうな!」

勇司君は私の頭に、もっていた[推理小説]を軽くのっけて言った。そしてそのままカウンターに本をもって行って、図書室を出ていった。








私はにんまりしてしまった。












教室に戻ると早速さつきが、何かあったでしょ!と察した。


拒んだ私に千夏が

「ほれ!チョコデニ!」

とカバンから出した。


「あんた買いすぎだよ」

さつきはツッコミを入れて、また私の方を向いた。


「真耶~時停(ときどめ)とあったんでしょ!」



時停(ときどめ)っていうのは勇司君の名字。

ズバリとあたった。


「図星だな~っ」

千夏もニヤリと言った。

私は白状し、図書室でのことを話した。

みんなニマニマしながら聞いていた。さつきも。




話終わるといつものテンションでみんなが冷やかす。


「それにしても変わったね勇司!女子に優しいんだ~」

千夏が関心した。

「不良だったよね中学生の時。ありがとうなんて言われた試しがない」

さつきも言った。

「今もチャラいけどね」

紀香が千夏の残したクリームパンをつまみながらいった。



「ふ~ん…」

やっぱり性格も不良だったんだ…。でも今は違うもん。



「そろそろ帰ろう!」

紀香がカバンをもって言った。

みんな同意して教室を出る支度をした。

私は楽譜を大事にカバンに入れた。









プリクラを撮りに行こう!と千夏が提案したけど、みんな反対した。

「早く家に帰ってゴロゴロしたいもん」

紀香が言った。

私もうなずいた。





校舎を出るまではみんな千夏の話に賛成しただろつけど、外は灼熱の大地獄と化していた。



「教室は扇風機があるからねぇ…」

さつきがつぶやいた。




私以外はみんな反対方向だったため校庭を出たら、すぐに分かれた。







「応援団頑張れ~!」

千夏の言葉を最後に手を振り、私は進行方向を向き直した。












ギラギラに光る太陽は本当に眩しくて、雲はそれを隠そうとはしてくれない。



気づいたらセミがもの凄い鳴き声をあげている。

…ん?羽をこする音だっけ?









家の庭に入ると日焼け対策姿で「おかえり」と母が言う。いつもどおり花の手入れをしていた。

「ただいま~今日も疲れたよ」

「冷蔵庫にアイスあるから食べなさい」





玄関を開けると少しだけ気温が下がっていた。

エアコンはあるけど母の貼り紙により禁止されている。


私も父も最初は反対したけどエコのためだからと言われて納得した。













私の部屋は二階にあってキーボードもそこにあった。私は借りた楽譜を立てかけてちょっと思い出し笑い…。

「自分キモイっ!」










セミの合唱。

ギラギラの太陽。

鳴らない風鈴。

回る扇風機。

冷え切ったソーダアイス。







夏休みは今始まった。

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